エクセプション

黒蓮

文字の大きさ
上 下
191 / 213
第九章 災厄 編

ヨルムンガンド討伐 29

しおりを挟む
「・・・どうして?」

 彼女達から深紅に輝く光を見た時、無意識に口から溢れ出た言葉だった。僕がみんなを守るんだと、誓いを胸にヨルムンガンドとの戦場に降り立った。でも、もしかしたらその想いはみんなも一緒だったのかもしれない。

ジャンヌさんは事あるごとに肩を並べて戦いたかったと言ってくれていた。メグが公国との調整や橋渡しをしてくれたおかげで、色んな事が予定通りにこなすことが出来た。フリージアは、僕の体調をよく気に掛けてくれて、〈祈願の剣〉の顕現方法の祈りとは何かを教えてくれた。シルヴィアは自分も役に立ちたいからと、料理を習ってくれてちょこちょこ差し入れをしてくれた。ティアも公国、王国の大量の書物をかき集めて一生懸命調べてくれていた。

みんなそれぞれの形で出来ることをしてくれていた。だから僕もそれに応えようとこの力を手に戦っていた。僕がみんなを守りたいと考えているように、彼女達もきっと僕を守りたいと考えてくれていた。その深紅の輝きを見て、理解できた。

(ゴメンね、みんな・・・僕の想いはまだ独り善がりだったようだね・・・)

そう心の中で呟く僕を尻目に、ヨルムンガンドはその光景を驚きながらも口角を上げて満足げだった。

「クカカカ!これは良い!まさかこやつの力を引き出す為だけの女共が、祈願の力を発現させるとは!!これなら全身全霊で力を出しても良さそうだ!」

そう言うと、奴の全身が目の眩むような黄金色に輝きだし、体型が変化しているようだった。

「こ、これは!?」

 輝きが収まると、そこには体長が3mはありそうなドラゴンを思わせる人のような存在が現れた。頭には左右に2本ずつ立派な大きさの角が生え、その口にはどんなものでも貫けそうな程の4本の鋭い牙が、全身は太陽の光を反射して黄金に輝く鱗で覆われ、さらに、丸太のような尻尾が地面を打ち付け、大気を震わせていた。

「グガガガ!!この姿になるのは数千年ぶりか。以前はどこぞの大陸の人間共を滅ぼしたときだったか?」

 その巨体から、僕を威圧的に見下ろすようにヨルムンガンドは口を開いた。奴の言葉を信じるなら、どうやら過去に世界を滅ぼしたと言うのはあながち間違いではないようだ。その姿は黄金の鱗を纏っていることから神々しくもあるが、放つ気配は禍々しい殺気と、享楽にふける狂人のそれだった。しかも、その力は先程よりも何倍も膨れ上がっているようで、何者も目の前に立つことすらも許されないような威圧感があった。

「ははっ、まだ上があるのか・・・まったく、本当に化け物だ」

思わず漏れ出た本音だった。ふと、〈祈願の剣〉を握る自分の手を見れば、奴に怯えているように小刻みに震えていた。

(ダメだ!ここで折れるわけにはいかない!!震えよ止まれ!!)

その圧倒的な力量差を本能的に感じ取ってか、僕の身体は奴と戦うことを拒絶しているようだった。

強大な敵を前にしてたじろぐ僕に、みんなの声が届く。

「「「ダリア(君)!受け取って!!」」」

その言葉に彼女達の方を見ると、深紅の輝きが僕の方へと殺到してきていた。

「なっ!?」

その光景に驚き、言葉を失ってしまうと、深紅の輝きが僕の持つ〈祈願の剣〉へと流れ込む。剣はいっそう輝きを増し、そのあまりの眩しさに目を閉じてしまった。

「な、なんだ?どうなってるんだ?」

「ぬぅ?これは一体・・・」

ヨルムンガンドもその光景に魅入っているようで、じっと僕の剣を見つめているようだった。しばらくして光が収まると、僕の手に持つ剣は、純白の刀身へと変化していた。

「これはもしかして、みんなの力が合わさっているのか・・・っ!?」

そう思った直後、手にしている剣を伝って、僕の中にみんなの想いが流れ込んできた。その想いを何と表現したら良いのだろうか。僕に対する溢れんばかりの気持ちに、心の中がとても温かくなった。

(・・・あぁ、そうか。これが人を好きになると言うことなんだ。これが・・・愛なんだ!)

 みんなからの素直な想いに触れて、僕は理解する。大切な人と一緒に居たい。一緒に笑って、泣いて、怒って、悲しむことも、その全てが大切な人と一緒にすれば、輝くような想い出になる。大切な人と触れ合ったり、他の人には渡したくないという独占欲も、大切な人に対してでなければ湧かない感情。そして、僕はもうそれを持っていたんだと気付かされた。

「メグ、フリージア、シャーロット、ティア、ジャンヌさん、ありがとう・・・大好きだよ」

見えているか、聞こえているかは分からないが、彼女達の方を見ながら僕は笑顔で語り掛けた。空間認識で慌てたような反応をしているので、もしかしたら僕の言葉だけは風魔法で届いているのかもしれない。


「馬鹿な!?今まで幾度となく祈願の力は見てきたが、他人の力が合わさるなど聞いたことがないぞ!!」

 彼女達の温かな想いのおかげで落ち着いた僕とは対照的に、ヨルムンガンドは驚愕の声を上げていた。

「しかも、何だ・・・その力は!?」

僕の持つ剣から溢れだす力の一端を感じたのか、奴はかなり警戒しているようだった。自分自身も、この剣の能力の凄さはヒシヒシと感じている。それは僕の〈祈願の剣〉の何十倍もの力がありそうな雰囲気を漂わせるものだった。

(単に6人の力を合わせたってだけじゃないだろう。もっと根本的なことで・・・もしかして!?)

 根本的な部分を考え直すようにして剣を見ていたとき、不意にある仮説が頭をよぎったが、その方がしっくりくる考え方だった。そもそもヨルムンガンドは、何万年も生きている強大な存在だ。そんな存在の持つ祈願の力が、僕と同等だというのも少し考えれば妙な話だ。そして、フリージアからも聞いた祈願という行為の本質を合わせて考えれば、おのずと答えが導かれる。

(自分の為に祈るんじゃない!大切な人の為に祈る事が本当の力となるんだ!)

だからこそ、その力を自分が使わず、大切な人に受け渡すことで、本来の力を発揮することが出来るようになるのだろう。つまり、今まで使っていた祈願の力は、その本来の力の一端に過ぎなかったのだ。しかも、同じ想いの力が5人分も上乗せされられたとしたら、途方もない力になるのは自明の理だったのかもしれない。

 そう結論付け、剣を見ていた視線をゆっくりとヨルムンガンドへと向ける。奴は忌々しげに剣を見つめているが、その表情から、奴と戦って初めて焦りのようなものが感じ取られた。

「さぁ、いくぞ!最後の一撃だ!!」

 切っ先を奴に向けてから腕を引き絞り、突き込む姿勢をとりながら奴にそう言い放った。小細工は無い、真向勝負だ。

「ふん!少しばかり身の丈を越える力を手にしたくらいで良い気になるなよ!我はヨルムンガンド!この世に破滅をもたらす存在!矮小な人ごときにどうこうできる存在だと思うな!お前らはただ我を満足させればそれで良い!!」

僕を睨み付けるヨルムンガンドの全身から、考えられない程の魔力が渦巻いているのが見えた。通常目視できないはずの魔力が、その濃密さゆえに、奴の周囲の空間が歪んでいる。

「この一撃でもって、きさまの存在を地上から消し去ってやる!!我を侮った報いを受けるが良い!!!」

「その言葉、そっくりそのまま返してやる!傍若無人に人々を苦しめ、彼女達を危険な目に合わせたお前は許さない!!」


 少しの距離を開けて、お互いに相手の隙を窺うも、そんなものは存在しない。互いの持てる力の全てを出し切り、ぶつけるだけだった。

瞬間、どちらともなく動き出す。奴は拳を引き絞り、正拳突きの構えをとりながら踏み込んでくると、魔力と何かが混ぜられたのか、濃密な漆黒のオーラとなり、拳に収束されるように纏っていた。

対して僕の剣も純白の光がほとばしり、辺りを目映く照らしている。さらに、握っている柄から流れ込むみんなの想いが僕の背中を後押ししてくれる。その温かさに、一人ではなくみんなと戦っているんだと実感させてくれた。

(一人じゃない!僕の側にみんな居る!たとえ記憶がなくなろうと、心に、魂に刻み込んで、絶対に忘れるものか!!!)


「セアァァァァァァァァ!!!!」

「グルアァァァァァァァ!!!!」


ーーーーーーーーーーーーー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学
ファンタジー
 馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。  テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。  無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。

神仏のミスで地獄に落ちた社畜。モンスターが跋扈する異世界に転生する~地獄の王の神通力を貰ったのでSS級降魔師として、可愛くて名家の許嫁ハーレ

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
暴漢を成敗したのに地獄落ち、ざけんなや悪役やんけドブカスが  暴漢と一緒にトラックに轢かれたことで血肉と魂が入り混じり、穢れを纏ってしまったた男は、超越者たる神仏の提案で魑魅魍魎が跋扈する異世界で妖怪を倒し神仏の威光を知らしめろと命令される。  保障をしろとごねたところ地獄の王の神通力を貰い異世界に転生する。  しかし、そこは人気ラノベの世界によく似ていて……非術師と女を差別する悪役通称ドブカス野郎こと『吉田勇樹』に転生していた。  名前と世界は似ていているだけど、悪いことをしなければいいだけだと思いいたり勇樹は精一杯この世界を生きていく……  しかし、勇樹の霊力は神の使いや仙人を軽く凌駕し……降魔師協会を含め霊力が低下している世界中から注目を集め、名家の令嬢、金髪巨乳の魔女など世界中から嫁候補が日本に集まってくる。  善行で死んだ男の楽しいセカンドライフはここから始まる

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

処理中です...