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第八章 戦争 編
戦争介入 2
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◆
side ヴァネッサ・フロストル
オーガンド王国との戦争に向けた会議中に伝令が駆け込んで来て、私に小さく耳打ちをして来た。
「何っ!?マーガレットが!?・・・皆、すまないが会議は一時中断とする!」
伝令の報告に席を立ち上がる。そんな私に大臣達は驚きの表情と共に、何があったのか確かめようと聞いてくる。
「陛下、もしやマーガレット殿下が戻られたのですか?」
いの一番に声を上げたのは、宰相のヴィクターだった。
「ええ、無事だと言うことですが、まずはこの目で確認したいのです!それにずっと連絡がなく、今日になって急に首都に来たというのも疑問があります。本来なら国境の検問所で確認されれば直ぐに連絡が来るようにしていたのに・・・。あの子からは色々聞いておかねばならない事があるでしょう」
「畏まりました。陛下の考えの通りだと私も思います。して、我々は2時間ほど時間を貰えばよろしいでしょうか?」
「ええ、そうして下さい!」
宰相の私の思考を読み取ったような対応で、大臣達は納得顔になって席を外した。私も伝令に来た騎士と場所を変える。ただ、その移動中騎士から眉をひそめる報告ももたらされた。
「陛下、実はお戻りになったのは殿下だけではございません」
「どういう事です?潜入していたシエスタも一緒と言うことですか?あの者とも連絡は取れなくなっていましたが・・・」
「ええ、確かにシエスタも同行しておりましたが、問題は・・・」
勿体ぶったような騎士の言い方に訝しげな視線を乗せ、聞きただす。
「何です?はっきり言いませんか!」
「はっ!実はダリア・タンジーも一緒におります」
「・・・なにっ!!何故彼が!?」
「申し訳ございません!そこまではまだ。それに、どうやら殿下のご学友らしき者達も一緒でして・・・」
騎士の報告に私の頭はますます混乱していく。100歩譲って、王国を出る際に何かトラブルがあり、それの解決に彼が尽力して一緒にここまで来たなら分からなくもないが、他の友人まで一緒となれば意味がわからない。しかし、もっと懸念すべき事もある。今回の王国への宣戦布告には求心力の回復と言う目的も含まれている。もし彼が今回の戦争に積極的に関わってくるとなると、その目論見が水泡に帰すこともありうる。
「仕方ないですね。本人に聞いた方が早いでしょう」
私は娘と会い、状況を確認するため、謁見の間へと急ぐのだった。
◇
久しぶりに訪れた公国の王城は以前と比べると雰囲気が違っていた。前回はなんだかゆったりとした時間の流れが感じられるような感じだったが、今は周りに行き交うメイドさんや騎士達が忙しそうにしているからだろう。
(まぁ、王国と戦争直前の状況だから、それも仕方ないか。でも、なんで急に戦争なんて?メグが王国に囚われて、酷い扱いを受けていたから、それに対する報復かな?)
政治的な思惑なんて分からない僕にとっての精一杯の想像はこんなところだ。公国の思惑をそのくらいの事でしか推察出来ないので、帝国の思惑なんて全く分からない。
通された部屋でそんなことを考えながらミーシャさんとシエスタさんが淹れてくれた紅茶を啜っていると、フリージアが僕の収納した荷物について聞いてきた。
「ダリア君?ちょっといい?」
「はい、何ですか?」
「もしかすると、このあと公国の女王陛下に謁見するかもしれないので、正装に変えようと思うのだけど、私の荷物を出してくれないですか?」
「あ、そうですね。分かりました、ちょっと待ってください」
広い部屋なので問題ないが、みんなから少し離れて次々にフリージアの荷物を取り出した。僕では中に何が入っているのか分からないので、とりあえず全て出しておく。
「ありがとうございます!本当に便利な魔法ですね。まさかこんなにも荷物を運べるなんて思いませんでした。大事な服を置いてきてしまうのは憚られたのですが、持ってこれて良かったです!」
「大した労力でもないから大丈夫だよ」
フリージアは一つのトランクを持ち上げてメグに質問した。
「すみませんマーガレット殿下、着替えが出来るところはありますか?」
「それなら、そこの扉の先は衣装部屋として使えるようになっているので、好きに使ってもらっていいですよ」
メグは、部屋の奥にある扉を指差してそう説明した。
「ありがとうございます。シルヴィアさんは着替えはありますか?」
「わ、私ですか?そんな女王様と謁見するような服なんて持っていなくて・・・」
「でしたら私の服をお貸ししますので、一緒に着替えましょう」
「い、良いのですか?」
「当然ですよ。シャーロットさんもそれで良いですか?」
「はい、勿論ですわ」
3人は重そうなトランクを持ってその部屋に入っていった。すると、フリージアだけひょこっと扉から顔を出し、僕を見つめながら眩しい位の笑顔でこう言ってきた。
「ダリア君のお着替えもちゃんと持ってきていますから、お時間が出来たら着てくださいね!」
僕の返事を聞く前に扉を閉めてしまったが、その瞬間にシルヴィアが「それってもしかして例の!?」と言う凄く弾んだ声が聞こえてきたのだった。
(もしかしてフリージア、この荷物の中に以前僕に着せたあの服を・・・?)
そう考えると若干気が重くなる。正直あれは女の子の服だと思うのだが、フリージアは頑として、「これは男の娘の服なんです!」と認めなかった。その時の「男の子」の発音が少し変に感じたのだが、フリージアはただニコニコしているだけだった記憶がある。
「ふふふ、私もダリアの『男の娘』ファッションには興味あります」
この場に残ったメグが僕にそう言ってきたが、やはり「男の子」の言葉の感じが変に感じる。
「ねぇ、その『男の子』って男って意味だよね?」
「勿論です!私もフリージアさんから本を借りて勉強しました!『男の娘』は『男の娘』ですよ!」
熱意の籠った表情で語るメグに不安を覚えつつ、着替えが終わるのを待つのだった。
みんなの着替えも終わり、部屋から出てくると、みんな薄い色使いの綺麗なドレス姿だった。しかも、それぞれの髪の色に合わせているらしく、フリージアは薄い水色、シャーロットは薄い黄色、シルヴィアは薄い桃色だった。
「みんなとてもよく似合っているね!可愛いよ!」
そのドレス姿に率直な感想を言うと、みんな笑顔で喜んでくれた。以前は、師匠に女性は褒めた方が良いと言われてそうしていたが、今は特に意識すること無く、すんなりと言葉が出るようになっていた。
「ありがとうございます、ダリア君」
「あ、ありがとう」
「ふふ、ありがとうございますダリア様」
3人の着替えが終わったところで、僕も着替えた方が良いだろうと衣装部屋へ入ろうとすると、何故かメグも一緒に入ろうとしてきた。
「あの?僕も着替えようと思ったんだけど・・・?」
「ええ、私も着替えようかと」
「・・・・・・?」
「さっ、私がダリアの衣装を見立てますから、一緒にーーー」
「「ちょっと待って下さい!!」」
しれっと一緒に着替えようとしていたメグに、みんなから一斉に待ったが掛かる。さすがに男の僕の着替えに入ってこようとしているメグを看過できないのだろう。僕としても一緒に着替えるのは恥ずかしいので、ありがたかった。ただ、みんなの口からは思っていたことと違う言葉が出てきた。
「「私も一緒に見立てます!」」
「・・・・・・」
みんな冗談を言っているような目をしていなかったので、僕は静かに衣装部屋に入り、念の為に〈空間断絶〉で扉を封印しておいた。すると扉の外からみんなの呼び掛ける声が聞こえる。
「ダリア君~?私達が選んだ方が良いんじゃないかな?」
「私はこれでも王女ですから、公国の格式に合った服を選ぶのは得意なんですよ?」
「私はダリア君にピッタリの衣装も持ってきていますよ?」
これはいつかフリージアの家で経験した、着せかえ人形のような扱いを受けそうだったので、丁重にお断りしておく。
「あ、あの、大丈夫!前に公国の式典で着たやつと一緒だから!」
「「「え~!!ダメだよちゃんと選ぼうよ!」」」
「いや、本当に大丈夫だから!」
しばらくの押し問答の末、ようやく静かになってさっさと着替えを済ますのだった。その後、メグも着替え終わりみんなと少し談笑をしていると、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
メグが返答し、シエスタさんが扉を開けると、一人の執事が立っていた。
「あっ!サジルさん!」
見知った顔を見て、反射的に言葉を掛けた。
「これはダリア殿、お久しぶりでございます。お元気そうでなによりです。殿下、只今女王陛下の準備が整いましたので、お呼びに馳せ参じました」
「ご苦労様。思ったよりも早かったですね。ではみんな、行きましょう」
メグが席を立ち、それにつられて僕達も執事のサジルさんの案内のもと、謁見の間へと案内された。豪奢な扉が重々しく開くと、いつか見た景色と同じ豪華な内装の謁見の間がそこにはあった。そして、その奥の壇上の一際豪華な椅子に腰かけている女王の姿が目に入った。
「久しいですね、ダリア・タンジー殿」
side ヴァネッサ・フロストル
オーガンド王国との戦争に向けた会議中に伝令が駆け込んで来て、私に小さく耳打ちをして来た。
「何っ!?マーガレットが!?・・・皆、すまないが会議は一時中断とする!」
伝令の報告に席を立ち上がる。そんな私に大臣達は驚きの表情と共に、何があったのか確かめようと聞いてくる。
「陛下、もしやマーガレット殿下が戻られたのですか?」
いの一番に声を上げたのは、宰相のヴィクターだった。
「ええ、無事だと言うことですが、まずはこの目で確認したいのです!それにずっと連絡がなく、今日になって急に首都に来たというのも疑問があります。本来なら国境の検問所で確認されれば直ぐに連絡が来るようにしていたのに・・・。あの子からは色々聞いておかねばならない事があるでしょう」
「畏まりました。陛下の考えの通りだと私も思います。して、我々は2時間ほど時間を貰えばよろしいでしょうか?」
「ええ、そうして下さい!」
宰相の私の思考を読み取ったような対応で、大臣達は納得顔になって席を外した。私も伝令に来た騎士と場所を変える。ただ、その移動中騎士から眉をひそめる報告ももたらされた。
「陛下、実はお戻りになったのは殿下だけではございません」
「どういう事です?潜入していたシエスタも一緒と言うことですか?あの者とも連絡は取れなくなっていましたが・・・」
「ええ、確かにシエスタも同行しておりましたが、問題は・・・」
勿体ぶったような騎士の言い方に訝しげな視線を乗せ、聞きただす。
「何です?はっきり言いませんか!」
「はっ!実はダリア・タンジーも一緒におります」
「・・・なにっ!!何故彼が!?」
「申し訳ございません!そこまではまだ。それに、どうやら殿下のご学友らしき者達も一緒でして・・・」
騎士の報告に私の頭はますます混乱していく。100歩譲って、王国を出る際に何かトラブルがあり、それの解決に彼が尽力して一緒にここまで来たなら分からなくもないが、他の友人まで一緒となれば意味がわからない。しかし、もっと懸念すべき事もある。今回の王国への宣戦布告には求心力の回復と言う目的も含まれている。もし彼が今回の戦争に積極的に関わってくるとなると、その目論見が水泡に帰すこともありうる。
「仕方ないですね。本人に聞いた方が早いでしょう」
私は娘と会い、状況を確認するため、謁見の間へと急ぐのだった。
◇
久しぶりに訪れた公国の王城は以前と比べると雰囲気が違っていた。前回はなんだかゆったりとした時間の流れが感じられるような感じだったが、今は周りに行き交うメイドさんや騎士達が忙しそうにしているからだろう。
(まぁ、王国と戦争直前の状況だから、それも仕方ないか。でも、なんで急に戦争なんて?メグが王国に囚われて、酷い扱いを受けていたから、それに対する報復かな?)
政治的な思惑なんて分からない僕にとっての精一杯の想像はこんなところだ。公国の思惑をそのくらいの事でしか推察出来ないので、帝国の思惑なんて全く分からない。
通された部屋でそんなことを考えながらミーシャさんとシエスタさんが淹れてくれた紅茶を啜っていると、フリージアが僕の収納した荷物について聞いてきた。
「ダリア君?ちょっといい?」
「はい、何ですか?」
「もしかすると、このあと公国の女王陛下に謁見するかもしれないので、正装に変えようと思うのだけど、私の荷物を出してくれないですか?」
「あ、そうですね。分かりました、ちょっと待ってください」
広い部屋なので問題ないが、みんなから少し離れて次々にフリージアの荷物を取り出した。僕では中に何が入っているのか分からないので、とりあえず全て出しておく。
「ありがとうございます!本当に便利な魔法ですね。まさかこんなにも荷物を運べるなんて思いませんでした。大事な服を置いてきてしまうのは憚られたのですが、持ってこれて良かったです!」
「大した労力でもないから大丈夫だよ」
フリージアは一つのトランクを持ち上げてメグに質問した。
「すみませんマーガレット殿下、着替えが出来るところはありますか?」
「それなら、そこの扉の先は衣装部屋として使えるようになっているので、好きに使ってもらっていいですよ」
メグは、部屋の奥にある扉を指差してそう説明した。
「ありがとうございます。シルヴィアさんは着替えはありますか?」
「わ、私ですか?そんな女王様と謁見するような服なんて持っていなくて・・・」
「でしたら私の服をお貸ししますので、一緒に着替えましょう」
「い、良いのですか?」
「当然ですよ。シャーロットさんもそれで良いですか?」
「はい、勿論ですわ」
3人は重そうなトランクを持ってその部屋に入っていった。すると、フリージアだけひょこっと扉から顔を出し、僕を見つめながら眩しい位の笑顔でこう言ってきた。
「ダリア君のお着替えもちゃんと持ってきていますから、お時間が出来たら着てくださいね!」
僕の返事を聞く前に扉を閉めてしまったが、その瞬間にシルヴィアが「それってもしかして例の!?」と言う凄く弾んだ声が聞こえてきたのだった。
(もしかしてフリージア、この荷物の中に以前僕に着せたあの服を・・・?)
そう考えると若干気が重くなる。正直あれは女の子の服だと思うのだが、フリージアは頑として、「これは男の娘の服なんです!」と認めなかった。その時の「男の子」の発音が少し変に感じたのだが、フリージアはただニコニコしているだけだった記憶がある。
「ふふふ、私もダリアの『男の娘』ファッションには興味あります」
この場に残ったメグが僕にそう言ってきたが、やはり「男の子」の言葉の感じが変に感じる。
「ねぇ、その『男の子』って男って意味だよね?」
「勿論です!私もフリージアさんから本を借りて勉強しました!『男の娘』は『男の娘』ですよ!」
熱意の籠った表情で語るメグに不安を覚えつつ、着替えが終わるのを待つのだった。
みんなの着替えも終わり、部屋から出てくると、みんな薄い色使いの綺麗なドレス姿だった。しかも、それぞれの髪の色に合わせているらしく、フリージアは薄い水色、シャーロットは薄い黄色、シルヴィアは薄い桃色だった。
「みんなとてもよく似合っているね!可愛いよ!」
そのドレス姿に率直な感想を言うと、みんな笑顔で喜んでくれた。以前は、師匠に女性は褒めた方が良いと言われてそうしていたが、今は特に意識すること無く、すんなりと言葉が出るようになっていた。
「ありがとうございます、ダリア君」
「あ、ありがとう」
「ふふ、ありがとうございますダリア様」
3人の着替えが終わったところで、僕も着替えた方が良いだろうと衣装部屋へ入ろうとすると、何故かメグも一緒に入ろうとしてきた。
「あの?僕も着替えようと思ったんだけど・・・?」
「ええ、私も着替えようかと」
「・・・・・・?」
「さっ、私がダリアの衣装を見立てますから、一緒にーーー」
「「ちょっと待って下さい!!」」
しれっと一緒に着替えようとしていたメグに、みんなから一斉に待ったが掛かる。さすがに男の僕の着替えに入ってこようとしているメグを看過できないのだろう。僕としても一緒に着替えるのは恥ずかしいので、ありがたかった。ただ、みんなの口からは思っていたことと違う言葉が出てきた。
「「私も一緒に見立てます!」」
「・・・・・・」
みんな冗談を言っているような目をしていなかったので、僕は静かに衣装部屋に入り、念の為に〈空間断絶〉で扉を封印しておいた。すると扉の外からみんなの呼び掛ける声が聞こえる。
「ダリア君~?私達が選んだ方が良いんじゃないかな?」
「私はこれでも王女ですから、公国の格式に合った服を選ぶのは得意なんですよ?」
「私はダリア君にピッタリの衣装も持ってきていますよ?」
これはいつかフリージアの家で経験した、着せかえ人形のような扱いを受けそうだったので、丁重にお断りしておく。
「あ、あの、大丈夫!前に公国の式典で着たやつと一緒だから!」
「「「え~!!ダメだよちゃんと選ぼうよ!」」」
「いや、本当に大丈夫だから!」
しばらくの押し問答の末、ようやく静かになってさっさと着替えを済ますのだった。その後、メグも着替え終わりみんなと少し談笑をしていると、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
メグが返答し、シエスタさんが扉を開けると、一人の執事が立っていた。
「あっ!サジルさん!」
見知った顔を見て、反射的に言葉を掛けた。
「これはダリア殿、お久しぶりでございます。お元気そうでなによりです。殿下、只今女王陛下の準備が整いましたので、お呼びに馳せ参じました」
「ご苦労様。思ったよりも早かったですね。ではみんな、行きましょう」
メグが席を立ち、それにつられて僕達も執事のサジルさんの案内のもと、謁見の間へと案内された。豪奢な扉が重々しく開くと、いつか見た景色と同じ豪華な内装の謁見の間がそこにはあった。そして、その奥の壇上の一際豪華な椅子に腰かけている女王の姿が目に入った。
「久しいですね、ダリア・タンジー殿」
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