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黒蓮

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第四章 長期休暇 編

フロストル公国 4

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 時刻は昼前、公国に到着して女王様との接見のあとに、王城に用意してくれたという各自の部屋に案内された。さすがに王城なだけあって1人部屋にしては広々とした部屋だった。重厚な机に4人掛けの丸テーブル、大きめのベットは真っ白で、さぞ眠り心地は良いだろう。備え付けのクローゼットには先程脱いだ僕の私服と公国の物だろう、いくつか服が入っていた。

(多分勝手に着てもよさそうだけど、汚したりする心配があるな。あっ!でも、さっき僕が選んだ服装に近いやつが取り揃えられているからちょっと着てみたいな・・・)

 せっかくなので白地に赤のラインが入った騎士風の服に着替えさせてもらった。この後荷物の整理をして首都を案内してもらうことになっているが、僕の荷物なんてほとんど空間魔法で収納していて、手荷物で持ってきたのは冒険者の時に使っていたリュックに不自然にならないように適当に詰め込んできただけなので、あっという間に終わってしまった。

「さて、準備が終わったら呼びりんを鳴らして執事を呼べばいいって言ってたな」

 机に置いてある手のひらサイズの魔具のボタンを押すと、対となるもう一つの方が反応するらしい。僕は使う事は無いと思うが、使用人を使う貴族にとっては重宝しそうな魔具だと思った。ボタンを押してしばらくすると、執事の1人が迎えに来てくれて城の正門前まで案内してくれた。マーガレット様とティアはまだ着替えと整頓に時間が掛かっているらしく待つことになった。ただ待っているのも暇なので、サラサラ青髪のイケメン執事エルフに話し掛けた。

「えっと、エルフの執事の方・・・名前は何というんですか?」

「はい、私はサジルと申します」

「サジルさんにとってこの国は住みやすい国ですか?」

「・・・そうですね、少なくとも私にとっては不自由なく暮らせていますので、そういった面では住みやすいですね」

(あっ、仮に住み難かったとしても、こんな城の目の前の誰が聞いてるかも分からないところで公国の批判は出来ないか)

「そうなんですね。では、人間についてはどう思っているんですか?」

「どう、とは具体的に何を聞きたいのでしょう?」

「公国と王国は数年前まで戦争状態にあったと聞きますから、いくら休戦協定が結ばれたとはいっても、人間と相対する事に抵抗があるのではないかと思ったんです」

「確かに少し前まで敵対していた人間の方を前に何も思わないではありません。私の友人も戦場におもむき帰らぬ人となっていますから・・・しかし、それを年端も行かない子供のダリア殿へまで向けることはありません。それに以前は・・・いえ、人間にとっては大昔になるかもしれませんが、エルフと人間が共に手を取り合って生活していた時代もあったようですから、一概にエルフの全員が全ての人間を悪しき対象として憎んでいるかと言うと、そうではないと私は考えています」

「へぇ、そんな時代もあったんだ。争いなんてせずに仲良く暮らせばいいのにね!そうすればフライトスーツみたいにもっと面白そうな魔具とかが開発されるかもしれないのになぁ」

「おや、フライトスーツをご存じですか?あれは人間の方には少々難しいと聞きますね」

「そうらしいですね。僕は結構自由に空を飛べるのでとても重宝しているのですが、他の人はそうではないらしくて・・・」

「それは素晴らしい!ダリア殿はどの程度の速さで飛行できるのですか?」

「う~ん、そうですね・・・少なくともマーガレット殿下と乗って来た馬車よりは早いですよ」

「それはそれは。本日ご案内する所には乗り物の魔具もございますので、ダリア殿には面白い場所かもしれませんね」

「はい、楽しみです!」


 そんなことを話していると、マーガレット様とティアが、メイドと側仕えと共に現れた。どうやら観光する為に2人とも動きやすい服装にしたようだ。

「あら、ダリア殿はこちらで用意した服にしたのですね。ふふふ、良くお似合いですよ」

「ん、確かに。でももう少しその服を着こなすには身長が必要」

むむ、どうやら僕の恰好は服を着ているというよりも、服に着せられている状態なのかもしれない。どうやらティアは裏表なく素直に批評してくれる人のようだ。

「ははは、デザインが気に入ったので・・・2人は動きやすい爽やかな恰好が良く似合っていますよ」


 ムービングロードで橋を移動しすると、そこには馬車が待っていた。街中ではスレイプニルは不味いのか、普通の2頭引きの馬車だった。皆で馬車に乗り込むと、サジルさんは御者台に座っている。どうやらこの人は執事だけでなく御者も出来てしまうようだ。

「商業街は少し離れておりますので、この馬車で移動いたします」

「ん、お店に応じて場所が決められているの?」

「はい。公国の街では商業街・工業街・住宅街と分けることで管理しやすくしているのです。農場なんかは街の外で大規模に作る様にしています」

「へぇ、王国の王都は結構ごちゃごちゃしているイメージだけど、それなら見たい場所がまとまっているし良いですね」

 10分ほど移動すると馬車が停まり、目的地に着いた様だ。馬車から降りると一軒の食事処が目についた。

「ここはこのレイクウッドでも人気のお食事屋さんなんですよ。ちょうどいい時間ですので、まずは食事をしてから観光いたしましょう」

 店内にはいると個室へと案内された。このお店はパスタが人気らしく、特に牛乳を加工した生クリームとチーズをたっぷりと使ったクリームパスタが絶品らしい。せっかくなのでオススメ通りに注文して食べてみると、王国では食べたことがないような濃厚なクリームソースの味に舌鼓を打たせてもらった。ティアを見るととても満足したような表情をしているので、彼女もこの味を気に入ったのだろう。

「では、ダリア殿のご希望の魔具を見に行きましょうか」

 食事が済むと次にマーガレット様が案内してくれたのは、多くの魔具を扱っている商会だった。5階建ての大きな建物には所狭しと商品が並べられており、王国では見たことも無い物がたくさん有って、僕は時間を忘れそうなほど見入ってしまっていた。ティアが背中を突っつかなければ夜まで居たかもしれない。

 その店で一番気になったのが、魔道バイクという商品で、スレイプニル以上の速度が出せるものらしい。全長2m程の大きさで、ギリギリ片足を伸ばして何とか足が着くくらいだが、乗れない事は無い。正直速度に関しては僕が走った方が早いのだが、黒とシルバーの配色デザインが気に入りなんとか購入出来ないかと店主に聞いてみた。すると、この商品を国外に持ち出すには公国の許可が必要ということで、後ろにいるマーガレット様を凝視したのだが、確認するということでその日の内には購入出来なかった。

「申し訳ありませんダリア殿、国外に持ち出されると困る技術もありますので。後程お母様に確認致しますね」

「ん、確かに動物に頼らない移動手段は革新的。さすが魔道先進国。ただ・・・」

「ただ?」

「ん、デザインが可愛くない」

「実はこの魔具は男性に人気で、女性にはあまり好まれていませんので、必然的に男性が好むデザインになったのかもしれませんね」

「むぅ、残念」

 そんな楽しいお買い物時間も気付けば辺りは夕方になってきた。どうもこの店で時間を使いすぎてしまったようだ。

「もういい時間ですね。図書館はまた明日にでも案内しましょう」

「すみません、僕が時間使ってしまったみたいで・・・」

「いいえ、自分の見たい物を好きなだけ見るのが観光の醍醐味ですから」

「ん、私も結構楽しんだ」

2人にそう言ってもらうと少しホッとする。

「そういえば、先ほどのお店でもそうでしたが、人間の僕やティアを見てもエルフの方はチラッと見るくらいで、それほど注目してない感じでしたね」

「ん、それは私も感じた」

どうやらティアも同じ事を感じていたらしい。

「全く興味が無いわけではないと思います。とはいえ、王女の私と同行しているので、公国にとってのお客様だと分かっているのでしょう。それに、あまり他人をジロジロ見るのはマナー違反ですから」

「ん、さすがエルフの方は紳士的」

異分子である僕やティアも王女と一緒ならさして問題ないのだろう。これが僕だけで辺りをフラフラしたらどうなるのかとも思ったが、わざわざ騒ぎを起こすべきではないだろう。

 そして、馬車で城へと戻ってくると、18時位からパーティーを執り行うということで、時間になったら部屋に呼びに行かせると言われて、僕らは一時解散となった。

(きっと皆また着替えるんだろうな・・・)

滞在中の部屋に案内されクローゼットの服を見ながらこの後のパーティーについて考えていた。

(1日でこんなに着替えたことなんて無かったけど、社交の場の常識と考えれば学ぶことが出来る良い機会だったな)

公国で販売している服のデザインも気に入ったので、帰る前にそういった正装の服を何着か購入しておこうと決めた。


 そして、時刻は18時少し前にサジルさんが呼びに来た。着ていくものは迷ったが、着替えること無くそのままにした。案内されたそこは、きらびやかなシャンデリアが眩しい部屋だった。片側に10人は座れるだろう、大きな艶のある長テーブル。その机には真っ白い皿と銀色に輝くナイフやフォークが置かれていた。

そこには既にティアがおり、やはりまた違うドレスに着替えていた。

(通りで荷物が多いわけだ)

 馬車に運び込んでいた荷物の量を見た時には、いったい何がそんなに入っているのだろうと不思議だったのだが、こういった状況になると納得できるものだった。

そして、僕が来てから直ぐにマーガレット様達も入ってきて、少し挨拶をしていると、まだ見たことの無いエルフの人が入ってきて僕らに近付いてきた。

「初めましてダリア・タンジー殿、私はアマンダ・フロストルと言います。あなたがオーガ・ジェネラルを討伐してくれたお陰で命拾いした、マーガレットのお婆ちゃんです」

 柔らかい笑みを浮かべるその人は、とてもお婆ちゃんとは思えないような、綺麗に歳を重ねた淑女だった。
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