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黒蓮

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第六章 フリューゲン辺境伯領 編

復讐 3

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 攫われたシルヴィアを捜索してから、早くも3日が過ぎようとしていた。今のところシルヴィアへと繋がる手掛かりは、まるで得られていなかった。その僕の捜索を阻んでいる主な要因は、学園から始まった革命派閥の反乱にあった。

 あの学園での王子襲撃騒動と同時に、どうやら王都内のいたるところで革命派閥による主義・主張の演説があったらしい。それを聞いた民衆が少しづつ共鳴していき、またそれに呼応するかのように、平民の暴動がちらほらと王都内で起こり始めた。騒動から2日も経つ頃には、それが各地方へと徐々に波及し、その鎮圧に騎士団や冒険者が駆り出されたが、中々に鎮圧まで時間が掛かっているようだ。

 それもそのはずで、実際に暴動などを収める鎮圧部隊の人数よりも、圧倒的にそれを起こしている平民の人数が多いのだ。さらに鎮圧を困難にしている理由として、暴動を起こした平民を皆殺しにするわけにはいかず、騒ぎを先導するリーダー格を見つけ出すのに苦労しているのだという。

(まぁ、皆殺しになんてしたら、鎮圧した後の税収に関わるからだろうな・・・)

 本来、税を納める働き手は平民だ。その働き手である平民達を皆殺しにしてしまうものなら、それだけ領主や貴族に入る税収は少なくなる。結果として王国への税収は中抜きもあり、格段に少なくなるだろう。そんなことになれば、国力は著しく低下し、王国全体が疲弊、やがてはこれを良い機会とばかりに隣国が乗り込んでくる可能性もあるのだ。

 つまり極端な表現をするなら、今回各地で反乱を起こしている平民達の暴動や反乱的行動は、上手に鎮圧することが出来なければ、この王国は滅びてしまう可能性さえあると言える。

(他国との争いは昔から結構あるって師匠も言っていたし、そんな状況で疲弊した王国を他国が座して見ているだけのはず無いだろうな)

 そんな理由もあってか、反乱の騒動の波は収まりを見せるどころか、今や国中に波及しつつある。そのせいで、僕が各地で革命派閥の人々を見つけたとしても、その人達がシルヴィアを攫ったことに関わっているか、いちいち確認する必要が出てきてしまったのだ。

 拠点の中を隅から隅まで、それこそ家具をひっくり返しながら。隠し部屋があればぶち壊して確認していた。さらに、馬車で移動している人達も特に重点的にその荷物に彼女を隠していないか探しているのだが、日が経つにつれて対象が多くなってきてしまい時間だけが掛かってしまう。


 いくら僕に【速度】の才能があって、常人より数十倍も早く行動できると言っても、あくまで僕は一人しかいない。それに対しての捜索範囲が広すぎるのだ。しかも、一部の革命派閥の暴徒の中には、人攫いを働くやからもいて、そのことがますますシルヴィアを見つけることを困難にさせていた。


「くそっ!シルヴィアが攫われてから、結構時間がかかってる。このままだと・・・」

 王子が言っていた最悪な想像が頭をよぎるが、今はただ足を動かすしかない。最初は自分の才能のこともあって、そうはいってもすぐに見つかるだろうと甘く考えていたのだが、こうまで相手が周到にルートを用意していたのは完全に予想外で、僕には手掛かりさえも掴めなかった。

(これなら、フリューゲン領に先行して待ち伏せた方が確実だったか?いや、もし目的地がそう見せ掛けただけで違っていたら・・・)

 シルヴィアへ繋がる手掛かりがまったくない状況に焦りを感じ始める。正直全ての可能性を考え出したら、それこそ王国中をくまなく探さないといけない。実は普通の民家の家主を脅して隠れているとか、街に居ると見せ掛けて実は森や人気のないところに小屋を準備していて隠れているとか、それこそ可能性は無限にある。そんなことになれば、全ての家一つ一つから物置の中や荷車、森にあるだろう洞窟にと、探そうとすればきりがない。

(もっと空間認識を鍛えておけば・・・)

ふとシルヴィアの事を考え出してしまうと、どうしてもこの状況ではそんな後悔が先にたってしまう。

(こんな状況では、いくら魔法が使えたところで全然役に立たない!なんで人を探す魔法って無いんだよ!なんで、戦いに使うしか役に立たない魔法しかないんだよ!)

 無力な自分の苛立ちを、手近にいた魔獣を殴り飛ばすことで発散しようとした。その時、僕が殴ろうとしていたのは・・・

(ん?フォレスト・ウルフ・・・?)

その魔獣の姿を見たとき、頭の中に閃《ひらめ》くものがあった。

「そうだっ!!」

 僕が思い付いた考えは、契約していた魔獣にシルヴィアを探させるというものだった。僕と契約している中で、最も索敵範囲が広いのはフェンリルだ。相手の匂いや気配を、優秀な個体なら5kmほど離れていても見付けることが出来るはずだ。しかも、フェンリル自体がさらに眷属を召喚することが出来るので、探す人手も増えるというものだ。

「待てよ、シルヴィアの匂いはどうする?」

 僕の手持ちの荷物に、シルヴィアの匂いが付いた物はないはずだ。学園に戻ってシルヴィアの私物を取ってくるにしても、ここからでは半日ほど掛かる距離に来てしまっている。

(何か、何かないか・・・)

 シルヴィアの匂いが付いていそうなものがこの場にないか、彼女との今までのやり取りを必死に思い出す。

「・・・そうだ!もしかしたら、あれに匂いが残っているかもしれない!」

 そう考え、僕は収納してあった学園の制服のローブを取り出す。長期休暇から戻って最近は、なにかとシルヴィアとメグが僕の腕に抱きついてきていた。しかも、2人とも抱きつく場所が決まっているようで、いつもシルヴィアは僕の左の腕に抱きついてきていたのだ。その時の匂いが残っているかもしれないという、一抹の希望を抱く。

「エキシビションの前日も僕を心配して、笑顔で振る舞っていた時に抱きついていたから、可能性はあるはずだ!」

そして僕は、召喚の詠唱を始めた。

『我の求めに答えよ、契約の名の元に現れいでよ、その名はフェンリル!』


すると、紫に輝く召喚陣が広がり黒いもやと共にフェンリルが現れる。

『アオーン!!』

「よしよし!このローブに残っている僕以外の匂いは分かるか?」

頭を撫でながら鼻の辺りに僕のローブを持っていき、匂いを嗅がせる。しばらくクンクンと嗅いで、ローブから鼻を外し、僕をまっすぐ見つめると一声『ワオーン!』と吠えた。

「分かったか!?この匂いの主はどこにいるか分かるか?」

そう聞くと、フェンリルは困ったように『クゥーン』と鳴くだけだった。おそらく、索敵可能範囲内にシルヴィアがいないのだろう。

「これからこの匂いの主を探してくれ!眷属も全て召喚して、全力で頼む!」

 そう頼むと、フェンリルは自身の眷属を20匹程召喚しだした。その眷属は見た目は、体長1m程の小さいフェンリルといった感じで、外見はモフモフでとても可愛らしい。

『アオーン!!』

 フェンリルが遠吠えをすると、召喚した眷属達が一斉に駆け出した。小さいと言ってもさすがはフェンリルの眷属だけあって、その速度はとても素早い。フェンリル自身は眷属と何らかのパスが繋がっているのか、僕のそばに残っている。おそらく、眷属がシルヴィアを見つけたら僕をそこに案内するためだろう。

「頼むぞ・・・なるべく早く見つけてくれ」

 それから、僕は僕でそれまで通り探し回ったが、結果としては空振りに終わってしまった。


 そして、散らばって行った眷属から反応があったのは、さらに丸2日経ってからだった。
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