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黒蓮

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第三章 国立魔道武術学園生活 編

学園生活 17

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 2回目の実地訓練から戻った翌日は休息日だったので、僕は早速ローガンの店に行くことにした。シルヴィアがまたお礼をと言ってきたが、さすがに僕のせいで巻き込まれたので、逆に僕が何かお詫びをしたいと考えてお昼過ぎに2人で下級貴族街の店に行こうと誘った。

(お昼までにやることを片付けないとな)

 僕は待ち合わせの時間までに下級貴族街にあるというローガンの店『風の調しらべ』へと足を運んでいた。

「「いらっしゃいませ」」

 平民街にあるお店とは違って、落ち着いた声音こわねで2人の女性店員さんが出迎えてくれた。艶のある茶色の系統の家具で統一された店内に、見ただけでも高価そうな品物が整然と陳列している。店員さんは黒を基調とした制服の様で、その上品なデザインはこの店の雰囲気にとても合っていた。2人の店員の顔を見ると、どうやら双子の様で僕の目にはその違いは髪型しか分からないほど似ていた。一人は長めの黒髪をお団子の様に纏めている女性と、もう一人は肩まで掛からない位の黒髪のショートヘアだった。そして、不思議に思うのだが、同じ顔をしているはずなのに髪を纏めている方は綺麗という印象で、ショートヘアの方は可愛いという印象を抱かせる。

「当店に何か御用でございますか?」

お団子ヘアの店員がそんなことを考えていた僕に話し掛けてきた。僕は懐から例の指輪を取り出して「これの買取をお願いします」と伝えた。

「かしこまりました。そちらにお掛けになって少々お待ちください」

そう言うと、その店員さんは奥に引っ込んで行ってしまった。しばらくすると、先程の店員さんが戻って来た。

「お待たせしました。商談室へとご案内しますので、こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」


 案内された部屋は窓のない部屋なのだが、不思議と息苦しさを感じなかった。壁は白で統一されており、置かれているテーブルは見るからに高級そうなしっかりとした造りの家具だった。その部屋には既に大森林で会ったローガンが僕を待っていた。

「これはこれはダリア殿、ようこそいらっしゃいました!」

「こんにちはローガンさん。昨日の今日で何ですが、あなたの部下の方に依頼をしましたので、それがどうなっているのかと、少々聞きたいこともあったので・・・お時間はよろしいですか?」

「勿論でございます!あの傭兵の黒幕についての件は報告を受けております。そうですな・・・ちょうど今日の午後には全てに片が付くでしょう」

「・・・そんなに早くですか?」

「ははは、ダリア殿は上客の様ですからな。これはサービスでございます」

「一体どうやって?」

「企業秘密です。まぁ、この後の概略はお伝えしましょう」

 ローガンが言うには、昨日の傭兵を使って依頼の報告という名目でこちらの指定した場所にエリックを誘き出す。上級貴族の嫡子とは言っても今は学生であるので、裏のやり取りを実家の屋敷でするのは親や使用人の目もあるので彼には出来ないそうだ。そこで、あらかじめ衛兵を隠して待機させているある店におびき出して、そこで今回の事を報告ついでに全て彼自身に喋ってもらう。そうすれば後はその話を聞いていた衛兵が部屋に突入し、彼を捕縛するという事だった。

「もし、捕縛されるところも見たいのであれば案内いたしましょうか?」

 そう言われて僕は少し考える。確かにちょっかいを出してきたあいつが捕縛される姿を見るのは溜飲りゅういんが下がるだろうが、僕は情報の裏付けや告発の要件を聞いていただけで、ここまでやってくれるとは考えていなかった。

「それは別料金ですか?」

「ふふふ、だいぶ商人と言うものが分かってきましたかな?しかし、今回はサービスです。既に料金は訂正金額いただいておりますので。・・・どうしますか?」

ローガンは少し身を乗り出す様に僕に問いかけてくる。まるで何か試されているようなそんな視線を彼から感じる。僕の答えによって何をそこから測ろうというのだろうか。捕縛を見るか見ないか、その答えに僕を測るなにがあるというのだろう。

「・・・いえ、そちらで処理してくれるというなら見に行く必要もないです。どうせ取るに足らない存在でしたから。あとで報告を利かせてくれればそれで良いです」

僕がそう伝えるとローガンの顔に喜色が浮かんだような気がしたが、それは一瞬で霧散してしまった。

「かしこまりました。では、事の顛末の報告書を学園に届けさせましょう。そうそう、こういったことの相場の事も少しお教えしましょう」

「あっ、お願いします」

「難易度によって違いますが、従業員の命の危険が共わないような情報は大銀貨1枚から、逆に命に危険がある場合は大金貨10枚からです。さらに、求める情報が遠方ですと、経費が別途かかります。あとは敵対勢力の妨害工作だったりも請け負っていますが、こちらも難度に応じて銀貨から大金貨と様々ですが、どの依頼にも言えるのが商談してきちんと納得した料金にするのが普通ですな」

「商談ですか?」

「そうです。つまりこちらの言い分では『危険だ』と主張しても、相手からは『それほど危険なはずない』などの言い分があるでしょう。納得した契約でなければお互いにとって良い事にならないこともありますからな」

つまりはお互いがお互いを裏切ってしまう事もあるというのだろう。ローガンという男からは、過去にそういった経験をしてきたのか、その遠くを見つめているような様子からは哀愁さえ感じさせるものだった。

「なるほど、参考になります。ところで、一つ聞きたいのですが?」

「いかがしましたかな?」

「フリューゲン辺境伯領についての情報を依頼したいのですが、いくらほどでしょうか?」

「ふむ、どのような情報をお求めですかな?」

「なんでも。領内の財政状況や平民の生活ぶりに、領主の評判など分かることがあれば何でもです」

「領主が不正を働いていた場合の証拠などというわけではないのですな?」

「それは別にいいです。ただ、周りから客観的に見える情報だけでいいです」

「ふむ、それですと危険性はほとんどないですが、フリューゲン領は王都から馬車で10日は掛かりますからな・・・旅費の経費の方が高くなってしまいますよ?」

「良いですよ。僕が行って調べるよりも、その道のプロであるあなたに任せた方が良いと思いますから」

「これは過分な評価を頂きありがとうございます。では、情報料と経費を合わせて金貨5枚でいかがでしょう?」

余裕で払える金額だったので「はい」と言おうと思ったが、先の話を思い出し少しだけ交渉することにした。

「う~ん、フリューゲンはそこそこ発展している街だと聞きますし、ローガンさんの表の商売としてもついでにあきないや商談が出来るならそれほど経費は掛からないのではないですか?」

「しかし、馬車を借りねばなりませんから、移動に食費に護衛とお金はいくらあっても足りません」

「護衛はいらないですよね?この店の店員さんも結構腕の立つ方の様ですし。それに表向きは商会でしょうから馬車が無いとは思えません」

出迎えてくれた2人の店員さんはどちらもその動きや視線に隙がなく、それ相応の実力がある人を雇っているのだろうと思わせた。

「なるほど、そこまで見抜かれましたか・・・では、金貨4枚でいかがですか?」

何となくもう一声出来そうな気がしたのだが、何を根拠に料金を下げさせればいいのか今の僕には分からなかったので今回のところはそれでお願いすることにした。

「分かりました、ではその金額でお願いします」

「ふふふ、では往復の時間等もありますので一カ月程の時間を頂くことになりますが、報告は学園へ届けさせましょう」

「料金はどうすればいいですか?」

「そうですね、今回は別段非合法ではないですので、普通に契約書を交わして、手付2割で報告の際に残りをお支払いいただければ構いません。契約書にはフリューゲン領の市況調査といたしましょう」

確かに今回の事は別に後ろ暗い依頼でもないので、普通に契約書を交わしても問題無さそうだ。そう考え、金貨4枚の2割である大銀貨8枚を渡して契約をした。

「ご利用ありがとうございます。では、次回はあの貴族についての報告を店員に届けさせますのでよろしくお願いします」

「こちらこそお願いします」




 side ローガン

 彼が店から去ってから、やり取りを思い浮かべる。圧倒的な実力があるものの、まだ子供の彼は純粋で素直だ。しかし、自分の目的の為には人を殺すことを何とも思っていない危うさも持ち合わせている。非常に面白い客人と言えるが、信頼を損ねることがあればこちらを平気で消すだろうという事は分かった。精神的にまだ幼い彼は行動の結果を求めるあまり、その過程や行動の結果どのような影響が考えられるかという思慮が足りていない。そう考えていると、扉をノックする音が聞こえた。

「入れ」

そう返答すると双子の店員であるアインとツヴァイが入って来た。

「ローガン様、よろしいでしょうか?」

「私が呼んだんだ、そうかしこまらずとも良い。早速だが彼の事だ。戦闘の報告に偽りなしだとは思うが、もしお前たちが彼と敵対するようなことになればどう行動する?」

「それは建前で答えるべきでしょうか?それとも―――」

「本音で構わん」

一応、彼と敵対するような状況に陥った場合に、こちらの戦力が彼に対抗しうるのかを確認する為に彼女達を呼んだ。

「はっ!では直接戦闘を見ているツヴァイの方が適任ですね」

アインはそう言うと視線を妹のツヴァイへ向けた。正直、報告などの関係はアインの方が理路整然としていて分かり易いのだが、直接戦闘を監視していたツヴァイの方が適任といえばその通りだ。

「では僭越ながら、言葉を飾らぬ表現で言えば逃げます」

「それは戦闘もせずにという事か?」

私は言葉に少しの怒気を含めて聞き返す。

「はい。自分たちの実力では時間も稼げず、気付けば屍を晒すことになるでしょう。報告書にも記載しましたが、傭兵が話し終わる瞬間に彼の姿がブレた様に見え、消えたかのように感じましたが、彼はその場に留まったままであった様に思いました。しかし、29人の傭兵は岩へ吹き飛ばされて絶命・・・私では何があったかも分かりませんでした。故に、そんな実力差のある相手と敵対してしまった時点で詰みだと考えます」

「やはりそう思うか。では信頼を築き、彼を操れると思うか?」

「今のところはなんとも。確かに彼は子供で、信頼を示せば信頼で応えてもらえるとは思います。ですが、それは彼が子供のままにあるという前提です。成長し、精神的にも成熟する、もしくはローガン様とのやり取りでより狡猾になってくる可能性も否定できません」

 そう言われ、先程の彼とのやり取りを思い返す。交渉はまだまだつたなかった。正直金貨1枚でも十分な利益が見込める依頼だったが、頭を使ってどうすべきか考えているのは見て取れた。あの貴族の捕縛を見に行かなかったのも良い選択だった。暗殺未遂程度ではせいぜい廃嫡するかどうか、もし捕縛の場で彼の姿をあの貴族が見れば、自分が逆に嵌められたと考えるだろう。ああいった貴族は粘着してくるので、そうなると今回以上の手を打ってくる可能性もあり、それは彼のみならず、彼の周りに多大な被害をもたらしかねないだろう。

「そうだな。彼とは当初の予定通り良い関係性を保つとしよう。貸しも一つ作れたのは僥倖だった」

「それで、『水の調』の方は予定通りでよろしいですか?」

「ああ、午後にあの貴族を処理したら、予定通り店は畳んでくれ。商品はもうあらかた運び出しているだろう?」

そうアインに確認を入れた。

「はい。今置いてある商品は全てダミーの粗悪品です。壊されても何も問題ありません」

「あの貴族も自分が嵌められたと知ったら暴れ出すだろうからね。魔法には気を付けなさい。と、私が言うまでもないか」

「ありがとうございます。十分注意して対処いたします」

「では準備が出来たら出発してくれ」

「「はっ!」」
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