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プリンセスプライド
しおりを挟む「これは、お二人の為ですか? 那智さんにとっての正義ですか?」
意志の強い瞳が、真っ直ぐに那智を見据えている。
驚きはしたが、怯む様子なくリリアは問い掛けた。
那智は刀を鞘に納めると、正座し平伏す。
「お詫びの仕様なき御無礼、申し訳ありません」
那智は心から謝罪する。
本来、謝罪で済む事ではない。この場に近衛隊かシェリーがいたなら、那智は確実に殺されていた。
「っしゃ、謝罪はいいですから、動機をお知えて下さい」
リリアは慌てて、那智の頭を上げさせようと肩を摩る。
「行動を共にするにあたり、私達が命を賭け護るに値する人が、確かめておく必要がありました」
顔を上げ、那智は訳を話す。
「結果、どうなんですか?」
リリアは非難しない。それならば仕方ないと思う。
「大いにあると判断しました。敬意新たに、リリア様と御呼びさせて頂きます」
リリアから、様呼びは不要と言われていた。今まで呼び捨てにしなかったのは、周囲の反応を考えての事だった。
「那智さん。私は、王族の命も軍人の命も等しく大事だと思っています。同じ様に扱われないのは、人命軽視という犯罪、間違いです」
「そう思ってくださる王族だからこそ、護る意味があります。等しく扱われる為に——」
逆やったら、殺してええよな。おるだけであかんやろ……。
どちらかと言えば、那智が主張したいのは心の声だ。
「そうですか……」
本末転倒の様な気が……。
心で疑問し、リリアは上目で那智を窺う。
穏和に見える表情から、明確な意思が伝わってくる。
軍人として生きてきた、経験から出る言葉なんだ。それなら——。
リリアは、両手に力を込め、自身の両頬を叩いた。
「那智さん! もし、私が王族として間違いを犯しそうになったら、その時は私の首を斬って下さいっ! お願いします‼︎」
頬の赤くなった真剣な表情で懇願し、リリアは両手を突き頭を深く下げた。
「畏まりました。敬意を持ち、判断させて頂きます」
那智は真摯に頭を下げる。前代未聞の大役を引き受けるつもりなのだ。
那智以外、引き受けられる人は何処を探してもいやしない。どれだけの強い覚悟を知っていようとも、どれだけの敬意を持ってしても拒絶したい大役。
それを二つ返事で引き受ける行動こそが、那智が今持った、リリアへの敬意を表した形だった。
「誓約書の方は、後日書いておきます」
そう言ったリリアの顔は、とても晴々としていた。那智が見せた敬意が伝わっている。そして、自身が持つ軍人への敬意も伝わっていると知る。
「分かりました。そろそろ帰りましょうか? もう遅いですし、羽月君のマンションまで御送りします」
「ありがとうございます」
那智とリリアは立ち上がり、帰り支度を始めた。
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