BloodyHeart

真代 衣織

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少女の覚悟

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「何だ⁉︎」
「閉じ込められたぞっ」
「おいっ‼︎ 奴らが来るっ!」
「せっかく稼いだんだ! 家に帰って贅沢するっ!」
「くそっ‼︎ 後半年で五年の任期が終わるんだっ! ここで死ねるかっ!」
 爆破の後、出入口と数カ所の天井部分が崩落し、分散されて閉じ込められた。
 爆破の直後、地下道は一時停電したが直ぐに復旧した。魔人は、暗闇でも昼間と同じ様に見える為、視界に支障はない。
 言われていた事と違う。予想外の事態が起き、民兵達は混乱していた。
 ——羽月が先を行っていたが、突然、リリア王女が脇をすり抜けた。リリア王女は前に出る。
 強くっても、人間に魔人のような再生能力はない。……にも関わらずに護らせている。
 助けてくれた恩人に、何も出来ないなんて……。
 王族が無力なんて……。
 これ以上の恥は晒せない!
 リリア王女が剣を止めた瞬間に、羽月がマシンピストルを撃つ。
「ビビってた割に、やるじゃねぇか」
「もう、迷惑かけれません!」
 空になった弾倉を再装填する間に、無数の血刃が飛んできた。リリア王女が左手にシールドを出し防ぐ。
「でも……震えてきそうで……」
 剣を振り降ろし、ドラキュラは耐えるリリア王女のシールドを斬ろうとする。
「なら……勢いある内に、終わらせるかっ!」
 シールドが両断された瞬間に、羽月は強烈な蹴りをドラキュラの腹に入れた。
 吹っ飛び、後ろにいた三人を巻き添えに倒れる。
 透かさず、羽月はマシンピストルを連射して仕留めた。
 民兵を凌駕している羽月に、今のリリア王女はついて来れている。ついさっきまでとは違い、遥かに強く遥かに速く体が動いている。
 羽月と見事に連携を取り、次々に襲い掛かる民兵を打破していく——。
「何やってんだっ⁉︎ たった二人だぞっ!」
「上も横も狭いんだっ! 数は活かせないよっ!」
 次々に敗れていき、民兵達はパニックに陥っていった。
 ——もう一方、地下道に入った那智と伊吹はもっと強く速かった。
「なっちー。俺、必要無くなっちゃうよぅ!」
 那智は、目にも留まらなぬ動きで、民兵に何もさせない。一太刀で、次々に斬り捨てる。
 伊吹は、後ろから隙間を見付けてマシンピストルを撃つ。辛うじて役割を守っている。
 那智と伊吹は、凄い速さで難なくドラキュラを倒していった。
 ——時暫くして、敵がいない別れ道にリリア王女と羽月は辿り着いた。
「鉄球だな、これ。左側が隊長やってる軍人か……」
 瓦礫の飛び散り具合で、羽月には武器の想像が付く。
 右側は、天井部分の崩落で塞がっていた道だった。左側は塞いでいない。
 羽月の発言を聞き、リリア王女に憎悪が蘇る。
「襲撃以外でも、民家を襲って強盗や強姦をしたと、自慢していた人達です」
「下衆野郎か……。民兵なら逃してやってもいいと思ったが、痛め付けて殺るか」
 ニヤリと口端を上げ、羽月はリリア王女を見る。
「自分の血は、自分で奪い返したい。羽月さんは右側を行って頂けませんか?」
 私が誘拐されなければ王族ゲートは使われなかった。
 被害に遭ってしまう人を、私が増やしたんだ!
 強い目を向け、羽月に訴える。
「勝てる相手じゃねぇだろ。片方ずつ行くか?」
「駄目なんです。私の仇だから、私が戦わなきゃ……。それこそママに殺されます」
 不意打ちの方がラクか……。
 瞬時に、羽月の頭に策が浮かんだ。
「分かった。——後でな」
 爽やかな笑顔を向けて、羽月は快諾した。
「相良少佐殿、御武運を——」
 リリア王女も笑顔を見せる。日本人である羽月に合わせ、挙手の敬礼をした。
「ああ。王女様も御武運を——」
 羽月は答礼をし、左側に歩き出す。
 自分の大切な物は自分で奪い返せ!
 無力も甘えも許さん!
 脳内で、リリア王女は母の言葉を反芻させる。
 自らを奮い立たせる為だ。
 五歳の時に、激しく叱られ怒鳴られた言葉を——。
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