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第四章 長期休暇 編
幕間 報告
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師匠の家から王都へと戻り、また風の癒し亭で休んだ翌日、『風の調』へとフリューゲン領についての報告を聞くために向かった。
「いらっしゃいませ、ダリア様」
お店に入るとショートカットの店員さんが一人出迎えてくれた。僕の他にはお客さんはいないようだった。
「こんにちは、お久しぶりです。今お時間大丈夫ですか?」
「ローガン様に面会ですね、少々お待ちください」
そう言って彼女は奥に消えていった。少しして戻ってくると以前の高級そうな商談室へと案内された。
「お久しぶりですダリア殿」
「お久しぶりですローガンさん。色々予定があって遅くなりましたが、情報は揃っていますか?」
「勿論です。フリューゲン領について、経済状況から領民の暮らし、領主の評判に至るまでまとめてございます」
そう言うと彼は懐から数枚の束になった冊子を取り出した。
「どうぞ、ご確認ください」
その報告書にはこう書かれていた———
「フリューゲン辺境伯領地について、経済は比較的良好。領主は堅実な領地経営をしており、博打にでるようなこともなく、安定的な収益の確保を優先しているようだ。また、その評価は、周りの領地と比べると、中の上といった状況である。
そこで暮らす平民たちにもこれといった不満などは見受けられず、領主が領民を虐げているというよな事実も確認されなかった。スラムのような場所もあるが、清掃は行き届いており王都のスラム街とは比べるべくもない。
領主の評判も領民からは上々で、特に悪く言うような人も少なかった。(まるでないわけではないが、他領地と比べるとほとんど気にならないくらいの量だった)
以上を総合的に見ると、フリューゲン辺境伯領は、対外的に見て堅実な領地経営と、領民への待遇も良い、居住しやすい領地だと判断できる」
1枚目の報告書にはこう綴られていて、領地を表面的に見た感想という感じだった。続いて2枚目に目を通していく・・・
「領主についてはごく少数の領民からの言葉で、その家族について聞くことが出来た。家族は領主と妻、10才になる男の子の3人家族である。以前は子供は2人いたらしいが、長男は幼い頃から病弱で、人前に出ることがほとんど無く、存在を知らない領民の方が多かった。長男は11才の時に病気で他界しており、その際領地で葬儀が執り行われている。以来、次男が領主になるべく魔法や勉学、社交にと頑張っていると領民は期待していた。父親である領主も子供を可愛がっており、子煩悩として領民には有名な話だった。
これにより、領主は領民のみだけでなく、家族にも愛情をもって対応している優れた人物像が伺えた。」
2枚目には領主の人物像が書かれていた。正直、僕の知る父親の姿とはあまりにもかけ離れた人物として報告されていたので、別人ではないかと疑ってしまうほどだ。そして、3枚目には・・・
「これまでの調査により、領地については特に問題なく、領主についても高評価されるべき人物だった。
しかしながら、あまりにも出来過ぎた人物に疑問を感じるところもあり、追加で裏の調査も行った。すると、不定期に領主の屋敷へ出入りする貴族風の人物を幾度か見かけた。領主の屋敷という事で場所を考えればおかしな事ではないのだが、相手は過去に没落した貴族が大半だった。訪問の理由までは確認することが出来なかったが、没落貴族が上級貴族に仕事の斡旋やお金の融通を頼みに来ることはあるが、その没落貴族は何度も来ていたのに、特に落胆や怒りを見せて帰ることも無かったので、そういった意図は感じられなかった。可能性の一つとして、何かしらの策謀をこの領主に感じる。私見であるが、表の顔はあくまでも表面的なものであり、裏の顔を持ち合わせている可能性が非常に高いのではないかと感じた。
以上。」
3枚目の報告書には、何かを企んでいる可能性の示唆が書かれていた。そして、最後の4枚目にはフリューゲン領の地図が書かれていた。地図を見ると辺境だけあってか、王都よりも広い領地だった。ただ、大半は農地や未開の地なので、経済的にも評価が中の上なのはそのせいだろう。意外だったのは、僕の住んでいたあの森もフリューゲン領内の端の方に位置していた。
報告書を全て見終わって僕は顔を上げ、ローガンさんに笑顔を向けた。
「色々調べてくれたようでありがとうございます」
「とんでもございません。ただ、その報告書には一部調査員の個人的な意見が混じっておりますので、その点はご容赦願います」
「かまいません、それだけ真剣にこの調査をしてくれたのだと思いますので。その調査員の方にお礼を伝えてください」
「これも仕事ですので、調査員は当然の行動をしただけですが、その言葉を直接本人に伝えて上げれば喜ぶと思います。是非言ってあげてください」
「えっ?どなたなんですか?」
「この部屋に案内した店員で、ツヴァイと言います」
その店員さんとは何度か顔を会わせているので直ぐに顔が浮かんだ。名前は聞いていなかったが、あの人がここまで調べてくれたのだと思うと頭の下がる思いだ。
「そうですか、後でお礼をしておきます」
「ふふ、ありがとうございます。彼女はあなたの為にと、調査期間を延長申請までして頑張ったようですから」
「・・・そこまでしていただけるような事は、僕は何もしていないと思うのですが?」
「きっとダリア殿の人柄に惹かれたのでしょう」
「はぁ・・・?」
どんなに考えてもあの店員さんとは、今日を合わせても4回しか顔を会わせていない。しかも、一度報告を受けるときに学園に来た際には、僕の不用意な発言を窘めた程だったので、そこまで肩入れしてくれるなんて心当たりはないが、素直に感謝したい。
「そうだ、ダリア殿。最後にサービスでお伝えしておきますが、最近王都内や他の領地でも少しきな臭い噂や動きを聞きますので、お気をつけください」
「噂ですか?」
「これ以上はまだ調査中でして・・・」
そう言うローガンさんは何も知らないというわけではない表情をしていた。
「・・・その情報はいくらですか?」
「残念ながら今はまだ売れません。不確かな情報を売るのは私の流儀に反しておりますので」
ローガンさんなりの拘りがあるのだろう、今はまだ購入出来ないようだった。そんな中でも僕に注意を促してくれたのはありがたい。
「分かりました。購入できるようになったら教えてください」
「かしこまりました。今後とも我が商会をご贔屓に」
最後に今回の料金の残りを精算して店を出る際に、店員のツヴァイさんにお礼を伝えた。
「ツヴァイさん、細かいところまで調査してもらってありがとうございます!」
「いえ、仕事ですのでご期待に応えれたのなら何よりです」
「滞在期間を延長したと聞きました。またお願いすることがあるかもしれませんので、今後ともよろしくお願いします」
そう言って僕はツヴァイさんに笑顔で握手を求めた。
「//////っ!!こ、こちらこそ」
何故かツヴァイさんには目を逸らされてしまったが、しっかりと握手を交わすことが出来た。
そして、長期休暇が終わるまでは風の癒し亭に滞在して、残りの期間を過ごした。
別の日、冒険者協会へ顔を出しにいくと、エリーさんが窓口から飛び付かんばかりの勢いで来るので驚いたが、きっと久しぶりだったので興奮したのだろう。
(弟のように接してくれているし、会わなかったから心配だったんだろうな)
その日は、興奮したままのエリーさんに付き合って長いこと学園の事や公国に遊びに行ったことを話した。もちろん、バハムートを討伐したことは話さず、いろんな食べ物や観光スポットのような場所の話に終始した。全部は話しきれなかったので、エリーさんの仕事終わりを待って近くのお店で食事しながら会話を楽しんだ。
別れ際にしきりに部屋に誘ってくるのだが、「ちゃんと宿を取っているので大丈夫ですよ」と安心させて帰路に着いた。その際エリーさんは、残念そうな歯痒いような表情だったので、僕の返答に何か間違えがあったのだろうかと、しばし悩む羽目になった。
また別の日には、フリージア様からの招待があり、いつの日か行った私室に案内された。私室に案内された時点で予想はしていたのだが、そこには色とりどりの衣装(女性用)が既にクローゼットから出されて並べてられており、この後の展開が容易に想像できた。しかもその部屋には何故かティアも居るというおまけ付きで。
世間話もそこそこに、早速着替えて欲しいとばかりに催促されてしばらく2人の好きなようにフリフリの服や少し露出多めの服も着せられて、その度に興奮していく彼女達に僕の精神的疲労は蓄積されていく。2人が居ることの相乗効果なのか、普段お淑やかなフリージア様や、寡黙な印象のティアの口調が段々おかしくなっていった。
「良い!いいよ!ダリア君!最高だよ!!」
「ダリア可愛い!お人形さんみたい。私この子欲しい!」
「ダメです!私のです!」
「いいや、私の!」
「いや、僕は人形じゃないよ・・・」
こんなやり取りをしながらも、日が暮れるまで延々と着せ替えは繰り返されるのだった。気のせいか別れ際になると2人の肌が艶々しているような気がした。
そして、長期休暇終了の前日に学園の寮へと戻ったのだった。
「いろんな経験が出来た、内容の濃い時間だったな」
森にいた頃には経験出来なかったことばかりの出来事に、自分としてはだいぶ見聞が広がったと感じていた。
「いらっしゃいませ、ダリア様」
お店に入るとショートカットの店員さんが一人出迎えてくれた。僕の他にはお客さんはいないようだった。
「こんにちは、お久しぶりです。今お時間大丈夫ですか?」
「ローガン様に面会ですね、少々お待ちください」
そう言って彼女は奥に消えていった。少しして戻ってくると以前の高級そうな商談室へと案内された。
「お久しぶりですダリア殿」
「お久しぶりですローガンさん。色々予定があって遅くなりましたが、情報は揃っていますか?」
「勿論です。フリューゲン領について、経済状況から領民の暮らし、領主の評判に至るまでまとめてございます」
そう言うと彼は懐から数枚の束になった冊子を取り出した。
「どうぞ、ご確認ください」
その報告書にはこう書かれていた———
「フリューゲン辺境伯領地について、経済は比較的良好。領主は堅実な領地経営をしており、博打にでるようなこともなく、安定的な収益の確保を優先しているようだ。また、その評価は、周りの領地と比べると、中の上といった状況である。
そこで暮らす平民たちにもこれといった不満などは見受けられず、領主が領民を虐げているというよな事実も確認されなかった。スラムのような場所もあるが、清掃は行き届いており王都のスラム街とは比べるべくもない。
領主の評判も領民からは上々で、特に悪く言うような人も少なかった。(まるでないわけではないが、他領地と比べるとほとんど気にならないくらいの量だった)
以上を総合的に見ると、フリューゲン辺境伯領は、対外的に見て堅実な領地経営と、領民への待遇も良い、居住しやすい領地だと判断できる」
1枚目の報告書にはこう綴られていて、領地を表面的に見た感想という感じだった。続いて2枚目に目を通していく・・・
「領主についてはごく少数の領民からの言葉で、その家族について聞くことが出来た。家族は領主と妻、10才になる男の子の3人家族である。以前は子供は2人いたらしいが、長男は幼い頃から病弱で、人前に出ることがほとんど無く、存在を知らない領民の方が多かった。長男は11才の時に病気で他界しており、その際領地で葬儀が執り行われている。以来、次男が領主になるべく魔法や勉学、社交にと頑張っていると領民は期待していた。父親である領主も子供を可愛がっており、子煩悩として領民には有名な話だった。
これにより、領主は領民のみだけでなく、家族にも愛情をもって対応している優れた人物像が伺えた。」
2枚目には領主の人物像が書かれていた。正直、僕の知る父親の姿とはあまりにもかけ離れた人物として報告されていたので、別人ではないかと疑ってしまうほどだ。そして、3枚目には・・・
「これまでの調査により、領地については特に問題なく、領主についても高評価されるべき人物だった。
しかしながら、あまりにも出来過ぎた人物に疑問を感じるところもあり、追加で裏の調査も行った。すると、不定期に領主の屋敷へ出入りする貴族風の人物を幾度か見かけた。領主の屋敷という事で場所を考えればおかしな事ではないのだが、相手は過去に没落した貴族が大半だった。訪問の理由までは確認することが出来なかったが、没落貴族が上級貴族に仕事の斡旋やお金の融通を頼みに来ることはあるが、その没落貴族は何度も来ていたのに、特に落胆や怒りを見せて帰ることも無かったので、そういった意図は感じられなかった。可能性の一つとして、何かしらの策謀をこの領主に感じる。私見であるが、表の顔はあくまでも表面的なものであり、裏の顔を持ち合わせている可能性が非常に高いのではないかと感じた。
以上。」
3枚目の報告書には、何かを企んでいる可能性の示唆が書かれていた。そして、最後の4枚目にはフリューゲン領の地図が書かれていた。地図を見ると辺境だけあってか、王都よりも広い領地だった。ただ、大半は農地や未開の地なので、経済的にも評価が中の上なのはそのせいだろう。意外だったのは、僕の住んでいたあの森もフリューゲン領内の端の方に位置していた。
報告書を全て見終わって僕は顔を上げ、ローガンさんに笑顔を向けた。
「色々調べてくれたようでありがとうございます」
「とんでもございません。ただ、その報告書には一部調査員の個人的な意見が混じっておりますので、その点はご容赦願います」
「かまいません、それだけ真剣にこの調査をしてくれたのだと思いますので。その調査員の方にお礼を伝えてください」
「これも仕事ですので、調査員は当然の行動をしただけですが、その言葉を直接本人に伝えて上げれば喜ぶと思います。是非言ってあげてください」
「えっ?どなたなんですか?」
「この部屋に案内した店員で、ツヴァイと言います」
その店員さんとは何度か顔を会わせているので直ぐに顔が浮かんだ。名前は聞いていなかったが、あの人がここまで調べてくれたのだと思うと頭の下がる思いだ。
「そうですか、後でお礼をしておきます」
「ふふ、ありがとうございます。彼女はあなたの為にと、調査期間を延長申請までして頑張ったようですから」
「・・・そこまでしていただけるような事は、僕は何もしていないと思うのですが?」
「きっとダリア殿の人柄に惹かれたのでしょう」
「はぁ・・・?」
どんなに考えてもあの店員さんとは、今日を合わせても4回しか顔を会わせていない。しかも、一度報告を受けるときに学園に来た際には、僕の不用意な発言を窘めた程だったので、そこまで肩入れしてくれるなんて心当たりはないが、素直に感謝したい。
「そうだ、ダリア殿。最後にサービスでお伝えしておきますが、最近王都内や他の領地でも少しきな臭い噂や動きを聞きますので、お気をつけください」
「噂ですか?」
「これ以上はまだ調査中でして・・・」
そう言うローガンさんは何も知らないというわけではない表情をしていた。
「・・・その情報はいくらですか?」
「残念ながら今はまだ売れません。不確かな情報を売るのは私の流儀に反しておりますので」
ローガンさんなりの拘りがあるのだろう、今はまだ購入出来ないようだった。そんな中でも僕に注意を促してくれたのはありがたい。
「分かりました。購入できるようになったら教えてください」
「かしこまりました。今後とも我が商会をご贔屓に」
最後に今回の料金の残りを精算して店を出る際に、店員のツヴァイさんにお礼を伝えた。
「ツヴァイさん、細かいところまで調査してもらってありがとうございます!」
「いえ、仕事ですのでご期待に応えれたのなら何よりです」
「滞在期間を延長したと聞きました。またお願いすることがあるかもしれませんので、今後ともよろしくお願いします」
そう言って僕はツヴァイさんに笑顔で握手を求めた。
「//////っ!!こ、こちらこそ」
何故かツヴァイさんには目を逸らされてしまったが、しっかりと握手を交わすことが出来た。
そして、長期休暇が終わるまでは風の癒し亭に滞在して、残りの期間を過ごした。
別の日、冒険者協会へ顔を出しにいくと、エリーさんが窓口から飛び付かんばかりの勢いで来るので驚いたが、きっと久しぶりだったので興奮したのだろう。
(弟のように接してくれているし、会わなかったから心配だったんだろうな)
その日は、興奮したままのエリーさんに付き合って長いこと学園の事や公国に遊びに行ったことを話した。もちろん、バハムートを討伐したことは話さず、いろんな食べ物や観光スポットのような場所の話に終始した。全部は話しきれなかったので、エリーさんの仕事終わりを待って近くのお店で食事しながら会話を楽しんだ。
別れ際にしきりに部屋に誘ってくるのだが、「ちゃんと宿を取っているので大丈夫ですよ」と安心させて帰路に着いた。その際エリーさんは、残念そうな歯痒いような表情だったので、僕の返答に何か間違えがあったのだろうかと、しばし悩む羽目になった。
また別の日には、フリージア様からの招待があり、いつの日か行った私室に案内された。私室に案内された時点で予想はしていたのだが、そこには色とりどりの衣装(女性用)が既にクローゼットから出されて並べてられており、この後の展開が容易に想像できた。しかもその部屋には何故かティアも居るというおまけ付きで。
世間話もそこそこに、早速着替えて欲しいとばかりに催促されてしばらく2人の好きなようにフリフリの服や少し露出多めの服も着せられて、その度に興奮していく彼女達に僕の精神的疲労は蓄積されていく。2人が居ることの相乗効果なのか、普段お淑やかなフリージア様や、寡黙な印象のティアの口調が段々おかしくなっていった。
「良い!いいよ!ダリア君!最高だよ!!」
「ダリア可愛い!お人形さんみたい。私この子欲しい!」
「ダメです!私のです!」
「いいや、私の!」
「いや、僕は人形じゃないよ・・・」
こんなやり取りをしながらも、日が暮れるまで延々と着せ替えは繰り返されるのだった。気のせいか別れ際になると2人の肌が艶々しているような気がした。
そして、長期休暇終了の前日に学園の寮へと戻ったのだった。
「いろんな経験が出来た、内容の濃い時間だったな」
森にいた頃には経験出来なかったことばかりの出来事に、自分としてはだいぶ見聞が広がったと感じていた。
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