BloodyHeart

真代 衣織

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至福のバスルーム

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 ——夜になって仕事を終えたソフィアと大浴場に向かった。
 各部屋に、シャワールームと洗面室にトイレは有るが、風呂は皆して大浴場を使っている。
 横開きのドアを開けると脱衣所にシェリーがいた。
 王族より先に入浴してはいけないというルールはなく順番は自由だ。
「シェリー先生、ありがとうございます」
 近寄ってきたリリア王女が御礼を口にした。
「ママから聞きました。一日もかかさず必死に探し続けてくれていたって」
 ナイトウェアに着替えたシェリーは女王の心遣いに目を潤ませた。
「いえ。結局、助けられずに申し訳ありませんでした」
「私はママの言う通り、一生感謝しますっ」
 断言するリリア王女は誘拐前と同じく純真無垢な目をしている。
 大浴場は中世ヨーロッパ調の造りだ。スーパー銭湯のように、洗い場は十個備わっていて数種類の湯が有る。
 真ん中に打たせ湯になる噴水がある。一番大きい風呂にリリアとソフィアは入った。
「リリアちゃん。嫌な事思い出したらお姉ちゃんの部屋においでね」
 そう言って、ソフィアは横からリリアを抱き締めた。
「ママと違って、何時でもこうやって抱き締めてあげる」
 ソフィアも厳しく躾けられた。だから気持ちがよく分かる。ソフィアの性格上、同じ目に遭わせようとは思わず、母と反して優しく接していた。
 だが、サファイアの事は嫌いじゃない。母親としては不充分だと思っているが、王として人の上に立つ者として、充分に尊敬している。
「ありがと。でも、お姉ちゃんがいるだけで安心するから、大丈夫だよ」
 表情からも、言葉通り安心していると分かり、ソフィアは抱擁を解いた。
「何より、すっごく、いい出会いもあった……」
 言い終えた後、覚醒直後に見た羽月の憂いた笑みが過ぎる。
 次に、洋館から救出される時に、腕に抱かれた事を思い出した。戦闘前夜の事、ネックレスをプレゼントされた事——。次々に思い出し、リリアは頰を赤らめ俯いた。
「あの隊長、ママに似てない? ママの男バージョンみたいだった」
 打たせ湯を肩に当てながらソフィアは思い起こす。
 リリアはハッとし、顔を上げた。
「っそうかも……。似てる!」
 妹の反応で好意があると直ぐに気付く。ソフィアは思わずニヤついた。
「お姉ちゃんは赤い髪の子がいいな。お姉ちゃんと一緒で、赤好きそう」
 言いながらアシンメトリーに染めている赤い髪を指に巻く。
 ソフィアの地毛は、母親とリリアと同じ金髪だが、アシンメトリーに赤く染めている部分がある。
「他の子と違って、裏表ない真っ直ぐな性格だと思う」
 ソフィアは敢えて、他の子と違ってを強調する。
「うん、そうだと思う。お姉ちゃん、見る目あるもんね」
 記憶を辿り、リリアは同意した。
 ソフィアは洞察力に長けている。普段から信頼出来る人を直ぐに見抜ける。その洞察力を、アパレル会社の経営に活かし、次々に商品をヒットさせてきた。
「……凄い強かったよね。民兵とはいえ、四対百で圧勝なんて魔人の強キャラレベルだよ」
 噴水の前にある壁に寄り掛かり、打たせ湯で気持ち良さそうにしながら、ソフィアは感心を口にする。
「うん! 凄い強かったぁ!」
「作戦完璧で、凄い策士の隊長だね」
 ソフィアは、羽月の計算高い性格を既に見抜いていた。注意を含めて、裏のある言い方を態としたが、隊長として裏なく称賛もしていた。
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