BloodyHeart

真代 衣織

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騙し和えば……。

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 ——二日後、午後四時二十分。
 内藤誠也が社長を務める芸能事務所、品川区大井町に在る本社ビルを、羽月と旭は訪れた。
 十三建ての立派なオフィスビルだ。入口の回転ドアを抜けると、受付に若い女性が二人いる。
「こんにちは。社長室は最上階ですか?」
 何時もと変わらないスーツ姿で、羽月は愛想良く話し掛けた。ビジネスバッグは、車に置いてきたので手ぶらだ。
「ちわッス」
 軽く挨拶する旭も、何時も通りのオフィスカジュアルだ。何時も使っている斜め掛けのボディバッグではなく、肩にトートバッグを下げている。
「そうです。お呼び出し致しましょうか?」
 容姿の良い二人に、受付の女性は好印象を抱き尋ねた。
「いえ、いいです。さっき電話したら、直接上がって来るように言われましたので……」
 親しい友人の様に羽月は言う。
 受付の女は手元のパソコンを見る。
 社長のスケジュールには、四時半から会食と書かれている。
「そうですか。十三階、エレベーターを降りた目の前が社長室になります」
 羽月は嘘を言っているが、受付の女性は全く疑問を持たず、愛想良く通してしまった。
 羽月と旭は、ロビーの端にあるエレベーターに乗り込んだ。
「モデル事務所の社長かな? 色男だし、かっこいいし……」
「っぽいね。元モデルだろうね。後ろの子はモデルかぁ——。かっこ可愛い」
 受付の女性二人は、軍人だとは夢にも思わなかった。
 ——社長室のドアが勢い良く開いた。
「劇薬及び毒物取締法違反、輸出入取引法違反並びに、血液法違反により緊急逮捕するっ!」
 手帳を開き見せ、羽月と旭は告げた。
 室内の応接間に六人の男がいる。
 社長である三十七歳の内藤誠也を挟み、体格の良い社員が二人座っている。
 内藤誠也は、スタイリッシュな体型で爽やかな雰囲気の男だ。とてもヤクザに見えない。だが、両隣の男二人は三十歳前後の年齢で、とても堅気に見えない風貌だった。
 向かいのソファーに座る、組織のボスである五十代の男は、羽月を見て青褪めていた。
 ボスの隣と後ろに、一人ずつ構成員がいる。三人共、元軍人だとよく分かる体格だ。三人は芹沢が言う、旧制チャイニーズ出身のマフィアだ。
「どうしたよ? 幽霊でも見る様なツラして……」
「ってめぇ……」
 羽月の挑発的な問い掛けに、マフィアのボスは憎悪を漏らした。
 暗殺を仕向け、まんまと欺かれていたと今気付く。マフィアのボスは、顔を引き攣らして羽月を睨んだ。
「緊急という事だが、証拠が揃っていない——。問題になるぞ」
 マフィアの胸中を察した内藤は、一番に口を開いた。
 内藤には余裕が感じられる。
 テーブルには、二枚の書類があるだけだ。
「いいや、ある。さっき、あんたが電話していた先にな」
 行動を見透かし、羽月は断言する。
「そっか——。まぁ待て、いい案がある。乗らないか?」
 裏がある笑みを向け、内藤は交渉に出た。
「内容によっては考えてやるよ」
 悪意を含み、羽月は猶予を与えた。
「知っての通り、こっちのバックにはドラキュラが大勢付いている。勿論、ヒューマロイドも……。死ぬかもしれない高リスクだ」
 内藤は穏やかな口調で、真摯に顔を見て語り掛ける。
「知ってますよ。顧客リスト見たし、血液とMDが入ったボストンバックは大量にあった」
 仏頂面の旭が言う。
「そんな命の危険に対して、今回のヤマはいくらだ?」
 羽月と旭を同情するように、内藤は二人を交互に見る。
「五人で五百万だったかな?」
 小首を傾げ、旭はうろ覚えに答えた。
「たった五百で死ねかっ⁉︎ 酷い話だな」
 内藤は怒った様に見せた。
「十倍の五千万で、私が君達を助けよう——。いいですよね?」
 内藤は羽月と旭を見た後、マフィア側を向き同意を求めた。
「……っ仕方ない。まけるよ」
 くそッ! 良い条件でシマを獲る筈だったのに……。
 奥歯を噛み締め、カタコトの日本語でマフィアのボスは承諾した。
「フッ、安心しろよ。新政府から捨てられた辺境までは相手にしない。製造工場は護れる。未だに許されないスキャンダルを起こして良かったな」
 言葉でも視線でも羽月は見下している。
「ってめぇっ!」
 殴り掛かろうとする後ろの構成員を、ボスの隣に座る構成員が、片手を上げて制止させた。
「……その顔は覚えた。喧嘩を売ったなら覚悟しとけよっ」
 制した構成員は落ち着きを構え、鋭利な眼光で凄んだ。
 構成員の二人は流暢な日本語だ。
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