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黒蓮

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第八章 戦争 編

戦争介入 32

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 オーガンド王国王城正門前ーーー

 僕は『神人』の姿に身を包んでその場に立っていた。既に僕の正体は分かっているとは思うが、だからといって明かすことは出来ない。ダリア・タンジーではなく、『神人』ということで押し通すつもりだ。

ゆっくりと正門を通ろうとする僕に、門番の騎士が制止の声を上げる。

「待て!貴殿は何者だ?許可はあるのか!?用件を言え!」

左右の騎士が槍を交差して通行を阻み、僕に用件を訪ねてきた。

「僕は『神人』。この国の為政者達に少し話があって来た。通してもらえる?」

僕がそう言うと、門番の騎士達に緊張が走るのがわかった。一瞬、貴族の証であるあの短剣を見せようかとも思ったが、今の僕はあくまで『神人』であって、王国とは関係の無い存在として来ているので、そう言ったのだった。

「か、神人だと!?こんな子供が?」

「貴様!悪戯にしても悪ふざけが過ぎるぞ!!」

騎士達ははやし立てるように僕を糾弾してくるが、僕は彼らの言葉を気にせず言い放つ。

「悪戯でも何でもないけど、通してくれなくても勝手に行くから良いよ」

そう宣言して歩き出すと、門番の騎士が僕の進行方向に出していた槍を引き戻して構えた。

「このっ!通すわけがないだろう!!」

「くらえ!」

僕は彼らの攻撃に見向きもせず、ゆっくりと歩みを進めた。

『『カギンッ!!』』

騎士の渾身の槍の突きは、僕の展開した空間魔法によって阻まれた。

「なっ!?」

「こ、これは一体!?」

「て、敵襲だ!!総員迎撃!!敵対勢力は1人!銀色の装束に銀の仮面を付け、神人と名乗っている!背は150㎝ほどで、見慣れぬ魔法を使うようだ!総員留意せよ!!」

正門横の待機所のようなところから飛び出た騎士が、拡声器のようなもので警戒を促した。それを聞いた周りの騎士は、同じように拡声器を使って一言一句変わらぬ文言で王城中に警戒を促していった。僕としてはこれで国王や宰相達に来訪を知らせることが出来たので、逆にありがたいと感じたほどだった。


『ガキンッ』

『ガン!ガン!』

 次々と繰り出される剣や槍、弓矢などの攻撃を全く気にせず突き進む。散発的に魔法での攻撃もあるが、味方への誤射や、王城を傷つけてしまうことに気を使ってか、それほど攻撃性魔法は飛んでこなかった。

通路の先には密集陣形のように騎士達が集まっており、僕の歩みを防ごうと躍起になっているが、僕はまったく意に介すこと無く、空間魔法を使って自分の歩けるだけのスペースを強引に作り出し、出来上がった道を悠然と進んでいく。

騎士達は僕の魔法で左右に押しやられて短い悲鳴を上げる者も居るが、そのほとんどは無傷だ。必死に進ませまいと攻撃を仕掛けてくる者も居るが、大抵の者は諦めの表情でもってただ僕の姿を眺める者の方が多い。

(国王達は・・・会議室みたいなところに居るな)

空間認識では、国王と宰相や数十人の人達が1つの部屋に集っている。その部屋の場所や状況から、会議室なのではないかと当たりをつけた。


 そして僕は自分の力を誇示するように、ゆっくりと目的の場所に辿り着いた。既に伝令が来ているのであろう、国王達がいる部屋の扉は互いに腕を組んで、人の壁で封鎖している状態だった。

「あなた達の君主を殺す気はないですから、そこを通してくれませんか?」

僕は優しく語りかけるように、扉の前でこちらを睨む騎士達にそう告げた。

「断る!我らの誇りに掛けてここより先には通すことは出来ん!即刻立ち去れ!!」

一人の騎士が代表して、僕にそう怒声を飛ばす。

「その誇りを汚すようで悪いけど、失礼するね」

対面で睨み合う彼らにそう告げると、〈空間転移テレポート〉で室内へと入った。


「どうも皆さん初めまして!『神人』と申します。以後お見知りおきを」

 部屋の中に現れると同時に、右手を軽く上げて朗らかに挨拶をした。

「なっ!どうやって現れた!!」

「外に居る騎士達は何をしておる!こんな子供一人押さえることも出来んのか!!」

「ええい、外に居る騎士にこの賊を殺させろ!!」

彼らの身なりからして、位の高い貴族達なのだろう。みな一様に僕を罵り、口角泡を飛ばす勢いで激昂しているようだ。

(僕に恐怖しているようでは無いか・・・見た目のせいかな?それとも正確な情報が伝わっていない?)

アレックスさんのように、僕の実力に恐怖していれば話しは簡単なのだが、この部屋の貴族達はみんな恐怖より、怒りの感情に囚われているようだった。ザワザワとする貴族達に、こちらの主張を聞いて貰うため、柏手を打って静かにさせる。

『パンッ!!』

「「「・・・・・・」」」

「残念ながら、外の騎士は誰もこの部屋に入れませんよ。今日は少し話を聞き入れて貰うために来ました」

「聞いて貰うではなく、聞き入れて、だと?」

この部屋の出入り口である扉を背にしている僕から一番遠く、上座に座っていた宰相が他の貴族達を掻き分け、怒りの形相で僕に迫ってきた。

「ええ、その通り。何か問題でも?」

「問題しかないだろうが!どこの誰とも知らぬ小僧の戯言を聞き入れるわけがなかろう!!」

「どこの誰ともって・・・『神人』と名乗りましたよ?今王国と帝国の戦争に介入しているのはこの僕ですよ?」

「このっ、力が有るからと言ってやりたい放題か!!」

「・・・ふふっ」

宰相の言葉に、僕は少し笑ってしまった。

「何が可笑しい!!?」

僕が笑ってしまったことで、更に激昂させてしまったようだ。

「そちら側から見るとそう見えるんですね?でも、貴方達も貴族として平民に散々やりたい放題してたんじゃありませんか?」

「はっ?何を言っている!我ら貴族は平民の暮らしを豊かにしてやっているのだ!感謝こそされ、それをやりたい放題などとーーー」

「待て!宰相!」

矢継ぎ早に僕の言葉を否定してくる宰相に、国王が待ったをかけた。

「しかし陛下、このような輩の言葉を聞くことはーーー」

「宰相よ、私は待てと言ったのだ」

「っ!!失礼致しました陛下」

国王の迫力にたじろいだ宰相は、恭しく下がった。上座に座る国王はそこから動くことはせずこちらを見据えてくる。その様子に、周りの貴族達は視線が通りやすいように壁際へと下がった。

「失礼した『神人』殿」

「いや、構わないよ」

「さて、それではそちらの要求を聞かせてくれるか?」

「こちらの話を聞き入れてくれると?」

「内容による。そちらの力は無傷でこの部屋まで来た事、先の戦場での事、そしていつぞやの庭での事で理解はしておる。しかし、一国の王としてそう簡単に屈することは出来ん。特に力によるものにはな」

以前、王城の庭から立ち去る際には『絶対に許さん!』と、声高に叫ばれてた気もするが、僕の力を知って考え方を変えたのかもしれない。

「それほど難しいことを要求している気は無いんだけど、騎士団の要請にあったように戦争の中止だよ。和平条約まで結べとは言わないけど、話し合いだけでもとは思っているよ」

「代案はそちらの力で魔獣を間引く、か・・・」

「そうだね。間引くタイミングと場所を事前にそちらに通告すれば、転がっている魔獣の死骸から素材が取り放題だ。王国の情勢的にも金銭的にも問題を解決できる提案だと思うけど?」

「そうだな、確かに一考の余地はあるやも知れんだろう。だが、技術力はどうするのだ?一足飛びに発展することは無いことぐらい余とて分かっておる。だからこそ、この戦争によって他国の技術を奪い我が国のものとする。さすれば、すぐに技術は発展するのだぞ?」

「今回僕は各国の情勢を知ることで、それぞれの国が様々な問題を抱えており、それゆえ各国の力関係のバランスが取れていると考えた。帝国は食料、公国は人口、そして王国は魔獣被害。今回帝国の食料については既に僕がある程度解決の指針を示したけど、それですぐに何もかも劇的に改善するわけではないよ」

 帝国の問題には道筋を立てたが、実際に農作物を育てる人材等の事を考えると、今すぐ全てが解決したということではない。しかし、以前のようにどうしようもないことでは無く、ある程度国が主導していけば解決できるようになっている。

王国も同様で、今すぐ全ての問題点を解決するということでなく、ある程度の時間をかけさえすれば解決出来るように道筋を示している。これは、あまりどこかの国へ肩入れしてしまうとパワーバランスが崩れ、それが戦争の引き金になりうる可能性があるからだ。

「つまり、各国のパワーバランスが崩れぬように介入し、あとは努力次第ということか?」

「その通りだよ」

国王は僕の思惑をほぼ正確に見抜いているようだった。さすがは一国の王というだけの事はありそうだ。

「では、一つ質問しよう。その答え如何によってはそちらの提案を検討してもよいだろう」

「・・・何かな?」

「『神人』はどの勢力についているのだ?」

「中立だよ。言ってみれば無所属だね」

「ほう、中立であるはずの存在が、今回何ゆえ戦争に介入を?」

「僕は静かに平和に暮らしたいと思っているんだけど、それがこの戦争によってそう出来なくなっている、というとこかな」

「まるで気分で介入したと言わんばかりだな?」

「さすがにそこまで酷い行動原理じゃないよ。僕が動いた結果、人の顔に笑顔が灯るなら動きたいと言うくらいの考えはあるよ」

「笑顔か・・・」

 国王は何か思案しているように目を閉じて、しばらく考え込んだ。周りの貴族達は事の成り行きに困惑しながら国王の顔を窺っていた。そしてそれは、宰相も同様だった。しばらくの静寂の後、国王が重い口を開いた。

「最後に一つ確認しよう。もし、私がそちらの言い分を拒否したとしたら、どうする?」

国王は鋭い眼光で言い放ってきた。

「その時は、力で説得しようと考えてるよ」

少し、という部分に含みを持たせるような言い方で、そう国王に返答した。

「・・・そうか。良いだろう。王国としてはそちらの提案を前向きに検討しようではないか。しかし、すぐにというわけにはいかん。一週間後、またここへ来られよ。よいか?」

「分かりました。良い返事を期待しておきます」

そう伝えて踵を返すと、魔法を解除して扉を開ける。すると外にいた騎士達が一斉に流れ込んでくる。当然僕には近づくことが出来ず、一定距離を保ったままこちらを威嚇していた。

「では一週間後にまた来ます。失礼しました」

「・・・そなたを上級貴族として迎え入れなんだのは失策だったな・・・」

国王の呟きが騎士達の喧騒に掻き消えるが、何故か僕の耳にすっと入ってきた。振り返ると、残念そうな国王の顔と、その顔を見て焦りの表情を浮かべる宰相が印象的だった。


 その後、僕は堂々とした足取りで王城をあとにした。今回の僕の行動には示威行為という側面もあるので、なるだけ多くの者に見せつけるようにしている。王城を出てしばらく騎士達を引き付けるような格好で歩いていたが、ある程度のところで歩みを止めて、〈空間転移テレポート〉で屋敷へと消えたのだった。
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