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第九章 災厄 編
ヨルムンガンド討伐 22
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ドラゴン襲撃開始前日ーーー
今日は、昼食後にはジャンヌさんを帝国まで送って行かなければならない。彼女は短い時間だったが、思ったよりもみんなと打ち解けていた気がする。特に年上ということと、【剣聖】で【天才】という才能持ちということもあって、その方面ではみんなから頼りにされていたようだった。
僕は午前中には〈空間転移〉で魔の森へと移動し、昨日作り出すことが出来た7色の光り輝く球体の性能を色々と試しながら考えていた。そこから考えられたことは、あれは魔法というよりは、純粋なエネルギーの塊なのではないかということだ。
7つの魔力が融合して、自然界の爆発的なエネルギーに変換されたようなものだと考えるが、問題はその高すぎる威力だ。昨日のあれもかなり威力を制限して作り出したものだというのに、あの破壊力だったのだ。最大限に魔力を込めようものなら、この大陸ごと吹き飛んでしまう可能性すらある。
そんな危ない力をおいそれと使用することは難しい。かといって、それ以外にヨルムンガンドに対抗できるような力は今のところ『祈願の剣』ということになってしまう。
(・・・まいったなぁ)
いつもであれば、新たな力の習得に喜ぶところなのだが、今ばかりはそうではなかった。
(ヨルムンガンドとの直接対決には使えるかもしれないが、街を包囲しているドラゴン達にはどうしても『祈願の剣』が必要になってしまう・・・)
空間認識を用いて空間魔法で遠方から攻撃出来ないこともないが、この大陸を範囲に収めてとなると話は簡単ではない。範囲が広ければ広いほど精密さは失われてしまう。最悪誤って街の住民を傷付けてしまう可能性すらある。
では精密攻撃可能な距離まで近づいて、各個撃破すればいいのだが、僕の速度をもってしても、大陸中の街を包囲しているドラゴンが一斉に襲うとすれば、間に合わない街も出てきてしまう。
更に問題なのは、ヨルムンガンドは〈空間転移〉出来るので、あの球体を放っても避けられたらそれで終わりだ。確実に当てるためには、十分にダメージを与えて避けられない状況で放つ必要がある。
(というか、呼び方も球体だとしっくりこないし、名前でも付けるか・・・七色の光の直後に、太陽の様な濃い赤色の光が迸っていたな・・・元は魔法から生まれた力・・・〈紅炎爆発〉と呼ぼう)
さて、あとはどうやってヨルムンガンドの強固な防御と回避を越えてダメージを与えるか、それが一番の問題だ。それでも、軽々しくあの力を使うわけにはいかないので、出来る限りの準備をしておくしかない。それと同時に、万が一を考えれば、心の準備も必要だ。
(目的は死なないことだ!生きていればきっと大丈夫!!)
今の僕は死んでも良いとは考えていない。この戦いに生きて帰り、またみんなと笑顔で話したり、みんなに触れたいのだ。燻る不安を払拭するようにそう自分に言い聞かせ、昼食を摂るために公国へと移動した。
「なるほど、各国とも既に避難体制は整えていると・・・」
食堂へ行くと、食事がくる前に各国の状況をジャンヌさんとメグから教えてもらった。先に各国に対して通信魔道具を渡したのが功を奏しているようで、ここにいながら3ヶ国の現状を逐一確認することが出来ている。
「混乱はあるが、ドラゴンに包囲されている都市からは既に避難が完了しつつある。今日中にも全住民の避難は完了する見込みだ」
「襲撃予定日が判明しているので、それまでに避難を呼び掛けたため、暴動も起きずに皆さん周辺都市へ移動されています」
「それは良かったです・・・」
2人の報告に安堵するが、少し引っ掛かる事があるのも事実だった。
「どうしました?ダリア君?」
目敏くそんな不安を感じている僕にフリージアが声を掛けてきた。
「い、いや、大したこと無いんだけど・・・」
「・・・とてもそうは思えませんが?」
僕の歯切れの悪い返答に、余計不信感を与えてしまったようだ。
「気になることがあるなら言ってくれ!それも加味して検討する必要がある!」
「その通りです!今は少しでも不確定要素があれば、事前に混乱しないよう準備しておく必要があります」
「何もなければそれで良いが、そうでなかった場合は大混乱になるかもしれません。特に今はその危険性が高いのです。些細なことでも指摘してください!」
ジャンヌさん、シャーロット、メグが不安要素があるなら教えて欲しいと厳しい眼差しで僕を問い詰めてくる。それは、もしその不安要素が現実のものとなっても、素早く行動できるように準備しなければならないという責任感の強さからの言葉だったのかもしれない。彼女達の勢いに折れて、僕は今の現状の不安要素を口にした。
「・・・ヨルムンガンドは僕を追い詰めたいような口ぶりだった。それに、守る者が居れば更に成長するだろうとも・・・」
「・・・ん、つまり、住民の避難を易々とさせるはず無いということ?」
「ドラゴンに包囲された住民達を人質としているなら、確かに不自然ですね・・・」
僕の言葉に、ティアが僕の感じている疑問を言葉にする。フリージアもその疑問に頷いた。
「・・・まさかっ!!」
そうジャンヌさんが呟いたその時だった、『ズドンッ!!』という轟音が辺りを包むと共に、部屋が大きく揺れた。
「「「きゃっ!!!」」」
「な、何だ!?どうしたんだ!?」
混乱するみんなの叫び声を聞きながらも、空間認識で確認しようとするが、何が起こっているのかは確認できなかった。
「くそっ!一体何が・・・」
揺れは一度だけで、既に辺りは何事もなかったかのようになっているが、部屋の外がいやに騒がしい。すると突然、荒々しく部屋の扉が開け放たれ、顔中から冷や汗をダラダラと滝のように流すエルフの騎士が駆け込んできた。
「た、た、たた、大変です!!ド、ドドド・・・ドラゴンが中庭に!!!」
それだけ言うと、騎士はそのまま気を失ってしまった。その様子に驚きながらも、フリージアが駆け寄って介抱する。彼はきっと伝えなければならないという使命感でもって、この部屋まで意識を保っていたのかもしれない。まさに国に仕える騎士の鏡のようだ。しかし、訓練を受けている騎士を、その存在感だけで気を失わせ、あまつさえ僕の空間認識を無効化してしまうようなドラゴンなど思い当たるのはあの存在しかいなかった。
「まだ1日早いはずなのに・・・」
「ダリア、やはりヨルムンガンドか?」
「間違いないだろうね。目的は不明だけど・・・みんなはここにいて!相手の威圧に飲まれてしまうと、精神が持たないと思うから。出来るだけ心を強くもって、耳を塞いでいて欲しい」
ジャンヌさんの指摘に首肯し、王国での一件から、ヨルムンガンドの圧倒的な存在感や、威圧を含んだ咆哮を聞いてしまうと精神が持たず、廃人のようになってしまっていたので、みんなにはここで耳を塞いで待っていてもらいたかった。それで何とかなるとは思ってはいないが、何もしないよりは良いだろうという気休め程度だが。
「お母様から王国での事は聞き及んでいます。足手まといにならないよう地下に避難します。外が騒がしいのはおそらくお母様が既にそのような避難指示を出したからでしょう。皆さん、付いてきてください!」
メグが素早く状況を分析して行動に移すため、みんなに声を掛ける。
「では、この騎士の方も一緒に!皆さん手伝ってくれますか?」
「ん、任せて!」
「は、はい!」
フリージアの言葉に、ティアとシルヴィアが協力して騎士の体を持ち上げた。
「すみません、私は妹を連れてきます!直ぐに皆さんに合流しますので!」
そう言うとシャーロットは慌てて部屋を飛び出した。アシュリーちゃんもこの状況に不安を感じているはずなので、彼女の慌てようはもっともだった。
「ダリア、私なら奴の威圧にも幾分耐えられる。一緒に行かせてくれないか?」
そんな中、ジャンヌさんは僕と同行したいと言い出してきた。
「で、でもジャンヌさん、前回は・・・」
確かに王国でヨルムンガンドの咆哮をその耳にして正気を保てていたのは、【剣聖】であるジャンヌさんとアレックスさんだけだった。ただ、その時の様子は喋れるというのが精一杯で、とても動けるようには見えなかった。そんな僕の心配を感じているのだろう、ジャンヌさんは真剣な眼差しで僕に訴えかけてくる。
「以前は見苦しい姿を見せたが、頼む!少しでも君の力になりたいんだ!!」
その言葉からは確固たる決意のようなものが感じられ、拒否するのは彼女の決意を否定してしまうように感じられた。何より、ここで僕が同行を拒否しようとも、無理矢理付いてきそうな迫力でもあった。
「・・・分かりました。ヨルムンガンドもわざわざ僕を成長させるという回りくどい手段をとっている以上、いきなり攻撃を仕掛けることは無いと思うけど、少しでも危険を察知したら、僕の空間魔法でジャンヌさんだけでも避難させるからね!?」
「それで構わない!」
揺るがぬ決意をその瞳に宿す彼女に折れ、共に〈空間転移〉で直接中庭へと移動した。
今日は、昼食後にはジャンヌさんを帝国まで送って行かなければならない。彼女は短い時間だったが、思ったよりもみんなと打ち解けていた気がする。特に年上ということと、【剣聖】で【天才】という才能持ちということもあって、その方面ではみんなから頼りにされていたようだった。
僕は午前中には〈空間転移〉で魔の森へと移動し、昨日作り出すことが出来た7色の光り輝く球体の性能を色々と試しながら考えていた。そこから考えられたことは、あれは魔法というよりは、純粋なエネルギーの塊なのではないかということだ。
7つの魔力が融合して、自然界の爆発的なエネルギーに変換されたようなものだと考えるが、問題はその高すぎる威力だ。昨日のあれもかなり威力を制限して作り出したものだというのに、あの破壊力だったのだ。最大限に魔力を込めようものなら、この大陸ごと吹き飛んでしまう可能性すらある。
そんな危ない力をおいそれと使用することは難しい。かといって、それ以外にヨルムンガンドに対抗できるような力は今のところ『祈願の剣』ということになってしまう。
(・・・まいったなぁ)
いつもであれば、新たな力の習得に喜ぶところなのだが、今ばかりはそうではなかった。
(ヨルムンガンドとの直接対決には使えるかもしれないが、街を包囲しているドラゴン達にはどうしても『祈願の剣』が必要になってしまう・・・)
空間認識を用いて空間魔法で遠方から攻撃出来ないこともないが、この大陸を範囲に収めてとなると話は簡単ではない。範囲が広ければ広いほど精密さは失われてしまう。最悪誤って街の住民を傷付けてしまう可能性すらある。
では精密攻撃可能な距離まで近づいて、各個撃破すればいいのだが、僕の速度をもってしても、大陸中の街を包囲しているドラゴンが一斉に襲うとすれば、間に合わない街も出てきてしまう。
更に問題なのは、ヨルムンガンドは〈空間転移〉出来るので、あの球体を放っても避けられたらそれで終わりだ。確実に当てるためには、十分にダメージを与えて避けられない状況で放つ必要がある。
(というか、呼び方も球体だとしっくりこないし、名前でも付けるか・・・七色の光の直後に、太陽の様な濃い赤色の光が迸っていたな・・・元は魔法から生まれた力・・・〈紅炎爆発〉と呼ぼう)
さて、あとはどうやってヨルムンガンドの強固な防御と回避を越えてダメージを与えるか、それが一番の問題だ。それでも、軽々しくあの力を使うわけにはいかないので、出来る限りの準備をしておくしかない。それと同時に、万が一を考えれば、心の準備も必要だ。
(目的は死なないことだ!生きていればきっと大丈夫!!)
今の僕は死んでも良いとは考えていない。この戦いに生きて帰り、またみんなと笑顔で話したり、みんなに触れたいのだ。燻る不安を払拭するようにそう自分に言い聞かせ、昼食を摂るために公国へと移動した。
「なるほど、各国とも既に避難体制は整えていると・・・」
食堂へ行くと、食事がくる前に各国の状況をジャンヌさんとメグから教えてもらった。先に各国に対して通信魔道具を渡したのが功を奏しているようで、ここにいながら3ヶ国の現状を逐一確認することが出来ている。
「混乱はあるが、ドラゴンに包囲されている都市からは既に避難が完了しつつある。今日中にも全住民の避難は完了する見込みだ」
「襲撃予定日が判明しているので、それまでに避難を呼び掛けたため、暴動も起きずに皆さん周辺都市へ移動されています」
「それは良かったです・・・」
2人の報告に安堵するが、少し引っ掛かる事があるのも事実だった。
「どうしました?ダリア君?」
目敏くそんな不安を感じている僕にフリージアが声を掛けてきた。
「い、いや、大したこと無いんだけど・・・」
「・・・とてもそうは思えませんが?」
僕の歯切れの悪い返答に、余計不信感を与えてしまったようだ。
「気になることがあるなら言ってくれ!それも加味して検討する必要がある!」
「その通りです!今は少しでも不確定要素があれば、事前に混乱しないよう準備しておく必要があります」
「何もなければそれで良いが、そうでなかった場合は大混乱になるかもしれません。特に今はその危険性が高いのです。些細なことでも指摘してください!」
ジャンヌさん、シャーロット、メグが不安要素があるなら教えて欲しいと厳しい眼差しで僕を問い詰めてくる。それは、もしその不安要素が現実のものとなっても、素早く行動できるように準備しなければならないという責任感の強さからの言葉だったのかもしれない。彼女達の勢いに折れて、僕は今の現状の不安要素を口にした。
「・・・ヨルムンガンドは僕を追い詰めたいような口ぶりだった。それに、守る者が居れば更に成長するだろうとも・・・」
「・・・ん、つまり、住民の避難を易々とさせるはず無いということ?」
「ドラゴンに包囲された住民達を人質としているなら、確かに不自然ですね・・・」
僕の言葉に、ティアが僕の感じている疑問を言葉にする。フリージアもその疑問に頷いた。
「・・・まさかっ!!」
そうジャンヌさんが呟いたその時だった、『ズドンッ!!』という轟音が辺りを包むと共に、部屋が大きく揺れた。
「「「きゃっ!!!」」」
「な、何だ!?どうしたんだ!?」
混乱するみんなの叫び声を聞きながらも、空間認識で確認しようとするが、何が起こっているのかは確認できなかった。
「くそっ!一体何が・・・」
揺れは一度だけで、既に辺りは何事もなかったかのようになっているが、部屋の外がいやに騒がしい。すると突然、荒々しく部屋の扉が開け放たれ、顔中から冷や汗をダラダラと滝のように流すエルフの騎士が駆け込んできた。
「た、た、たた、大変です!!ド、ドドド・・・ドラゴンが中庭に!!!」
それだけ言うと、騎士はそのまま気を失ってしまった。その様子に驚きながらも、フリージアが駆け寄って介抱する。彼はきっと伝えなければならないという使命感でもって、この部屋まで意識を保っていたのかもしれない。まさに国に仕える騎士の鏡のようだ。しかし、訓練を受けている騎士を、その存在感だけで気を失わせ、あまつさえ僕の空間認識を無効化してしまうようなドラゴンなど思い当たるのはあの存在しかいなかった。
「まだ1日早いはずなのに・・・」
「ダリア、やはりヨルムンガンドか?」
「間違いないだろうね。目的は不明だけど・・・みんなはここにいて!相手の威圧に飲まれてしまうと、精神が持たないと思うから。出来るだけ心を強くもって、耳を塞いでいて欲しい」
ジャンヌさんの指摘に首肯し、王国での一件から、ヨルムンガンドの圧倒的な存在感や、威圧を含んだ咆哮を聞いてしまうと精神が持たず、廃人のようになってしまっていたので、みんなにはここで耳を塞いで待っていてもらいたかった。それで何とかなるとは思ってはいないが、何もしないよりは良いだろうという気休め程度だが。
「お母様から王国での事は聞き及んでいます。足手まといにならないよう地下に避難します。外が騒がしいのはおそらくお母様が既にそのような避難指示を出したからでしょう。皆さん、付いてきてください!」
メグが素早く状況を分析して行動に移すため、みんなに声を掛ける。
「では、この騎士の方も一緒に!皆さん手伝ってくれますか?」
「ん、任せて!」
「は、はい!」
フリージアの言葉に、ティアとシルヴィアが協力して騎士の体を持ち上げた。
「すみません、私は妹を連れてきます!直ぐに皆さんに合流しますので!」
そう言うとシャーロットは慌てて部屋を飛び出した。アシュリーちゃんもこの状況に不安を感じているはずなので、彼女の慌てようはもっともだった。
「ダリア、私なら奴の威圧にも幾分耐えられる。一緒に行かせてくれないか?」
そんな中、ジャンヌさんは僕と同行したいと言い出してきた。
「で、でもジャンヌさん、前回は・・・」
確かに王国でヨルムンガンドの咆哮をその耳にして正気を保てていたのは、【剣聖】であるジャンヌさんとアレックスさんだけだった。ただ、その時の様子は喋れるというのが精一杯で、とても動けるようには見えなかった。そんな僕の心配を感じているのだろう、ジャンヌさんは真剣な眼差しで僕に訴えかけてくる。
「以前は見苦しい姿を見せたが、頼む!少しでも君の力になりたいんだ!!」
その言葉からは確固たる決意のようなものが感じられ、拒否するのは彼女の決意を否定してしまうように感じられた。何より、ここで僕が同行を拒否しようとも、無理矢理付いてきそうな迫力でもあった。
「・・・分かりました。ヨルムンガンドもわざわざ僕を成長させるという回りくどい手段をとっている以上、いきなり攻撃を仕掛けることは無いと思うけど、少しでも危険を察知したら、僕の空間魔法でジャンヌさんだけでも避難させるからね!?」
「それで構わない!」
揺るがぬ決意をその瞳に宿す彼女に折れ、共に〈空間転移〉で直接中庭へと移動した。
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