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黒蓮

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第七章 神人 編

オーガンド王国脱出 2

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side フリージア・レナード

 物心付いた時から、私には役割があった。その【才能】と家柄もあって、私は人々の希望となるべく振る舞わなければならなかった。

 実際にこの王国内で見聞きすることは、幼い私にも考えさせられることが多々あった。何故これほどまでに貴族は平民の方々を虐げているのかという事を。

 皆同じ人間である以上、平等な対応でなければならないはずだ。平等な生活でなければならないはずだ。平等な人生でなければならないはずだ。そう教会の教えで習っていたのに、現実はそれとは遠くかけ離れていた。

 貴族達は都合の良い時だけフローラ教会の教えを持ち出し、都合が悪くなると知らぬ存ぜぬを決め込む。その構造を変えたくて訴えたが、子供の私の言うことなど、王公貴族は誰も聞く耳を持たなかった。そんな状況に変化を求めて、私は今まで以上に教会のシスターとして各地を慰問いもんし、時には冒険者として民を悩ませている魔獣の討伐に向かうこともあった。


 そして、いつしか私は周りから聖女様なんて呼ばれるようになった。さらに、冒険者としても異例の、未成年での金ランクに認定された。私自身には戦闘能力なんて無いが、その【才能】によるチームへのサポート能力が評価されたらしい。

 そうして才覚を現してくると、自分の容姿の事もあってか、王国の第一王子であるゲンティウス殿下から婚約の申し出があった。正直、貴族然としている彼に好意は無いが、いずれこの国の王になるかもしれない人物と契りを結べば、内部からこの国を変えていけるかもしれないと考えた。

 だからこそ、私は婚約の条件として彼に一つのお願いをしてみた。「貴族と平民の裁きを平等にして欲しい」と。彼は渋い顔をしながら「善処しよう」と言っていたが、私は教会の力も使って無理矢理その提案を王国会議の議題に上げさせ、渋る貴族達をなんとか説き伏せ了承させることが出来た。

 しかし、たった一つ平民と平等になる事を承認させるのにこんなにも労力を割いていては、私の理想とする国になるのに一体何百年の歳月が必要なのだろうかと、改めて自分の理想が高いところにあると理解した。王子の考えを改めるのも、きっと物凄く時間を必要とするか、不可能なのかも知れないと落胆してしまった。


 そんな時、教会の枢機卿であるお祖父様からある提案をされた。それはーーー

『言論の力で国を変えるのだ、フリージアよ』

 私の事を教会派閥としても全力でサポートしてくれると、お祖父様は仰ってくれた。その言葉に私は勇気を貰い、諦めること無く、自分の理想とする国にする為に動き出すのだった。


 そんな日々の中、私は今まで会った事の無いタイプの男の子と知り合った。見た目は女の子のような可愛らしい容姿で、私は彼が新しく認定された未成年の金ランク冒険者であるとはとても思えなかった。

 しかし、その実力は本物で、なんと単独でドラゴン種であるワイバーンを瀕死の状態に追い込んだのだ。しかも、私以上の光魔法の才能があるようで、重症を負い、苦しんでいる騎士達をあっという間に癒していったのを見た時は、彼は女神フローラ様の御使みつかいなのではないかと考えたほどだ。

 彼に近づき、色々な事を聞きたいと思ったが、私は既に王子と婚約している身であるため、対外的に彼に接近し過ぎることは良くないだろうとも考え、適度な距離感を保つことにした。

しかし、私の趣味に彼はうってつけの逸材でもあったので、たまのストレス発散に付き合ってもらってはいた。

(あぁ、何で彼はこんなに似合うのかしら。女の子の服を来た男の子・・・凄く良い!!)

 彼は私の愛読書に出てくる、ある登場人物の理想とする姿にそっくりなのだ。

(あぁ、これが夢にまで見た『男の娘』というものなのですね!)

 現実世界にはあり得ないと思っていた理想像がそこにいた。このまま彼をガラスケースに入れて自分の部屋に飾っておきたい衝動を必死に堪えたものだ。その彼の姿は、私の記憶する中で、一番の思い出になっただろう。


 そんな楽しい思い出に少しの時間浸りながら、私は自分の出番を待っていた。今、私は下級貴族街にある広場の隣に横付けされた馬車の中でその時を待っていた。すると、馬車の扉をノックする音が聞こえる。

「どうぞ」

顔を出したのは、教会に所属している聖騎士の一人だ。

「フリージア様、準備が整いましたのでお願いします」

「分かりました。始めましょう!」


 私は自らの決意のもと、この国を変えるために演説を始めた。

『みなさん、わたくしはフローラ教会のフリージア・レナードです!本日はみなさんにお伝えしたいことがあり、このような方法でみなさんのお耳をお借りいたしました。少々わたくしの声に耳を傾けて下さいませんか?』

 風魔法を利用した拡声器型魔具と各所に設置した声を伝えるスピーカーを使って、王都中に私の声を響かせた。 広場に集っていた人達は何事かと私の方を見てきた。本当は平民街で演説する予定だったが、私が無理を言って場所を変えてもらったのだ。何故なら、貴族である彼らにこそ教会の、私の考えを聞いて考えて欲しかったのだ。

『私は今のこの王国のあり方に疑問を感じている者の一人です。同じ王国の民であり、同じ命を持つ存在である人同士が、何故生まれ持ったものの違いによって差別を受けなければならないのでしょう?』

 しかし、私の始めた演説の内容を聞くにしたがって、足を止めたみなさんは、まるで興味を失ったとばかりにこの場を離れていった。それでも私は必死に教会の考えを演説していった。

『みなさん、考えて欲しいのです!ごく一部のもの達だけが優雅に暮らし、大半の平民の方は明日を生きるために必死になっているこの現状を!疲弊していく彼らこそがこの王国を支えている大黒柱なのです!そんな彼らこそ笑顔で溢れる生活をするべきなのです!そしてーーー』


 しばらく演説を続けていると、王都内の各所に設置したスピーカーから声援が聞こえてきた。これは、演説を聞いてくれた人達の反応も王都内へ広めようという事から、民の声も聞こえるようにしたのだ。

『そうだ!聖女様の言う通りだ!!』

『俺達の命は平等なんだ!虐げられる言われなんて無い!』

『聖女様!この国を変えてくれ!』

 おそらくは平民街の人々の声だろう。私はそんな声援に背中を押されながら、さらに演説を続けていくのだった。


 しばらく演説をしていると、急に聖騎士の方が私に耳打ちをしてきた。

「失礼しますフリージア様。現在王国騎士団がこの広場に向かって来ているとの事です」

「・・・分かりました。しかし、ギリギリまで演説させて下さい」

「了解しました」

私の我儘で申し訳ないのだが、どうしてもみんなに教会の、私の考えを聞いて、少しでも共感して欲しいし、今までそんな考えすら無かった人にも、これを機会に考えてもらいたかった。

 しかし、それから僅かな時間で広場が包囲されつつあると諭《さと》され、私達はその場所からの撤退を余儀なくされてしまった。


 上級貴族街の教会に戻ると、王国の騎士団と教会の聖騎士が一触即発のような雰囲気でお互い睨み合っていた。そんな中を強硬突破するように教会内へ入り、すぐさま騎士団が突入してこれないように、分厚い門を閉めた。


「フリージア!無事で良かった!」

教会へ戻ると、お祖父様が私を出迎えて優しく抱き締めてくれた。

「お祖父様、ただ今戻りました」

「演説はここでも聞こえていたよ。民衆の反応もね。だいぶ共感してくれたようじゃないか!」

「いえ、やはりお祖父様達の言う通り、貴族達からは良い反応を得ることは出来ませんでした」

「それも仕方ない事だろう。貴族達にとって見れば、既得権益を奪うと言っているようなものだからね」

優しい口調でお祖父様は、私を諭すように頭を撫でながら言ってくれた。私にとっては、貴族の持つ既得権益よりも、国民のみんなが笑顔で平等に生活できる環境の方が何より素晴らしいものだと思っているのだが、その主張は中々受け入れてくれないようだ。

「まだ私たちの主張をしただけです。これからも、この国を変える為に頑張ります!」

「あまり無理をするでないぞ。お前は私たちの希望なのだからな」

「はい!ありがとうございます!」

 お祖父様と別れた私は、自室へ戻りこれからのことに想いを馳せる。

「例え捕えられる事になったとしても、私の後に続いてくれる人達はきっと居るはずです。私の言動が未来を変えると信じ、今は進みましょう」

 国民一人一人の善意の心を信じ、私は張り詰めた精神を緩めて一息入れるのだった。
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