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黒蓮

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最終章 幸せ

絆 19

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 各地区を巡回し、新たな国の住民になる説得を始めてから2ヶ月が過ぎた。ほとんどの地区については、僕の圧倒的な力を目にした為か、それとも生活が急激に変わることもないからか、意外とすんなり納得してくれていた。

ただ、全ての地区がそうだったということはなく、数地区は頑なに拒絶されてしまった為、今は時間をかけつつ平和的な交渉を続けているという状況だ。とはいえ、この大陸の新国家建国に向けての準備は着々と進められている。

僕達は今、第一地区の空き地となっていた場所にフロストル公国から持ち込んできた屋敷を〈収納〉から取り出して、そこに居を構えている。急に屋敷が現れた時には、住民のみんなは驚きのあまり叫び声を上げる人も居たが、それを成したのが僕だと分かると納得した表情で安心していた。


 屋敷の近くを一人で散歩していると、クワを持った住民のおじさんが声をかけてきた。

「おはようございますダリア様!先日はありがとうございます!小麦畑が病気に犯されたときは食糧難も覚悟しましたが、お陰で助かりました!!」

「それは良かったです!困ったことがあれば、また言ってください!」

「おぉ!ありがたいことです!こんな方が国を作ってくれるなら、我々の将来は安泰ですな!!はっはっは!」

そう言っておじさんは畑の方へと去っていった。この数ヵ月で、住民の表情は劇的に明るくなっていった。ちょっと前までは滅亡の危機に瀕していたが、今では明るい未来に希望を抱いているのがよくわかる。

 この数ヵ月、僕達の存在を受け入れてもらう為、住民の人達とも多くの時間を割いて交流し、信頼を得ていった。特に、僕の【才能】を使って作物を種子から僅か数分で収穫するという、農民にとって驚愕の現象を引き起こした際には、驚きのために大半の住民が腰を抜かしてしまうという事件になってしまったが、僕の見た目が上手く作用したのか、それ以後はまるで神の御遣いのように称えられることとなった。

(まさか帝国での経験がこんなところで役に立つとはね・・・)

戦争を止めるために帝国の問題点を解決するために学んだ方法が、住民には神の御技のように映ったようで、今だ新国家の住人になるのに頑なな姿勢をとる地区にはこの方法で懐柔できないかと、次回の交渉方法に決めたほどだった。


 ちなみに、僕が今一人で散歩しているのは、みんなから「女だけで話し合わなければならないことがあるから」と切実な顔で訴えられたためである。

(今頃話し合っているんだろうけど・・・一体何を話し合うんだろう?)

僕抜きで話さなければならない事って何だろうと疑問を浮かべながら、屋敷に居てはみんなの邪魔になるだろうと考えてこうしてフラフラと散歩しているのだが、内容が気になって仕方がないのだった。




side 女性陣

 ダリアが外出してから数分後、屋敷のリビングにはメグ、フリージア、シルヴィア、ティア、ジャンヌ、シャーロット、アシュリーが集まっていた。ただし、シャーロットとアシュリーは話し合いのテーブルからは若干離れた場所に位置しており、その様子を見守っているような状況だった。

「・・・では、始めましょうか」

「はい。ずっと後回しにしていましたが、そろそろ決めておかないといけないことですから」

「遂に、決める時が来たんですね」

「ん、新しい国家としてこれは最重要課題」

「ああ、妥協は出来ない」

彼女達の顔は真剣で、普段の仲の良い間柄からは想像できないほどのピリピリとした雰囲気がこのリビングに漂っていた。

「そ、それでは、私シャーロットとアシュリーが、この話し合いの見届け人になります。皆さん、この話し合いで決まったことを後で蒸し返さないということでよろしいですね?」

シャーロットは緊張した面持ちで息を飲みながら、再度彼女達に確認する。

「「「もちろんです(だ)!!」」」

「む~、アシュリーもあっち側が良いのに・・・」

場の緊張感を台無しにするようなアシュリーの呟きだったが、彼女はまだ6歳ということで、みんなは彼女の言葉を聞き流した。

「では、『ダリア様の正妻になるのは誰だ!?』会議の開始をここに宣言します!」

「「「よろしくお願いします!!!」」」

シャーロットの開始の宣言と同時に、彼女達の瞳に炎が宿った。これから始まる会議は、彼女達にとって絶対に負けられない戦いなのだ。

「一国の王となるダリアに正妻は絶対に必要です」

「問題は、誰がその地位になるか、ですが・・・」

「正妻と側室・・・」

「ん、王族にとって子孫を残すことは最重要。側室が多くても不思議はない」

「だが、正妻は一人・・・ダリアの一番にはーーー」

「「「私がなる!!!」」」

・・・・・・・・・・・・・・・・

みんなの声が重なり、お互いの顔を見合って相手の出方を窺うような沈黙がこのリビングを支配した。

「私は公国の次期女王として、相応の教育を受けています。やはり、ダリアの隣に立つからにはそれなりの能力が求められるのでは?」

口火を切ったのはメグだった。自身がこれまで学んできた知識と能力を強調するマーガレットだったが、この場には同じように高い能力を保有している面々が揃っている。

「それでしたら私も、教会では次代の枢機卿と言われ、人々を導く教育を受けておりました。何より、新たな国を纏めるには人々の心を導く存在が必要だと思いますよ?」

「ん、私だって宰相の娘としてそれなりの教育は受けている。帝王学から財務に至るまで、ダリアを一番支えられる」

「まて、新たな国では国防が最重要だろう。その点で言えば、【剣聖】であり、帝国の軍務を担った私は、ダリアに欠かせぬ存在だぞ」

三者三様に自身の能力をアピールし、自分こそが相応しいのだと譲らなかった。事ここに至ると、平民として生活していたシルヴィアはアピール出来るものが無いと顔を曇らせていたが、何とか言葉を絞り出した。

「わ、私は・・・やっぱり、建国して王様になるのはとても疲れることだと思うし、夫を癒すのが妻の勤めだと思う・・・」

シルヴィアの言葉に、この場の全員がテーブルに乗せられている彼女の女性としての最大の武器に目が釘付けとなった。

「ぐっ・・・、その武器を使うとは・・・」

「ん、それを持ち出してくるのは卑怯・・・」

怨嗟の声を吐き出したのは胸に自信の無い2人だった。ただ、残りの2人も余裕の表情という訳でもない。シルヴィアの過剰な戦闘力を誇るそれを見ながら考えを巡らせていたのだ。

 最近は彼に対するスキンシップで、シルヴィアが一歩リードしているのは皆薄々気付いている。シルヴィアに対抗して、彼の逆の腕にしがみついてこちらの武器を押し付けようと、彼の意識はずっとシルヴィアのそれから離れないのだ。

もちろん、抱きついたこちらを無視していると言うわけではないが、顔を赤くしてチラチラと彼女の胸の谷間を見ている彼を見ると、女性としての敗北感に苛まれてしまう。

だからこそこの話し合いの場では、誰一人として女性の面を出さずに能力としてのアピールをしていたのだ。そして、その暗黙の了解は今、破られてしまった。

ちなみに、以前みんなで入浴した際に彼女の武器を触らせてもらった者達は、その時の指が沈み込んで優しく包まれるあの柔らかさと弾力を思い出し、思わず自分の手を見て開いたり閉じたりして、その感触を思い出していた。あの何とも言えない癒しの感触の破壊力はヨルムンガンド並みだろう。

「や、やはり正妻とは女性としての魅力だけではなく、能力も考えなくては!」

「そ、その通りです!如何に夫を支える能力があるかということです」

「ん、異論はない!」

「そ、そうだな!能力が一番だな!」

思わず誤魔化すようにしどろもどろになりながらも、4人は無意識の内にだが女性として怪物級の武器を持つ一人の少女に対して共闘していた。しかし、シルヴィアもこの戦いに負けることは出来ない。

「でも、家庭の中でこそ仕事を忘れさせてくれる癒しの存在が必要になると思うんです!」

「いやしかし、国の王の正妻とは・・・」

「でも、それだったら・・・」

「待ってください!でしたら・・・」

・・・・・・・・・・・・・


 それから日が暮れるまで、彼女達の話し合いと言う名の戦争は続いたという。互いに譲らず、お互いの主張をぶつけ合い、対外的に認められるたった一つの愛しい彼の正妻という椅子を取り合う。

そのあまりの長時間の話し合いのせいで、途中でダリアが帰ってくるというハプニングもあったが、シャーロットが全力で玄関に押し止め、なんとかもう一度散歩に行ってもらうように涙目になりながら誤魔化したほどだ。

そんな決着の着きそうにない話し合いに突如終わりが訪れたのは、この場にいた一人の幼女の素朴な疑問からだった。

「ダリアお兄ちゃんならみんな一緒に愛してくれるの。別に新しく国を創るなら全員正妻って決まりを作れば良いのに・・・」

それはこの不毛とも言える話し合いに退屈した、幼い少女の本心からの呟きだった。しかし、その言葉を聞いた瞬間、この場にいた全員が雷を打たれたような衝撃が走った。

「・・・な、なんと言うことでしょう。私達は今まで自分の生まれ育ってきた環境の考え方に囚われていたのですね・・・」

「そのようですね。一から国を創るなら、王の正妻は一人だけだなんてしなければ良いだけの事・・・」

「そんな単純なことに気付かなかったなんて・・・」

「ん、まさに盲点だった・・・」

「言われてみれば・・・くっ!こんな事に時間を使わず、ダリアと一緒の時間を過ごした方が良かったではないか!」

一人の幼女のたった一言の言葉で解決してしまったことに、彼女達は愕然とした表情となってしまった。それは、こんな話し合いでギスギスしているよりも、彼と共に時間を過ごした方が楽しかったのに、という後悔の現れだった。特に最近は建国の準備のために移動も多く忙しかった中で、ようやく休息が取れた日の大半の時間を使ってしまったということで、後悔の念は一際大きなものだったのだ。

落胆する彼女達に、ようやく話し合いが終わった事を察したシャーロットは、ほっと安堵の息を吐きながら宣言するのだった。

「それでは、ここにいらっしゃる全員がダリア様の正妻になるという法律を作り上げるようにする、と言うことで決定としてよろしいでしょうか?」

「「「異議無し!!!」」」

 そうしてこの話し合いは皆穏やかな表情で幕を閉じたのだった。実はしれっと自分とアシュリーも正妻に加われるような宣言の仕方をシャーロットはしていたのだが、その彼女の真意に皆が気付くのはもう少し後の事だった。

その際、多少異議が噴出したのだが、シャーロットは「ですが、話し合いを始める時に蒸し返さないと約束しましたよね?」という言葉で、ぐうの音も出さなかったという。この後、彼女と話す際には下手に言質を取られないように気を付けるという共通認識が彼女達の間で芽生えたとか芽生えなかったとか・・・。
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