BloodyHeart

真代 衣織

文字の大きさ
上 下
15 / 133

ナイトメア

しおりを挟む
「では、行きましょうか」
 日本刀を腰に差した那智がリリア王女に促す。言い方に顔も、眼鏡の奥にある瞳すら優しい。
「はい……」
 座席から立ち、返事をするリリア王女の顔は恐怖と緊張で強張っている。
 旭が操縦する中型戦闘機は、洋館の上空十数メートルで夜の空に停止飛行していた。
 胴体部のドア前では、羽月がドアを開けて様子を窺っている。その隣で、伊吹が膝に手を当てて脚を屈伸し、準備運動をしている。
「殺しに来る奴は、それ以上の殺意が無ければ殺される。何言っても無駄だったよな?」
 リリア王女を振り返り、羽月が余裕のある声と表情を向けてきた。
「……大丈夫です。覚悟は出来ていますっ」
 震えが隠せない声で言い、リリア王女は引き締めた顔を羽月に向けた。
「よかった。リリア様が殺されたら、私達の首が飛びますから」
「……はい」
 優しい表情で膝を折り、リリア王女の頭を撫でながら、背筋が凍る発言を那智はしてきた。
 羽月は軽く笑っていたが、伊吹は屈伸のしゃがんだ状態で固まった。
「……脅しじゃねぇかよっ」
 引き気味に驚き、旭は声を漏らした。
 三〇一隊の四人は、腕章は付けているが、軍服ではなく通常通りのスーツとオフィスカジュアルだ。
 リリア王女は、志保から貰った背中が開いた丈の長いパーカーに、フリルのスカートに見えるキュロットを着用している。
「旭、寄せろ!」
「了解っ!」
 羽月の命を合図に、旭は戦闘機を下降させた。
 下降して行く戦闘機から、羽月と伊吹が飛び降りる。
 洋館の真ん中部分、円形の屋根に二人は着地した。
 着地前に、二人は腰、脇下のホルスターから銃を抜き撃ち、屋根に大穴を一ヶ所ずつ開けた。
 使った銃はゴッドスター。
 黒味がかった銀色で、大口径のマグナム弾使用拳銃に似た、装弾数が八発の回転式拳銃だ。この銃は細胞結合を破壊し、対象を爆発させる弾薬を装填している。
 その為、撃った反動はかなり激しい。握力が桁外れの羽月と伊吹は、魔界製グローブを着けた手で片手撃ちが出来るが、殆どの使用者は出来ない。魔界製のグローブで補強した手を支えながら両手で撃つ。
 十八年前に日本の国公立大学、薬学部と工学部が共同開発した。
 外した場合と被害想定を考えると用途は限られる。現状の技術では、ハンドガン以外の製造は困難。一撃づつハンマーを起こす必要があるシングルアクションで、連射は不可。最大射程距離も五十メートルと短いが、破壊出来ない物は殆ど無い。
 魔人のシールドを破り、剣や槍の武器も一、二分は消せる。治癒力の高い魔人ですら修復に一ヶ月要し、急所を撃てば殺せる。
 マシンピストルや戦闘機等の対魔人兵器は、魔界の原料を使い人間界で造られる。そんな中で、ゴッドスターは唯一、原料も開発も全て人間界で造られる、革命的な武器になる。通貨価値の違いから、既存の最も安い武器になっている。
 開けた穴から那智に続き、羽と触覚、尻尾と刀を出したリリア王女が屋内に入った。
 待ち構えていた民兵のドラキュラ、駆け付けたドラキュラ達、二十人前後が二人に襲い掛かる。
 血刃や剣撃に対抗する二人を、穴の側に立つ羽月と伊吹がマシンピストルで援護する。
 二人というより一人だ。
 那智に援護は全く不要だった。
 日本刀を武器にしている那智は、穴に入ったと同時に無数の血刃を、一振りで全て払った。とても綺麗な姿勢で、一撃で急所を仕留めていく。ドラキュラ達の誰一人も、かすり傷どころか剣すら交わせられない。
 那智が使っている日本刀は、魔界製の原料から造られ、日本の刀匠が製作している。魔人の武器と同じく刃を飛ばせるが、那智は使わずに倒している。刃を出す時は、刀身が黒く光り黒い刃が放たれる。
 伊吹と羽月、旭も着けている、チェーンとシールドが出せる魔界製グローブを、那智も左手に着けている。着けているが、普段から使うのはチェーンぐらいで、シールドは滅多に使わない。
 右手にも全く同じデザインのグローブを着けているが、こっちは日本製の只のグローブだ。
「ぶっちゃけ、なっちー(那智)一人で勝てるんだよね。さっすが、最強エリート部隊の最強」
 下を見て、援護射撃をしている伊吹が口を開く。
 那智が所属する陸軍特殊遊撃部隊とは、エリート部隊と称される対イーブル軍の最強部隊だ。その中でも、那智が最強だ。
 陸軍特殊遊撃部隊よりは劣るが、羽月達が所属する警察部隊も実力者が集まっている。隊を率いる必要がある為、戦闘指揮を取れる中尉以上の階級が必要になるからだ。例外だが、実力が備わっていれば、少尉でも所属が認められている。
 実力者が集まっている警察部隊でも、たった四人で三十人以上のドラキュラに勝てるのは羽月達だけだ。
 リリア王女も、次々に駆け付けてくるドラキュラを刀で倒していく。……が、仕留めきれずに二人が、窓から羽月に向かう。
 腕だけを向けて、羽月がマシンピストルで仕留めた。
 伊吹にも、他の窓から民兵が飛び掛かる。
 羽月と伊吹、二人でマシンピストルを乱射し倒していく。
「サキュバスでも、ガキはこの程度か……」
 視線を動かし、剣撃に押されるリリア王女を援護した後で、羽月は言葉を漏らした。強いサキュバスしか見た事はないが、羽月には納得の見解だった。
 作戦通り、羽月達は中央部分からは出ない。その方が、羽月と伊吹は敵を仕留め易い。那智とリリア王女は応戦し易いからだ。


iPadから送信
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

推理小説家の今日の献立

東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。 その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。 翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて? 「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」 ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。 .。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+ 第一話『豚汁』 第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』 第三話『みんな大好きなお弁当』 第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』 第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

処理中です...