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黒蓮

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第四章 長期休暇 編

フロストル公国 5

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 肩までの長さのウェーブ掛かった髪をしている淑女然としたしたエルフが、マーガレット様の祖母らしい。僕の感覚では正直、マーガレット様のお母さんがお姉さん、祖母がお母さん位の容姿に見えるのだが、エルフの寿命を考えるならこれが普通なのだろう。

「初めまして、ダリア・タンジーと申します。お元気そうで何よりです」

「うふふ、ありがとう。エルフ特有の難病をわずらってしまったのだけど、あなたのお陰よ」

「いえ、マーガレット様の行動があってこそですよ。私はほんの少し手助けしただけです」

「そうね、マーガレットには本当に大変な思いをさせてしまったわ。でも、あなたのお陰であることもまた事実。改めてお礼をさせてちょうだい」

マーガレット様や女王からもお礼の言葉は貰っているので、あまりお礼ばかり言われるとどうにも居心地悪く感じてしまう。

「えぇと、お気になさらないで下さい」

「そうだ!確か欲しい魔具が有るのよね?良ければ許可証をあげましょうか?」

「っ!?本当ですか!?」

「ええ。ただ、オーガスト王国で他の人に譲渡したり、売却するのはダメよ?」

「はい!もちろんです!」

「それと、マーガレットと今後も末長く仲良くしてあげてね?」

「そんなことで良ければ喜んで!」

僕はその言葉の意味を深く考えることもせずに、ただあの魔道バイクが購入出来ることに浮かれていた。頭の中ではあの魔具を乗り回す想像をしていた為、僕の隣で少し顔を歪めたティアには気付く事はなかった。


 それから皆がテーブルにつくと、料理が運び込まれてきた。それぞれの前に突き出しが置かれると、マーガレット様達は手を組んで神へと祈りを捧げていた。フロストル公国が信仰しているのは『風の女神アウラ』と言うらしい。僕は王国の宗教にもあまり興味は無かったので、とりあえず隣のティアを見ながらどうするべきか考える。ティアはティアでどうやら『フローラ教』への祈りをしているので、僕は間を取って祈りのポーズだけにした。

ありがたい事に、誰かに突っ込まれることも無く食事は始まった。この食事はコース料理らしく、突き出しから始まり、前菜、スープなど次々と食事を出していくスタイルで、全部で11品が食事のペースに合わせて出されてくるとのことだ。幸い知識だけはあったので、置かれている食器も端から順に使っていく。出てくる料理はどれも見た目が美しく、味も王国では食べたことの無いソースを使っていて絶品だった。特に前菜で野菜に掛けたドレッシングと、メインの肉に使ったソースは火を入れているかいないかの違いなだけで、同じものと聞いたときは驚いた。

 食事中は世間話をするくらいで、学園のことや、公国での観光をして興味があった事などの話をマーガレット様やティアと話し、その話題について女王が少し聞いてきたり、アマンダさんが話題を振ってきたりと楽しい時間を過ごした。


 食事も終盤になり紅茶と焼き菓子が出てきた時に、僕は少し気になっていたことを聞いてみた。

「そういえば、え~と、以前僕が居た森で会った騎士のカインさんはいないのですか?」

王女と共に行動していた程だから、結構上の地位の人だと思ったのだが、公国に着いてから城の中でも見ていないし、女王との謁見の時にも見ていないので、どうしたのだろうと気になっていたのだ。その質問に答えてくれたのは女王だった。

「カインですか?彼には少々任務を申し付けていますので、戻ったらダリア殿に会いに行くように伝えましょうか?」

「いえ、そこまでではないですが。彼は結構重傷を負っていたので、大丈夫だったのかと思っただけですので」

「心配してくれてありがとう。カインは戻ってからきちんと治療を受けて直ぐに良くなったのよ。今でも元気一杯に任務に励んでいるわ」

「そうなんですね、安心しました」

「彼とは僅かな時間の交流しか無いと聞いていますが、ダリア殿はお優しいのですね」

「自分の関わった人が死んでしまっていたら後味が悪いですから・・・」


 パーティーは終わり部屋へと戻った。女王の言った通り、身内だけの食事会といった感じだったが、落ち着いて料理を食べることが出来たのでとても満足だった。ただ、ティアの口数が少なかったような気もするが、普段から良く話すわけではないし、感情表現が豊かだというわけでもないのだが、なんとなく気になった。

(まぁ、相手が女王となれば、そんなに気安くお喋りも出来ないか・・・)

 僕としてはあの魔道バイクを手に入れることが出来るようになったというだけで公国に来た甲斐があったというものだ。あとは、図書館に僕が望む【速度】の才能についての記述があればもう言うことはない。




side マーガレット

 フロストル公国王城の一室、この部屋は王族の者しか存在を知らぬ場所。その部屋に3人のエルフが居る。マーガレット、王配、そして女王ヴァネッサである。

「彼が2年前にマーガレットの言っていた公国に引き入れたいと考えている人材ね」

一番上座に座る女王がマーガレットに向かってその考えを確認している。

「はい、お母様。当時はその力に魅力を感じ、報告だけでしたが、実際に交流してみても人間性に問題は無いかと感じました」

「そう・・・あなた、【看破】で彼の言葉に偽りは有りましたか?」

「無い。彼は全て本当の事しか言っていない。まるで純粋な子供のようだ」

「そうですか、実際その実力という部分に目を瞑れば、彼は紛うことなき子供です・・・彼がこの国に魅力を感じればですが、民達が彼を受け入れるかは難しいでしょう・・・」

「皆はそれ程まで拒否感が強いですか?」

「マーガレットはまだ100歳にもなっていないですが、500歳以上の民も少なくない。あの神人かみびととの戦いの事を忘れていない者も多いのです」

 私も書物でしか知らないことだが、約500年以上前までは人間とエルフは頻繁に交流し、一緒に暮らしもしていたらしい。しかし、突如自らを神人と名乗る者が現れ国を次々と滅ぼしていった。当時はそんな神人に対抗すべく各国が一丸となるべきだという考えのもと団結したという。

いや、事実は団結したように見せかけただけだった。当時から既に魔法先進国としてフロストル公国は頭ひとつ抜きに出た国家だった。それを快く思わない他国の人間達が、我が国を利用し、神人討伐の矢面に立たせたのだ。表向きはその魔法技術力を持って世界を救って欲しいという願いで。しかし、その実はフロストル公国を損耗させ、国力のバランスを取る目論見が我が国以外で一致した意見だったそうだ。

 結果、人間達の思惑通りに我が国は大打撃を受け国力の衰退を招いてしまった。更に追い討ちをかけるようにオーガスト王国は、国力の衰退を理由に国家の合併を提案してきたという。表向きには救済と言っているが、結局我が国の持つ技術の全てを吸収したいという王国の思惑は透けており、反発した我が国との戦争へと至ったのだ。神人によって消耗した直後の圧倒的不利な状況だったが、皮肉にも同時期に神人が王国を襲撃し、国力のバランスが取れた事でなんとか吸収を免れたのだ。

 そして、その時の失策の責任を取ってお婆様は女王を退き、エルフとしてはまだ若かったお母様が新たに即位された。王国には既に当時の戦いを先導した者達は生きておらず、遠い昔の歴史の中の事となっているだろう。しかし公国は違う。やはり恨みを忘れることなど出来ないのだろうか。

「しかし、では休戦協定の意味は?和平条約へと繋げる為では?」

「表向きはあなたも知っているでしょう?王国の一人の少年が先代女王を救う手助けをしてくれた事への感謝として、いつまでも過去に囚われず未来を共に歩むべきという」

「はい、存じております」

「その実はある協力者との協議が纏まったからということよ」

「・・・協力者ですか?」

「えぇ、王国の貴族から平民が受ける理不尽な現状を嘆き、良き王国へと変えていきたいという志を持つもの達よ」

お母様の目が妖しく光るのを私は感じてしまった。きっとお母様も王国という国を許せないでいるのだろう。なんとなくお母様の考えを思い描くと、その協力者達の目的が見えてくる。

「つまり、クーデターを画策している者達ですか?」

「そうよ!今あの王国には3つの勢力が有ることが分かっています。1つは現状の王派閥、次に内部から自浄作用で王国を正そうとする教会派閥、そして、クーデターによって王国を変えようとする改革派閥」

「その改革派閥とは一体?」

「簡単に言えば廃嫡された元貴族の集まりよ」

なるほど、つまり改革派閥の目的はクーデターを成功させ元の貴族としての身分に戻ることだろう。しかし、廃嫡されるような無能の集まりが国を取ったところで王国の未来は暗いだろうし、そういった野心のある者達の集まりは、仮にクーデターが成功しても誰が上に立つかで揉めそうだ。となると、そんな派閥に協力するお母様の目的は・・・

「つまりお母様の目的は、クーデターが失敗したとしても内乱で王国が疲弊し衰退すること。成功したとしても能力の無い者達が統治する王国は結局衰退していく、もしくは誰が統治していくかで揉める事で、更に内紛が起こり衰退することになるということですね?よもや王国を吸収されるのですか?」

「さすがマーガレット、私の娘ね!でも王国を吸収するつもりはないわ。人間の国の統治など面倒なだけよ。私は民達の不満を取り除いた知謀ちぼうの君主となるだけよ」

 つまり、お母様の目的は絶対的な基盤の確保だ。ダリアに言った通り過去には我が国でも色々衝突があり、なんとかお母様が纏めている形だが、休戦協定の時にそれを弱腰だと批判する者もいた。公国も過去のことは過去として前に進もうとする融和派と王国を許す事無かれとする強硬派がいる。王国にはエーテルの材料となるオーガの上位種が住む魔の森が有るからこそ国交は有用だと融和派は考えていて、半数程支持されている。そして、一応お母様は融和派だ。しかし、もう半数は強硬派は、必要なら王国を吸収してしまえと主張しているので、下手をすると公国が二分してしまう。それを防ぐための今回の一連の行動なのだろう。

「なるほど、公国の女王が王国を衰退させたという事実があれば、500年前のことを体験している強硬派の溜飲も下がるということですね。そして公国は本当の意味で1つになる」

「そう。だから彼には出来れば何もして欲しくないのよ。彼が王国のどれかの陣営から要請を受けて動くと、全く損耗がない内に戦いを終らせることが出来るかもしれないでしょ?」

「・・・妻よ、そのようなこと、あんな子供に可能なのか?」

「そうでしょ?マーガレット?」

「そうですね、お母様が手引きしたという元プラチナランク冒険者を、まるで苦にならずに・・・いえ、あれは戦いにすらなっていなかったと思います」

お母様があの人材をどこから手引きしたのかと考えていたが、なるほど、王国の協力者を使ったということか。

「・・・それ程までの力か」

「そう。だからその力の前に戦意を失ってしまっては困るのよ。今後は出来るだけ王国に悪印象をもたらすようにこちらでも手を打ちます。マーガレットも出来る手段があれば全て取りなさい」

「分かりました、お母様」

「・・・あまり無茶はするなよマーガレット」

「大丈夫です、お父様」

 こうしてその日、王国に対する行動と、ダリアに対する行動の指針が私の中で決まったのだった。
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