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第三章 国立魔道武術学園生活 編
学園生活 13
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『黄金の皿』で食事を終えて、今はシルヴィアと王都を散策している。冒険者の時によく行った雑貨店や屋台などを案内して、当時の思い出話なんかも話していた。僕のその思い出を聞きながら笑顔で頷くシルヴィアは、学園から平民街に行く時と比べると若干その距離が近付いていて、時折肩が触れるくらいの距離感になっていた。しかも、僕が話し掛けるとこちらへ大袈裟な動作で覗き込むようにしてくるので、シルヴィアの大きな胸がちょこちょこ当たってしまうのだ。当たっているよと教えた方が良いのか、このままその柔らかい感触を楽しんでいればいいのか非常に悩ましいところだった。
(さっきのエリーさんとの事がなければ普通に教えたんだけど、なんだかそれを指摘するのは嫌な予感がするんだよな・・・いや待てよ、師匠は女性から身体に触れてくる事があれば何かしらのリアクションをすべしと言っていた・・・しかしこれは意図的に当てているのか、偶然なのか・・・あ~、何が正解なんだ!)
心の中でそんな葛藤をしている僕をシルヴィアはチラチラと見て微笑んでいるようだった。どうも僕の心の中の葛藤が表情に出てしまっていたのかもしれないと、深呼吸をして心を落ち着けた。だからだろう、僕の意識が外にも向いたことでその視線に気づくことが出来た。
(っ!?囲まれてる?単なる監視というわけでもないな・・・)
僕を中心として配置された6人の視線には敵意のみならず、殺気まで込められていた。こんな街中でとも思ったが、もうすぐこの平民街で一番広い公園に着くのだが、いつもたくさんの人がいるはずのその場所は人出が疎らだった。
(はぁ、仕掛けてくるならここだな。シルヴィアを巻き添えにはしたくないが、今さら逃がせられないし、今後2度と手を出そうと考えられないようにするか・・・)
既に空間把握から襲撃者と思われる6人は僕の空間魔法の射程範囲に収めているし、素手でもそう時間を掛けることなく無力化も出来るはずだ。しかし、若干精密制御に不安の残る空間魔法だと、公園に疎らにいる無関係な人達に被害を出すわけにもいかないので、ここは武術で始末しようと決めた。
(無いとは思うけど、勘違いだったなんて事がないように攻撃を受けてから反撃しないとな・・・)
そんな僕の心配を余所に、思った通り襲撃があった。初撃は投げナイフを使った同時攻撃で、完全に隣にいるシルヴィアごと殺すような軌道をも描いていた。
(狙いはシルヴィアの頭部に3本、僕には全体的な急所を狙って9本か・・・)
刹那の思考で相手の攻撃を読み解き、迎撃を開始する。思考速度を上げているので、ナイフの投擲速度さえもスローモーションに見える。だからこそ落ち着いて対処も出来るというものだ。相手の潜伏場所は完全に捉えているので、まずは僕とシルヴィアを基点として外側1m程に第四位階風魔法〈風の壁〉で放たれたナイフを全て上空へと逸らした。
「きゃっ!!」
(あっ、しまった・・・)
円環状に発動した風魔法は、その中心点にいた僕達にも多少の影響が出てしまった結果、シルヴィアのスカートが捲れ上がってしまったのだった。残念ながらそんなことを気にしてはいられないので、間髪いれずに〈身体強化〉を施し、最大に上げた移動速度で木の陰や物陰に潜んでいる6人の襲撃者を武術の〈四肢粉砕〉で頭以外の全身の骨を粉々に砕く。この技は相手を生きたまま完全に行動不能にすることが目的の技で、回復するにしても砂粒のようになるまで骨を粉砕する結果、第四位階以上の光魔法か上級回復薬でなければ完全な治癒は不可能となる。ただし、当然だが全身の骨が砕けているので、自分で回復薬を飲むことは不可能の為、誰かに飲ませてもらうか、光魔法を掛けてもらうしかない。
最近【速度】が上がったのか、以前よりも早い気がする。時間にして2秒ほどで認識している6人の襲撃者は全て無効化し、上空へと打ち上げたナイフもすべて回収して収納しておいた。
(相手は精々銀ランクの上位者か、あって金ランクっぽいから、高額の上級回復薬も持ってるかもしれないし、放置で良いだろ)
周りからは声を押し殺したような呻き声が聞こえる。僕としてはこれは警告で、これ以上は命も貰いますよという、本当は殺すことも簡単に出来たけど、あえて見逃しているというメッセージだ。あとはしばらく様子を見て、他に襲撃者がいて参戦して来ないかを確認してこの場所を去るつもりだ。
「な、何がどうなったの?」
スカートを押さえながら目を擦っているシルヴィアが何が起きたか混乱しているようで僕に聞いてきた。ここで襲撃されたと伝えても彼女を不安にさせてしまうし、せっかく出来た友人が離れてしまう事を懸念してどう伝えようか迷ってしまった。
「ちょっと突風が吹いただけだよ」
「・・・でも、これダリア君の魔法だよね?」
「・・・う、うん。そうだね」
「・・・も、もしかして・・・わ、私の・・・を・・み、見たかったの?だ、だからこんな人気のない公園に・・・?」
ぼそぼそと小声だったために何を言っているのか聞き取れなかったのだが、何かあらぬ疑いを掛けられているような雰囲気だけは伝わって来た。
「い、いや、僕が魔法を使ったのは深い理由が合ってね。えっとね・・・その・・・」
何とかこの場を切り抜けようと、思いつく限りの言い訳を焦りながら答えるのだが、微妙にシルヴィアも自分の世界に籠っている様にブツブツと『やっぱり男の子・・でも私に興味が・・それはそれで嬉しい・・でもまだ早い・・でもチャンス』と呟いており、噛み合わないこの状況にあたふたしてしまった。
結果として、僕が魔法を発動したのは枝か何かが飛んで来るのが見えて、それが当たるかもしれないからという事になった。いや、それで納得しようというお互いの妥協点だったのかもしれない。そして何故か学園の寮に帰る時には、さらに僕とシルヴィアの歩く時の距離は近付いているのだった。そんな状況に戸惑っていたため、僕達をチラチラと盗み見る視線には敵意や害意が無かったため、そんな僕たちのやり取りについて見ているだけだと思ってしまった。
◆
side エリック・バスクード
ここは裏仕事を専門に扱う店の一室。表向きは普通に雑貨店を営んでいるのだが、その裏では情報収集から暗殺まで表立っては依頼できないことを何でも請け負っているのである。この店がそんな裏の仕事をしていると知っている者は極少なく、信用できる者からの紹介でしかこの店の裏の仕事の存在を知ることは出来ないようになっている。
「では仕事は失敗したというのかっ!?」
苛立たし気に前に座る相手に罵声を浴びせているのはこの店の依頼人である上級貴族であるエリック・バスクードだった。
「いえいえ、今回は単なる情報収集。本番はこれからでございます」
上級貴族ではあるものの、成人もしてない子供の依頼人からの罵声を平然と受け流しているのは、ローガンというこの店の店主だった。
「どういうことだ?」
「はい。今回のターゲットであるダリア・タンジーは金ランクとは言え、その実力はプラチナ以上と噂される人物。正面切っての殺し合いはもとより、ただ暗殺するだけでも成功する可能性は低いでしょう。それは今回の襲撃でもはっきりしております」
「ふん!忌々しい事だ!!対多人数は不得手と聞いていたのだがな」
「そこで、彼の弱点を探っていたのでございます」
「ほう、それで何かわかったのか?」
「ええ、彼と一緒に行動していたクラスメイト、シルヴィアと言うらしいのですが、あの襲撃の際も女を守る様に行動しておりましたので、あの女を上手く使えば彼の弱点となると考えております」
「ちっ、そんな姑息な手段に頼らねばあんな平民も殺せんとは。所詮はゴロツキ共の集まりか!」
ローガンは依頼主からの辛辣な言葉に眉一つ動かすことなく受け答えする。
「ふふふ、これは手厳しいですなぁ。しかし、彼の実力は本物でして、なにせウチの大事な金ランク相当の従業員も何が起こったか理解できないうちに瀕死の重傷ですからね・・・おかげで高価な上級回復薬を6本も使うことになってしまいました」
全く困っているようには見えないのだが、ローガンは大変だという事をわざとらしくも依頼人であるエリックに商人ならではの豊かな表情でアピールしている。
「ふん、ハイエナめ!経費はこちらで持つ。いいからお前はさっさと目障りなあいつを始末しろ!」
「おぉ!感謝します!では次に彼が大森林に訓練へ行く際に本格的に動くとしましょう」
「失敗は許さんぞ!」
「ええ、心得ておりますともエリック・バスクード様!」
ローガンの瞳はその恭しい言動とは裏腹に、妖しい光を秘めていた。
(さっきのエリーさんとの事がなければ普通に教えたんだけど、なんだかそれを指摘するのは嫌な予感がするんだよな・・・いや待てよ、師匠は女性から身体に触れてくる事があれば何かしらのリアクションをすべしと言っていた・・・しかしこれは意図的に当てているのか、偶然なのか・・・あ~、何が正解なんだ!)
心の中でそんな葛藤をしている僕をシルヴィアはチラチラと見て微笑んでいるようだった。どうも僕の心の中の葛藤が表情に出てしまっていたのかもしれないと、深呼吸をして心を落ち着けた。だからだろう、僕の意識が外にも向いたことでその視線に気づくことが出来た。
(っ!?囲まれてる?単なる監視というわけでもないな・・・)
僕を中心として配置された6人の視線には敵意のみならず、殺気まで込められていた。こんな街中でとも思ったが、もうすぐこの平民街で一番広い公園に着くのだが、いつもたくさんの人がいるはずのその場所は人出が疎らだった。
(はぁ、仕掛けてくるならここだな。シルヴィアを巻き添えにはしたくないが、今さら逃がせられないし、今後2度と手を出そうと考えられないようにするか・・・)
既に空間把握から襲撃者と思われる6人は僕の空間魔法の射程範囲に収めているし、素手でもそう時間を掛けることなく無力化も出来るはずだ。しかし、若干精密制御に不安の残る空間魔法だと、公園に疎らにいる無関係な人達に被害を出すわけにもいかないので、ここは武術で始末しようと決めた。
(無いとは思うけど、勘違いだったなんて事がないように攻撃を受けてから反撃しないとな・・・)
そんな僕の心配を余所に、思った通り襲撃があった。初撃は投げナイフを使った同時攻撃で、完全に隣にいるシルヴィアごと殺すような軌道をも描いていた。
(狙いはシルヴィアの頭部に3本、僕には全体的な急所を狙って9本か・・・)
刹那の思考で相手の攻撃を読み解き、迎撃を開始する。思考速度を上げているので、ナイフの投擲速度さえもスローモーションに見える。だからこそ落ち着いて対処も出来るというものだ。相手の潜伏場所は完全に捉えているので、まずは僕とシルヴィアを基点として外側1m程に第四位階風魔法〈風の壁〉で放たれたナイフを全て上空へと逸らした。
「きゃっ!!」
(あっ、しまった・・・)
円環状に発動した風魔法は、その中心点にいた僕達にも多少の影響が出てしまった結果、シルヴィアのスカートが捲れ上がってしまったのだった。残念ながらそんなことを気にしてはいられないので、間髪いれずに〈身体強化〉を施し、最大に上げた移動速度で木の陰や物陰に潜んでいる6人の襲撃者を武術の〈四肢粉砕〉で頭以外の全身の骨を粉々に砕く。この技は相手を生きたまま完全に行動不能にすることが目的の技で、回復するにしても砂粒のようになるまで骨を粉砕する結果、第四位階以上の光魔法か上級回復薬でなければ完全な治癒は不可能となる。ただし、当然だが全身の骨が砕けているので、自分で回復薬を飲むことは不可能の為、誰かに飲ませてもらうか、光魔法を掛けてもらうしかない。
最近【速度】が上がったのか、以前よりも早い気がする。時間にして2秒ほどで認識している6人の襲撃者は全て無効化し、上空へと打ち上げたナイフもすべて回収して収納しておいた。
(相手は精々銀ランクの上位者か、あって金ランクっぽいから、高額の上級回復薬も持ってるかもしれないし、放置で良いだろ)
周りからは声を押し殺したような呻き声が聞こえる。僕としてはこれは警告で、これ以上は命も貰いますよという、本当は殺すことも簡単に出来たけど、あえて見逃しているというメッセージだ。あとはしばらく様子を見て、他に襲撃者がいて参戦して来ないかを確認してこの場所を去るつもりだ。
「な、何がどうなったの?」
スカートを押さえながら目を擦っているシルヴィアが何が起きたか混乱しているようで僕に聞いてきた。ここで襲撃されたと伝えても彼女を不安にさせてしまうし、せっかく出来た友人が離れてしまう事を懸念してどう伝えようか迷ってしまった。
「ちょっと突風が吹いただけだよ」
「・・・でも、これダリア君の魔法だよね?」
「・・・う、うん。そうだね」
「・・・も、もしかして・・・わ、私の・・・を・・み、見たかったの?だ、だからこんな人気のない公園に・・・?」
ぼそぼそと小声だったために何を言っているのか聞き取れなかったのだが、何かあらぬ疑いを掛けられているような雰囲気だけは伝わって来た。
「い、いや、僕が魔法を使ったのは深い理由が合ってね。えっとね・・・その・・・」
何とかこの場を切り抜けようと、思いつく限りの言い訳を焦りながら答えるのだが、微妙にシルヴィアも自分の世界に籠っている様にブツブツと『やっぱり男の子・・でも私に興味が・・それはそれで嬉しい・・でもまだ早い・・でもチャンス』と呟いており、噛み合わないこの状況にあたふたしてしまった。
結果として、僕が魔法を発動したのは枝か何かが飛んで来るのが見えて、それが当たるかもしれないからという事になった。いや、それで納得しようというお互いの妥協点だったのかもしれない。そして何故か学園の寮に帰る時には、さらに僕とシルヴィアの歩く時の距離は近付いているのだった。そんな状況に戸惑っていたため、僕達をチラチラと盗み見る視線には敵意や害意が無かったため、そんな僕たちのやり取りについて見ているだけだと思ってしまった。
◆
side エリック・バスクード
ここは裏仕事を専門に扱う店の一室。表向きは普通に雑貨店を営んでいるのだが、その裏では情報収集から暗殺まで表立っては依頼できないことを何でも請け負っているのである。この店がそんな裏の仕事をしていると知っている者は極少なく、信用できる者からの紹介でしかこの店の裏の仕事の存在を知ることは出来ないようになっている。
「では仕事は失敗したというのかっ!?」
苛立たし気に前に座る相手に罵声を浴びせているのはこの店の依頼人である上級貴族であるエリック・バスクードだった。
「いえいえ、今回は単なる情報収集。本番はこれからでございます」
上級貴族ではあるものの、成人もしてない子供の依頼人からの罵声を平然と受け流しているのは、ローガンというこの店の店主だった。
「どういうことだ?」
「はい。今回のターゲットであるダリア・タンジーは金ランクとは言え、その実力はプラチナ以上と噂される人物。正面切っての殺し合いはもとより、ただ暗殺するだけでも成功する可能性は低いでしょう。それは今回の襲撃でもはっきりしております」
「ふん!忌々しい事だ!!対多人数は不得手と聞いていたのだがな」
「そこで、彼の弱点を探っていたのでございます」
「ほう、それで何かわかったのか?」
「ええ、彼と一緒に行動していたクラスメイト、シルヴィアと言うらしいのですが、あの襲撃の際も女を守る様に行動しておりましたので、あの女を上手く使えば彼の弱点となると考えております」
「ちっ、そんな姑息な手段に頼らねばあんな平民も殺せんとは。所詮はゴロツキ共の集まりか!」
ローガンは依頼主からの辛辣な言葉に眉一つ動かすことなく受け答えする。
「ふふふ、これは手厳しいですなぁ。しかし、彼の実力は本物でして、なにせウチの大事な金ランク相当の従業員も何が起こったか理解できないうちに瀕死の重傷ですからね・・・おかげで高価な上級回復薬を6本も使うことになってしまいました」
全く困っているようには見えないのだが、ローガンは大変だという事をわざとらしくも依頼人であるエリックに商人ならではの豊かな表情でアピールしている。
「ふん、ハイエナめ!経費はこちらで持つ。いいからお前はさっさと目障りなあいつを始末しろ!」
「おぉ!感謝します!では次に彼が大森林に訓練へ行く際に本格的に動くとしましょう」
「失敗は許さんぞ!」
「ええ、心得ておりますともエリック・バスクード様!」
ローガンの瞳はその恭しい言動とは裏腹に、妖しい光を秘めていた。
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