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黒蓮

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第三章 国立魔道武術学園生活 編

学園生活 19

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「フリージア様!マーガレット様!ティア!どうしてここに?」

 誰かが近付いてくる気配はあったが、まさかこの3人だとは思わなかった。Sクラスの授業に顔を出した時に何となく仲は良さそうなんだなと感じてはいたが、まさか休息日に一緒に出掛けるほど仲がいいとは思わなかった。見れば、対面に座っているシルヴィアは3人の登場に固まってしまっている。

「せっかくですから今日は皆で親睦を深めに、最近噂になっているお店に来たんですよ」

フリージア様がマーガレット様とティアを見ながら笑顔で答えてくれた。

「ん、興味があったから来てみたかったけど、一人は来づらかった」

「私もこの国のお菓子を食べてみたかったんです」

なるほど、そう言われて周りを見れば、お店の客層は女性の比率が多いようだ。あとは男女で来ている人達も一定数居る。

「そうだ!良かったらダリア君とシルヴィアさんもご一緒しませんか?」

フリージア様がそんなことを提案してきたので、シルヴィアに確認する。

「わ、私の名前を憶えて・・・よ、よろしいのでしょうか?私のような平民と席を同じにするなんて?」

「もちろんです!わたくしは人という存在に優劣をつけるべきではないと思っているのですが・・・教会の教えでも『自らの才能を活かし、世界における役割をまっとうする事で幸せになりなさい』とあるのです。しかし、いつしか一部の貴族達はそれを誤った解釈で———」

「ん、フリージアは教義の話になると長くなる。私はとりあえず座りたい」

長くなりそうなフリージア様の話に、ティアが待ったをかけた。

「あっ、ごめんなさい。そういう訳で気にしなくても良いですよシルヴィアさん」

「は、はいっ!!ど、どうぞおかけください!」

 といってもこのテーブルでは5人は座れないので、店員さんにお願いして大きな丸いテーブルに移動させてもらった。その最中周囲からの視線が非常に集まってしまった事を感じていた。なにせここには、王国の聖女様に他国の王女、有力貴族の令嬢が一堂に会しているのだ。極めつけは、女の子4人とも周囲の目を引く容姿である。そんな中にポツンと僕一人だけ男が居るのは少々居心地が悪い。


「ところで、ダリア君はシルヴィアさんととても親しいようですね?」

ケーキと紅茶のセットを頼んだ後にフリージア様がそんなことを聞いてきた。

「そう言えば、クラスではこの店に男女で来るのは、よほど親しい間柄でないと行かないと言っていましたね」

マーガレット様もクラスで聞いたといってそんなことを言ってくる。確かに僕とシルヴィアは友人として親しいと思うし、わざわざそんな事を確認するように聞いてくることに何か意味はあるのかと疑問に思う。

「えっ?わ、私とダリア君はそんな・・・で、でも、そうなったら良いとは・・・」

2人の言葉にシルヴィアは顔を真っ赤にして俯きながらも僕を見てくる。

(あっ!これは言葉を間違えるとダメなやつだな・・・)

ここ最近、何故かシルヴィアを不機嫌にさせてしまっていたので、何となく慎重に言葉を選ぶべきタイミングが気付けるようになってきたかもしれない。

(さっきは言葉を間違えてしまったが、今度こそ!)

「僕とシルヴィアはとても親しいですよ!僕の学園での最初の友人なんですから!」

・・・・・・・・・

 周りに座る3人の突き刺さるような視線と、シルヴィアから送られる悲しいような嬉しいような複雑な視線を感じて、僕は間違った返答をしたのだと瞬時に悟ってしまった。

「ダリア殿はその・・・もう少し女の子と言うものを理解した方が良いようですね」

「ん、こんな見た目なのに女の子の気持ちが分からないとは・・・残念」

「ごめんなさい。変なことを聞いてしまいました」

矢継ぎ早に辛辣な言葉を投げ掛けられ、フリージア様に至っては謝罪までされてしまった。

「見た目は関係無いと思いますが、女の子の気持ちが分からないことはその通りですかね。とはいえ、僕は王都に来るまで女性と話したのは自分の母親とか、片手で数えるほどしか居ませんでしたから・・・」

そんな僕の言葉に過敏に反応したのはシルヴィアだった。

「えっ、ダリア君、その、友達とか居なかったの?」

「うん。それに5歳の頃から母親とも話してないから、女の子という存在自体が僕の中では縁遠くて・・・」

そう言うと皆は少し納得顔になったような反応でそれぞれ思案しているようだった。

「ん、それならダリアが女の子に慣れていないのはしょうがない」

 まぁ、僕の女の子への対応は、師匠から教わった事を型に嵌めているだけだ。女の子と話すことがなかった僕には、とにかく顔を誉めたり、服を誉めろと聞いただけで、個別の状況には対応できていない。

「どうやらダリア君が女心を理解するのはまだ先のようですね」


 責められている訳ではないと思うのだが、何となく男1人に女の子4人だと何も言えなくなってしまう圧を感じる。そこで、なんとか雰囲気を変えるべく話題を変える。

「そうだ、フリージア様に聞いてみたいことがあったのですが・・・」

「はい、何でしょうか?」

 ちょうどいい機会と思って、僕は王国の総人口が約1000万人に対して15歳の子供が占める割合が少な過ぎるのではないのかなと疑問を口にした。総人口に対して200分の1の割合でしかないのはおかしいなと思っていたためだ。

「えっとそうですね、大昔には確かに王国中の15歳の子供を一堂に集めて教育していた歴史もあったようですが、今では経費の関係もありますし、辺境の領地の者が王都まで移動してくるのは大変な労力と金銭が必要ですので、今では王都周辺の領地の者や、金銭にある程度余裕のある者が集まるのが普通ですね」

 フリージア様が言うには、そもそも学園に入学するのは上級貴族であれば将来の家臣となる様な人物を探すために、下級貴族であればより上の貴族との繋がりを求めたりと、貴族としてのたしなみの面が多分にあるそうだ。平民については、貴族への仕官や衛兵を目指すのが一般的になる。学園に来ない大半の平民の子供たちは、そのまま自分の領地で親の手伝いをしながら成人していくらしい。平民の半数は農業や酪農を営んでいる者が多く、働き手となる子供が学園へ行ってしまうと作業がままならない家もあるそうだ。

「そうなんですね。知りませんでした」

「ダリア君は師匠って言う人からそういう事は聞いてなかったの?」

シルヴィアが僕の知識の偏りに不思議がって聞いてきた。

「う~ん、師匠からは皆集まるって聞いたんだけど、知識が古かったのかな」

「でも、こうなったのは2、300年は前からですよ?」

「う~ん、住んでる所が森の中だったから、もしかして師匠自身は学園に行ってなくて聞き噛った知識だったのかもしれませんね」

「森というと、もしかしてあの森でずっと暮らしていたのですか?」

マーガレット様が僕と出会った時のことを思い出したのか、驚きながら聞いてきた。

「ずっとではないですよ。そうですね、3年位ですよ」

「あの森で3年か・・・私を助けてくれた時には一人でサバイバルもしていたようだし、強くなるわけだな」

「ん、マーガレットはダリアがどこの森に住んでいたのか知ってたの?」

「え、えぇ、魔の森・・・別名『オーガの棲家すみか』よ」

「えっ!!ダリア君、そんな危険なところに住んでいたの?」

身を乗り出すようにシルヴィアが驚いている。

「そうだけど、そんなに危険なところだったかな・・・」

「ダリア殿、あの森には他には生息していないオーガの上位種のジェネラルや最上位種のキングがいる。キングの力はドラゴン種のドレイクと同等程度と言われている、非常に危険な森なんです」

なるほど、オーガの上位種はあの森にしか居なかったのか。それでマーガレット様達一行は、エリクサーの素材の為に国境を越えてまで来ていたようだ。

「危機感を感じずに生活出来ていたので気付きませんでした」

「ん、ダリアの実力なら当然」

「そうですね。ダリア君ならどんな魔獣が相手でも遅れを取る姿が想像できません」

「はい。ダリア君ですから」

何故か皆からは褒められているというより、呆れられているような声音だった。

「そう言えば、ダリア殿は我が国が開発したフライトスーツを所持していると聞きましたが本当ですか?」

「えっ?ええ、持っていますよ」

「その、あれは扱いが難しいし、色々制限もあるのですけど、どうでしょうか?」

「そうですね、結構練習は要りましたが、今では自由に空を飛ぶことが出来るので楽しんでいますよ」

「本当ですか!?熟練のエルフでも扱いが難しいしとされているのですが・・・」

「ん、私の家の騎士が試していたけど、あれではいい的になる」

「そうですね、聖騎士の方々も戦略の幅を広げようとしてましたが、フワフワ動くのが限界で、結局諦めていました」

「もう、ダリア君なら何でもありな気がします」

皆のフライトスーツに対する評価を聞いていると、そんなに難しかったかなと疑問に思ってしまう。せっかく自由に空を飛べる手段があるからと夢中で練習していたとはいえ、ちょっと頑張れば出来ると思うのだが・・・。

「僕だからって訳ではないですよ。でも、公国の技術は凄いですね!流石は魔法先進国と言われているだけあります」

「ふふふ、そうでしょう!そうだ!良ければ長期休暇の際には我がフロストル公国に来てみないですか?」

「エルフの国にですか?」

「そうです。人間と比べて長寿な種族だから、ダリア殿の知りたい知識や、魔法技術もあるかもしれませんよ!」

知識については、出来れば僕の【速度】についての才能が詳細に載っているものとか、フライトスーツのような面白そうな物がたくさんあるなら行ってみたいものだ。

「・・・面白そうですけど、人間の僕が行くのは問題がありませんか?」

「ふふふ、私は交換留学で来ているのです。公国では協定が結ばれた貴国と友好関係を深めたいとも考えていますので、きっと歓迎しますよ!それに、私の祖母の恩人でもあり、友人なのですから何も気にすることはありません!」

「あら、マーガレット様。彼の引き抜きは困りますよ?」

「フリージア様、これはただ友好を深めたいというだけのことで、言ってみればダリア殿に我が国を観光してもらいたいと考えているだけですよ」

2人の間から不穏な雰囲気が流れているのを感じる。顔は笑顔なのに、全然楽しい雰囲気が伝わってこない。

「ん、なら私もエルフの国に行ってみたい!」

「・・・私の方は構わないですけど、実家の方にいなくて良いのですか?」

「ん、居てもする事は魔法の練習位。それならダリアに教わった方が効率的。それにエルフの国は私も興味深々」

「フリージア様と・・・シルヴィアさんは?どうしますか?」

「残念ですが、私は教会での勤めもありますので訪問出来そうにありません」

「わ、私も実家の手伝いがありますから・・・」

2人とも非常に残念な表情でマーガレット様に断りを入れていた。

「そうですか、仕方ないですね。では、ダリア殿とティアさんは予定しておいて下さいね」

「ん、任せて!」

話は思ってもない方向になってしまったが、エルフの国を見て見聞を広めるのも楽しそうだ。

「よろしくお願いします!」
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