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第七章 神人 編
オーガンド王国脱出 4
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メグを救出した後、どこで話をしようか迷ったが、学園の寮の僕の部屋ですることにした。下手に外で話をしていると、いくら〈幻影〉で姿を消したり、変えているからと言っても、声で分かってしまう可能性も考えたからだ。
それに、僕の部屋は2人部屋だが、1人で使っているので、若干余裕がある。
「どうぞ。座るところは・・・そこのベッドに座ってね」
使っていないベッドを指差すと、メグとシエスタさんは少し周りを確認しながらメグが腰掛け、シエスタさんはその隣に控えるように立っている。さすがに、王女と同じ位置に座ることは出来ないのだろう。僕は彼女の対面に机の椅子を持ってきて腰掛けた。
「ダリア、今回の事は本当にありがとう。でも、助けてもらっておいて何ですが、私を救出して匿うという事は、王国に対する反逆にもなりますよ?」
落ち着いて開口一番、メグが心配そうな表情で僕に話し掛けてきた。
「ん~、大丈夫です!僕は自分のやりたいようにやるだけなので」
「そ、そんな楽観的な。最悪、処刑ですよ?」
僕の返答に驚いたシエスタさんが目を丸くしながら聞いてきた。
「こう言っては何ですが、僕は別にこの国に愛着があるわけではありません。それに、僕ならどこでも生活出来ますので」
「で、でも、ダリア様は将来貴族の地位も約束されていて、申し分ない生活が待っているのでは?」
「ん~、爵位をくれると言うから貰うだけで、欲しいわけではないんです」
「はぁ~、欲がないんですねぇ・・・」
「ん、う゛ん。そろそろ話を戻しましょう」
「あ、申し訳ありません殿下」
今回の件から、少し話が脱線してきたので、メグが話を戻そうと咳払いをして空気を変えた。
「差し当たっての問題は3つ。まずは私達の身柄について、そして公国と王国の戦争の機運が高まっていること、最後にダリアについてです」
メグの言葉に、前2つの問題は分かるが、最後の僕についてとはどう言う事だろう。 そう疑問に思っていたが、メグは話を進めていった。
「まず、私達についてですが・・・シエスタ、魔具を取ってダリアに挨拶を」
「はっ、かしこまりました殿下」
メグに言われ、シエスタさんは耳を触ると何かを取り外した。すると、彼女の耳がメグと同じエルフ特有のものへと変わった。
「えっ?その耳・・・どうなっているの?」
「挨拶が遅れました。私は代々、フロストル公国の王族に使える家柄の者です。王国の情報収集の為に人間に変装し、王城へと潜り込んでおりました。これは偽装魔具といって、耳に装着すると人間の耳に変装できるものです」
ようするに、シエスタさんはスパイだったようだ。確かに公国の魔法技術があればその程度の物は作れるんだろう。彼女を見た時は、そそっかしい新人メイドさんとしか思えなかったが、きっとそれも演技だったのだろう。
「つまり、潜入していたら偶然メグが捕まったので、救出に向かっていたわけですね?」
「はい。都合の良いことに外で騒ぎがあり、監視が手薄になったので、これを契機と見て行動しました。結果としては、私の考えが足りず、ダリア様にはお世話になりました。本当にありがとうございます」
シエスタさんは、床に頭がつかんばかりの勢いで頭を下げてきた。彼女は背が高めなので、そんな彼女が勢い良く頭を下げるのは、ちょっとした圧がある。
「気にしないで下さい。元々メグは僕が助けようと思っていたので」
そう言うと、メグは頬を赤らめ、俯きながら体をくねらせていた。その様子を見ると、どうやら嬉しかったようだ。
「ありがとうございます。しかし、王国内でも殿下の捕縛は極秘とされていたのに、どうして分かったのですか?」
「僕の【才能】だけど、今はメグ達の身柄について考えようか?」
「あっ、すみません!そうですね、出来れば公国へ脱出出来ればですが・・・殿下はどうお考えですか?」
「既に我が国は王国の敵対国と見なされているでしょう。そんな中、王女の私が王国内に居るのは非常に不味いと私も思っていますが、脱出の術が無いのです」
メグの言う通り、彼女達だけでは騎士団に捕まるか、国境の検問所で捕まってしまうだろう。それに、今や移動手段も限られているはずだ。さすがに徒歩で公国に帰るには、時間が掛かり過ぎるし危険過ぎる。ただ、そんな問題も僕なら何とでもなる。
「そこは僕が何とかしますから、王国からの脱出は問題ないですよ」
「そ、そうですか、さすがダリア様ですね。では殿下、脱出はダリア様にご協力頂くとして、戦争については私達でどうこうしようもないのではないですか?」
「それはそうなのですが、公国の王女として何とか外交的な手段で収められないか、そう考えてしまうのです」
そういえば、メグを見張っていた人達も戦争は嫌そうな事を言っていた。誰しも戦争なんてしたくないのだろう。したいと考えているのは、一部の為政者か他国に対して強硬的な考えを持つ者達ぐらいか。
「戦争については落ち着いてから考えましょう」
「そ、そうですね」
これほど僕が楽観的にメグに言ったのには訳があった。みんな戦争をしたくないと言うのなら、僕が魔法で国境に破壊不能な壁を作ってしまえば良いと思ったからだ。物理的に行き来出来ないなら、戦争のしようもないだろうと考えた。
「じゃあ、最後に僕の事についてですが・・・何かありましたか?」
メグが言った僕についての問題は、まったく思い当たらなかったので、何なのだろうと聞いてみた。
「先程のシエスタとの話から、ダリアは将来この国の貴族になることが約束されているのですね?」
「そうですね」
メグのかしこまった物言いに、僕も背中を正して返した。そんなに重要な話なのだろうか。
「貴族に対して王族はある程度の命令権を持ちます。つまり、国王が私の捕縛や公国との戦争の参加を打診した時、あなたは断れないという事になります」
なるほど、この王国は階級社会だ。上の者の命令には従わないと行けないのだろう。特に、王から貴族へ対する命令は絶対なのかもしれない。
「つまり、そんな命令が出た場合はどうするのか聞きたいと?」
先程も伝えているが、この国に愛着など無いので、その時は別に国を捨てても良いと思っている。そう言おうと思うと、メグはとりわけ真剣に話し始めた。
「いえ、その必要はありません。正直これ以上ダリアに迷惑は掛けたくありません。先程の脱出の話も含めて、その際には私の身柄を王国に差し出しなさい。そうすればダリアが王国から追われるようなことにはなりません」
メグは決意を込めた表情をしながら、僕に向き合ってきた。
(この目はどこかで見たことがある・・・そうか、父さんの目と同じなのか)
彼女は公国の王女だ。きっと、こういった場合の心構えは既に出来ているのだろう。そんな彼女はとても勇ましく、一人の尊敬できる人物に見えた。そして、そんな彼女だからこそ、力になってあげたいと思った。
「何も心配することは無いよ。全て僕に任せて、メグは休んでいて」
「い、いえ、そんな事は出来ません!王女としてそんな人任せなど・・・」
「現状メグにはどうすることも出来ない。でも、僕ならこの状況をひっくり返せるだけの力がある。とにかく今はゆっくり休んだ方が良いよ」
有無を言わせぬように、矢継ぎ早に彼女の反論を封じていく。 実際彼女はずっと地下牢に囚われ、拷問まで受けていたのだから、いくら肉体的には癒したといっても、その精神的疲労は限界だろうと考えた。
「・・・殿下、ここはダリア様に従った方が良いのでは?」
「し、しかし・・・」
シエスタさんに説得されるも、なおも渋っている彼女を見て、シエスタさんが僕に近寄って耳打ちをしてきた。
「ダリア様、少しよろしいですか?実は・・・」
「・・・えっ?そんなことで?」
「はい。殿下を説得するには、これが最善だと思います」
「・・・分かりました」
シエスタさんに言われたことをしようと、メグに近付いた。
「な、なんですか?何を言われても私は考えを変える事はーーー」
そう身構える彼女をそっと抱き締め、小声で耳打ちした。
「メグ。その時は、僕と一緒に逃げて、一緒に暮らそう」
「っ!?////////・・・は、はい・・・」
僕の言葉に、メグは顔を真っ赤にして、頷いた。その様子は、先程の一国の命運を背負おうとする王女の顔から、どこかふやけたような表情になってしまっていた。
(ほ、本当に考えを変えちゃった!?別に普通の事を言っただけと思うんだけど、やっぱり女性の事は女性が一番分かるんだな)
シエスタさんの助言を実行すると、ビックリするぐらい直ぐにメグは考えを変えた。その様子に良かったと思うと同時に、僕の言葉一つでこんなに変わることに若干の怖さを感じた。
「そ、それじゃあ、僕の部屋で悪いけど、少し横になって休んでね。どう行動するかは、それから考えよう」
「そ、そうですね。私も少し疲れましたので、休ませてくれるとありがたいです」
抱き締めていたメグから離れると、彼女は少し物足りなそうな表情をしていた。そんな自分に気付いたのか、彼女は取り繕うように喋っていた。
「ところで、ダリア様はどうするのですか?私は床でもどこでも問題ないですが」
「そうか、ベッドは2つしかないし・・・そうだ、もう一つベッドはあるから大丈夫だよ!」
そう言うと、僕は収納からベッドを取り出した。
「は?え?ベッドが急に!!」
「え?何ですか今の?」
シルヴィアも知っているし、2人なら口も固いだろうと思って〈収納〉について教えた。もちろん、他言無用で。すると、僕の話を聞いた二人は異口同音で呟いた。
「「さすがダリア(様)ですね~」」
差し当たっての話も終り、一息つくことになったのだが、ちょっとした問題もあった。それに気付いたのはメグだった。
「あっ、待って下さい!つまり私はダリアと一緒の部屋で寝ると言うことですか?」
「うん、そうなるね。さすがにこの状況で寮の自室に戻るのは不味いでしょう?」
「そ、それはそうなのですが・・・(男女が一つの部屋で一緒に寝る・・・こ、これはもしや!)」
メグは一人、ぶつぶつと考え込んでしまったようだ。そんな様子の彼女をシエスタさんは使用人らしからぬ、ニヤニヤとした表情で見守っていた。
「もし男が部屋に居るのが嫌なら、僕は外に行こうか?」
そうメグに問いかけると、彼女は過剰に拒否してきた。
「い、いえ!それはダメです!せっかくのチャンス・・・いえ、部屋の持ち主であるダリアを、追い出すような事は出来ません!」
「そ、そう?」
「は、はい!・・・あ、その、ダリア?」
「ん?なに?」
「その・・・、もし(・・・)だったら、言ってくれれば、私はいくらでも応えますから」
正直、最初の方が小声過ぎて何を言っているのか分からなかった。しかし、彼女は勇気を振り絞って言った様な顔をしているので、聞こえなかったと言うのが憚れてしまった。なので、なんとなく雰囲気で答えておいた。
「う、うん、分かった。その時はお願いするね」
「っ!!」
果たしてその答えが合っていたのかどうかは分からないが、彼女が赤くなりながらも、花の咲くような笑顔を見た時、間違っていなかったと安心した。
ただ、その様子にシエスタさんは生暖かい笑顔を向けていたのが印象的だった。
それに、僕の部屋は2人部屋だが、1人で使っているので、若干余裕がある。
「どうぞ。座るところは・・・そこのベッドに座ってね」
使っていないベッドを指差すと、メグとシエスタさんは少し周りを確認しながらメグが腰掛け、シエスタさんはその隣に控えるように立っている。さすがに、王女と同じ位置に座ることは出来ないのだろう。僕は彼女の対面に机の椅子を持ってきて腰掛けた。
「ダリア、今回の事は本当にありがとう。でも、助けてもらっておいて何ですが、私を救出して匿うという事は、王国に対する反逆にもなりますよ?」
落ち着いて開口一番、メグが心配そうな表情で僕に話し掛けてきた。
「ん~、大丈夫です!僕は自分のやりたいようにやるだけなので」
「そ、そんな楽観的な。最悪、処刑ですよ?」
僕の返答に驚いたシエスタさんが目を丸くしながら聞いてきた。
「こう言っては何ですが、僕は別にこの国に愛着があるわけではありません。それに、僕ならどこでも生活出来ますので」
「で、でも、ダリア様は将来貴族の地位も約束されていて、申し分ない生活が待っているのでは?」
「ん~、爵位をくれると言うから貰うだけで、欲しいわけではないんです」
「はぁ~、欲がないんですねぇ・・・」
「ん、う゛ん。そろそろ話を戻しましょう」
「あ、申し訳ありません殿下」
今回の件から、少し話が脱線してきたので、メグが話を戻そうと咳払いをして空気を変えた。
「差し当たっての問題は3つ。まずは私達の身柄について、そして公国と王国の戦争の機運が高まっていること、最後にダリアについてです」
メグの言葉に、前2つの問題は分かるが、最後の僕についてとはどう言う事だろう。 そう疑問に思っていたが、メグは話を進めていった。
「まず、私達についてですが・・・シエスタ、魔具を取ってダリアに挨拶を」
「はっ、かしこまりました殿下」
メグに言われ、シエスタさんは耳を触ると何かを取り外した。すると、彼女の耳がメグと同じエルフ特有のものへと変わった。
「えっ?その耳・・・どうなっているの?」
「挨拶が遅れました。私は代々、フロストル公国の王族に使える家柄の者です。王国の情報収集の為に人間に変装し、王城へと潜り込んでおりました。これは偽装魔具といって、耳に装着すると人間の耳に変装できるものです」
ようするに、シエスタさんはスパイだったようだ。確かに公国の魔法技術があればその程度の物は作れるんだろう。彼女を見た時は、そそっかしい新人メイドさんとしか思えなかったが、きっとそれも演技だったのだろう。
「つまり、潜入していたら偶然メグが捕まったので、救出に向かっていたわけですね?」
「はい。都合の良いことに外で騒ぎがあり、監視が手薄になったので、これを契機と見て行動しました。結果としては、私の考えが足りず、ダリア様にはお世話になりました。本当にありがとうございます」
シエスタさんは、床に頭がつかんばかりの勢いで頭を下げてきた。彼女は背が高めなので、そんな彼女が勢い良く頭を下げるのは、ちょっとした圧がある。
「気にしないで下さい。元々メグは僕が助けようと思っていたので」
そう言うと、メグは頬を赤らめ、俯きながら体をくねらせていた。その様子を見ると、どうやら嬉しかったようだ。
「ありがとうございます。しかし、王国内でも殿下の捕縛は極秘とされていたのに、どうして分かったのですか?」
「僕の【才能】だけど、今はメグ達の身柄について考えようか?」
「あっ、すみません!そうですね、出来れば公国へ脱出出来ればですが・・・殿下はどうお考えですか?」
「既に我が国は王国の敵対国と見なされているでしょう。そんな中、王女の私が王国内に居るのは非常に不味いと私も思っていますが、脱出の術が無いのです」
メグの言う通り、彼女達だけでは騎士団に捕まるか、国境の検問所で捕まってしまうだろう。それに、今や移動手段も限られているはずだ。さすがに徒歩で公国に帰るには、時間が掛かり過ぎるし危険過ぎる。ただ、そんな問題も僕なら何とでもなる。
「そこは僕が何とかしますから、王国からの脱出は問題ないですよ」
「そ、そうですか、さすがダリア様ですね。では殿下、脱出はダリア様にご協力頂くとして、戦争については私達でどうこうしようもないのではないですか?」
「それはそうなのですが、公国の王女として何とか外交的な手段で収められないか、そう考えてしまうのです」
そういえば、メグを見張っていた人達も戦争は嫌そうな事を言っていた。誰しも戦争なんてしたくないのだろう。したいと考えているのは、一部の為政者か他国に対して強硬的な考えを持つ者達ぐらいか。
「戦争については落ち着いてから考えましょう」
「そ、そうですね」
これほど僕が楽観的にメグに言ったのには訳があった。みんな戦争をしたくないと言うのなら、僕が魔法で国境に破壊不能な壁を作ってしまえば良いと思ったからだ。物理的に行き来出来ないなら、戦争のしようもないだろうと考えた。
「じゃあ、最後に僕の事についてですが・・・何かありましたか?」
メグが言った僕についての問題は、まったく思い当たらなかったので、何なのだろうと聞いてみた。
「先程のシエスタとの話から、ダリアは将来この国の貴族になることが約束されているのですね?」
「そうですね」
メグのかしこまった物言いに、僕も背中を正して返した。そんなに重要な話なのだろうか。
「貴族に対して王族はある程度の命令権を持ちます。つまり、国王が私の捕縛や公国との戦争の参加を打診した時、あなたは断れないという事になります」
なるほど、この王国は階級社会だ。上の者の命令には従わないと行けないのだろう。特に、王から貴族へ対する命令は絶対なのかもしれない。
「つまり、そんな命令が出た場合はどうするのか聞きたいと?」
先程も伝えているが、この国に愛着など無いので、その時は別に国を捨てても良いと思っている。そう言おうと思うと、メグはとりわけ真剣に話し始めた。
「いえ、その必要はありません。正直これ以上ダリアに迷惑は掛けたくありません。先程の脱出の話も含めて、その際には私の身柄を王国に差し出しなさい。そうすればダリアが王国から追われるようなことにはなりません」
メグは決意を込めた表情をしながら、僕に向き合ってきた。
(この目はどこかで見たことがある・・・そうか、父さんの目と同じなのか)
彼女は公国の王女だ。きっと、こういった場合の心構えは既に出来ているのだろう。そんな彼女はとても勇ましく、一人の尊敬できる人物に見えた。そして、そんな彼女だからこそ、力になってあげたいと思った。
「何も心配することは無いよ。全て僕に任せて、メグは休んでいて」
「い、いえ、そんな事は出来ません!王女としてそんな人任せなど・・・」
「現状メグにはどうすることも出来ない。でも、僕ならこの状況をひっくり返せるだけの力がある。とにかく今はゆっくり休んだ方が良いよ」
有無を言わせぬように、矢継ぎ早に彼女の反論を封じていく。 実際彼女はずっと地下牢に囚われ、拷問まで受けていたのだから、いくら肉体的には癒したといっても、その精神的疲労は限界だろうと考えた。
「・・・殿下、ここはダリア様に従った方が良いのでは?」
「し、しかし・・・」
シエスタさんに説得されるも、なおも渋っている彼女を見て、シエスタさんが僕に近寄って耳打ちをしてきた。
「ダリア様、少しよろしいですか?実は・・・」
「・・・えっ?そんなことで?」
「はい。殿下を説得するには、これが最善だと思います」
「・・・分かりました」
シエスタさんに言われたことをしようと、メグに近付いた。
「な、なんですか?何を言われても私は考えを変える事はーーー」
そう身構える彼女をそっと抱き締め、小声で耳打ちした。
「メグ。その時は、僕と一緒に逃げて、一緒に暮らそう」
「っ!?////////・・・は、はい・・・」
僕の言葉に、メグは顔を真っ赤にして、頷いた。その様子は、先程の一国の命運を背負おうとする王女の顔から、どこかふやけたような表情になってしまっていた。
(ほ、本当に考えを変えちゃった!?別に普通の事を言っただけと思うんだけど、やっぱり女性の事は女性が一番分かるんだな)
シエスタさんの助言を実行すると、ビックリするぐらい直ぐにメグは考えを変えた。その様子に良かったと思うと同時に、僕の言葉一つでこんなに変わることに若干の怖さを感じた。
「そ、それじゃあ、僕の部屋で悪いけど、少し横になって休んでね。どう行動するかは、それから考えよう」
「そ、そうですね。私も少し疲れましたので、休ませてくれるとありがたいです」
抱き締めていたメグから離れると、彼女は少し物足りなそうな表情をしていた。そんな自分に気付いたのか、彼女は取り繕うように喋っていた。
「ところで、ダリア様はどうするのですか?私は床でもどこでも問題ないですが」
「そうか、ベッドは2つしかないし・・・そうだ、もう一つベッドはあるから大丈夫だよ!」
そう言うと、僕は収納からベッドを取り出した。
「は?え?ベッドが急に!!」
「え?何ですか今の?」
シルヴィアも知っているし、2人なら口も固いだろうと思って〈収納〉について教えた。もちろん、他言無用で。すると、僕の話を聞いた二人は異口同音で呟いた。
「「さすがダリア(様)ですね~」」
差し当たっての話も終り、一息つくことになったのだが、ちょっとした問題もあった。それに気付いたのはメグだった。
「あっ、待って下さい!つまり私はダリアと一緒の部屋で寝ると言うことですか?」
「うん、そうなるね。さすがにこの状況で寮の自室に戻るのは不味いでしょう?」
「そ、それはそうなのですが・・・(男女が一つの部屋で一緒に寝る・・・こ、これはもしや!)」
メグは一人、ぶつぶつと考え込んでしまったようだ。そんな様子の彼女をシエスタさんは使用人らしからぬ、ニヤニヤとした表情で見守っていた。
「もし男が部屋に居るのが嫌なら、僕は外に行こうか?」
そうメグに問いかけると、彼女は過剰に拒否してきた。
「い、いえ!それはダメです!せっかくのチャンス・・・いえ、部屋の持ち主であるダリアを、追い出すような事は出来ません!」
「そ、そう?」
「は、はい!・・・あ、その、ダリア?」
「ん?なに?」
「その・・・、もし(・・・)だったら、言ってくれれば、私はいくらでも応えますから」
正直、最初の方が小声過ぎて何を言っているのか分からなかった。しかし、彼女は勇気を振り絞って言った様な顔をしているので、聞こえなかったと言うのが憚れてしまった。なので、なんとなく雰囲気で答えておいた。
「う、うん、分かった。その時はお願いするね」
「っ!!」
果たしてその答えが合っていたのかどうかは分からないが、彼女が赤くなりながらも、花の咲くような笑顔を見た時、間違っていなかったと安心した。
ただ、その様子にシエスタさんは生暖かい笑顔を向けていたのが印象的だった。
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