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犯人はその中だ
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「すみません。叱責は当然ですが、報告し辛くなってしまいますので、そろそろ……」
「何だ? 文句か⁉︎」
一目置かれる那智にまで、三田司令官は凄みだす。
「す、すみません、三田司令官。結城中佐の言い分も当然ですから……」
三田司令官の隣に座る、警視庁の本部長が口を出す。
萎縮にずっと黙っていたが、最も優秀な那智には気を遣う。
「どれだけ優秀でも、私だけは平等に扱うぞ」
どこがや?
タテ社会の形成者やろ。
そう思ったが、那智は口には出さない。
三田司令官は誰も平等に扱えていない。
普段は他と同じく、優秀な那智を重要戦力に優遇している。その反面、実務能力が低いと辛く当たる。警察官には非情に手厳しい。警察の失態を前にすると、嫌悪に八つ当たりまで始める始末だ。
今回も何時ものパターンだった。
何時も、宥めるのは那智の役回りだった。他は、機嫌を損ねないように気を遣い、嵐が過ぎるまで耐えている。
「すみません。ですが……」
「進まねぇから、いい加減黙れって言ってんだよっ」
那智を遮り、羽月は露骨な不満を言い放った。
「何だっ、その口の聞き方はっ‼︎」
当然、三田司令官は激怒する。
那智を除いた全員が凍り付く。
「うるせぇよっ。にいや、そっちで分かっている事は?」
もはや、眼中にも羽月はいれない。
離れた席に座る、総合通信センターの部長、三宅豊に問い掛ける。
「はい。今分かっている事は——」
「おいっ! 勝手に進めるな! 今回の総指揮は私だっ……」
立ち上がって答えようとする三宅豊を三田司令官は遮る。激しく机を叩いて立ち上がった。
「つまり、お前を消せば先に進むって事かっ?」
「なっ、何を物騒な……」
羽月の凄みに三田司令官は臆してしまう。
羽月は軽はずみの様に口にした。その眼には、怒りではなく物騒な殺意が見えている。
「半グレが、鼠の様に数沸かしてんだ。後消しに励むなら、ここの頭が消えても不思議じゃねぇなっ」
突き付けられた羽月の言葉に、当の三田司令官どころか、那智以外の全員が恐怖する。那智にとっては何時もの事。
「おい、にいや——」
力無く椅子に腰を下ろした三田司令官から、羽月は視線を移す。再び三宅豊に問い掛けた。
「あっ、はい」
臆していたが、三宅豊は報告を始めた。
「殺害された男性のスマートフォンを調べたところ、犯行グループは、秘匿性の高い中国性アプリで連絡を取り合っていました。タイムラグが生じていない事から、犯行グループは全員が日本在住。復元したメッセージを見ると、都内の周辺地理を緻密に調べ上げています。遺体を遺棄した現場、誘拐したと思われる場所の、防犯カメラの位置も把握している事から、事前に下見をしている——」
三宅豊の報告内容に、警察官達は疑心に顔を見合わせる。
「指示役は都内在住か、都心に近い埼玉在住です」
報告を終えた三宅豊は席に着く。
それを合図に、警察官の一人が手を挙げた。
一番若い警察官に、タブレットの文章を読ませていた警察官だ。
「すみませんっ。間違いが有ります」
「何だ?」
険しい顔で三田司令官が問う。
「こちらは付近の防犯カメラを調べましたが、それと思われる人物は映っていませんでした。不審車両もです」
「つまり、事前に下見はしていないと?」
警視庁の本部長が聞き返す。
「共犯者が下見し、スマートフォンで共用したのではないでしょうか?」
「有り得ません。どの防犯カメラにも、半グレの様な人物は映っていません」
新たな可能性を示唆する那智の質問も警察官は否定した。
「決まって映っている人がいないかは調べましたか?」
不快を見せずに三宅豊は問い掛ける。
「いましたが、児童見守り会のボランティアでした」
警察官が言ったこの言葉に、羽月が口を出す。
「共犯者はその中にいる」
場に動揺が走る。
「えっ」
「そんな……まさか……」
羽月と那智以外にも、警察部隊の隊員が会議に参加していた。
羽月と那智の予想は決まって的中していたが、今回ばかりは腑に落ちない。
「そんな訳ないですよ。身元は確かな筈で、信用の出来る人物だから任せているんですよ」
「子供を守ろうとする親達が、何するか分からない物騒な連中と関わりますかね?」
羽月と那智の席は警察官達の隣だ。隣の長椅子に腰掛けている。
警察官達は、懐疑に揺れない羽月の顔をマジマジと見る。
「子供を護りたい親だから、付け込む隙が出来る」
羽月の言葉が信憑性に触れた。
「自分の子供に、臓器移植が必要だとすれば……」
意味する事が分かり、那智が言葉にする。
「有りました!」
声と共に、三宅豊が手を挙げる。視線と手元はタブレットだ。
「江戸川区に住む、臓器移植が必要な、中学一年生の女の子を捜索して欲しいと、病院から相談を受けています」
「それは何時だ?」
三田司令官の不穏な表情が問いている。警察官達が硬直している。
タブレット画面を見ながら三宅豊は答え出す。
「二、いや、一ヶ月と四週間前です。丁度、最初に児童の遺体が見付かった頃と一致します。親からではないので、捜索願いは不受理になっています」
「了解。にいや」
報告を終えた三宅豊に羽月が声を掛ける。視線を交えた。
「確実に指示役と接触している。三〇一隊が、その親を追え——」
三田司令官の命令に、羽月と那智が「了解」と軽快に応える。
三田司令官の眼に凄みが増す。今日中で一番怖い眼だ。
「他は三〇一に助勢。警視庁は、一先ず残れ——」
警察官達と隣にいる本部長は、震えながら「了解」と力なく返事をした。
「何だ? 文句か⁉︎」
一目置かれる那智にまで、三田司令官は凄みだす。
「す、すみません、三田司令官。結城中佐の言い分も当然ですから……」
三田司令官の隣に座る、警視庁の本部長が口を出す。
萎縮にずっと黙っていたが、最も優秀な那智には気を遣う。
「どれだけ優秀でも、私だけは平等に扱うぞ」
どこがや?
タテ社会の形成者やろ。
そう思ったが、那智は口には出さない。
三田司令官は誰も平等に扱えていない。
普段は他と同じく、優秀な那智を重要戦力に優遇している。その反面、実務能力が低いと辛く当たる。警察官には非情に手厳しい。警察の失態を前にすると、嫌悪に八つ当たりまで始める始末だ。
今回も何時ものパターンだった。
何時も、宥めるのは那智の役回りだった。他は、機嫌を損ねないように気を遣い、嵐が過ぎるまで耐えている。
「すみません。ですが……」
「進まねぇから、いい加減黙れって言ってんだよっ」
那智を遮り、羽月は露骨な不満を言い放った。
「何だっ、その口の聞き方はっ‼︎」
当然、三田司令官は激怒する。
那智を除いた全員が凍り付く。
「うるせぇよっ。にいや、そっちで分かっている事は?」
もはや、眼中にも羽月はいれない。
離れた席に座る、総合通信センターの部長、三宅豊に問い掛ける。
「はい。今分かっている事は——」
「おいっ! 勝手に進めるな! 今回の総指揮は私だっ……」
立ち上がって答えようとする三宅豊を三田司令官は遮る。激しく机を叩いて立ち上がった。
「つまり、お前を消せば先に進むって事かっ?」
「なっ、何を物騒な……」
羽月の凄みに三田司令官は臆してしまう。
羽月は軽はずみの様に口にした。その眼には、怒りではなく物騒な殺意が見えている。
「半グレが、鼠の様に数沸かしてんだ。後消しに励むなら、ここの頭が消えても不思議じゃねぇなっ」
突き付けられた羽月の言葉に、当の三田司令官どころか、那智以外の全員が恐怖する。那智にとっては何時もの事。
「おい、にいや——」
力無く椅子に腰を下ろした三田司令官から、羽月は視線を移す。再び三宅豊に問い掛けた。
「あっ、はい」
臆していたが、三宅豊は報告を始めた。
「殺害された男性のスマートフォンを調べたところ、犯行グループは、秘匿性の高い中国性アプリで連絡を取り合っていました。タイムラグが生じていない事から、犯行グループは全員が日本在住。復元したメッセージを見ると、都内の周辺地理を緻密に調べ上げています。遺体を遺棄した現場、誘拐したと思われる場所の、防犯カメラの位置も把握している事から、事前に下見をしている——」
三宅豊の報告内容に、警察官達は疑心に顔を見合わせる。
「指示役は都内在住か、都心に近い埼玉在住です」
報告を終えた三宅豊は席に着く。
それを合図に、警察官の一人が手を挙げた。
一番若い警察官に、タブレットの文章を読ませていた警察官だ。
「すみませんっ。間違いが有ります」
「何だ?」
険しい顔で三田司令官が問う。
「こちらは付近の防犯カメラを調べましたが、それと思われる人物は映っていませんでした。不審車両もです」
「つまり、事前に下見はしていないと?」
警視庁の本部長が聞き返す。
「共犯者が下見し、スマートフォンで共用したのではないでしょうか?」
「有り得ません。どの防犯カメラにも、半グレの様な人物は映っていません」
新たな可能性を示唆する那智の質問も警察官は否定した。
「決まって映っている人がいないかは調べましたか?」
不快を見せずに三宅豊は問い掛ける。
「いましたが、児童見守り会のボランティアでした」
警察官が言ったこの言葉に、羽月が口を出す。
「共犯者はその中にいる」
場に動揺が走る。
「えっ」
「そんな……まさか……」
羽月と那智以外にも、警察部隊の隊員が会議に参加していた。
羽月と那智の予想は決まって的中していたが、今回ばかりは腑に落ちない。
「そんな訳ないですよ。身元は確かな筈で、信用の出来る人物だから任せているんですよ」
「子供を守ろうとする親達が、何するか分からない物騒な連中と関わりますかね?」
羽月と那智の席は警察官達の隣だ。隣の長椅子に腰掛けている。
警察官達は、懐疑に揺れない羽月の顔をマジマジと見る。
「子供を護りたい親だから、付け込む隙が出来る」
羽月の言葉が信憑性に触れた。
「自分の子供に、臓器移植が必要だとすれば……」
意味する事が分かり、那智が言葉にする。
「有りました!」
声と共に、三宅豊が手を挙げる。視線と手元はタブレットだ。
「江戸川区に住む、臓器移植が必要な、中学一年生の女の子を捜索して欲しいと、病院から相談を受けています」
「それは何時だ?」
三田司令官の不穏な表情が問いている。警察官達が硬直している。
タブレット画面を見ながら三宅豊は答え出す。
「二、いや、一ヶ月と四週間前です。丁度、最初に児童の遺体が見付かった頃と一致します。親からではないので、捜索願いは不受理になっています」
「了解。にいや」
報告を終えた三宅豊に羽月が声を掛ける。視線を交えた。
「確実に指示役と接触している。三〇一隊が、その親を追え——」
三田司令官の命令に、羽月と那智が「了解」と軽快に応える。
三田司令官の眼に凄みが増す。今日中で一番怖い眼だ。
「他は三〇一に助勢。警視庁は、一先ず残れ——」
警察官達と隣にいる本部長は、震えながら「了解」と力なく返事をした。
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