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行き場を失くした者
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ショーを見終わり、リリアと羽月は館内を巡っていた。
リリアは、クラゲのいるアクアリウムを前に足を止めた。
イルミネーションが施され、七色に色を変えながら、クラゲがフワフワと泳いでいる。
「わぁー」
幻想的な姿に、反射的に声が出た。
「羽月さん、あれっ、れれ……」
話し掛けようとして、振り返ったリリアは、ずっと一歩半下がって後ろにいた羽月がいない事に気付く。
リリアは辺りを見回す。
見付けた羽月は、伊勢海老がいる水槽を眺めていた。
良かった。羽月さんも楽しんでる。
そう思い、リリアは安堵した。
ショーを観ている時さえ、はしゃいでいるリリアとは対照的に、羽月は平静だった。そんな羽月を見ていて、リリアは楽しくないのかと思い、不安に駆られていた。
伊勢海老を見ている羽月は、美味そう……と内心で呟く。
少し離れた場所で、スマートフォンで電話している男に、羽月は視線を移す。
男は百七十後半の身長で、柔道家の様な体型をしている。
この男は、ずっと羽月を監視していた。
「……あの、本当に、あの髪の長い男で合ってます?」
「そうだ。ハッキングした防犯カメラに映っていた」
「……あれ、本当に軍人ですか? ずっと張ってますけど……。人違いじゃないですよね?」
「間違いないっ——」
男は中国語で電話している。
暫くして、館内を巡り終わったリリアと羽月は外に出た。
「土産買って来いよ」
「いいですよっ。ずっと奢ってもらってますからっ」
長財布を差し出す羽月に、リリアは両手と口で拒否を示す。
「いい子だな、お前は……」
そう言い、羽月は長財布をトレンチコートの内ポケットに仕舞った。
「普通ですよ。羽月さんは、欲しいお土産は御座いますか?」
「特にない。俺は、煙草吸って来る」
リリアが土産ショップに入ると同時に、羽月は反対方向に歩き出す。
羽月を監視していた男も、電話をしながら歩き出す。
「いいかっ⁉︎ 今回は大口の取引になるっ。取引迄に必ず始末しろっ!」
「任せて下さい! 軍人時代から暗殺は得意ですからっ」
男は人気がない通路から、喫煙所に向かう。
手を入れている上着のポケットには、ハンコ型の注射器が入っている。
「っ⁉︎」
あれっ……?
喫煙所にいる筈の羽月がいない。
男は喫煙所の近く、人気のない通路を出る手前で気付いた。
その瞬間だった。
真後ろにある倉庫のドアが開いたと同時に、皮手袋を着けた手が伸びる。注射器を持つ腕を掴んだ。
掴まれたと同時に、注射器を奪われた。目が追い付く前に、注射器を挟んだ手が口を塞ぐ。
事の理解をする前に、倉庫内に引き摺り込まれる。背中で掴んだ腕を捻られ、両膝が地面に突く。
「高速から張ってたな」
「っ⁉︎」
見破られていた事実に、男は声無く狼狽した。
男の心情を見透かし、羽月は薄笑みを浮かべた。
「何、驚いてんだ。用が無いなら、俺の車は警戒すんだよ」
「……っ!」
「安心しろよ。行き場を失くした可哀相な奴だ。——楽に逝かせてやるよ」
最後に耳元で囁き、羽月は口を押さえていた手を瞬時に動かす。指で挟んでいた注射器を頸動脈に刺した。
注射器の中は塩化カリウムだ。
即死した男の手に、注射器を持たせ前に倒す。
スボンのポケットから、羽月はスマートフォンを奪った。
『服装の所為で手にしか刺せず、一命は取り留めるかもしれません。取引日を早めますか?』
男に成り済まし、中国語に変換したメッセージを送信する。
『それでも一週間は入院になる。取引は予定通り、二日後の四時に行う。お前は、取引の前にフィリピンに飛んどけ』
直ぐに返信がきた。
羽月は、フッと笑みを漏らす。
倉庫のドアを閉め、羽月はその場を後にした。
——後に、殺された男は裏で入手したパスポートにより、観光客の韓国人男性と誤認される。マスメディアは、韓国人観光客自殺と報道してしまう。
その為、男が所属する組織に身内と仲間内も、死亡している事実には気付けなかった。
リリアは、クラゲのいるアクアリウムを前に足を止めた。
イルミネーションが施され、七色に色を変えながら、クラゲがフワフワと泳いでいる。
「わぁー」
幻想的な姿に、反射的に声が出た。
「羽月さん、あれっ、れれ……」
話し掛けようとして、振り返ったリリアは、ずっと一歩半下がって後ろにいた羽月がいない事に気付く。
リリアは辺りを見回す。
見付けた羽月は、伊勢海老がいる水槽を眺めていた。
良かった。羽月さんも楽しんでる。
そう思い、リリアは安堵した。
ショーを観ている時さえ、はしゃいでいるリリアとは対照的に、羽月は平静だった。そんな羽月を見ていて、リリアは楽しくないのかと思い、不安に駆られていた。
伊勢海老を見ている羽月は、美味そう……と内心で呟く。
少し離れた場所で、スマートフォンで電話している男に、羽月は視線を移す。
男は百七十後半の身長で、柔道家の様な体型をしている。
この男は、ずっと羽月を監視していた。
「……あの、本当に、あの髪の長い男で合ってます?」
「そうだ。ハッキングした防犯カメラに映っていた」
「……あれ、本当に軍人ですか? ずっと張ってますけど……。人違いじゃないですよね?」
「間違いないっ——」
男は中国語で電話している。
暫くして、館内を巡り終わったリリアと羽月は外に出た。
「土産買って来いよ」
「いいですよっ。ずっと奢ってもらってますからっ」
長財布を差し出す羽月に、リリアは両手と口で拒否を示す。
「いい子だな、お前は……」
そう言い、羽月は長財布をトレンチコートの内ポケットに仕舞った。
「普通ですよ。羽月さんは、欲しいお土産は御座いますか?」
「特にない。俺は、煙草吸って来る」
リリアが土産ショップに入ると同時に、羽月は反対方向に歩き出す。
羽月を監視していた男も、電話をしながら歩き出す。
「いいかっ⁉︎ 今回は大口の取引になるっ。取引迄に必ず始末しろっ!」
「任せて下さい! 軍人時代から暗殺は得意ですからっ」
男は人気がない通路から、喫煙所に向かう。
手を入れている上着のポケットには、ハンコ型の注射器が入っている。
「っ⁉︎」
あれっ……?
喫煙所にいる筈の羽月がいない。
男は喫煙所の近く、人気のない通路を出る手前で気付いた。
その瞬間だった。
真後ろにある倉庫のドアが開いたと同時に、皮手袋を着けた手が伸びる。注射器を持つ腕を掴んだ。
掴まれたと同時に、注射器を奪われた。目が追い付く前に、注射器を挟んだ手が口を塞ぐ。
事の理解をする前に、倉庫内に引き摺り込まれる。背中で掴んだ腕を捻られ、両膝が地面に突く。
「高速から張ってたな」
「っ⁉︎」
見破られていた事実に、男は声無く狼狽した。
男の心情を見透かし、羽月は薄笑みを浮かべた。
「何、驚いてんだ。用が無いなら、俺の車は警戒すんだよ」
「……っ!」
「安心しろよ。行き場を失くした可哀相な奴だ。——楽に逝かせてやるよ」
最後に耳元で囁き、羽月は口を押さえていた手を瞬時に動かす。指で挟んでいた注射器を頸動脈に刺した。
注射器の中は塩化カリウムだ。
即死した男の手に、注射器を持たせ前に倒す。
スボンのポケットから、羽月はスマートフォンを奪った。
『服装の所為で手にしか刺せず、一命は取り留めるかもしれません。取引日を早めますか?』
男に成り済まし、中国語に変換したメッセージを送信する。
『それでも一週間は入院になる。取引は予定通り、二日後の四時に行う。お前は、取引の前にフィリピンに飛んどけ』
直ぐに返信がきた。
羽月は、フッと笑みを漏らす。
倉庫のドアを閉め、羽月はその場を後にした。
——後に、殺された男は裏で入手したパスポートにより、観光客の韓国人男性と誤認される。マスメディアは、韓国人観光客自殺と報道してしまう。
その為、男が所属する組織に身内と仲間内も、死亡している事実には気付けなかった。
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