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黒蓮

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第九章 災厄 編

ヨルムンガンド討伐 26

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 ヨルムンガンドの突き出された正拳を、双剣で受け止める。前回同様『キィィン!』という拳とは思えぬ硬質な音を響かせた。

「ほぅ、我の一撃に耐えるとは、剣の性能・・・ではないな、才能・・・【時空間】の才能による空間制御か?」

「ご名答!!」

そう言うや僕はヨルムンガンドの拳を渾身の力で弾き返す。少し間合いを取ると、奴は自分の拳を見つめながら面白がるように笑っていた。

「なるほど、お前はこちらの方の力を伸ばしてきたということか。その力、我に届くと良いがな」

他人事のような物言いだが、絶対的な強者としての自信がそう言わせているのだろう。僕の使用している力は、【時空間】の才能の空間を特に意識したものだ。空間を認識し、掌握まで出来た僕は、更にその上がないかと鍛練を行った。当然、成長速度を限界まで上げて試行錯誤していた。

この力や他の力を模索するのに、徹夜までしてようやく辿り着いた境地の一つ。空間支配の力だ。〈不可侵空間〉と名付けたその能力は、その名の通り、いかなるものも通さない。〈紅炎爆発プロミネンス・フレア〉でさえも抑えることが可能な力で、指向性を持たせて攻撃手段として利用できるように改良したのだ。あとは、この力がどの程度ヨルムンガンドに対抗しうるか実戦で確かめていくだけだ。

「届くさ!だから僕はここにいるっ!」

 地面が抉れる程に踏み込み、奴に肉薄すると視界からその姿が消える。〈空間転移テレポート〉だろうが、そうすることは。振り向きざま、何もない空間へ双剣を突き込むと、微妙な空間の歪みと共にヨルムンガンドが姿を現す。

「ほう、やはり

転移で出現した直後の防御する暇もない完璧なタイミングかと思ったが、そう上手くはいかなかった。奴は突き込んだ剣を握って刃先を止めてた。奴の動きが分かったのは、当然空間掌握で得た未来を見る能力。たった1秒先が分かるだけではあるが、強者との戦闘では、その1秒の価値は計り知れない。

「それだけじゃないさ!ちゃんと討伐してやるから、安心してやられろ!」

「クハハハ!やってみろ!」

 再度の激突。僕の双剣と奴の蹴りの攻めぎ合いから、双剣の攻撃スタイルである手数の多さを利用した〈剣舞〉へと繋げる。剣一本との違いはその攻撃数、その差2・5倍の剣戟を雨霰あめあられと奴に叩き込む。速度は限界まで上げているが、奴も同じ時間軸で動いているため、まるで普通の速度で戦っているような錯覚に陥ってしまう。しかし、僕らの攻防による影響か、周辺のドラゴンの死骸がその風圧で吹き飛んでいることを認識すると、超高速での戦闘をしているのだと実感する。

 前回の防戦一方の状況から考えればまだ戦えているが、奴は僕の攻撃をいなす事もせず、正面から拳や腕、足で受け止めている。よく見れば奴には傷一つ付いていないが、対する僕の方は、反撃された場合は回避と受け流しをしなければ勢いを止める事が出来ない状況なので、このままでは不味いと判断し、攻撃手段を変える。

「セアァァァァ!!!」

裂帛れっぱくの気合いで、先程多数のドラゴンを屠ったように空中に足場を作り出して、縦横無尽に動き回りあらゆる方向から取り囲むように攻撃すると同時に、移動速度も力に上乗せする攻撃に切り替える。

「クハハハ!素晴らしい!一筋の閃光が我を中心に駆け巡っているようだな!だが・・・」

『ガキン!!』

「ぐっ!」

双剣を奴の両手で捕まれてしまったことで、僕の動きは止められてしまった。刃を力任せに止めたというのに、この速度を上乗せした攻撃でも傷も付いていない。

「これはどうする?」

動きを止められた僕を取り囲むように多数の魔力を感じる。それはすぐに形となって、僕に全方向から襲いかかってきた。合体魔法の〈蒸発エヴァポリーション〉だ。15本にもなる圧倒的な破壊力を持つレーザーの様な魔法が殺到する寸前、僕を包むように〈不可侵空間〉を展開する。

『バシュ!バシュ!・・・』

ヨルムンガンドの魔法になんとか耐えることが出来たようで胸を撫で下ろすが、間髪入れずに奴は握っていた双剣ごと僕をぶん投げてきた。凄まじい力で投げられたが、なんとか空中で体勢を立て直す。しかし、着地しても勢い止まらずゴリゴリと地面を抉るようにして後退させられてしまった。ばっと顔を上げると、奴はドラゴンの姿に戻っており、既にその大きな口からブレスが放たれようとしていた。

(くっ、ブレスに対抗できるか?)

奴のブレスにも対抗できるか一抹の不安はあったので、一瞬、〈空間転移テレポート〉で避けようと考えた直後、自分の立ち位置に気付く。

(しまった!ここで僕が避けたら後ろにはみんなが居る!!)

狙ったのだろう、みんなが居る檻と僕、ヨルムンガンドは一直線に並んでおり、僕が避けた場合はみんなに直撃してしまう位置だった。一応みんなの檻にも〈不可侵空間〉を掛けているが、確実に防げる確信がないため僕がここでブレスを迎撃しなければならなかった。

「くっ!〈不可侵空間〉!」

三重に展開してブレスの迎撃に備える。この力は空間魔法よりも段違いに強固な力を発揮するが、無尽蔵に展開できるわけではない。一度に5つの展開が僕の限界だった。そのため、檻の一つを残し、双剣に展開していた2つを解除して、予備に一つ残しブレスに備えた。直後ーーー

『キィィィィン!!』

 漆黒のブレスに拮抗するように〈不可侵空間〉と接触した面から甲高い接触音が鳴り響く。しかし、拮抗していたのは数秒で、『ピシッ』という不吉な音の直後に1枚目が砕け散る。

(くっ!やっぱりとんでもない威力だ・・・)

僕の持つ最大の攻撃力をもってしても破壊できなかった防御を、あっさりと突破されてしまった。とはいえ、想定していなかったというわけでもないので、僕に焦りはない。

そしてブレスは2つ目、3つ目と破壊し、僕の眼前に迫ってきていたが、その威力は〈不可侵空間〉のお陰で半減しているようだった。

僕はお返しとばかりに、指向性の〈紅炎爆発プロミネンス・フレア〉をブレスに向かって放つと、数瞬の拮抗の後、ブレスを突き抜け、ヨルムンガンドへ殺到した。

紅炎と爆風が辺りを包み、ブレスはその影響で拡散してしまっていた。後ろのみんなにも特に被害はなく無事のようだった。視線を奴の方へ向けると、黒煙が姿を覆い隠していたが、直後に黄金の翼が吹き散らした。

「GUYAAAAAAーーー!!!」 

咆哮を上げる奴の頭は少し焦げているようで、良く見れば、牙が一つ欠けている。僅かながらダメージが通ったことを窺わせた。しかしーーー

「なっ!!?」

ヨルムンガンドが一瞬、黄金に輝いた次の瞬間には、焦げ跡一つ無く、牙も元通りの無傷の姿を現したのだ。

(回復の光魔法か・・・使えて当然だよな。となると、討伐するには一撃で絶命させるか、回復する暇もないほどの連続攻撃で削りきるか、か・・・)

普段自分も【時空間】の才能で回復しているが、これほど強大な存在がどんな傷でもあっさり回復されてしまうというのは釈然としないものがあった。しかも、7つの魔力を融合させて放つ大規模魔法も、ブレスにいくらか威力を削がれたとはいっても、大したダメージになっていない状況にため息が出る。

(まだだ!ギリギリまであの力は温存して、持ちうる全ての能力と技術でもってやってやる!!)

 再び人の姿となったヨルムンガンドは、口角を上げながら僕を見つめていた。

「我のブレスをよくぞ防げたな!やはり守りたいと思う者が居るというのは人を成長させるものだな!では、次はどうかな?」

そう言うと奴は自らの指を傷付け、血を垂らす。

「我が力よ、顕現せよ!!」

奴の足元から紫の光と共に魔方陣が展開され、そこから漆黒の剣が姿を現した。不定形に蠢くその刀身は、さながら先程のブレスを思い起こさせるものだった。パッと見の禍々しさもさることながら、ヒリつく様な威圧感をその剣から感じる。

(あれがヨルムンガンドの祈願の剣だとすると、相当な力を持っているだろうな・・・)

一層厳しくなりそうな戦いに気を引き締めながら集中を更に高めていく。眼前のヨルムンガンドに集中しつつも、みんなにも何もないように常に意識に入れておく。

「クカカカ!これは人間が編み出した力だが、便利に使わせて貰っているぞ!何せ対価などいくら支払ったところで、我にはほとんど影響のないものだからな!」

「なにっ!?影響がない?」

思った通り奴は『祈願の剣』を使っていたようだが、払っても影響のない対価に疑問が浮かんだ。

「対価は我の生命力!言ってみれば命そのものだが、寿命のない我にとってみればこれほど便利な力はない!」

奴の言葉に苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。本当に奴に寿命がないのなら、祈願の力がいくらでも使い放題ということだ。僕も才能を使えば永遠に近い年月を生きることが出来るかもしれないが、元々の寿命はせいぜい70年から80年だ。もし、対価として寿命をどんどん減らしていってしまえば、【時空間】の才能を持ってしても戦いの最中に死んでしまう。それは、自分の身体を過去に戻してもメグとの想い出が戻らなかったことからも確かだろう。

「・・・まったく、デタラメにも程があるだろ」

「クハハハ!集中せんと一瞬で死ぬぞ?我のこの剣は消滅の力が顕現したものだ!触れるものみな消え去る!」

すると、ヨルムンガンドが漆黒の剣を剣術の〈抜刀〉のように構え、次の瞬間、姿を見失うほどの早さで僕に斬り込んできた。

「くっ!!」
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