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第七章 神人 編
オーガンド王国脱出 5
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◆
side ジョゼフ・ウル・オーガンド
「なにっ!!?王女に逃げられただと!?」
見張りを担当していた騎士が、怯えるような表情で聞き捨てならない報告をしてきた。
「はっ!も、申し訳ございません!」
「言い訳などよい!貴様、責任を取る覚悟は出来ているのであろうな?」
「そ、それは・・・」
直ぐにでもその場で自害させようと命令を出そうとしたが、宰相が待ったを掛ける。
「陛下、お待ちを。それでは彼らから情報が聞き出せません」
「ふん。情報など、あの女が逃げたと言うこと以外に必用な情報があるのか?」
「勿論でございます。問題は誰が手引きしたか、ということです」
宰相の言葉はもっともだ、牢に囚われていたあの女が自分で逃げられる訳がない。なにせ、両手足の骨を砕いておいたのだから。
「・・・そうだな。おい、一体誰があの女を逃がした?」
「も、申し訳ございません!それらしい人物はおらず、私どもが持ち場を離れた隙に姿を消してしまっておりまして・・・」
「なに~!どう言うことだそれは!!?」
騎士のあまりの返答に怒りで顔が赤くなるのが分かる。
「そ、それが、新人のメイドが連絡に来て、宰相に呼ばれているから直ぐに来いと・・・何かの命令があると思い急いで移動したのですが・・・」
「残念ながら私はそんな命令をしていませんね」
騎士の言葉を宰相が否定する。
「つまり、そのメイドが手引きしたということか!そやつはどこだ?」
「そ、それが、公国の王女共々姿を消しまして・・・」
「何だと!!宰相!もうこ奴らから聞くことは無いな!?」
「はい、ございません」
「では、情報の褒美と見張りの責務を放棄した罪で、余が直々に手を下してやろう」
そう言って、玉座の横に立て掛けられている剣の柄を握り、鞘から抜き放つ。
「お、お待ち下さい!我々はーーー」
「言い訳などよいわっ!」
土下座しながら、なおも言い募る2人の騎士の首を切り落とす。部屋が血で汚れてしまったが、後処理はいつもの事だ。宰相が持っている鈴を鳴らすと、数人のメイドと屈強な下男が入ってきた。
「いつものように後処理を」
「「はっ!」」
宰相の言葉にテキパキと掃除をしていき、騎士の亡骸は下男がどこかへと持ち去っていく。やがて綺麗になった部屋で今後について宰相と話し合う。
「それで、どうする?さすがにこの失態は看過できんぞ?」
「はっ!今回の一件、おそらくあのメイドでは無理でしょう」
「そんなことは分かっておる。共犯者が居るはずだ。だが・・・」
「はい、魔法も無しに見張りや門番の目を誤魔化すのは不可能です。しかし、彼らが買収されたといった事もありませんでした」
さすがに宰相はその可能性も考えて、既に調査を終えているようだ。
「では、魔具か何かを使って誰にも見られずに逃げたと?」
「それも可能性としてありますが、もう一つ考えられることがあります」
「ほう?何だ?申してみよ」
「はっ!実はこれと似たような事が以前起きておりまして。魔力探知に反応せず、誰に見つかることもなく貴族の一家が消え去ったと」
「ほう、暗殺でもされたというのか?」
「いえ、痕跡がまるでなかったのです。誰かが死んだ痕跡も、逃げた痕跡も。まるでそこに住む人だけが綺麗に消えていたのです」
「・・・どういうことだ?」
「真相は今もって不明なのですが、その事件の一番の容疑者だったのが、今日の式典に来ていたダリア・タンジーなのです」
「ふむ、容疑者ということはそれなりに証拠があったのか?」
「いえ、状況証拠だけでして、確証はありませんでした。しかし、これまでの彼の活躍の報告を見ると、彼ならばこんなことも可能なのではないかと、今は思っております」
「【看破】の才能を持つ審議官を向かわせなかったのか?」
「まさかまさか。審議官を向かわせ、偽りなしとなったのです」
「ふむ、では何故それほどまでに疑うのだ?」
【看破】によって無罪が証明されたのなら、そやつは白ということになるのだが、宰相は納得がいっていないようだ。
「それが、その審議官は教会派閥の息が掛かった者でして・・・」
「なるほどな。今回の演説の一件といい、教会派閥も一枚噛んでいるというわけか」
「確証はありませんが、その可能性が高いです」
平民の息抜きのためにと助言されて作った改革派閥だったが、大きくなり過ぎ、さらには教会派閥と合流するとなると少し面倒なことになってしまう。
「・・・ではそろそろゴミ共を一掃するべきか」
「仰る通りで。既に王派閥に入り込んでいるネズミにも見当は付けておりますので、ご命令あらばいつでも」
「ふっ、仕事が早いな」
「当然でございます」
「ふふふ、確かお前の家には16になる娘が居たか・・・第二王子との婚姻が狙いか?」
宰相は優秀な男だ。それと同時に、家が繁栄するための野心も持っている。当然そんな事は見抜いているし、宰相も私に知られていると分かっているだろう。
だが、それが逆に信頼関係へと繋がっていると考えている。有能な働きには相応の見返りを出すことで、自身の立場はより確固としたものになり、未来永劫の繁栄に繋がるのだ。彼は歴代当主の中でも英雄的な扱いになるのを望んでいるのだろう。
「やや、そんな滅相もございません。ですが、そうであるならば、より一層の忠誠と働きを誓いましょう」
「ふふふ、喰えん男だ。良いだろう。この一件が終り次第、貴殿の娘と第二王子との婚約を発表しよう」
「ははっ!ありがたき幸せに存じます」
宰相は大袈裟に頭を下げて感謝してきた。演技だと分かっていても悪い気はしなかった。
「さて、お前の事だ、この後の行動も既に考えあっての事だろう?」
「陛下には敵いませんな。教会派閥、改革派閥、公国の王女、そして王派閥のネズミの処理と一掃する良い案がございます」
「ほう、聞こうではないか」
「では、まずーーー
それから、いくつかの行動の内容を宰相と煮詰めて、関係閣僚や騎士団を呼び出し、敵対する相手勢力に時間を与えること無く行動に移るのだった。
◇
メグを救出した翌日の早朝から、僕は学園長室に呼び出されていた。昨日の今日でまさかメグの事が見つかっているとは思わないが、訝しみながら入室した。
ちなにみ、メグは朝から機嫌が悪く、時おり「待ってたのに」とか、「私って魅力無いの?」とシエスタさんと話していた。あまりそこに触れていくのは良い予感がしなかったので、そっとしておいた。
一応僕の部屋の入り口に、〈空間断絶〉を掛けてあるので、外からは誰も侵入できないようになっている。逆に中からは簡単に出てしまえるので、メグ達には良く注意しておいた。
そして、学園長からの言葉は、僕の予想の斜め上をいっていた。
「あんたが何をしたか知らないけど、また王城から呼び出しだよ?」
「えっ?昨日行ったばかりなのにですか?」
「そうだ、しかも爵位の件について陞爵《しょうしゃく》の用意があると言っている。どんな事をしたんだい?」
昨日騎士爵を成人したら叙爵すると言われたばかりで、いきなり爵位が上がるなんて、僕には理由に見当がつかない。
「僕にはまったく心当たりがないんですが、改革派閥の盟主を討伐することは、そんなに凄い事なのですか?」
「・・・確かに凄い事ではあるが、いきなり未成年の子供を陞爵するなんて話しは聞いたことがない。とは言っても、王城からの命令だから無下にはできない。特にあんたは準貴族みたいなものなんだからね」
昨日宰相から言われたことを思い出す。成人するまでは貴族に準じる身分で、その為のマナーや常識をコンコンと語っていた。途中で騒ぎになって中断したが。
「そう言えば、昨日のフリージア様の演説は聞きましたか?」
「そりゃ、王都中に響き渡っていたからね。平民の子達は歓声を上げてた程さ。逆に貴族の子達は良い顔をしていなかったけどね」
「・・・学園長はどうなんですか?」
「私かい?どっちの意見でもないね。それぞれの主張はそれぞれ正しい所もあり、間違っている所もあると思う。立場が違えば正義も違うって訳さ。ただ、戦争や内乱はゴメンだがね・・・」
そう言って学園長はどこか遠い目をしていた。もしかしたら、過去に戦争かなにかで被害にあっていたのかもしれない。
「僕も中立ですが、もし今回の件が僕や友人に火の粉が掛かってくれば、動くかもしれません」
「だろうね。そんなあんたに一つ教えておくよ。今日の昼にフリージアも王城へ呼ばれている」
「えっ?こんな状況でですか?」
「こんな状況だからさ。内乱状態にならないために代表者が話し合おうって事だね」
話し合いと言えば聞こえは良いが、彼女はまだ未成年で、別に教会派閥の全てを背負っているわけではないはずだ。
「フリージア様は代表者なのですか?」
「表立っては彼女が御旗となっているからね、実際のところは分からないし、王派閥の思惑も分からないが、演説を聞いた大多数の人間はそう思うだろうよ」
さすがにフリージア様が単独で王城に出向くことはないだろうが、あまりに動きが早過ぎる王派閥の行動にどこか違和感を覚える。今まで改革派閥を放っておいた者の行動とは思えなかった。
「罠・・・ということはありませんか?」
「ダリア、滅多なことを言うんじゃないと言っているだろう。例えそう考えたとしても、口には出さないことだ」
厳しい表情で、学園長に怒られてしまった。確かに迂闊な発言だった。この部屋を誰かが盗み聞きしていたら大事になるだろう。
「すみません。あまりに行動が早かったものですから」
「それは私もそう思うが、遅いよりは良い。何せ今この国は混乱の真っ只中にあるんだからね」
学園長の言うことはもっともだと、僕は一応のところ納得した。
「それで、僕は何時に呼び出されているんですか?」
「今日の昼・・・フリージアと同じ時間だ」
「・・・分かりました。時間に余裕をもって伺います」
あまりのタイミングに、裏があるのではと勘ぐってしまう。しかし、あの広大な城なので、2つ以上の物事を同時平行していくのはあり得ないことだと断言することはできない。
(今のみんなの状況は・・・特に何事もなさそうだな)
空間認識では、メグやシルヴィアはもちろんのこと、ティアや王城から呼び出しを受けているフリージア様も特におかしな動きはない。フリージア様は教会で、何か準備をしているようだった。
「ダリア、何かあったとしても短気は起こすんじゃないよ」
「・・・大丈夫ですよ!みんなが笑顔になるように動くだけです。それが僕の幸せにも繋がるような気がしますから」
「そうかい。それならいいがね」
「ありがとうございます。では、失礼します」
一礼し学園長室を後にすると、これからの行動を整理するため自室へと戻った。メグやシエスタさんの力を借りて、考え得る限りの王の出方を模索して、対処する為だ。
(ちょっと、忙しくなりそうだな。僕の幸せを見つけるのはまだ先になりそうだ)
父さんの手紙にあった、自分の幸せのために今動いているつもりだが、直面する騒動の数々に、中々幸せを掴むのは難しいことだと痛感した。
side ジョゼフ・ウル・オーガンド
「なにっ!!?王女に逃げられただと!?」
見張りを担当していた騎士が、怯えるような表情で聞き捨てならない報告をしてきた。
「はっ!も、申し訳ございません!」
「言い訳などよい!貴様、責任を取る覚悟は出来ているのであろうな?」
「そ、それは・・・」
直ぐにでもその場で自害させようと命令を出そうとしたが、宰相が待ったを掛ける。
「陛下、お待ちを。それでは彼らから情報が聞き出せません」
「ふん。情報など、あの女が逃げたと言うこと以外に必用な情報があるのか?」
「勿論でございます。問題は誰が手引きしたか、ということです」
宰相の言葉はもっともだ、牢に囚われていたあの女が自分で逃げられる訳がない。なにせ、両手足の骨を砕いておいたのだから。
「・・・そうだな。おい、一体誰があの女を逃がした?」
「も、申し訳ございません!それらしい人物はおらず、私どもが持ち場を離れた隙に姿を消してしまっておりまして・・・」
「なに~!どう言うことだそれは!!?」
騎士のあまりの返答に怒りで顔が赤くなるのが分かる。
「そ、それが、新人のメイドが連絡に来て、宰相に呼ばれているから直ぐに来いと・・・何かの命令があると思い急いで移動したのですが・・・」
「残念ながら私はそんな命令をしていませんね」
騎士の言葉を宰相が否定する。
「つまり、そのメイドが手引きしたということか!そやつはどこだ?」
「そ、それが、公国の王女共々姿を消しまして・・・」
「何だと!!宰相!もうこ奴らから聞くことは無いな!?」
「はい、ございません」
「では、情報の褒美と見張りの責務を放棄した罪で、余が直々に手を下してやろう」
そう言って、玉座の横に立て掛けられている剣の柄を握り、鞘から抜き放つ。
「お、お待ち下さい!我々はーーー」
「言い訳などよいわっ!」
土下座しながら、なおも言い募る2人の騎士の首を切り落とす。部屋が血で汚れてしまったが、後処理はいつもの事だ。宰相が持っている鈴を鳴らすと、数人のメイドと屈強な下男が入ってきた。
「いつものように後処理を」
「「はっ!」」
宰相の言葉にテキパキと掃除をしていき、騎士の亡骸は下男がどこかへと持ち去っていく。やがて綺麗になった部屋で今後について宰相と話し合う。
「それで、どうする?さすがにこの失態は看過できんぞ?」
「はっ!今回の一件、おそらくあのメイドでは無理でしょう」
「そんなことは分かっておる。共犯者が居るはずだ。だが・・・」
「はい、魔法も無しに見張りや門番の目を誤魔化すのは不可能です。しかし、彼らが買収されたといった事もありませんでした」
さすがに宰相はその可能性も考えて、既に調査を終えているようだ。
「では、魔具か何かを使って誰にも見られずに逃げたと?」
「それも可能性としてありますが、もう一つ考えられることがあります」
「ほう?何だ?申してみよ」
「はっ!実はこれと似たような事が以前起きておりまして。魔力探知に反応せず、誰に見つかることもなく貴族の一家が消え去ったと」
「ほう、暗殺でもされたというのか?」
「いえ、痕跡がまるでなかったのです。誰かが死んだ痕跡も、逃げた痕跡も。まるでそこに住む人だけが綺麗に消えていたのです」
「・・・どういうことだ?」
「真相は今もって不明なのですが、その事件の一番の容疑者だったのが、今日の式典に来ていたダリア・タンジーなのです」
「ふむ、容疑者ということはそれなりに証拠があったのか?」
「いえ、状況証拠だけでして、確証はありませんでした。しかし、これまでの彼の活躍の報告を見ると、彼ならばこんなことも可能なのではないかと、今は思っております」
「【看破】の才能を持つ審議官を向かわせなかったのか?」
「まさかまさか。審議官を向かわせ、偽りなしとなったのです」
「ふむ、では何故それほどまでに疑うのだ?」
【看破】によって無罪が証明されたのなら、そやつは白ということになるのだが、宰相は納得がいっていないようだ。
「それが、その審議官は教会派閥の息が掛かった者でして・・・」
「なるほどな。今回の演説の一件といい、教会派閥も一枚噛んでいるというわけか」
「確証はありませんが、その可能性が高いです」
平民の息抜きのためにと助言されて作った改革派閥だったが、大きくなり過ぎ、さらには教会派閥と合流するとなると少し面倒なことになってしまう。
「・・・ではそろそろゴミ共を一掃するべきか」
「仰る通りで。既に王派閥に入り込んでいるネズミにも見当は付けておりますので、ご命令あらばいつでも」
「ふっ、仕事が早いな」
「当然でございます」
「ふふふ、確かお前の家には16になる娘が居たか・・・第二王子との婚姻が狙いか?」
宰相は優秀な男だ。それと同時に、家が繁栄するための野心も持っている。当然そんな事は見抜いているし、宰相も私に知られていると分かっているだろう。
だが、それが逆に信頼関係へと繋がっていると考えている。有能な働きには相応の見返りを出すことで、自身の立場はより確固としたものになり、未来永劫の繁栄に繋がるのだ。彼は歴代当主の中でも英雄的な扱いになるのを望んでいるのだろう。
「やや、そんな滅相もございません。ですが、そうであるならば、より一層の忠誠と働きを誓いましょう」
「ふふふ、喰えん男だ。良いだろう。この一件が終り次第、貴殿の娘と第二王子との婚約を発表しよう」
「ははっ!ありがたき幸せに存じます」
宰相は大袈裟に頭を下げて感謝してきた。演技だと分かっていても悪い気はしなかった。
「さて、お前の事だ、この後の行動も既に考えあっての事だろう?」
「陛下には敵いませんな。教会派閥、改革派閥、公国の王女、そして王派閥のネズミの処理と一掃する良い案がございます」
「ほう、聞こうではないか」
「では、まずーーー
それから、いくつかの行動の内容を宰相と煮詰めて、関係閣僚や騎士団を呼び出し、敵対する相手勢力に時間を与えること無く行動に移るのだった。
◇
メグを救出した翌日の早朝から、僕は学園長室に呼び出されていた。昨日の今日でまさかメグの事が見つかっているとは思わないが、訝しみながら入室した。
ちなにみ、メグは朝から機嫌が悪く、時おり「待ってたのに」とか、「私って魅力無いの?」とシエスタさんと話していた。あまりそこに触れていくのは良い予感がしなかったので、そっとしておいた。
一応僕の部屋の入り口に、〈空間断絶〉を掛けてあるので、外からは誰も侵入できないようになっている。逆に中からは簡単に出てしまえるので、メグ達には良く注意しておいた。
そして、学園長からの言葉は、僕の予想の斜め上をいっていた。
「あんたが何をしたか知らないけど、また王城から呼び出しだよ?」
「えっ?昨日行ったばかりなのにですか?」
「そうだ、しかも爵位の件について陞爵《しょうしゃく》の用意があると言っている。どんな事をしたんだい?」
昨日騎士爵を成人したら叙爵すると言われたばかりで、いきなり爵位が上がるなんて、僕には理由に見当がつかない。
「僕にはまったく心当たりがないんですが、改革派閥の盟主を討伐することは、そんなに凄い事なのですか?」
「・・・確かに凄い事ではあるが、いきなり未成年の子供を陞爵するなんて話しは聞いたことがない。とは言っても、王城からの命令だから無下にはできない。特にあんたは準貴族みたいなものなんだからね」
昨日宰相から言われたことを思い出す。成人するまでは貴族に準じる身分で、その為のマナーや常識をコンコンと語っていた。途中で騒ぎになって中断したが。
「そう言えば、昨日のフリージア様の演説は聞きましたか?」
「そりゃ、王都中に響き渡っていたからね。平民の子達は歓声を上げてた程さ。逆に貴族の子達は良い顔をしていなかったけどね」
「・・・学園長はどうなんですか?」
「私かい?どっちの意見でもないね。それぞれの主張はそれぞれ正しい所もあり、間違っている所もあると思う。立場が違えば正義も違うって訳さ。ただ、戦争や内乱はゴメンだがね・・・」
そう言って学園長はどこか遠い目をしていた。もしかしたら、過去に戦争かなにかで被害にあっていたのかもしれない。
「僕も中立ですが、もし今回の件が僕や友人に火の粉が掛かってくれば、動くかもしれません」
「だろうね。そんなあんたに一つ教えておくよ。今日の昼にフリージアも王城へ呼ばれている」
「えっ?こんな状況でですか?」
「こんな状況だからさ。内乱状態にならないために代表者が話し合おうって事だね」
話し合いと言えば聞こえは良いが、彼女はまだ未成年で、別に教会派閥の全てを背負っているわけではないはずだ。
「フリージア様は代表者なのですか?」
「表立っては彼女が御旗となっているからね、実際のところは分からないし、王派閥の思惑も分からないが、演説を聞いた大多数の人間はそう思うだろうよ」
さすがにフリージア様が単独で王城に出向くことはないだろうが、あまりに動きが早過ぎる王派閥の行動にどこか違和感を覚える。今まで改革派閥を放っておいた者の行動とは思えなかった。
「罠・・・ということはありませんか?」
「ダリア、滅多なことを言うんじゃないと言っているだろう。例えそう考えたとしても、口には出さないことだ」
厳しい表情で、学園長に怒られてしまった。確かに迂闊な発言だった。この部屋を誰かが盗み聞きしていたら大事になるだろう。
「すみません。あまりに行動が早かったものですから」
「それは私もそう思うが、遅いよりは良い。何せ今この国は混乱の真っ只中にあるんだからね」
学園長の言うことはもっともだと、僕は一応のところ納得した。
「それで、僕は何時に呼び出されているんですか?」
「今日の昼・・・フリージアと同じ時間だ」
「・・・分かりました。時間に余裕をもって伺います」
あまりのタイミングに、裏があるのではと勘ぐってしまう。しかし、あの広大な城なので、2つ以上の物事を同時平行していくのはあり得ないことだと断言することはできない。
(今のみんなの状況は・・・特に何事もなさそうだな)
空間認識では、メグやシルヴィアはもちろんのこと、ティアや王城から呼び出しを受けているフリージア様も特におかしな動きはない。フリージア様は教会で、何か準備をしているようだった。
「ダリア、何かあったとしても短気は起こすんじゃないよ」
「・・・大丈夫ですよ!みんなが笑顔になるように動くだけです。それが僕の幸せにも繋がるような気がしますから」
「そうかい。それならいいがね」
「ありがとうございます。では、失礼します」
一礼し学園長室を後にすると、これからの行動を整理するため自室へと戻った。メグやシエスタさんの力を借りて、考え得る限りの王の出方を模索して、対処する為だ。
(ちょっと、忙しくなりそうだな。僕の幸せを見つけるのはまだ先になりそうだ)
父さんの手紙にあった、自分の幸せのために今動いているつもりだが、直面する騒動の数々に、中々幸せを掴むのは難しいことだと痛感した。
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