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第八章 戦争 編
戦争介入 28
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(どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・)
目の前には真剣な表情をして、まっすぐに僕を見つめてくるジャンヌさんがいる。僕の深く考えないその場しのぎの発言が、事態を余計厄介な状況へと変えてしまっていた。
「頼む!これほどの力を持つ存在を支える者が、どのような人物なのか確認しておかなければ安心できんのだ!」
僕に向かって力説してくる彼女に、僕の頭の中はどうしたものかとフル回転中である。認識速度を上げて現実逃避もしてみたが、残念ながらそれで解決するわけでもなく、再び直面している問題に向き直るしかなかった。
(まだ完全に帝国と王国の戦争は止まった訳じゃない。となると、今後まだ数回はジャンヌさんに会う必要も出てくる・・・ここで逃げても次が・・・。あ~、どうしよう・・・)
思考速度を加速させた中、体感では相当の時間を掛けて悩んでいると、一つの妙案が思い浮かんできた。
(そうだ!今までの経験上、女の子は自分以外の女性に関心を寄せると不機嫌になっていた。つまり、みんなの事を伝えれば、幻滅して諦めるかも!)
僕の王都に出てきてからの経験を総合して、そう結論した。正直最初の頃は、師匠に教えられていたように色々と女性を褒めていた。そうすれば人間関係も良好になり、暮らしていく上で不都合はないと言われたからだ。
しかし、多くの女の子と知り合っていく上で、その対応が裏目に出ることもよくあった。その為、もはや僕の女性への対応は完全にその場しのぎになっていた。思ったことを直ぐに口に出していただけだったとも言えるが、そんな対応が時にみんなを静かに怒らせていたことを思い出す。
「じ、実は今、5人の女の子と一つ屋根の下で共同生活をしているんだ」
「!!・・・そうか」
ジャンヌさんの表情が僅かに動いたのを感じた。人数にアシュリーちゃんまで加えているのだが、嘘ではない。
(・・・これは上手くいったのか?どうなんだ?)
それが不快を現しているのか、驚きを隠しているのかの判断まではつかなかったので、とりあえず続けた。
「そ、その、みんな凄く頼りになるし、とても可愛いんだよ」
この言葉は師匠直伝、女性への最大の禁忌の言葉だ。女性を前に、他の女性のことを誉めるのは絶対にしてはならないと、目を見開いて教えられていた。
「・・・・・・」
僕の言葉に彼女は無表情で停止していた。
(こ、これで・・・)
そう思ったのもつかぬ間、彼女は少し僕から顔を背けながら質問をして来た。
「わ、私は可愛くないと言うのか・・・?」
どこからそんな話になったのだろう、みんなの容姿を誉めはしたが、別にジャンヌさんの容姿を貶したわけではない。
「えっ?いや、ジャンヌさんは可愛いと言うより、美人だと思いますよ?」
だから、そう素直に答えてしまった。その言葉を聞いた直後、彼女の顔が耳まで真っ赤になってしまった。
「っ!!!/////////////」
(あっ・・・、この反応は不味い・・・)
彼女の表情から、自分が余計面倒な状況にしてしまう一言を言ってしまったことに気づくが、既に遅かった。
「そ、そうかそうか。まぁ、力を持つ者の義務として子孫は残さねばならんだろうからな。別に女が何人いようと私は気にせん。ただ、だからといって蔑ろにされるのは嫌だぞ!あっ、勘違いするなよ?私も力を持つ者として、君を欲しているだけだからな」
状況はさらにややこしくなり、もはや雁字搦めになって身動きがとれないこの状況に変革をもたらす一言が投げ込まれた。
「ジャンヌ大佐、そろそろ話を前に進めませんと・・・」
ニコライさんが気まずげに割って入ってきてくれたのだ。救世主かと感じる彼の発言に何を勘違いしたのかジャンヌさんは・・・
「そうだな、婚約の日取りを決めて・・・式は帝国で盛大にやろう!一生に一度だからドレスは10着位着替えたいな!」
何故かニコライさんの言葉を、僕との関係を進めるというように取ってしまったのである。
「いえ、大佐!そうではなくてですね!」
「あっ、そうか!式は早すぎたな!彼はまだ未成年だった!来年まで待たねば・・・」
そう呟き、顎に手を当てながら、今後のスケジュールを考えているようだった。
「ですから、大佐!!そうではなく!!帝国のことです!!!」
しびれを切らしたニコライさんは、大声でジャンヌさんを怒鳴り付けた。その迫力にジャンヌさんも驚きの表情で彼を見た。彼はなんとなく気弱な印象だったので、普段こんなに声を荒た事が無かったのかもしれない。それで余計彼女は驚いている、そんな表情に感じた。
「何だいきなり大声を上げて?驚くではないか」
「大佐、『神人』殿との将来の話は一先ず置いてください!今は帝国の将来の話を進めるべきです!」
ニコライさんのもっともな意見に、彼女は若干ばつの悪そうな表情をしたあと、真面目な表情になって向き直ってきた。
「う゛、う゛ん!今回の帝国の問題を解決するというそちらの提案は、十分検討に値するものだと考える。そこで、一度帝都へ戻り皇帝に報告をしたい。よろしいか?」
「もちろんです!帝都までは僕が送りましょう。結論を聞きにお伺いしますので、どの程度で結論が出そうですか?」
混沌とした状況から、ようやく話が前に進んだことにホッとした。
「そうだな、皇帝は判断も早いが、一度始めた戦争の落とし処を考えねばならんし、長く見積もって一週間というところだ」
「分かりました。では、みなさんを送り届けてから一週間後にまたそちらに伺います」
「ああ。では、一度戦場の陣営に戻してくれないか?全軍に指示を出しておかねばならないからな」
「それであれば、帝国軍の軍人さん達も一緒に帝都に送りましょうか?待機させるにも少し時間が空いてしまいますし大変でしょう?」
「・・・そんなことが出来るのか?7万人以上いるのだぞ!?」
「ええ、問題ないですよ。あんな荒野のテントで1週間待機では、ストレス溜まりそうですし」
「は、はは・・そうか。では、頼むとしよう」
彼女の乾いた笑いは何を思っての事なのかは分からないが、これで帝国の対応はある程度兆しが見えてきたのでひと安心だ。
国境線の前線に戻ってきて最初に取り組んだのは、国境線沿いに壁を作ることだ。そもそも帝国と王国を繋ぐ街道には壁と検問所はあるのだが、少し街道から外れてしまえば、ちょっとした石が積み上げられていて、国境がこれかなと分かる程度の境しかないのが現状だった。
そこで、国境を完全に壁で封鎖することで、互いの国の話が纏まるまで無用な手出しが出来ないようにした。事前に王国側にも通達しており、昨日の段階で既に王国側の方まで後退していた為、大した時間は要しなかった。
物理的に越境できないように、15mの高さの壁を作っておいたのだが、一瞬で国境沿いに壁が聳え立っていく様は圧巻で、それを見ていた両国の人々は歓声と悲鳴と驚愕の声が響き渡り、しばらく静かになることはなかった。
その後、帝国の軍人さんを全て帝都近郊の広々とした荒野に送り届けて、一週間後に答えを聞きに来ると約束を取り交わして戻ったのだった。遠くからだが、始めて見た帝都の印象は、緑が少なく落ち着かなかった。
僕がこれまで暮らした所や見てきた場所は、どこも緑や自然が溢れている場所だったのだが、帝国はそれとは真逆の印象だった。確かに、あのような場所で農業が栄えることは難しいだろう。周囲からは鉄が焦げたような臭いが常時してきて、ジャンヌさんによれば製鉄をしているということだったが、ずっとあの臭いを嗅いでいると気分が悪くなるほどだった。
では、そこで生活している人達はどうしているのかと言うと、帝都には大規模な風を発生させる魔道具が設置してあり、それで気流を操って、臭いが充満しないように調整しているのだと言う。その臭いの矛先が僕が移動した荒野の方だったというわけだ。
しかも、帝都内では臭いがしないどころか、全ての住民が香りの高い花を栽培するのが義務となっているらしく、帝都は別名『花の都』と呼ばれているらしい。遠目からではとてもそんな印象は持てないが、一週間後に行って見てみたいと思った。
ジャンヌさんとの別れ際、次回訪問のために一本の短剣を預かった。これを見せれば【剣聖】がその身分を保証する客人として訪問できるという事なので、ありがたく受け取ったが、何故かそれを見るニコライさんの表情は複雑な顔をしていた。
そんなこんなで、最初の介入は一応の成功を納めたように思え、一先ずは屋敷に戻ってみんなと状況を整理するために報告をするのだった。
ただ、戻って開口一番、みんなから聞かれた言葉は、僕の説明について「上手くいった?」ではなく、「【剣聖】から何もされなかった?」だったのには、僕も苦笑いをするしかなかったのだった。
目の前には真剣な表情をして、まっすぐに僕を見つめてくるジャンヌさんがいる。僕の深く考えないその場しのぎの発言が、事態を余計厄介な状況へと変えてしまっていた。
「頼む!これほどの力を持つ存在を支える者が、どのような人物なのか確認しておかなければ安心できんのだ!」
僕に向かって力説してくる彼女に、僕の頭の中はどうしたものかとフル回転中である。認識速度を上げて現実逃避もしてみたが、残念ながらそれで解決するわけでもなく、再び直面している問題に向き直るしかなかった。
(まだ完全に帝国と王国の戦争は止まった訳じゃない。となると、今後まだ数回はジャンヌさんに会う必要も出てくる・・・ここで逃げても次が・・・。あ~、どうしよう・・・)
思考速度を加速させた中、体感では相当の時間を掛けて悩んでいると、一つの妙案が思い浮かんできた。
(そうだ!今までの経験上、女の子は自分以外の女性に関心を寄せると不機嫌になっていた。つまり、みんなの事を伝えれば、幻滅して諦めるかも!)
僕の王都に出てきてからの経験を総合して、そう結論した。正直最初の頃は、師匠に教えられていたように色々と女性を褒めていた。そうすれば人間関係も良好になり、暮らしていく上で不都合はないと言われたからだ。
しかし、多くの女の子と知り合っていく上で、その対応が裏目に出ることもよくあった。その為、もはや僕の女性への対応は完全にその場しのぎになっていた。思ったことを直ぐに口に出していただけだったとも言えるが、そんな対応が時にみんなを静かに怒らせていたことを思い出す。
「じ、実は今、5人の女の子と一つ屋根の下で共同生活をしているんだ」
「!!・・・そうか」
ジャンヌさんの表情が僅かに動いたのを感じた。人数にアシュリーちゃんまで加えているのだが、嘘ではない。
(・・・これは上手くいったのか?どうなんだ?)
それが不快を現しているのか、驚きを隠しているのかの判断まではつかなかったので、とりあえず続けた。
「そ、その、みんな凄く頼りになるし、とても可愛いんだよ」
この言葉は師匠直伝、女性への最大の禁忌の言葉だ。女性を前に、他の女性のことを誉めるのは絶対にしてはならないと、目を見開いて教えられていた。
「・・・・・・」
僕の言葉に彼女は無表情で停止していた。
(こ、これで・・・)
そう思ったのもつかぬ間、彼女は少し僕から顔を背けながら質問をして来た。
「わ、私は可愛くないと言うのか・・・?」
どこからそんな話になったのだろう、みんなの容姿を誉めはしたが、別にジャンヌさんの容姿を貶したわけではない。
「えっ?いや、ジャンヌさんは可愛いと言うより、美人だと思いますよ?」
だから、そう素直に答えてしまった。その言葉を聞いた直後、彼女の顔が耳まで真っ赤になってしまった。
「っ!!!/////////////」
(あっ・・・、この反応は不味い・・・)
彼女の表情から、自分が余計面倒な状況にしてしまう一言を言ってしまったことに気づくが、既に遅かった。
「そ、そうかそうか。まぁ、力を持つ者の義務として子孫は残さねばならんだろうからな。別に女が何人いようと私は気にせん。ただ、だからといって蔑ろにされるのは嫌だぞ!あっ、勘違いするなよ?私も力を持つ者として、君を欲しているだけだからな」
状況はさらにややこしくなり、もはや雁字搦めになって身動きがとれないこの状況に変革をもたらす一言が投げ込まれた。
「ジャンヌ大佐、そろそろ話を前に進めませんと・・・」
ニコライさんが気まずげに割って入ってきてくれたのだ。救世主かと感じる彼の発言に何を勘違いしたのかジャンヌさんは・・・
「そうだな、婚約の日取りを決めて・・・式は帝国で盛大にやろう!一生に一度だからドレスは10着位着替えたいな!」
何故かニコライさんの言葉を、僕との関係を進めるというように取ってしまったのである。
「いえ、大佐!そうではなくてですね!」
「あっ、そうか!式は早すぎたな!彼はまだ未成年だった!来年まで待たねば・・・」
そう呟き、顎に手を当てながら、今後のスケジュールを考えているようだった。
「ですから、大佐!!そうではなく!!帝国のことです!!!」
しびれを切らしたニコライさんは、大声でジャンヌさんを怒鳴り付けた。その迫力にジャンヌさんも驚きの表情で彼を見た。彼はなんとなく気弱な印象だったので、普段こんなに声を荒た事が無かったのかもしれない。それで余計彼女は驚いている、そんな表情に感じた。
「何だいきなり大声を上げて?驚くではないか」
「大佐、『神人』殿との将来の話は一先ず置いてください!今は帝国の将来の話を進めるべきです!」
ニコライさんのもっともな意見に、彼女は若干ばつの悪そうな表情をしたあと、真面目な表情になって向き直ってきた。
「う゛、う゛ん!今回の帝国の問題を解決するというそちらの提案は、十分検討に値するものだと考える。そこで、一度帝都へ戻り皇帝に報告をしたい。よろしいか?」
「もちろんです!帝都までは僕が送りましょう。結論を聞きにお伺いしますので、どの程度で結論が出そうですか?」
混沌とした状況から、ようやく話が前に進んだことにホッとした。
「そうだな、皇帝は判断も早いが、一度始めた戦争の落とし処を考えねばならんし、長く見積もって一週間というところだ」
「分かりました。では、みなさんを送り届けてから一週間後にまたそちらに伺います」
「ああ。では、一度戦場の陣営に戻してくれないか?全軍に指示を出しておかねばならないからな」
「それであれば、帝国軍の軍人さん達も一緒に帝都に送りましょうか?待機させるにも少し時間が空いてしまいますし大変でしょう?」
「・・・そんなことが出来るのか?7万人以上いるのだぞ!?」
「ええ、問題ないですよ。あんな荒野のテントで1週間待機では、ストレス溜まりそうですし」
「は、はは・・そうか。では、頼むとしよう」
彼女の乾いた笑いは何を思っての事なのかは分からないが、これで帝国の対応はある程度兆しが見えてきたのでひと安心だ。
国境線の前線に戻ってきて最初に取り組んだのは、国境線沿いに壁を作ることだ。そもそも帝国と王国を繋ぐ街道には壁と検問所はあるのだが、少し街道から外れてしまえば、ちょっとした石が積み上げられていて、国境がこれかなと分かる程度の境しかないのが現状だった。
そこで、国境を完全に壁で封鎖することで、互いの国の話が纏まるまで無用な手出しが出来ないようにした。事前に王国側にも通達しており、昨日の段階で既に王国側の方まで後退していた為、大した時間は要しなかった。
物理的に越境できないように、15mの高さの壁を作っておいたのだが、一瞬で国境沿いに壁が聳え立っていく様は圧巻で、それを見ていた両国の人々は歓声と悲鳴と驚愕の声が響き渡り、しばらく静かになることはなかった。
その後、帝国の軍人さんを全て帝都近郊の広々とした荒野に送り届けて、一週間後に答えを聞きに来ると約束を取り交わして戻ったのだった。遠くからだが、始めて見た帝都の印象は、緑が少なく落ち着かなかった。
僕がこれまで暮らした所や見てきた場所は、どこも緑や自然が溢れている場所だったのだが、帝国はそれとは真逆の印象だった。確かに、あのような場所で農業が栄えることは難しいだろう。周囲からは鉄が焦げたような臭いが常時してきて、ジャンヌさんによれば製鉄をしているということだったが、ずっとあの臭いを嗅いでいると気分が悪くなるほどだった。
では、そこで生活している人達はどうしているのかと言うと、帝都には大規模な風を発生させる魔道具が設置してあり、それで気流を操って、臭いが充満しないように調整しているのだと言う。その臭いの矛先が僕が移動した荒野の方だったというわけだ。
しかも、帝都内では臭いがしないどころか、全ての住民が香りの高い花を栽培するのが義務となっているらしく、帝都は別名『花の都』と呼ばれているらしい。遠目からではとてもそんな印象は持てないが、一週間後に行って見てみたいと思った。
ジャンヌさんとの別れ際、次回訪問のために一本の短剣を預かった。これを見せれば【剣聖】がその身分を保証する客人として訪問できるという事なので、ありがたく受け取ったが、何故かそれを見るニコライさんの表情は複雑な顔をしていた。
そんなこんなで、最初の介入は一応の成功を納めたように思え、一先ずは屋敷に戻ってみんなと状況を整理するために報告をするのだった。
ただ、戻って開口一番、みんなから聞かれた言葉は、僕の説明について「上手くいった?」ではなく、「【剣聖】から何もされなかった?」だったのには、僕も苦笑いをするしかなかったのだった。
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