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黒蓮

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第七章 神人 編

オーガンド王国脱出 12

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 シルヴィアもフロストル公国へ行くことになり、急いで彼女の身の回りの物を収納していく。正直、そんなに短時間で人生の重要な選択をして良いのかとも思ったが、彼女の目には不退転の決意が籠っているようで、その決意を疑うのは彼女に対して失礼だと考えた。それに、新天地に行くにしても、友人が沢山居た方が楽しい。

 彼女に誰か親しい人に挨拶はしないのかと聞くと、特に居ないと言われてしまった。そこで彼女自身について詳しく話を聞くことをしていなかったと気付き、今度の事が落ち着いたら、みんなの事や自分についての事を話そうと思った。

 みるみる内に物が収納によって消えていく様に、最初は驚いていた2人も、次第に慣れて、今はポンポン物を放り込んでいる。鞄に荷物を詰め込む様な荷造りの必要のない準備は5分程で終わり、2人部屋の片側はガランとしてしまっていた。


 そして、僕の部屋に戻ると、シルヴィアを連れていることに学園長は少し驚きはしたものの、直ぐに納得顔になって彼女に2、3話しをしていた。それに彼女はうんうんと頷き、学園長に感謝しているようだった。


「メグやシエスタさんは準備良いですか?」

「大丈夫です」

「元より私達の荷物は王国に没収されてしまいましたから、何もありませんので大丈夫ですよ」

 シエスタさんに言われて、それはそうだと苦笑いした。僕は元々自分の部屋にそれほど物を出していなかったので、追加で出したベッドと、多少の衣服を収納して僕の準備も終わった。

 シルヴィアとの話が終わった学園長が、顎が外れそうな位口を開けてその光景を見ていて、何か言いたそうだったが、時間が無い為かぐっと我慢していた。みんなの準備も終わり、最後に学園長に挨拶する。

「学園長、短い間でしたがお世話になりました!」

「今度会う時は、お前さんは英雄になっているかもしれないね・・・」

 学園長はなにか達観したような表情で、僕を見ながらしみじみと言ってきた。そんな言葉に愛想笑いをしながら、空間転移する為みんなに近寄ってもらう。メグとシルヴィアは、僕の腕を抱え込むように抱きつき、シエスタさんは僕の背後で裾を摘まむようにしている。メグとシルヴィアについてはそこまで近づかなくても大丈夫なのだが、時間もないのでそのままにした。

「じゃあ学園長、またいつか会いましょう!」

「色々ご迷惑を掛けました。失礼いたします!」

「学園長、ありがとうございました!」

「あぁ、元気でね!」

 みんなが口々に別れを告げると、僕は空間転移をして学園を去った。


 空間転移を繰り返しながら、誰にも見つからないように上級貴族街の教会へ戻る。事前に話していた通り、教会の裏手に大きな馬車が用意されていた。そこに見張りのように2人の聖騎士がいた。

「お待たせしました」

「っ!!な、だ、誰・・・ダリア殿でしたか。驚かせないで下さい」

 急に目の前に現れた僕に驚いた騎士は、僕と分かるとほっとした様に胸を撫で下ろした。メグとシルヴィアは、さすがに他人に見られるのは恥ずかしいのか、聖騎士がいると分かると直ぐに僕の腕を離して、適当な距離をとった。それでも少し動けば肩が触れるくらいは近い。

「この後フリージア様を迎えにいくのですが、ちょっと人数が増えまして、全員で6人なのですが・・・馬車は大丈夫そうですかね?」

見たところ用意されている馬車は、5、6人が余裕で乗れそうな外観だが、実際のところは分からないので聞いてみた。

「ろ、6人ですか・・・少々荷物がありまして。それを整理すれば狭いながらもなんとか乗れるかもしれません」

 歯切れの悪い騎士の答えに疑問を持ちながら、実際中を見た方が早いと思い馬車の扉を開けて中を覗き込むと、スペースの半分が荷物で埋まっており、4人乗るのが精一杯といった感じだった。

「・・・なるほど。女性の荷物は多いですもんね」

 シルヴィアの荷物を収納している時にも思ったのだが、女性はやたらと服が多くて大変だった。しかも、小物や化粧品もあるらしく、シルヴィアはどれを持って行こうか悩んでいたほどだった。

僕が「収納するから全部良いよ」と言うと、とたんに笑顔になっていた。フリージア様も例に漏れず大量の衣服を持っていくのだろう。

「この荷物は僕が収納してしまいますね」

そう言い、中に入っていた全ての荷物を収納すると、本来のスペースは6人が余裕をもって座れるくらい広かったらしい。

「なっ!?き、消えた!!?ダリア殿、一体荷物はどこへ?」

「僕が持っていますから大丈夫ですよ。それより御者は誰が?」

驚く聖騎士を嗜め、大事なことを聞いておく。

「は、はい。シャーロット様が出来るらしく、彼女が御者をすると聞いております」

それを聞いて、上級貴族の令嬢なのにそんなに多芸なのかと感心した。

「分かりました。ただ、見たところ牽くのは普通の馬のようなので、僕の召喚獣に馬具を換装しておいてもらって良いですか?」

 さすがに普通の馬では時間もかかるし、追手が来ると追い付かれて面倒になると思ったので、牽く動物を変えようと考えた。

「かしこまりました。どのような使い魔ですか?」

「あっ、今召喚しますね」

みんなから少し離れて召喚句を詠唱する。

『我の求めに答えよ。契約の名の元に現れ出でよ。その名はフェンリル!』

『アオーーン!!』

 フェンリルの速さなら、例えスレイプニルでも追い付けることは出来ないだろう。力もあるので、馬車を牽いても問題ないはずだ。

「この子と馬車を繋いでおいてください。とりあえず不格好でもなんでも構いませんのでお願いします」

そう聖騎士にお願いしたのだが、彼らは尻餅を着きながら遠ざかっていた。

「フェ、フェンリル!!じょ、上級魔獣ではないですか!だ、大丈夫なのですか?」

「もちろん大丈夫ですよ!僕の契約魔獣なんですから」

フェンリルは僕に擦り寄り頭を下げてきたので、その頭を軽く撫でてやる。

『グルルル』

僕が撫でてやると、まるで猫が喉を鳴らしているようだった。

「ほ、本当に大丈夫そうですね。分かりました、直ぐに準備いたしますので、ダリア殿はフリージア様達をお願いします。先ほどの部屋に来て欲しいとの伝言を預かっております!」

 召喚した魔獣が無害だと分かると、聖騎士はすくっと立ち上がって、僕に敬礼しながら伝言を伝えてくれた。

「分かりました、お願いします。メグ、シルヴィア、シエスタさんはここで待っていて。なるべく早く戻るから」

「ダリア、気を付けてください!」

「ダリア君、気を付けてね!」

 2人の心配そうな声を背に、教会内へと入って行く。

(さて、これからフリージア様を攫わなきゃな!)

 僕が到着したことを伝えようと、伝言通りに先程いた部屋へ向かおうとしたのだが、なにやら教会の門の辺りが騒がしい。

(なんだ?)

 空間認識を展開してみると、門には先ほどからいる騎士の一団とは別に、もう一団が接近しつつあった。同時に、フリージア様達が部屋から門へと移動しているのを認識した。

(何か想定外の事が起こったかもしれないな。僕の仕事はフリージア様を攫って、シャーロット様とこの国を出れば良いから・・・)

 そう考えて、先にシャーロット様がまだ部屋に残っていたので、急ぐために直接部屋に〈空間転移テレポート〉した。

「きゃっ!!誰!?」

 どうもこの移動方法はあまり良くないのか、先ほどから移動先のみんなを驚かせてしまっている。

(今後は人の居ない場所に現れてから姿を見せるようにしよう)

 この移動方法のあり方を考え直したが、今は非常時なので勘弁して欲しい。

「すみませんシャーロット様、驚かせちゃいました」

「ダ、ダリア様でしたか。その、凄い能力とは思いますが、出来ればもっと考えて現れてくださいね」

案の定彼女から苦言を呈されてしまった。

「本当にすみません。ところで、フリージア様達はどうしたんですか?」

「あっ、そうでした!大変なんです!実は見張りから第一騎士団の団長が来ていると報告がありまして、フリージア様達は急いで門に向かったのです!」

「第一騎士団団長ですか・・・?」

 焦った口調で話してくるシャーロット様に、その理由が分からず首を傾げてしまう。

「もしかしてご存じありませんか?」

「はぁ、何をでしょうか?」

「王国の第一騎士団団長は、現在この国でたった一人の【剣聖】の才能へ至った人物です」

 どうやらすんなりと王国を脱出させてはくれないようだった。
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