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第九章 災厄 編
ヨルムンガンド討伐 29
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「・・・どうして?」
彼女達から深紅に輝く光を見た時、無意識に口から溢れ出た言葉だった。僕がみんなを守るんだと、誓いを胸にヨルムンガンドとの戦場に降り立った。でも、もしかしたらその想いはみんなも一緒だったのかもしれない。
ジャンヌさんは事あるごとに肩を並べて戦いたかったと言ってくれていた。メグが公国との調整や橋渡しをしてくれたおかげで、色んな事が予定通りにこなすことが出来た。フリージアは、僕の体調をよく気に掛けてくれて、〈祈願の剣〉の顕現方法の祈りとは何かを教えてくれた。シルヴィアは自分も役に立ちたいからと、料理を習ってくれてちょこちょこ差し入れをしてくれた。ティアも公国、王国の大量の書物をかき集めて一生懸命調べてくれていた。
みんなそれぞれの形で出来ることをしてくれていた。だから僕もそれに応えようとこの力を手に戦っていた。僕がみんなを守りたいと考えているように、彼女達もきっと僕を守りたいと考えてくれていた。その深紅の輝きを見て、理解できた。
(ゴメンね、みんな・・・僕の想いはまだ独り善がりだったようだね・・・)
そう心の中で呟く僕を尻目に、ヨルムンガンドはその光景を驚きながらも口角を上げて満足げだった。
「クカカカ!これは良い!まさかこやつの力を引き出す為だけの女共が、祈願の力を発現させるとは!!これなら全身全霊で力を出しても良さそうだ!」
そう言うと、奴の全身が目の眩むような黄金色に輝きだし、体型が変化しているようだった。
「こ、これは!?」
輝きが収まると、そこには体長が3mはありそうなドラゴンを思わせる人のような存在が現れた。頭には左右に2本ずつ立派な大きさの角が生え、その口にはどんなものでも貫けそうな程の4本の鋭い牙が、全身は太陽の光を反射して黄金に輝く鱗で覆われ、さらに、丸太のような尻尾が地面を打ち付け、大気を震わせていた。
「グガガガ!!この姿になるのは数千年ぶりか。以前はどこぞの大陸の人間共を滅ぼしたときだったか?」
その巨体から、僕を威圧的に見下ろすようにヨルムンガンドは口を開いた。奴の言葉を信じるなら、どうやら過去に世界を滅ぼしたと言うのはあながち間違いではないようだ。その姿は黄金の鱗を纏っていることから神々しくもあるが、放つ気配は禍々しい殺気と、享楽に耽る狂人のそれだった。しかも、その力は先程よりも何倍も膨れ上がっているようで、何者も目の前に立つことすらも許されないような威圧感があった。
「ははっ、まだ上があるのか・・・まったく、本当に化け物だ」
思わず漏れ出た本音だった。ふと、〈祈願の剣〉を握る自分の手を見れば、奴に怯えているように小刻みに震えていた。
(ダメだ!ここで折れるわけにはいかない!!震えよ止まれ!!)
その圧倒的な力量差を本能的に感じ取ってか、僕の身体は奴と戦うことを拒絶しているようだった。
強大な敵を前にしてたじろぐ僕に、みんなの声が届く。
「「「ダリア(君)!受け取って!!」」」
その言葉に彼女達の方を見ると、深紅の輝きが僕の方へと殺到してきていた。
「なっ!?」
その光景に驚き、言葉を失ってしまうと、深紅の輝きが僕の持つ〈祈願の剣〉へと流れ込む。剣はいっそう輝きを増し、そのあまりの眩しさに目を閉じてしまった。
「な、なんだ?どうなってるんだ?」
「ぬぅ?これは一体・・・」
ヨルムンガンドもその光景に魅入っているようで、じっと僕の剣を見つめているようだった。しばらくして光が収まると、僕の手に持つ剣は、純白の刀身へと変化していた。
「これはもしかして、みんなの力が合わさっているのか・・・っ!?」
そう思った直後、手にしている剣を伝って、僕の中にみんなの想いが流れ込んできた。その想いを何と表現したら良いのだろうか。僕に対する溢れんばかりの気持ちに、心の中がとても温かくなった。
(・・・あぁ、そうか。これが人を好きになると言うことなんだ。これが・・・愛なんだ!)
みんなからの素直な想いに触れて、僕は理解する。大切な人と一緒に居たい。一緒に笑って、泣いて、怒って、悲しむことも、その全てが大切な人と一緒にすれば、輝くような想い出になる。大切な人と触れ合ったり、他の人には渡したくないという独占欲も、大切な人に対してでなければ湧かない感情。そして、僕はもうそれを持っていたんだと気付かされた。
「メグ、フリージア、シャーロット、ティア、ジャンヌさん、ありがとう・・・大好きだよ」
見えているか、聞こえているかは分からないが、彼女達の方を見ながら僕は笑顔で語り掛けた。空間認識で慌てたような反応をしているので、もしかしたら僕の言葉だけは風魔法で届いているのかもしれない。
「馬鹿な!?今まで幾度となく祈願の力は見てきたが、他人の力が合わさるなど聞いたことがないぞ!!」
彼女達の温かな想いのおかげで落ち着いた僕とは対照的に、ヨルムンガンドは驚愕の声を上げていた。
「しかも、何だ・・・その力は!?」
僕の持つ剣から溢れだす力の一端を感じたのか、奴はかなり警戒しているようだった。自分自身も、この剣の能力の凄さはヒシヒシと感じている。それは僕の〈祈願の剣〉の何十倍もの力がありそうな雰囲気を漂わせるものだった。
(単に6人の力を合わせたってだけじゃないだろう。もっと根本的なことで・・・もしかして!?)
根本的な部分を考え直すようにして剣を見ていたとき、不意にある仮説が頭をよぎったが、その方がしっくりくる考え方だった。そもそもヨルムンガンドは、何万年も生きている強大な存在だ。そんな存在の持つ祈願の力が、僕と同等だというのも少し考えれば妙な話だ。そして、フリージアからも聞いた祈願という行為の本質を合わせて考えれば、おのずと答えが導かれる。
(自分の為に祈るんじゃない!大切な人の為に祈る事が本当の力となるんだ!)
だからこそ、その力を自分が使わず、大切な人に受け渡すことで、本来の力を発揮することが出来るようになるのだろう。つまり、今まで使っていた祈願の力は、その本来の力の一端に過ぎなかったのだ。しかも、同じ想いの力が5人分も上乗せされられたとしたら、途方もない力になるのは自明の理だったのかもしれない。
そう結論付け、剣を見ていた視線をゆっくりとヨルムンガンドへと向ける。奴は忌々しげに剣を見つめているが、その表情から、奴と戦って初めて焦りのようなものが感じ取られた。
「さぁ、いくぞ!最後の一撃だ!!」
切っ先を奴に向けてから腕を引き絞り、突き込む姿勢をとりながら奴にそう言い放った。小細工は無い、真向勝負だ。
「ふん!少しばかり身の丈を越える力を手にしたくらいで良い気になるなよ!我はヨルムンガンド!この世に破滅をもたらす存在!矮小な人ごときにどうこうできる存在だと思うな!お前らはただ我を満足させればそれで良い!!」
僕を睨み付けるヨルムンガンドの全身から、考えられない程の魔力が渦巻いているのが見えた。通常目視できないはずの魔力が、その濃密さゆえに、奴の周囲の空間が歪んでいる。
「この一撃でもって、きさまの存在を地上から消し去ってやる!!我を侮った報いを受けるが良い!!!」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる!傍若無人に人々を苦しめ、彼女達を危険な目に合わせたお前は許さない!!」
少しの距離を開けて、お互いに相手の隙を窺うも、そんなものは存在しない。互いの持てる力の全てを出し切り、ぶつけるだけだった。
瞬間、どちらともなく動き出す。奴は拳を引き絞り、正拳突きの構えをとりながら踏み込んでくると、魔力と何かが混ぜられたのか、濃密な漆黒のオーラとなり、拳に収束されるように纏っていた。
対して僕の剣も純白の光が迸り、辺りを目映く照らしている。さらに、握っている柄から流れ込むみんなの想いが僕の背中を後押ししてくれる。その温かさに、一人ではなくみんなと戦っているんだと実感させてくれた。
(一人じゃない!僕の側にみんな居る!たとえ記憶がなくなろうと、心に、魂に刻み込んで、絶対に忘れるものか!!!)
「セアァァァァァァァァ!!!!」
「グルアァァァァァァァ!!!!」
ーーーーーーーーーーーーー
彼女達から深紅に輝く光を見た時、無意識に口から溢れ出た言葉だった。僕がみんなを守るんだと、誓いを胸にヨルムンガンドとの戦場に降り立った。でも、もしかしたらその想いはみんなも一緒だったのかもしれない。
ジャンヌさんは事あるごとに肩を並べて戦いたかったと言ってくれていた。メグが公国との調整や橋渡しをしてくれたおかげで、色んな事が予定通りにこなすことが出来た。フリージアは、僕の体調をよく気に掛けてくれて、〈祈願の剣〉の顕現方法の祈りとは何かを教えてくれた。シルヴィアは自分も役に立ちたいからと、料理を習ってくれてちょこちょこ差し入れをしてくれた。ティアも公国、王国の大量の書物をかき集めて一生懸命調べてくれていた。
みんなそれぞれの形で出来ることをしてくれていた。だから僕もそれに応えようとこの力を手に戦っていた。僕がみんなを守りたいと考えているように、彼女達もきっと僕を守りたいと考えてくれていた。その深紅の輝きを見て、理解できた。
(ゴメンね、みんな・・・僕の想いはまだ独り善がりだったようだね・・・)
そう心の中で呟く僕を尻目に、ヨルムンガンドはその光景を驚きながらも口角を上げて満足げだった。
「クカカカ!これは良い!まさかこやつの力を引き出す為だけの女共が、祈願の力を発現させるとは!!これなら全身全霊で力を出しても良さそうだ!」
そう言うと、奴の全身が目の眩むような黄金色に輝きだし、体型が変化しているようだった。
「こ、これは!?」
輝きが収まると、そこには体長が3mはありそうなドラゴンを思わせる人のような存在が現れた。頭には左右に2本ずつ立派な大きさの角が生え、その口にはどんなものでも貫けそうな程の4本の鋭い牙が、全身は太陽の光を反射して黄金に輝く鱗で覆われ、さらに、丸太のような尻尾が地面を打ち付け、大気を震わせていた。
「グガガガ!!この姿になるのは数千年ぶりか。以前はどこぞの大陸の人間共を滅ぼしたときだったか?」
その巨体から、僕を威圧的に見下ろすようにヨルムンガンドは口を開いた。奴の言葉を信じるなら、どうやら過去に世界を滅ぼしたと言うのはあながち間違いではないようだ。その姿は黄金の鱗を纏っていることから神々しくもあるが、放つ気配は禍々しい殺気と、享楽に耽る狂人のそれだった。しかも、その力は先程よりも何倍も膨れ上がっているようで、何者も目の前に立つことすらも許されないような威圧感があった。
「ははっ、まだ上があるのか・・・まったく、本当に化け物だ」
思わず漏れ出た本音だった。ふと、〈祈願の剣〉を握る自分の手を見れば、奴に怯えているように小刻みに震えていた。
(ダメだ!ここで折れるわけにはいかない!!震えよ止まれ!!)
その圧倒的な力量差を本能的に感じ取ってか、僕の身体は奴と戦うことを拒絶しているようだった。
強大な敵を前にしてたじろぐ僕に、みんなの声が届く。
「「「ダリア(君)!受け取って!!」」」
その言葉に彼女達の方を見ると、深紅の輝きが僕の方へと殺到してきていた。
「なっ!?」
その光景に驚き、言葉を失ってしまうと、深紅の輝きが僕の持つ〈祈願の剣〉へと流れ込む。剣はいっそう輝きを増し、そのあまりの眩しさに目を閉じてしまった。
「な、なんだ?どうなってるんだ?」
「ぬぅ?これは一体・・・」
ヨルムンガンドもその光景に魅入っているようで、じっと僕の剣を見つめているようだった。しばらくして光が収まると、僕の手に持つ剣は、純白の刀身へと変化していた。
「これはもしかして、みんなの力が合わさっているのか・・・っ!?」
そう思った直後、手にしている剣を伝って、僕の中にみんなの想いが流れ込んできた。その想いを何と表現したら良いのだろうか。僕に対する溢れんばかりの気持ちに、心の中がとても温かくなった。
(・・・あぁ、そうか。これが人を好きになると言うことなんだ。これが・・・愛なんだ!)
みんなからの素直な想いに触れて、僕は理解する。大切な人と一緒に居たい。一緒に笑って、泣いて、怒って、悲しむことも、その全てが大切な人と一緒にすれば、輝くような想い出になる。大切な人と触れ合ったり、他の人には渡したくないという独占欲も、大切な人に対してでなければ湧かない感情。そして、僕はもうそれを持っていたんだと気付かされた。
「メグ、フリージア、シャーロット、ティア、ジャンヌさん、ありがとう・・・大好きだよ」
見えているか、聞こえているかは分からないが、彼女達の方を見ながら僕は笑顔で語り掛けた。空間認識で慌てたような反応をしているので、もしかしたら僕の言葉だけは風魔法で届いているのかもしれない。
「馬鹿な!?今まで幾度となく祈願の力は見てきたが、他人の力が合わさるなど聞いたことがないぞ!!」
彼女達の温かな想いのおかげで落ち着いた僕とは対照的に、ヨルムンガンドは驚愕の声を上げていた。
「しかも、何だ・・・その力は!?」
僕の持つ剣から溢れだす力の一端を感じたのか、奴はかなり警戒しているようだった。自分自身も、この剣の能力の凄さはヒシヒシと感じている。それは僕の〈祈願の剣〉の何十倍もの力がありそうな雰囲気を漂わせるものだった。
(単に6人の力を合わせたってだけじゃないだろう。もっと根本的なことで・・・もしかして!?)
根本的な部分を考え直すようにして剣を見ていたとき、不意にある仮説が頭をよぎったが、その方がしっくりくる考え方だった。そもそもヨルムンガンドは、何万年も生きている強大な存在だ。そんな存在の持つ祈願の力が、僕と同等だというのも少し考えれば妙な話だ。そして、フリージアからも聞いた祈願という行為の本質を合わせて考えれば、おのずと答えが導かれる。
(自分の為に祈るんじゃない!大切な人の為に祈る事が本当の力となるんだ!)
だからこそ、その力を自分が使わず、大切な人に受け渡すことで、本来の力を発揮することが出来るようになるのだろう。つまり、今まで使っていた祈願の力は、その本来の力の一端に過ぎなかったのだ。しかも、同じ想いの力が5人分も上乗せされられたとしたら、途方もない力になるのは自明の理だったのかもしれない。
そう結論付け、剣を見ていた視線をゆっくりとヨルムンガンドへと向ける。奴は忌々しげに剣を見つめているが、その表情から、奴と戦って初めて焦りのようなものが感じ取られた。
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僕を睨み付けるヨルムンガンドの全身から、考えられない程の魔力が渦巻いているのが見えた。通常目視できないはずの魔力が、その濃密さゆえに、奴の周囲の空間が歪んでいる。
「この一撃でもって、きさまの存在を地上から消し去ってやる!!我を侮った報いを受けるが良い!!!」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる!傍若無人に人々を苦しめ、彼女達を危険な目に合わせたお前は許さない!!」
少しの距離を開けて、お互いに相手の隙を窺うも、そんなものは存在しない。互いの持てる力の全てを出し切り、ぶつけるだけだった。
瞬間、どちらともなく動き出す。奴は拳を引き絞り、正拳突きの構えをとりながら踏み込んでくると、魔力と何かが混ぜられたのか、濃密な漆黒のオーラとなり、拳に収束されるように纏っていた。
対して僕の剣も純白の光が迸り、辺りを目映く照らしている。さらに、握っている柄から流れ込むみんなの想いが僕の背中を後押ししてくれる。その温かさに、一人ではなくみんなと戦っているんだと実感させてくれた。
(一人じゃない!僕の側にみんな居る!たとえ記憶がなくなろうと、心に、魂に刻み込んで、絶対に忘れるものか!!!)
「セアァァァァァァァァ!!!!」
「グルアァァァァァァァ!!!!」
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