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第六章 フリューゲン辺境伯領 編
復讐 17
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教会で用事を済ませた影響で、学園に着いた時刻は遅くなり、辺りは既に暗くなっていた。
シルヴィアと共に戻った僕は、事の推移を学園長へと報告するため、彼女と共に学園長室を訪れた。もう結構な時間だというのに、まだ学園長は書類仕事をしていたようで、入室した僕とシルヴィアの姿を見て驚いていた。
「どうやら上手くいったようだね?」
「はい、無事シルヴィアを取り戻すことが出来ました」
「あ、あの、色々とご心配をお掛けしてすみませんでした!」
凄い勢いで頭を下げたシルヴィアに、学園長は片手を上げて、往々に彼女の謝罪を受け取っていた。
「学園としては、何もしてあげられなくてすまなかったね。でも、こうして無事な姿を見れて私も嬉しいよ。今学園はこの混乱のせいで休校中だから、しばらくしっかり休むんだよ」
「は、はい!ありがとうございます」
彼女への労いはそれで終わり、学園長は僕に鋭い視線を向けてくる。
「で、何があったんだい?」
僕は伝えられる事を厳選して、これまであったことを掻い摘んで説明した。当然、父親の事や、シルヴィアが心を壊していたことは伏せておいた。ただ、改革派閥の盟主を打ち取ったことで、王城から何らかの連絡があるかもしれない事だけはしっかり伝えておいた。
「また随分と目立ったもんだね。盟主を打ち取ったとなれば貴族位の叙爵もあり得るんじゃないかい?」
「そうなんですか?・・・辞退って出来るんですかね?」
「辞退するつもりなのかい?ただ・・・それは不味いかもね。陛下の好意を無下にすることに見られるし、余計な面倒を引き起こしかねないよ?」
「そうですか・・・まぁ、実害が無ければ良いんですが」
「まぁ、あったとしても最下級の騎士爵位だろうから、そこまで日常に変化はないよ。それに、実際に叙爵するのは成人してからだろうしね」
「なるほど、それならまぁ良いですかね」
「じゃあ、もし王城から連絡があったら伝えるから、あんたもしっかり休むんだよ」
「はい。ありがとうございます」
お礼を言い学園長室から出ると、とたんにシルヴィアが詰め寄ってきた。
「ダ、ダリア君、改革派閥の盟主を倒したの!?」
「え?そうだけど、言ってなかったっけ?」
シルヴィアには極力辛い思い出を掘り起こしたくなかったので、今回の事については必要最小限の事しか伝えていなかった。
「聞いてないよ!し、しかも貴族になるなんて・・・」
彼女はそう言うと、押し黙って下を向いて何も言えなくなってしまったようだ。
「別に貴族になったからって、何が変わる訳じゃないよ。シルヴィアも今まで通り接して欲しい」
「・・・平民の私が近くにいていいの?」
「もちろん!平民だ貴族だなんて関係ないよ!僕の周りなんてそんな感じでしょ?」
僕の周りには平民の友人よりも、貴族の友人の方が多い。みんな僕が平民であることを気にせず接してくれているので、仮に僕が貴族になったからと言って、平民を蔑むことはしたくない。それは人として最も忌むべき行為だと思っている。
「そう、そうだね。えへへ、良かった!」
笑顔になった彼女と一緒に久しぶりの自分の部屋へと戻ったのだった。
(これでようやく一息吐ける、久しぶりにのんびりしよう)
そう決めてベッドにダイブして、ぐっすりと睡眠を貪った。
翌日ーーー
食堂で朝食を終えた僕は、自室のベッドで横になりながら、今回の一連の事を思い出していた。
(シルヴィアの事は何とかなって良かった。しかも、【才能】が上位才能へと進化してくれたことで、空間認識が格段に使えるようになった)
今まで個人の識別まで出来なかった空間認識は、今や識別も可能で、建物の構造まで手に取るように分かる。常時発動しているわけではないが、たまに発動してシルヴィアの安全を確認している。
また、王都へ戻る途中に考えていた新魔法についてだが、【時空間】の才能で空間認識を鮮明に認識できるので、〈空間断絶〉や〈次元斬〉を応用して、空間を切ったり張り付けたり出来ないかと考えた。つまり・・・
(瞬間的に移動が出来れば、移動がもっと楽になるんだけどな)
そう考えて、まずは部屋の中で出来るか試してみる。
(ええと、ここからこの空間を切り取って・・・あそこの空間に繋げると・・・っ!!)
すると、僕が立っていた位置から3m程だが、移動することが出来ていた。
(やった!成功だ!あとはどこまで距離が伸ばせるかだな!)
自室から明確に認識できるところまで移動しようとしたのだが、今のところ100m程しか移動は出来なかった。それ以上の距離になると、空間の切り取りに誤差が出てしまったのだ。認識は鮮明に出来るのだが、そこを切り取り、貼り付ける際に少しズレが出て、上手く発動しなかったのだ。
正直このままではそれほど役に立たない。これからしっかり鍛練して距離を伸ばしていこうと考えた。
もう1つ、【時空間】の【時】は、時間を表していると思ったのだが、周りの時間を止めようとしても、戻そうとしてもまったく何も起こらなかったので、そちらの方は一旦保留にした。
午後になって、ふと疑問に思う事が浮かんできた。
(そう言えば、そもそも何で王国は改革派閥なんて、国にとっては邪魔になる組織を黙認していたんだ?)
国家権力を使えば、そんな組織なんて簡単に潰すことも出来たはずだ。むしろ放ったらかしにしておけば、今回みたいな危険分子に成り果ててしまうのではないか。そう考えると、いまいち王国側の対応が理解できなかった。
(待てよ、父さんの手紙には宰相から改革派閥の盟主に任命されたような記述があった・・・じゃあ、宰相は改革派閥なのか?でも、あんなに王に近い人物が別派閥なんて何かおかしいよな・・・)
改革派閥と王派閥が繋がっているのではとも考えたが、そうすると教会派閥に吸収されるようになっている、という現状に辻褄が合わなくなってくる。
(ダメだ!僕にそんな裏の策謀だとか、国の戦略だとかは分からない!)
そこにはおそらく何らかの意図が隠れているとは思うのだが、それが何かを知る術は僕にはなかった。ただ1つ、宰相や王については信用しない方が良いだろうという結論だけが出た。
(そもそも、幼い頃の僕を殺すように指示した奴らを信用することも無いだろう。今後何か関わるような事があったとしても、適度に距離を空けよう)
王国や宰相に対してはそう決め、父さんからの「幸せになりなさい」という言葉の元、僕のこれからの行動方針を少しだけ考えていったのだった。
そして夕刻ーーー
学園長から呼び出しがあり出向くと、さっそく今回の事で王城からの呼び出しがあったとの事だ。
「日時は明日の10時、王城に来られたしということだよ」
「こんなに早く連絡が来るとは思いませんでした」
「まぁ、報奨を渡すだけだからね。叙爵自体は成人後だから、手続きも簡単なんだろう」
「そんなもんなんですね。分かりました」
「じゃあこれが王城のある区画への通行証だよ」
学園長は掌に収まる位の筒状の物を渡してきた。良く見ると、その上部には何かの紋章が型どられている。
「これが王家の紋章だよ。覚えておきな。それから、この通行証自体が魔力感知も兼ねているから、決して王城で魔法は使うんじゃないよ!」
なるほど、これは通行証兼防犯装置でもあるのか。王のいる城で魔法を発動しようものなら警報が鳴り、場合によってはその場で処刑さえもあるのだろう。
「分かりました」
「それから、明日は2時間前には王城に行くんだよ!」
「えっ?そんなに早くに行くんですか?」
「当たり前だよ!万が一にでも陛下を待たせるようなことがあれば、平民のあんたは、それだけで不敬罪として処罰があるんだからね!陛下からの呼び出しの時には、時間にこれでもかって言うくらい余裕を持っていきな!」
僕の知らないような、王に謁見する時の常識みたいなものなのだろう。フロストル公国で会った女王は友好的な人だったけど、この国の国王は違うのかもしれない。
(まぁ、平民に対する扱いなんてそんなもんだろう。特にこの王国の貴族社会の頂点なんだから、平民なんてぞんざいな扱いなんだろうな)
平民に対する扱いは、王子を見ても分かっているので、その親である国王なら、平民に対してもっとひどい扱いをするかもしれない。そう思うと、王には何も期待しないで行った方が良さそうだった。
「ご忠告ありがとうございます。これで明日は何事もなく出来そうです」
「少し心配だが、くれぐれも不敬の無いようにね!言葉遣いにも気を付けるんだよ」
学園長はまるで親のように僕を心配してくる。それほど国王に会うということは、一大イベントのようなものなのだろう。
「大丈夫ですよ。色々ありがとうございます。では、失礼します!」
心配そうな表情の学園長をその場に残し、部屋をあとにした。
(さて、この国の国王はどんな人物なんだろう?)
今の僕の実力で言えば、何があろうと不安は無い。ただ、この国のトップで、貴族社会の頂点に居るのはどんな人物なのだろう、という興味だけがそこにはあった。
しかし、この時既に新たな騒動が始まっていたのだが、今の僕はまだその事に気付けていなかった。
シルヴィアと共に戻った僕は、事の推移を学園長へと報告するため、彼女と共に学園長室を訪れた。もう結構な時間だというのに、まだ学園長は書類仕事をしていたようで、入室した僕とシルヴィアの姿を見て驚いていた。
「どうやら上手くいったようだね?」
「はい、無事シルヴィアを取り戻すことが出来ました」
「あ、あの、色々とご心配をお掛けしてすみませんでした!」
凄い勢いで頭を下げたシルヴィアに、学園長は片手を上げて、往々に彼女の謝罪を受け取っていた。
「学園としては、何もしてあげられなくてすまなかったね。でも、こうして無事な姿を見れて私も嬉しいよ。今学園はこの混乱のせいで休校中だから、しばらくしっかり休むんだよ」
「は、はい!ありがとうございます」
彼女への労いはそれで終わり、学園長は僕に鋭い視線を向けてくる。
「で、何があったんだい?」
僕は伝えられる事を厳選して、これまであったことを掻い摘んで説明した。当然、父親の事や、シルヴィアが心を壊していたことは伏せておいた。ただ、改革派閥の盟主を打ち取ったことで、王城から何らかの連絡があるかもしれない事だけはしっかり伝えておいた。
「また随分と目立ったもんだね。盟主を打ち取ったとなれば貴族位の叙爵もあり得るんじゃないかい?」
「そうなんですか?・・・辞退って出来るんですかね?」
「辞退するつもりなのかい?ただ・・・それは不味いかもね。陛下の好意を無下にすることに見られるし、余計な面倒を引き起こしかねないよ?」
「そうですか・・・まぁ、実害が無ければ良いんですが」
「まぁ、あったとしても最下級の騎士爵位だろうから、そこまで日常に変化はないよ。それに、実際に叙爵するのは成人してからだろうしね」
「なるほど、それならまぁ良いですかね」
「じゃあ、もし王城から連絡があったら伝えるから、あんたもしっかり休むんだよ」
「はい。ありがとうございます」
お礼を言い学園長室から出ると、とたんにシルヴィアが詰め寄ってきた。
「ダ、ダリア君、改革派閥の盟主を倒したの!?」
「え?そうだけど、言ってなかったっけ?」
シルヴィアには極力辛い思い出を掘り起こしたくなかったので、今回の事については必要最小限の事しか伝えていなかった。
「聞いてないよ!し、しかも貴族になるなんて・・・」
彼女はそう言うと、押し黙って下を向いて何も言えなくなってしまったようだ。
「別に貴族になったからって、何が変わる訳じゃないよ。シルヴィアも今まで通り接して欲しい」
「・・・平民の私が近くにいていいの?」
「もちろん!平民だ貴族だなんて関係ないよ!僕の周りなんてそんな感じでしょ?」
僕の周りには平民の友人よりも、貴族の友人の方が多い。みんな僕が平民であることを気にせず接してくれているので、仮に僕が貴族になったからと言って、平民を蔑むことはしたくない。それは人として最も忌むべき行為だと思っている。
「そう、そうだね。えへへ、良かった!」
笑顔になった彼女と一緒に久しぶりの自分の部屋へと戻ったのだった。
(これでようやく一息吐ける、久しぶりにのんびりしよう)
そう決めてベッドにダイブして、ぐっすりと睡眠を貪った。
翌日ーーー
食堂で朝食を終えた僕は、自室のベッドで横になりながら、今回の一連の事を思い出していた。
(シルヴィアの事は何とかなって良かった。しかも、【才能】が上位才能へと進化してくれたことで、空間認識が格段に使えるようになった)
今まで個人の識別まで出来なかった空間認識は、今や識別も可能で、建物の構造まで手に取るように分かる。常時発動しているわけではないが、たまに発動してシルヴィアの安全を確認している。
また、王都へ戻る途中に考えていた新魔法についてだが、【時空間】の才能で空間認識を鮮明に認識できるので、〈空間断絶〉や〈次元斬〉を応用して、空間を切ったり張り付けたり出来ないかと考えた。つまり・・・
(瞬間的に移動が出来れば、移動がもっと楽になるんだけどな)
そう考えて、まずは部屋の中で出来るか試してみる。
(ええと、ここからこの空間を切り取って・・・あそこの空間に繋げると・・・っ!!)
すると、僕が立っていた位置から3m程だが、移動することが出来ていた。
(やった!成功だ!あとはどこまで距離が伸ばせるかだな!)
自室から明確に認識できるところまで移動しようとしたのだが、今のところ100m程しか移動は出来なかった。それ以上の距離になると、空間の切り取りに誤差が出てしまったのだ。認識は鮮明に出来るのだが、そこを切り取り、貼り付ける際に少しズレが出て、上手く発動しなかったのだ。
正直このままではそれほど役に立たない。これからしっかり鍛練して距離を伸ばしていこうと考えた。
もう1つ、【時空間】の【時】は、時間を表していると思ったのだが、周りの時間を止めようとしても、戻そうとしてもまったく何も起こらなかったので、そちらの方は一旦保留にした。
午後になって、ふと疑問に思う事が浮かんできた。
(そう言えば、そもそも何で王国は改革派閥なんて、国にとっては邪魔になる組織を黙認していたんだ?)
国家権力を使えば、そんな組織なんて簡単に潰すことも出来たはずだ。むしろ放ったらかしにしておけば、今回みたいな危険分子に成り果ててしまうのではないか。そう考えると、いまいち王国側の対応が理解できなかった。
(待てよ、父さんの手紙には宰相から改革派閥の盟主に任命されたような記述があった・・・じゃあ、宰相は改革派閥なのか?でも、あんなに王に近い人物が別派閥なんて何かおかしいよな・・・)
改革派閥と王派閥が繋がっているのではとも考えたが、そうすると教会派閥に吸収されるようになっている、という現状に辻褄が合わなくなってくる。
(ダメだ!僕にそんな裏の策謀だとか、国の戦略だとかは分からない!)
そこにはおそらく何らかの意図が隠れているとは思うのだが、それが何かを知る術は僕にはなかった。ただ1つ、宰相や王については信用しない方が良いだろうという結論だけが出た。
(そもそも、幼い頃の僕を殺すように指示した奴らを信用することも無いだろう。今後何か関わるような事があったとしても、適度に距離を空けよう)
王国や宰相に対してはそう決め、父さんからの「幸せになりなさい」という言葉の元、僕のこれからの行動方針を少しだけ考えていったのだった。
そして夕刻ーーー
学園長から呼び出しがあり出向くと、さっそく今回の事で王城からの呼び出しがあったとの事だ。
「日時は明日の10時、王城に来られたしということだよ」
「こんなに早く連絡が来るとは思いませんでした」
「まぁ、報奨を渡すだけだからね。叙爵自体は成人後だから、手続きも簡単なんだろう」
「そんなもんなんですね。分かりました」
「じゃあこれが王城のある区画への通行証だよ」
学園長は掌に収まる位の筒状の物を渡してきた。良く見ると、その上部には何かの紋章が型どられている。
「これが王家の紋章だよ。覚えておきな。それから、この通行証自体が魔力感知も兼ねているから、決して王城で魔法は使うんじゃないよ!」
なるほど、これは通行証兼防犯装置でもあるのか。王のいる城で魔法を発動しようものなら警報が鳴り、場合によってはその場で処刑さえもあるのだろう。
「分かりました」
「それから、明日は2時間前には王城に行くんだよ!」
「えっ?そんなに早くに行くんですか?」
「当たり前だよ!万が一にでも陛下を待たせるようなことがあれば、平民のあんたは、それだけで不敬罪として処罰があるんだからね!陛下からの呼び出しの時には、時間にこれでもかって言うくらい余裕を持っていきな!」
僕の知らないような、王に謁見する時の常識みたいなものなのだろう。フロストル公国で会った女王は友好的な人だったけど、この国の国王は違うのかもしれない。
(まぁ、平民に対する扱いなんてそんなもんだろう。特にこの王国の貴族社会の頂点なんだから、平民なんてぞんざいな扱いなんだろうな)
平民に対する扱いは、王子を見ても分かっているので、その親である国王なら、平民に対してもっとひどい扱いをするかもしれない。そう思うと、王には何も期待しないで行った方が良さそうだった。
「ご忠告ありがとうございます。これで明日は何事もなく出来そうです」
「少し心配だが、くれぐれも不敬の無いようにね!言葉遣いにも気を付けるんだよ」
学園長はまるで親のように僕を心配してくる。それほど国王に会うということは、一大イベントのようなものなのだろう。
「大丈夫ですよ。色々ありがとうございます。では、失礼します!」
心配そうな表情の学園長をその場に残し、部屋をあとにした。
(さて、この国の国王はどんな人物なんだろう?)
今の僕の実力で言えば、何があろうと不安は無い。ただ、この国のトップで、貴族社会の頂点に居るのはどんな人物なのだろう、という興味だけがそこにはあった。
しかし、この時既に新たな騒動が始まっていたのだが、今の僕はまだその事に気付けていなかった。
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