BloodyHeart

真代 衣織

文字の大きさ
上 下
88 / 133

逆襲開始

しおりを挟む
   作戦開始から一時間半——。
 「——さてと、そろそろ行くとするか。問題なく出撃出来る」
 ドアを開け、軍用車両であるジープに羽月は横に腰掛けている。
 煙草の煙を吐き、羽月は目の前にいる伊吹と、周辺に待機しているニ個小隊に促した。
 観ていたタブレットを羽月が仕舞うと、伊吹がミルクティーが入った缶を差し出してくる。
 観ていた映像はリリアに付けた監視カメラの映像だ。
「帰ったら何か奢れよ。足止め頑張った上に、俺は怪我までしたんだ」
 不貞腐れた顔の伊吹が言う。ぶつけた目の回りは痣になってしまっている。
 集まっている場所は原発近くの森だ。伊吹も羽月も軍服に着替えている。
「そうか? 足止めはリリアの方が役に立ってなかったか? 目は、卑しくポテチ探した自分の所為だろ」
「ひでぇ……」
 ミルクティーを口にし、羽月は冷たく一蹴する。
 ぼそりと言葉を漏らし、伊吹は項垂れた。
「まぁー。でも、久々に牛角行きてぇな」
 伊吹の好物である焼肉を、羽月はちらつかせた。
「行こうっ。デザートも美味いしっ」
 見えた希望に、伊吹は詰め寄る。
「この後次第で奢ってやるよ」
「よしっ! 任せろっ」
 安いな、こいつ……。
 意気揚々とする伊吹に、羽月は呆れながら煙草の煙を吐く。
 車に備えられた灰皿に煙草を捨て、羽月はウェアラブル端末から和左に通信を入れた。
「かずさんっ。出撃許可を——」
「了解! 出撃を許可するっ。——頼んだぞ」
 和左は総合通信センターにある大型スクリーンを見ている。原子力発電所にいる全員を気に掛け、イヤホンマイクから念を押す。
「大丈夫っ! 俺、頑張っちゃうっ」
 羽月がミルクティーを飲み出した隙に入り込む。伊吹が羽月のウェアラブル端末から、やる気溢れる声を送った。
「……っ分かったが、くれぐれも気を付けて行けよ」
 イヤホンマイクから聞こえた大きな声に、和左は少し耳を痛めた様だ。羽月と伊吹も和左は気遣う。
「はぁーい」
 呑気な伊吹の声が総合通信センターにいる全員に届く。
 ミルクティーを飲み干し、羽月は手で口を拭う。
「よしっ。全員、出撃だっ!」
「了解っ!」
 羽月の命令に、この場にいる全員が強く返事をした。
「やったなっ。こっちが正解だ」
「相良中佐の指揮なら誰も死なずに済むっ」
 集まった隊員達が口にしている。
 実際には誰も死んでいない訳ではない。羽月の指揮でも戦死者は数名いる。
 だが、羽月と那智の指揮下では、他と比べて桁違いに戦死者が少ない。
 どれだけ自己犠牲を正義と叩き込まれようとも、誰だって命は惜しい。
 悪評の多い羽月でも、ついて行く隊員は少なからず存在していた。
 命を保障する羽月の命令に隊員達は素直に従う。続々と軍のジープを発進させて行く。
 後方には、作戦に必要な人員と武器を確保し配置する役割がある。
 後方総司令官である名糖和左には、その指揮が任せられている。
 羽月は、説得を任せられたリリアを利用し、足止めをさせていた。その隙に那智が和左に連絡し、秘かに準備を進めていたのだ。
 但し、その段階では作戦指揮権のない和左には、出撃許可が出せない。
 その為に監視カメラ必要だった。
 緊急事態と見做されれば、緊急対応により、指揮権発動が可能になるからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

夜勤の白井さんは妖狐です 〜夜のネットカフェにはあやかしが集結〜

瀬崎由美
キャラ文芸
鮎川千咲は短大卒業後も就職が決まらず、学生時代から勤務していたインターネットカフェ『INARI』でアルバイト中。ずっと日勤だった千咲へ、ある日店長から社員登用を条件に夜勤への移動を言い渡される。夜勤には正社員でイケメンの白井がいるが、彼は顔を合わす度に千咲のことを睨みつけてくるから苦手だった。初めての夜勤、自分のことを怖がって涙ぐんでしまった千咲に、白井は誤解を解くために自分の正体を明かし、人外に憑かれやすい千咲へ稲荷神の護符を手渡す。その護符の力で人ならざるモノが視えるようになってしまった千咲。そして、夜な夜な人外と、ちょっと訳ありな人間が訪れてくるネットカフェのお話です。   ★第7回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。

オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...