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エリートゆえに……
しおりを挟む「ちっ。あいつかよっ!」
「あと、一歩だったのによぅ!」
「ざけんなっ」
王族の前だが、五人は汚い言葉で露骨に怒りを吐き出す。
「あっ、あの……大丈夫ですか?」
心配するリリアは、もう体の傷が治っている。
制服に付着する血から臭いはしない。完全な防臭と防汚加工がされているからだ。五人が着ている軍服も同じ加工がされている。
周囲に敵は見当たらないが、リリアはまだ準備万全に、羽と小羽も尻尾も出し、手には刀を持つ。五人も鞘や腰のホルスターに武器は収めない。何時でも敵に対応出来る状態を保っている。
「リリア様。あ、あの……」
声を掛けるも、新田は申し訳なさで適切な言葉が見付からない。
「えっ、えっと……。あの……」
何故かリリアも申し訳なさそうだ。
リリアは頭の中をぐるぐる回し、伊吹に言われた言葉を思い出した。
「たまたま通り掛かったら、大騒ぎで……」
「はあっ⁉︎」
リリアが棒読みで目を泳がせて言った言葉に、五人は意味不明といった様子だ。
『行っちゃいなよ。たまたま通り掛かったら大騒ぎでって——』
会議室前で伊吹がリリアに囁いていた言葉だった。
「まぁ、いいや。ところで、何処だ? ここは?」
意味不明にはさせたが、場の気まずさは失せさせた。
気を緩ませ、新田はウェアラブル端末を見る隊員に尋ねる。
「三階の……。食堂と休憩スペース見たいです。中央制御室がある建物の隣です。原発からは離れました」
「そっか。なら、窓から出て中央制御室に移ろう」
「了解っ」
新田の指示に従い、五人は廊下に出た。
真っ暗な建物の中、水が滴る音が聞こえてくる。
先頭を切る新田と視線を交わし、銃を持つ隊員が前に出て壁に寄った。
下に銃を構え、相手を待つ。
「遠藤っ!」
現れたのは、傷だらけで流血している遠藤だった。
床に倒れ込む遠藤に、隊員の一人が駆け寄る。
「……はっ、速く逃げろ。急いで援軍を呼ばないと……。作業員も俺達も全滅する」
吐血しながら、息も絶え絶えに遠藤は言葉を繋ぐ。
「分かったから、もう喋るな……」
付き合いが長いのだろう。横に寄り添った隊員は言葉を掛けながら涙ぐむ。
「応急処置をっ……」
スカートのポケットから取り出したスプレーを持ち、リリアが駆け寄ろうとした。
「誰だっ⁉︎ てめぇはっ」
リリアの前に手を出し、制止させた新田が冷たく吐き付ける。
「えっ」
リリアを含み、前の三人が驚く。
一番後ろにいる隊員が、スマートフォンのサーモグラフィーカメラを起動させた。
体感温度が適温に保たれる魔人と人間では、表面の温度が異なる。サーモグラフィー上では、魔人と人間の区別は明らかだ。
「端くれでも、俺達は特殊遊撃部隊だ。何もせず、逃げるなんて選択肢はないっ!」
強く断言する新田に、後ろにいる隊員二人が頷く。
「そうだったな」
横に寄り添っていた隊員も納得し、立ち上がり刀を構えた。
「幻術だろうよ。もはや、この場所すら怪しい」
そう言って、手にするカメラで周囲を映す。
「結界とは別に、剣を地面に刺すと幻術が働く。そういう事だろっ?」
声低く威嚇し、新田は剣先を遠藤の首に突き付ける。
遠藤の姿をしたドラキュラは、不気味に笑い出した。
「……ハハッ。分かったところで、もう遅い」
三人から武器を向けられているにも関わらず、床に寝転んだまま不敵に笑みを溢す。
遠藤からドラキュラ軍人に姿が変わる。
直後、後ろの二人が狙撃された。
突然にして現れた短剣が、二人の脇腹を刺して消えた。
リリアを含んだ前の三人は振り向くが、新田は剣を突き付けたまま、微動だにしていない。
「術を解けっ! 結界もだ! それとも、このまま死ぬ道を選ぶか?」
能力使いなら、こいつが頭だ。人質に取れる。
新田は幻術だと思い込んでいた。
しかし、実際は——。
遠藤さんが幻術なら、目的は?
違和感を抱いたリリアは、そばに落ちたスマートフォンの画面に目をやる。
この場所も狙撃も幻じゃない。
スマートフォンの画面は、狼狽する現実を映していた。
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