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第九章 災厄 編
ヨルムンガンド討伐 19
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メグとの出会いについて記憶がないことに驚いて足を止めてしまった。どうしてという疑問と共に、どんなに思い出そうとしても彼女との想い出は、学園の入学の際に行った適正試験の場面しか思い出せない。僕を知らないはずのメグが急に話しかけてきて、しかも何故か僕の実力を知っていて驚いたという記憶だ。
(何だこれ・・・なんか変だ・・・何か重要なことが丸々抜け落ちてる気がする・・・)
動揺している僕の異変に気づいたのか、近くにいたティアが気遣ってくれた。
「ん、ダリア大丈夫?顔色が悪い。何かあったの?」
彼女の言葉に今の僕が感じている違和感を伝えるべきか迷ってしまう。単に忘れているだけならメグに対して失礼なことになってしまうし、もしこれが対価なのだとしたら・・・。
そう危機感を覚え、すぐに『祈願の剣』を手にする前の時間に身体を戻す。しかしーーー
(っ!!どういうとだ?ちゃんと戻したはずなのに、やっぱりメグとの出会いの記憶が無い?)
「ダ、ダリア・・・」
どうしたらいいか分からず焦っていると、メグが蒼白な顔を僕に向けてわなわなと歩み寄って来た。その表情を見るに、おそらく彼女も僕との出会いの記憶が無くなったのではないかと直感した。
「メグ・・・もしかして・・・」
「わ、私・・・あなたと・・・どうやって・・・出会いましたか?」
彼女の言葉に、僕の懸念が的中してしまったと確信した。そして、これこそが対価なのだと。同時に、それを隠しておけない事も。
若干錯乱しているような状態だったメグを落ち着かせ、みんなに『祈願の剣』の対価について、僕の考えを伝える。
「落ち着いて聞いて欲しいだけど、おそらくこの剣の対価は、祈りとして捧げたものの記憶だと思う」
「記憶・・・ですか?」
僕の言葉にフリージアが信じられないと言う表情で聞き返してくる。
「うん。その、メグを見ても分かる通り、僕も彼女と何時、どこで出会ったのかの記憶が無いんだ・・・思い出せないとか、忘れていると言う感覚じゃなくて、その部分だけ抜き取られたように・・・」
「そんな!そんなことって・・・」
「「「・・・・・・」」」
シルヴィアは驚愕して目を見開きながら僕とメグを交互に見つめて、やがて青い顔をして絶句してしまった。他のみんなも嘘では無いと理解したように一様に俯いてしまう。
「・・・ダリア君はどんな祈りを捧げたのですか?」
みんなが押し黙る中、フリージアが僕の祈りの内容を聞かせて欲しいと言い出した。話すには少し恥ずかしいが、今はそんなことを言っていられないだろう。
「僕はみんなの事を守りたいと・・・みんなに幸せになって欲しいと祈ったんだ・・・」
「ダリア君・・・」
「しかし、みんなの事を祈ったのなら、何故マーガレットとの出会いの記憶だけ無くなったんだ?」
僕の祈りの内容を聞いて、ジャンヌさんが疑問を呈してきた。言われてみればその通りで、みんなの事で祈りを捧げたのなら、他のみんなの事についても記憶が無くなっていてもおかしくない。
(使用した時間が短かったから?それとも不規則に選ばれるのか?)
考えられる可能性を模索していると、ティアが口を開いた。
「ん、もしかして時間かも」
「時間?」
「ん、一緒のクラスで話した時に、マーガレットとダリアの出会いを聞いたことがある。けど・・・私もその記憶が消えてる。でも、私達の中で最初に出会ったのはマーガレットなんだって思った記憶はある」
「そういえば、私もそんな事を話していた記憶は確かにあります。ですが、私も内容だけ丸々抜け落ちているというか・・・恐ろしいです」
ティアとフリージアが言うには、自分の記憶も影響を受けているということだった。彼女達も一様に青い顔をしているが、元々は自分の想い出ではないからだろう、メグと比べればそれほど取り乱してはいなかった。
「ん、つまり、私達とダリアとの記憶・・・想い出が古い順に消えているのかもしれない」
ティアの指摘に少し考え込む。僕の記憶にはメグといつ、どのようにという記憶は無いのだが、この中ではメグと最初に知り合っていたという事は分かる。とはいえそれは、フリージアやティアとの出会いを覚えているので、その時の会話を考えて、逆算的にメグが最初に出会っているはずだと考えられるからだ。
しかも、僕の【時空間】の才能で『祈願の剣』を使っていない時間まで自分の身体を戻しても、ナイフで傷つけた指は治っているのに、捧げたものは戻ってこなかったということになる。更には僕とメグの記憶だけでなく、みんなもそれに関する記憶が無くなっている。まるでこの世界から無かったことになっているかのように。
(今回は短時間だったからこの程度なのかもしれないけど、もしこの力を使った戦闘が長時間続いていたとしたら・・・)
そう思うと、この力の対価が末恐ろしく感じてしまう。もし対価として彼女達との全ての記憶を捧げてしまったとしたら、みんなが僕の事を認識できなくなってしまうのではないだろうか、そして僕自身も彼女達を認識出来なくなってしまうかもしれないという恐怖が芽生えた。
(そういえば、シルヴィアが王国で見つけたあの本は今になって考えれば書き方が変だった・・・)
あの本は『祈願の剣』の力を使った本人が書いたというよりかは、第三者が書いたような書き方だった。思い返せば公国や帝国の情報も妙に具体性の無い書かれ方や言い方だった。
(人が追い詰められた状況で真剣に祈りを捧げるのだとしたら、それは自分の命か大切な人の命だけど・・・)
もし全ての対価を捧げきった場合はどうなるのか。
(強制的に剣が消滅するのか、あるいは別の対価に切り替わるのか・・・)
剣を実際に手にしてみて何となく分かるのは、自分が幸せを願ったみんなの中から消えていくという感覚だった。そんな状況で更に対価を支払うとしたら、世界からも消えていってしまうのではないかと考えられる。
(大切な人だけでなく、今まで知り合った人達からも僕との記憶が無くなる・・・誰も僕と出会わなかったということに書き換わってしまうのか?そんなの・・・)
そこまで考え、今まで出会った人達との記憶が無くなってしまうのだとしたら、どうなってしまうのだろうと更なる恐怖に囚われる。人生は人との出会いと別れによって豊かになるものだと言われたことがある。それが根こそぎ無くなってしまうのだとしたら、あとに残るのは孤独だろう。とてもではないが、そんな代償のある武器は使いたくなかった。
「と、とにかく、もうこの力を使うのは止めて、他の方法を考えよう。確か、王国の書物の中でプラズマ?の研究っていうのにも興味あったし、そっちを実践で使えないか試すよ!」
「そ、そうですね。他に代替手段があるのなら、この力に固執する必要もないですから」
「そうだな、試してみた方が良いだろう」
「じゃ、じゃあ私マーガレットさんを休ませてきますね」
僕の考えにフリージアとジャンヌさんは同意してくれ、シルヴィアは未だ青い顔をして座り込んでしまっているメグを支えながら立たせて、フラフラ歩く彼女に付き添いながら部屋へと送っていった。
「ん、ダリアは大丈夫?」
メグを見送ってから少しぼーっとしていた僕を、心配そうにティアが覗き込んできた。彼女自身も大丈夫とは言えないような顔色だ。他のみんなも不安げな表情をしている。
「大丈夫・・・とは言えないかな。大切な人との想い出が消えるんだから、辛いね。でも、ヨルムンガンドが動き出すまでもう時間はない・・・今は立ち止まることが出来ない・・・」
「ん、そうだよね」
ティアは僕の裾をぎゅっと掴み、悲しげにメグが去っていった方向を見つめている。その様子は、僕が彼女の中から消えてしまうかもしれないという不安と、メグの身を案じている心配が綯い交ぜになっているようだった。
(何だこれ・・・なんか変だ・・・何か重要なことが丸々抜け落ちてる気がする・・・)
動揺している僕の異変に気づいたのか、近くにいたティアが気遣ってくれた。
「ん、ダリア大丈夫?顔色が悪い。何かあったの?」
彼女の言葉に今の僕が感じている違和感を伝えるべきか迷ってしまう。単に忘れているだけならメグに対して失礼なことになってしまうし、もしこれが対価なのだとしたら・・・。
そう危機感を覚え、すぐに『祈願の剣』を手にする前の時間に身体を戻す。しかしーーー
(っ!!どういうとだ?ちゃんと戻したはずなのに、やっぱりメグとの出会いの記憶が無い?)
「ダ、ダリア・・・」
どうしたらいいか分からず焦っていると、メグが蒼白な顔を僕に向けてわなわなと歩み寄って来た。その表情を見るに、おそらく彼女も僕との出会いの記憶が無くなったのではないかと直感した。
「メグ・・・もしかして・・・」
「わ、私・・・あなたと・・・どうやって・・・出会いましたか?」
彼女の言葉に、僕の懸念が的中してしまったと確信した。そして、これこそが対価なのだと。同時に、それを隠しておけない事も。
若干錯乱しているような状態だったメグを落ち着かせ、みんなに『祈願の剣』の対価について、僕の考えを伝える。
「落ち着いて聞いて欲しいだけど、おそらくこの剣の対価は、祈りとして捧げたものの記憶だと思う」
「記憶・・・ですか?」
僕の言葉にフリージアが信じられないと言う表情で聞き返してくる。
「うん。その、メグを見ても分かる通り、僕も彼女と何時、どこで出会ったのかの記憶が無いんだ・・・思い出せないとか、忘れていると言う感覚じゃなくて、その部分だけ抜き取られたように・・・」
「そんな!そんなことって・・・」
「「「・・・・・・」」」
シルヴィアは驚愕して目を見開きながら僕とメグを交互に見つめて、やがて青い顔をして絶句してしまった。他のみんなも嘘では無いと理解したように一様に俯いてしまう。
「・・・ダリア君はどんな祈りを捧げたのですか?」
みんなが押し黙る中、フリージアが僕の祈りの内容を聞かせて欲しいと言い出した。話すには少し恥ずかしいが、今はそんなことを言っていられないだろう。
「僕はみんなの事を守りたいと・・・みんなに幸せになって欲しいと祈ったんだ・・・」
「ダリア君・・・」
「しかし、みんなの事を祈ったのなら、何故マーガレットとの出会いの記憶だけ無くなったんだ?」
僕の祈りの内容を聞いて、ジャンヌさんが疑問を呈してきた。言われてみればその通りで、みんなの事で祈りを捧げたのなら、他のみんなの事についても記憶が無くなっていてもおかしくない。
(使用した時間が短かったから?それとも不規則に選ばれるのか?)
考えられる可能性を模索していると、ティアが口を開いた。
「ん、もしかして時間かも」
「時間?」
「ん、一緒のクラスで話した時に、マーガレットとダリアの出会いを聞いたことがある。けど・・・私もその記憶が消えてる。でも、私達の中で最初に出会ったのはマーガレットなんだって思った記憶はある」
「そういえば、私もそんな事を話していた記憶は確かにあります。ですが、私も内容だけ丸々抜け落ちているというか・・・恐ろしいです」
ティアとフリージアが言うには、自分の記憶も影響を受けているということだった。彼女達も一様に青い顔をしているが、元々は自分の想い出ではないからだろう、メグと比べればそれほど取り乱してはいなかった。
「ん、つまり、私達とダリアとの記憶・・・想い出が古い順に消えているのかもしれない」
ティアの指摘に少し考え込む。僕の記憶にはメグといつ、どのようにという記憶は無いのだが、この中ではメグと最初に知り合っていたという事は分かる。とはいえそれは、フリージアやティアとの出会いを覚えているので、その時の会話を考えて、逆算的にメグが最初に出会っているはずだと考えられるからだ。
しかも、僕の【時空間】の才能で『祈願の剣』を使っていない時間まで自分の身体を戻しても、ナイフで傷つけた指は治っているのに、捧げたものは戻ってこなかったということになる。更には僕とメグの記憶だけでなく、みんなもそれに関する記憶が無くなっている。まるでこの世界から無かったことになっているかのように。
(今回は短時間だったからこの程度なのかもしれないけど、もしこの力を使った戦闘が長時間続いていたとしたら・・・)
そう思うと、この力の対価が末恐ろしく感じてしまう。もし対価として彼女達との全ての記憶を捧げてしまったとしたら、みんなが僕の事を認識できなくなってしまうのではないだろうか、そして僕自身も彼女達を認識出来なくなってしまうかもしれないという恐怖が芽生えた。
(そういえば、シルヴィアが王国で見つけたあの本は今になって考えれば書き方が変だった・・・)
あの本は『祈願の剣』の力を使った本人が書いたというよりかは、第三者が書いたような書き方だった。思い返せば公国や帝国の情報も妙に具体性の無い書かれ方や言い方だった。
(人が追い詰められた状況で真剣に祈りを捧げるのだとしたら、それは自分の命か大切な人の命だけど・・・)
もし全ての対価を捧げきった場合はどうなるのか。
(強制的に剣が消滅するのか、あるいは別の対価に切り替わるのか・・・)
剣を実際に手にしてみて何となく分かるのは、自分が幸せを願ったみんなの中から消えていくという感覚だった。そんな状況で更に対価を支払うとしたら、世界からも消えていってしまうのではないかと考えられる。
(大切な人だけでなく、今まで知り合った人達からも僕との記憶が無くなる・・・誰も僕と出会わなかったということに書き換わってしまうのか?そんなの・・・)
そこまで考え、今まで出会った人達との記憶が無くなってしまうのだとしたら、どうなってしまうのだろうと更なる恐怖に囚われる。人生は人との出会いと別れによって豊かになるものだと言われたことがある。それが根こそぎ無くなってしまうのだとしたら、あとに残るのは孤独だろう。とてもではないが、そんな代償のある武器は使いたくなかった。
「と、とにかく、もうこの力を使うのは止めて、他の方法を考えよう。確か、王国の書物の中でプラズマ?の研究っていうのにも興味あったし、そっちを実践で使えないか試すよ!」
「そ、そうですね。他に代替手段があるのなら、この力に固執する必要もないですから」
「そうだな、試してみた方が良いだろう」
「じゃ、じゃあ私マーガレットさんを休ませてきますね」
僕の考えにフリージアとジャンヌさんは同意してくれ、シルヴィアは未だ青い顔をして座り込んでしまっているメグを支えながら立たせて、フラフラ歩く彼女に付き添いながら部屋へと送っていった。
「ん、ダリアは大丈夫?」
メグを見送ってから少しぼーっとしていた僕を、心配そうにティアが覗き込んできた。彼女自身も大丈夫とは言えないような顔色だ。他のみんなも不安げな表情をしている。
「大丈夫・・・とは言えないかな。大切な人との想い出が消えるんだから、辛いね。でも、ヨルムンガンドが動き出すまでもう時間はない・・・今は立ち止まることが出来ない・・・」
「ん、そうだよね」
ティアは僕の裾をぎゅっと掴み、悲しげにメグが去っていった方向を見つめている。その様子は、僕が彼女の中から消えてしまうかもしれないという不安と、メグの身を案じている心配が綯い交ぜになっているようだった。
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