130 / 213
第八章 戦争 編
戦争介入 8
しおりを挟む
海から戻って夕食を食べた後も彼女達の勢いは止まらなかった。フリージアの持ってきていたトランクには例の服が大量に入っていたようで、こそっと離れようとしたのだが、あえなく捕まり、リビングルームで僕のファッションショーをする羽目になってしまった。今回の衣装はやけにフリルがふんだんにあしらわれていて、もはや言い逃れのしようの無いほどの女の子の服装だと思った。
みんなは僕の服装を見て「きゃー!!」とか、「凄い!!」とか、「可愛い!!」と口々に囃し立ててきた。メグに至ってはフリージアに新しい書物を借りる約束をしていた。
最後の方には、いったいどれだけの衣装があるのかとゲンナリするほどの着替えに気疲れしてしまった。
途中何度も「僕がこれを着なくても良いんじゃないの?」と、みんなにも着ることを勧めたのだが、「これはダリア君だから良いんです!」とか、「ダメです!ダリアに限ります!」と真剣な目をしながら猛反対されてしまった。どうやらフリージアの趣味がみんなに伝染してしまったようだった。
女性陣は一通りファッションショーを見て満足したのか、2時間も過ぎる頃にようやくお開きとなった。メイドさんの淹れてくれた紅茶を飲みながら一息付くと、メグが真剣な表情で話し始めた。
「さて皆さん、今日は思いっきり遊んで気分をリフレッシュしましたが、私達のこれからの目的について確認しておきましょう」
「現状3か国による戦争になりつつあります。それを円満に阻止するということですね?」
フリージアがメグの言葉に、すかさず自分達のすべき行動を言ってきた。
「ですが、本当にそんなことが可能なのですか?それぞれの国の戦争をするだけの理由を取り除くというのは並大抵の事ではありませんわ!」
シャーロットは僕らの行動における問題点を指摘してきた。確かに他国へ戦争を仕掛けるのは、それ相応の理由や事情があったはずだ。その根本的な元凶を解決しなければ意味がないだろう。
「そこで情報がものを言います。我が公国はこう見えても情報収集において他国よりも頭一つ抜きん出ているんですよ?」
「そうなんだ?どうやっているの?」
そこまで公国の内情は知らなかったので、素直にメグに聞いてみた。
「さすがに詳しく話すことは出来ませんが、簡単に言うなら情報伝達手段がとても優れているということです」
さすがに公国の重要機密なのだろう。確かに他国で情報を入手したとしても、それを持ち帰る時間が相当掛かってしまっていては情報の価値が段々と下がっていってしまう。下手をすればせっかく得た情報も、手元に届く頃にはまったく役に立たないものに変化している可能性もある。王国で一般的なのは、伝令のための早馬を走らせるか、飛行する魔獣と契約した闇魔法師が情報を運ばせるのが一般的だ。ただ、それでも相応の時間は掛かってしまう。
「では、既にフロストル公国は、他国の戦争に至った動機まで把握しているということですか?」
「完全に、というわけではありませんが・・・」
そう前置きして、メグはテーブルに置いてあった魔具のボタンを押すと、セバスさんが直ぐにリビングに入ってきた。
「お呼びでございますか、殿下?」
「例の件、どこまで分かっていますか?」
「中間報告という格好になりますが、こちらを・・・」
セバスさんは懐から書類を取り出してメグに渡していた。
「ご苦労様。引き続きよろしくお願いしますね」
「畏まりました」
恭しく頭を下げたセバスさんは、リビングを退出した。
「マーガレット殿下、そちらは?」
フリージアが手渡されていた書類に視線を向けながら、メグに確認する。
「各国の戦争理由の調査書です。得られた情報を繋ぎ合わせて、そこから導き出された推察もありますが、ある程度の参考にはなると思います」
メグはいつの間にそんな指示を出していたのだろう。さすが一国の王女だけあって行動が素早い。感心しながらメグを見つめていると、不意に目が合い、ニコッと微笑み掛けられた。その様子に、不意に海での彼女達の姿を思い出してしまい、気恥ずかしくなって目を反らしてしまった。
(あれ?なんだろう?メグを直視しているのが恥ずかしくなった・・・。何か顔が熱いな・・・)
自身の変化に戸惑いながらも、今は各国の戦争の理由について確認しなければと、頭を振って意識を切り替え、その調査書の内容をメグに聞く。
「それで、各国の戦争の理由はどんな事なの?」
「・・・え、えぇと、まず帝国についてですがーーー
メグから調査書の内容を聞くと、帝国は元来その国土の大半が鉱山や砂漠が多く、住むのに適した場所は少ないらしい。ただその為、鉱山物資は豊富で、武器などの品質は大陸随一と言われている。また、少ない土地に効率的に住居などの建物を建築する技術が発展しており、大きな建物に多数の家庭が住めるような建物が多くあるらしい。
しかしその反面、食料自給率が低く他国からの食料品の輸入に頼らなければ生活が危ぶまれるほどの状況なのだという。帝国の最大の食料輸入国は王国だが、近年食料を輸入する際の関税が引き上げられたこと、更に帝国から輸出している鉱山資源を安く買い叩かれるような状況に陥ってしまっているらしい。これは、食料という生きて行く上で欠かすことの出来ない物資を王国に握られているという見方ができるというのだ。
ーーーということで、帝国は王国の対応に不満を募らせていた結果、今回の宣戦布告に至ったのではないか、とのことです」
「やはり、戦争を起こすのはそれに足る理由があるのですね・・・。食料の事となると、一朝一夕で解決できる問題では無いでしょう・・・」
フリージアの言うことはもっともで、帝国の戦争を止めるには食料を何とかしなければならないし、王国に正当な価格で鉱山資源を購入するように約束させなければならない。では、王国側がもっと安価に食料を提供したり、鉱山資源の購入が出来ないのは何故かということなのだが・・・。
「では、続けて王国についてなのですがーーー
王国の内情については、近年スタンビートによる作物への多大な被害があり、例年に比べると食物の収穫量が3割ほど減っているのだという。元々王国は肥沃な大地が広がり、動物が多く生息する森林や草原等が多いので、食料自給率は極めて高いのだが、そういった場所には高位の魔獣が生息しやすく、その対応に経費が掛かってしまうらしい。また、王国は武器や魔具の製作といった技術力が他国と比べると2段階は落ちてしまうらしく、国力の増強を図るために他国の技術は喉から手が出るほど欲しいらしい。
つまり近年の帝国への食量の関税引き上げは、スタンビートによる被害のため。鉱山資源の安価での購入の強要は、魔獣を討伐するための装備の強化の為という面もあるのだろう。
ーーーということで、王国としては他国を侵略してでも技術を吸収して、自国を強化し、被害が出ている魔獣の討伐に力を注ぎたいということでしょう」
「確かに、魔獣の脅威が少なくなれば、その予算を他に回して王国を発展させたいという考えでしたわ。元々王国は、技術力の低さを嘆いていましたし・・・」
シャーロットは王派閥の内情にも詳しいのだろう、メグの調査書の推察を肯定していた。
(そう言えば、シャーロットは教会派閥のスパイとして、王派閥に潜り込んでいたんだっけ?詳しいわけだ。両親は大丈夫なのかな?)
ふと疑問が浮かんだが、今はそんなことを聞く雰囲気ではなかったので、後で聞くこととして、最後の公国について耳を傾ける。
「では最後に公国なのですがーーー
公国は500年前に起きた『神人』との争いの中、王国に手痛い裏切り行為を受けたのだという。その憎しみは500年もの間変わることなく国民の間に憎悪となって根付いてしまっているという事なのだそうだ。元々エルフである彼らの寿命は人間の10倍はある。500年前の出来事は人間にとっては遠い過去のおとぎ話のような事だが、エルフにとってはその時代を生きていた者は未だ多い。その為、憎しみは薄まることが無かったらしい。
更に、エルフは5人に1人程の確率でエルフ特有の病に掛かるらしいのだが、その治療にはエリクサーが必要らしい。その為、材料となるオーガの上位種の魔石が必要なのだが、その輸入国であった王国との協定が上手くいっておらず、その生息地である公国の国境付近の『魔の森』を領土としたい思惑も、今回の宣戦布告にはあったのではないかということだ。
ーーーということです。それに先に私が王国で捕まり、その・・・拷問されたということも今回の戦争が強行される一因だったかもしれません・・・」
そう言うとメグは、申し訳なさそうに下を向いてしまった。
「それはメグのせいじゃないよ!拷問なんて許せないことだし、メグがその事で責任を感じることなんて無いよ!」
「そうです!王国には王国の考えがあったかもしれませんが、だからといってそんな非道なことをして良いという理由にはなりません!
フリージアも憤慨やるせなしといった口調で王国の対応に憤っていた。
「ダリア、フリージアさん・・・ありがとうございます」
メグが顔を上げ感謝を伝えると、少ししんみりとした雰囲気になってしまった。そんな状況にシルヴィアは、場を明るくしようと声を掛ける。
「わ、私達にはダリア君がいるから大丈夫です!どんな問題が起こっても、どんな窮地に陥っても、ダリア君がいれば安心です!」
信頼してくれているのは嬉しいのだが、そこまで過剰に期待されてしまうと困ってしまう。特に今回の戦争の介入については、各国に様々な問題があるのでそれを全て根こそぎ解決するにはどうしたら良いかの考えは今のところ僕の頭の中には無い。
「シルヴィアさん、そんな言い方では全てダリア様におんぶに抱っこということになってしまいますわ。私達も自分の出来ることを考えて行動すべきですわ!」
シルヴィアの僕任せな発言をシャーロットが嗜めた。その言葉にシュンとしたシルヴィアは謝ってきた。
「ご、ごめんなさい。そんなつもりでは無かったんですが・・・」
「いいよ、ちょっと雰囲気が暗くなったから、気を使ったんでしょ?気にしてないから大丈夫だよ」
「あ、ありがとう、ダリア君」
「私もちょっと言葉が強かったようですわ。ごめんなさいねシルヴィアさん」
「いいえ、シャーロットさんの言うことはもっともですから。私達も出来ることは行動すべきですもんね!」
2人が和解したところで、メグが本題に戻る。
「では、問題点を纏めましょう。帝国は、食料問題と鉱山資源の売却価格。王国は、魔獣対策と技術力。公国は、500年前の歴史と魔石の入手経路の確立といったところでしょうか?」
メグが各国の問題点を分かりやすく列挙してくれた。今は何処から手を付けて良いかもわからない状況だが、みんなで考えを出し合えば、きっと良い考えが浮かぶはずだ。しかしーーー
「というか、そんなに公国の内情を僕達に話しちゃってもいいの?」
素朴な疑問だが、王女であるメグがそんなにペラペラと自国の事について話すことは大丈夫なのだろうか。
「問題ありません。公国とて全ての民が戦争に賛同しているわけではありません。話し合いで解決できるならそうすべきと考える者もいます」
つまりは、今回の情報収集に協力してくれているのは、そういった人達なのだろう。
「皆さん、情報も重要ですが、問題を解決するの知識も重要です。そこでマーガレット殿下、公国の図書館で書物を閲覧することは出来ませんか?」
フリージアは少し考え方を変えて、メグに対して知識を集めるため、図書館に行きたいと言ってきた。
「そうですね、皆さんを公国の民に目撃されると少々面倒ですので、こちらに書物を持ってきましょう。ダリア、お願いできますか?」
「もちろん!僕なら移動は一瞬だしね」
「どのような書物が必要かはメモに書いておいてください。私とダリアでその書物を取ってきます」
「分かりました。マーガレット殿下、ダリア君お願いします」
「では、明日から動くことにしましょう。今日はもう遅くなってしまったので、ゆっくり休んで、英気を養っておいてくださいね!」
メグが立ち上がりながらそう言うと、みんなも自分の部屋へと移動し始めた。僕は明日の事を考えて、試しに空間認識で公国の図書館周辺を確認しようと認識を広げた。
(・・・あれ?これは・・・)
広範囲にまで広げた空間認識に、ある友人が公国へ近づいている事が認識できた。
(何でティアが公国に?)
みんなは僕の服装を見て「きゃー!!」とか、「凄い!!」とか、「可愛い!!」と口々に囃し立ててきた。メグに至ってはフリージアに新しい書物を借りる約束をしていた。
最後の方には、いったいどれだけの衣装があるのかとゲンナリするほどの着替えに気疲れしてしまった。
途中何度も「僕がこれを着なくても良いんじゃないの?」と、みんなにも着ることを勧めたのだが、「これはダリア君だから良いんです!」とか、「ダメです!ダリアに限ります!」と真剣な目をしながら猛反対されてしまった。どうやらフリージアの趣味がみんなに伝染してしまったようだった。
女性陣は一通りファッションショーを見て満足したのか、2時間も過ぎる頃にようやくお開きとなった。メイドさんの淹れてくれた紅茶を飲みながら一息付くと、メグが真剣な表情で話し始めた。
「さて皆さん、今日は思いっきり遊んで気分をリフレッシュしましたが、私達のこれからの目的について確認しておきましょう」
「現状3か国による戦争になりつつあります。それを円満に阻止するということですね?」
フリージアがメグの言葉に、すかさず自分達のすべき行動を言ってきた。
「ですが、本当にそんなことが可能なのですか?それぞれの国の戦争をするだけの理由を取り除くというのは並大抵の事ではありませんわ!」
シャーロットは僕らの行動における問題点を指摘してきた。確かに他国へ戦争を仕掛けるのは、それ相応の理由や事情があったはずだ。その根本的な元凶を解決しなければ意味がないだろう。
「そこで情報がものを言います。我が公国はこう見えても情報収集において他国よりも頭一つ抜きん出ているんですよ?」
「そうなんだ?どうやっているの?」
そこまで公国の内情は知らなかったので、素直にメグに聞いてみた。
「さすがに詳しく話すことは出来ませんが、簡単に言うなら情報伝達手段がとても優れているということです」
さすがに公国の重要機密なのだろう。確かに他国で情報を入手したとしても、それを持ち帰る時間が相当掛かってしまっていては情報の価値が段々と下がっていってしまう。下手をすればせっかく得た情報も、手元に届く頃にはまったく役に立たないものに変化している可能性もある。王国で一般的なのは、伝令のための早馬を走らせるか、飛行する魔獣と契約した闇魔法師が情報を運ばせるのが一般的だ。ただ、それでも相応の時間は掛かってしまう。
「では、既にフロストル公国は、他国の戦争に至った動機まで把握しているということですか?」
「完全に、というわけではありませんが・・・」
そう前置きして、メグはテーブルに置いてあった魔具のボタンを押すと、セバスさんが直ぐにリビングに入ってきた。
「お呼びでございますか、殿下?」
「例の件、どこまで分かっていますか?」
「中間報告という格好になりますが、こちらを・・・」
セバスさんは懐から書類を取り出してメグに渡していた。
「ご苦労様。引き続きよろしくお願いしますね」
「畏まりました」
恭しく頭を下げたセバスさんは、リビングを退出した。
「マーガレット殿下、そちらは?」
フリージアが手渡されていた書類に視線を向けながら、メグに確認する。
「各国の戦争理由の調査書です。得られた情報を繋ぎ合わせて、そこから導き出された推察もありますが、ある程度の参考にはなると思います」
メグはいつの間にそんな指示を出していたのだろう。さすが一国の王女だけあって行動が素早い。感心しながらメグを見つめていると、不意に目が合い、ニコッと微笑み掛けられた。その様子に、不意に海での彼女達の姿を思い出してしまい、気恥ずかしくなって目を反らしてしまった。
(あれ?なんだろう?メグを直視しているのが恥ずかしくなった・・・。何か顔が熱いな・・・)
自身の変化に戸惑いながらも、今は各国の戦争の理由について確認しなければと、頭を振って意識を切り替え、その調査書の内容をメグに聞く。
「それで、各国の戦争の理由はどんな事なの?」
「・・・え、えぇと、まず帝国についてですがーーー
メグから調査書の内容を聞くと、帝国は元来その国土の大半が鉱山や砂漠が多く、住むのに適した場所は少ないらしい。ただその為、鉱山物資は豊富で、武器などの品質は大陸随一と言われている。また、少ない土地に効率的に住居などの建物を建築する技術が発展しており、大きな建物に多数の家庭が住めるような建物が多くあるらしい。
しかしその反面、食料自給率が低く他国からの食料品の輸入に頼らなければ生活が危ぶまれるほどの状況なのだという。帝国の最大の食料輸入国は王国だが、近年食料を輸入する際の関税が引き上げられたこと、更に帝国から輸出している鉱山資源を安く買い叩かれるような状況に陥ってしまっているらしい。これは、食料という生きて行く上で欠かすことの出来ない物資を王国に握られているという見方ができるというのだ。
ーーーということで、帝国は王国の対応に不満を募らせていた結果、今回の宣戦布告に至ったのではないか、とのことです」
「やはり、戦争を起こすのはそれに足る理由があるのですね・・・。食料の事となると、一朝一夕で解決できる問題では無いでしょう・・・」
フリージアの言うことはもっともで、帝国の戦争を止めるには食料を何とかしなければならないし、王国に正当な価格で鉱山資源を購入するように約束させなければならない。では、王国側がもっと安価に食料を提供したり、鉱山資源の購入が出来ないのは何故かということなのだが・・・。
「では、続けて王国についてなのですがーーー
王国の内情については、近年スタンビートによる作物への多大な被害があり、例年に比べると食物の収穫量が3割ほど減っているのだという。元々王国は肥沃な大地が広がり、動物が多く生息する森林や草原等が多いので、食料自給率は極めて高いのだが、そういった場所には高位の魔獣が生息しやすく、その対応に経費が掛かってしまうらしい。また、王国は武器や魔具の製作といった技術力が他国と比べると2段階は落ちてしまうらしく、国力の増強を図るために他国の技術は喉から手が出るほど欲しいらしい。
つまり近年の帝国への食量の関税引き上げは、スタンビートによる被害のため。鉱山資源の安価での購入の強要は、魔獣を討伐するための装備の強化の為という面もあるのだろう。
ーーーということで、王国としては他国を侵略してでも技術を吸収して、自国を強化し、被害が出ている魔獣の討伐に力を注ぎたいということでしょう」
「確かに、魔獣の脅威が少なくなれば、その予算を他に回して王国を発展させたいという考えでしたわ。元々王国は、技術力の低さを嘆いていましたし・・・」
シャーロットは王派閥の内情にも詳しいのだろう、メグの調査書の推察を肯定していた。
(そう言えば、シャーロットは教会派閥のスパイとして、王派閥に潜り込んでいたんだっけ?詳しいわけだ。両親は大丈夫なのかな?)
ふと疑問が浮かんだが、今はそんなことを聞く雰囲気ではなかったので、後で聞くこととして、最後の公国について耳を傾ける。
「では最後に公国なのですがーーー
公国は500年前に起きた『神人』との争いの中、王国に手痛い裏切り行為を受けたのだという。その憎しみは500年もの間変わることなく国民の間に憎悪となって根付いてしまっているという事なのだそうだ。元々エルフである彼らの寿命は人間の10倍はある。500年前の出来事は人間にとっては遠い過去のおとぎ話のような事だが、エルフにとってはその時代を生きていた者は未だ多い。その為、憎しみは薄まることが無かったらしい。
更に、エルフは5人に1人程の確率でエルフ特有の病に掛かるらしいのだが、その治療にはエリクサーが必要らしい。その為、材料となるオーガの上位種の魔石が必要なのだが、その輸入国であった王国との協定が上手くいっておらず、その生息地である公国の国境付近の『魔の森』を領土としたい思惑も、今回の宣戦布告にはあったのではないかということだ。
ーーーということです。それに先に私が王国で捕まり、その・・・拷問されたということも今回の戦争が強行される一因だったかもしれません・・・」
そう言うとメグは、申し訳なさそうに下を向いてしまった。
「それはメグのせいじゃないよ!拷問なんて許せないことだし、メグがその事で責任を感じることなんて無いよ!」
「そうです!王国には王国の考えがあったかもしれませんが、だからといってそんな非道なことをして良いという理由にはなりません!
フリージアも憤慨やるせなしといった口調で王国の対応に憤っていた。
「ダリア、フリージアさん・・・ありがとうございます」
メグが顔を上げ感謝を伝えると、少ししんみりとした雰囲気になってしまった。そんな状況にシルヴィアは、場を明るくしようと声を掛ける。
「わ、私達にはダリア君がいるから大丈夫です!どんな問題が起こっても、どんな窮地に陥っても、ダリア君がいれば安心です!」
信頼してくれているのは嬉しいのだが、そこまで過剰に期待されてしまうと困ってしまう。特に今回の戦争の介入については、各国に様々な問題があるのでそれを全て根こそぎ解決するにはどうしたら良いかの考えは今のところ僕の頭の中には無い。
「シルヴィアさん、そんな言い方では全てダリア様におんぶに抱っこということになってしまいますわ。私達も自分の出来ることを考えて行動すべきですわ!」
シルヴィアの僕任せな発言をシャーロットが嗜めた。その言葉にシュンとしたシルヴィアは謝ってきた。
「ご、ごめんなさい。そんなつもりでは無かったんですが・・・」
「いいよ、ちょっと雰囲気が暗くなったから、気を使ったんでしょ?気にしてないから大丈夫だよ」
「あ、ありがとう、ダリア君」
「私もちょっと言葉が強かったようですわ。ごめんなさいねシルヴィアさん」
「いいえ、シャーロットさんの言うことはもっともですから。私達も出来ることは行動すべきですもんね!」
2人が和解したところで、メグが本題に戻る。
「では、問題点を纏めましょう。帝国は、食料問題と鉱山資源の売却価格。王国は、魔獣対策と技術力。公国は、500年前の歴史と魔石の入手経路の確立といったところでしょうか?」
メグが各国の問題点を分かりやすく列挙してくれた。今は何処から手を付けて良いかもわからない状況だが、みんなで考えを出し合えば、きっと良い考えが浮かぶはずだ。しかしーーー
「というか、そんなに公国の内情を僕達に話しちゃってもいいの?」
素朴な疑問だが、王女であるメグがそんなにペラペラと自国の事について話すことは大丈夫なのだろうか。
「問題ありません。公国とて全ての民が戦争に賛同しているわけではありません。話し合いで解決できるならそうすべきと考える者もいます」
つまりは、今回の情報収集に協力してくれているのは、そういった人達なのだろう。
「皆さん、情報も重要ですが、問題を解決するの知識も重要です。そこでマーガレット殿下、公国の図書館で書物を閲覧することは出来ませんか?」
フリージアは少し考え方を変えて、メグに対して知識を集めるため、図書館に行きたいと言ってきた。
「そうですね、皆さんを公国の民に目撃されると少々面倒ですので、こちらに書物を持ってきましょう。ダリア、お願いできますか?」
「もちろん!僕なら移動は一瞬だしね」
「どのような書物が必要かはメモに書いておいてください。私とダリアでその書物を取ってきます」
「分かりました。マーガレット殿下、ダリア君お願いします」
「では、明日から動くことにしましょう。今日はもう遅くなってしまったので、ゆっくり休んで、英気を養っておいてくださいね!」
メグが立ち上がりながらそう言うと、みんなも自分の部屋へと移動し始めた。僕は明日の事を考えて、試しに空間認識で公国の図書館周辺を確認しようと認識を広げた。
(・・・あれ?これは・・・)
広範囲にまで広げた空間認識に、ある友人が公国へ近づいている事が認識できた。
(何でティアが公国に?)
0
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。
暇野無学
ファンタジー
馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。
テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。
無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。
名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。
神仏のミスで地獄に落ちた社畜。モンスターが跋扈する異世界に転生する~地獄の王の神通力を貰ったのでSS級降魔師として、可愛くて名家の許嫁ハーレ
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
暴漢を成敗したのに地獄落ち、ざけんなや悪役やんけドブカスが
暴漢と一緒にトラックに轢かれたことで血肉と魂が入り混じり、穢れを纏ってしまったた男は、超越者たる神仏の提案で魑魅魍魎が跋扈する異世界で妖怪を倒し神仏の威光を知らしめろと命令される。
保障をしろとごねたところ地獄の王の神通力を貰い異世界に転生する。
しかし、そこは人気ラノベの世界によく似ていて……非術師と女を差別する悪役通称ドブカス野郎こと『吉田勇樹』に転生していた。
名前と世界は似ていているだけど、悪いことをしなければいいだけだと思いいたり勇樹は精一杯この世界を生きていく……
しかし、勇樹の霊力は神の使いや仙人を軽く凌駕し……降魔師協会を含め霊力が低下している世界中から注目を集め、名家の令嬢、金髪巨乳の魔女など世界中から嫁候補が日本に集まってくる。
善行で死んだ男の楽しいセカンドライフはここから始まる
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
もういらないと言われたので隣国で聖女やります。
ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。
しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。
しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる