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ブルーレイン
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埼玉県での合同演習が終わり、リリアは帰路の途中、北赤羽駅で電車を降りた。
改札を出て、雨が激しく降る外を駅構内の窓から眺める。
落胆の溜息が出た。
合同演習はスムーズに出来た。教官からは褒められ、友達になった千歳と美玖からは感謝された。
日々の勤勉さを発揮し、誇らしい表情でリリアは帰りの電車に乗っていたが——。
その電車内での事だった。
土曜の正午という事もあり、帰宅する学生が多く乗車していた。通勤、通学ラッシュ時まではいかないが、立っている人の方が多いほど電車内は混んでいた。
学生鞄の他に、リリアは演習用の荷物が入ったボストンバックも持っている。周りの迷惑を弁える性分もあり、リリアはドアが開く度に押され、どんどん奥に流されていく。
そんな中、開いていないドア付近に目が奪われる。
思わず凝視した。
中年の男二人に挟まれた女子高生が震えている。
頭の小羽を出す必要もない。分かった。
男二人の手は、女子高生の服の中だ。
——痴漢だ。
卑劣な犯行に怒りが湧く。
リリアは男二人に近付く。
「この痴漢っ! 次の駅で降りろっ!」
リリアはボストンバックを掛ける腕に鞄を挟み、左側にいる男の手を強く掴んだ。
救いに、女子高生は潤んだ瞳で振り向く。
「はぁっ⁉︎ 名誉毀損だぞ! てめぇ……」
露骨な不快で男は威嚇する。
「無駄です! 私は見ていた!」
物ともせず、リリアは強く断言する。
「お前等グルだろ? 俺、見てたよ。この人、痴漢してないよ」
共犯の男が言い放つ。
「何言ってんの⁉︎ あなたもやってたじゃない⁉︎」
「はぁっ? 連れじゃないよ。俺等、知らない人同士だよ……」
悪びれる様子のない二人に、リリアの怒りは煽られる。
よくも抜け抜けと——。
「あの、私、被害に……」
震える唇で女子高生は訴えだそうとした。
「名誉毀損だぞっ、女子高生っ!」
「タチわりぃな! 最近のガキはっ」
「お前等みたいなガキがいるから、男は電車に乗る度にビクビクしてんだぞっ!」
リリアと被害者の女子高生は、他の乗客から罵声を浴びせられてしまう。勘違いされている。
「嫌ねぇ。最近の女子高生は……」
「お母さん、どういう躾してんのかしら?」
女性からもだ。
「——大丈夫だよ。俺、その二人が痴漢してるの録画しといたから」
若い男の声が罵声を切り裂く。
ドアを挟んだ、向かいにいるホスト風の若い男だ。
「先週もやってただろっ⁉︎ 女に相手にされない、見た目も心も汚いおっさん共!」
若い男が怒鳴る。
スマートフォンに繋いでいるイヤホンを若い男は外した。
「次の駅で降りろよ! 見もしてねぇのに暴言吐いた、名誉毀損連中もだっ!」
静まり返った電車内に若い男の声は響き渡った。
若い男は罵声がした方を睨む。
次の駅、北赤羽駅で加害者の二人は若い男に連れ出せれる。被害者の女子高生とリリアも降りる。
名誉毀損になった乗客は、ドアが開いたと同時に逃げ去っていた。
若い男が見せた動画を証拠に、加害者の中年男性二人は警察に連行されて行った。
「あの、本当にありがとうございます」
若い男だけじゃなく、女子高生はリリアにも礼を言い、深々と頭を下げる。
「私は何にもしていません」
両手を振り、リリアは言う。
危なかった。危うく被害者が悪者になるとこだった。
「そんな事ないです」
女子高生は否定する。
リリアよりも小柄で、女子高生は華奢な体型だった。見るからに大人しそうだ。
「駄目って見ていられなかったんだよね? 偉いよ。立派な事だよ」
和かに若い男はリリアを褒める。
「でも、私は……。返って嫌な思いを……」
「私は感謝してます」
気まずく言葉を漏らすリリアを女子高生は気遣っている。
嫌な思いさせた人に、私は気まで使わせて……。
「本当にごめんなさい」
謝るリリアは自己嫌悪だ。
「俺、水商売のボーイなんだ。だからタチ悪りぃ奴の手口知ってるの。まだ学生なんだし、落ち込む必要ないよ」
そうは言われたが、やはり落ち込んでしまう。というより、今は反省の面が強い。
まだ、電車に乗る気にはなれない。
雨が流してくれたらな……。
眺めていた外に、リリアの足は誘われる様にフワフワと向かう。
——当も無く歩いていると、派手な看板が目に入る。
『豊洲直送! 激安スーパーuwo uwo』と書いてある。
安い食材で美味しく作れるが主婦の強み!
ついさっき迄の落ち込みは何処へやら……。
リリアは意気揚々と、主婦層で混雑する店に乗り込んだ。
改札を出て、雨が激しく降る外を駅構内の窓から眺める。
落胆の溜息が出た。
合同演習はスムーズに出来た。教官からは褒められ、友達になった千歳と美玖からは感謝された。
日々の勤勉さを発揮し、誇らしい表情でリリアは帰りの電車に乗っていたが——。
その電車内での事だった。
土曜の正午という事もあり、帰宅する学生が多く乗車していた。通勤、通学ラッシュ時まではいかないが、立っている人の方が多いほど電車内は混んでいた。
学生鞄の他に、リリアは演習用の荷物が入ったボストンバックも持っている。周りの迷惑を弁える性分もあり、リリアはドアが開く度に押され、どんどん奥に流されていく。
そんな中、開いていないドア付近に目が奪われる。
思わず凝視した。
中年の男二人に挟まれた女子高生が震えている。
頭の小羽を出す必要もない。分かった。
男二人の手は、女子高生の服の中だ。
——痴漢だ。
卑劣な犯行に怒りが湧く。
リリアは男二人に近付く。
「この痴漢っ! 次の駅で降りろっ!」
リリアはボストンバックを掛ける腕に鞄を挟み、左側にいる男の手を強く掴んだ。
救いに、女子高生は潤んだ瞳で振り向く。
「はぁっ⁉︎ 名誉毀損だぞ! てめぇ……」
露骨な不快で男は威嚇する。
「無駄です! 私は見ていた!」
物ともせず、リリアは強く断言する。
「お前等グルだろ? 俺、見てたよ。この人、痴漢してないよ」
共犯の男が言い放つ。
「何言ってんの⁉︎ あなたもやってたじゃない⁉︎」
「はぁっ? 連れじゃないよ。俺等、知らない人同士だよ……」
悪びれる様子のない二人に、リリアの怒りは煽られる。
よくも抜け抜けと——。
「あの、私、被害に……」
震える唇で女子高生は訴えだそうとした。
「名誉毀損だぞっ、女子高生っ!」
「タチわりぃな! 最近のガキはっ」
「お前等みたいなガキがいるから、男は電車に乗る度にビクビクしてんだぞっ!」
リリアと被害者の女子高生は、他の乗客から罵声を浴びせられてしまう。勘違いされている。
「嫌ねぇ。最近の女子高生は……」
「お母さん、どういう躾してんのかしら?」
女性からもだ。
「——大丈夫だよ。俺、その二人が痴漢してるの録画しといたから」
若い男の声が罵声を切り裂く。
ドアを挟んだ、向かいにいるホスト風の若い男だ。
「先週もやってただろっ⁉︎ 女に相手にされない、見た目も心も汚いおっさん共!」
若い男が怒鳴る。
スマートフォンに繋いでいるイヤホンを若い男は外した。
「次の駅で降りろよ! 見もしてねぇのに暴言吐いた、名誉毀損連中もだっ!」
静まり返った電車内に若い男の声は響き渡った。
若い男は罵声がした方を睨む。
次の駅、北赤羽駅で加害者の二人は若い男に連れ出せれる。被害者の女子高生とリリアも降りる。
名誉毀損になった乗客は、ドアが開いたと同時に逃げ去っていた。
若い男が見せた動画を証拠に、加害者の中年男性二人は警察に連行されて行った。
「あの、本当にありがとうございます」
若い男だけじゃなく、女子高生はリリアにも礼を言い、深々と頭を下げる。
「私は何にもしていません」
両手を振り、リリアは言う。
危なかった。危うく被害者が悪者になるとこだった。
「そんな事ないです」
女子高生は否定する。
リリアよりも小柄で、女子高生は華奢な体型だった。見るからに大人しそうだ。
「駄目って見ていられなかったんだよね? 偉いよ。立派な事だよ」
和かに若い男はリリアを褒める。
「でも、私は……。返って嫌な思いを……」
「私は感謝してます」
気まずく言葉を漏らすリリアを女子高生は気遣っている。
嫌な思いさせた人に、私は気まで使わせて……。
「本当にごめんなさい」
謝るリリアは自己嫌悪だ。
「俺、水商売のボーイなんだ。だからタチ悪りぃ奴の手口知ってるの。まだ学生なんだし、落ち込む必要ないよ」
そうは言われたが、やはり落ち込んでしまう。というより、今は反省の面が強い。
まだ、電車に乗る気にはなれない。
雨が流してくれたらな……。
眺めていた外に、リリアの足は誘われる様にフワフワと向かう。
——当も無く歩いていると、派手な看板が目に入る。
『豊洲直送! 激安スーパーuwo uwo』と書いてある。
安い食材で美味しく作れるが主婦の強み!
ついさっき迄の落ち込みは何処へやら……。
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