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黒蓮

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第三章 国立魔道武術学園生活 編

学園生活 7

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「私はティア・ロキシード。魔法の圧縮・・・教えて」

 ティアは僕より少し背の低い女の子で、体型もあってかもっと幼く見える。

「わ、分かりました。ロキシード様の魔法の才能は何ですか?」

「ん、ティアでいい」

「えっと・・・ティア様?」

!」

ぐいっと顔を寄せられて凄んできたので、その迫力に負けて彼女の望み通りに名前を呼ぶ。

「ティ、ティア・・・」

「ん、・・・私は水魔法」

満足したのか、僕から少し距離を取って才能のある魔法の属性を言ってくれた。

「失礼!私も圧縮を教えてもらって良いでしょうか?」

近付いてきたのはマーガレット様だった。

「ん、別に良い・・・でも私が最初」

「ふふっ、そうですね。分かりました」

「で、ではお2人にお教えしますね。・・・マーガレット様は今日はいつも一緒に居る方達は居ないんですか?」

彼女の周りにはいつもの取り巻きがいないので、どうしたのかと気になって聞いてみた。

「一緒に・・・?あぁ、護衛の事ですか。授業中は少し離れた所に待機しているんです」

彼女の視線を追うと、演習場の隅の方にあの4人が見えた。

「護衛だったんですね、失礼しました。えっと、マーガレット様の魔法の才能は何ですか?」

「あの時のこと覚えてないの?私は風と光魔法よ」

「す、すみません。2年前の事でしたので・・・。では2人同時に教えますので、そちらに並んでもらって良いですか?」

「ど、同時にですか?」

「ん、それは困難・・・属性が違う」

「基本は一緒ですから大丈夫ですよ」

「そ、そうですか。分かりました」

「ん、了承」

「ではまず、それぞれの才能の第一位階を最大威力で制御してみて下さい」

僕がそう指示すると、2人ともそれぞれ水と風の魔法を発動する。Bクラスの皆を思うと、格段に魔力制御が出来ている。それぞれ大きさにして10cm程度だ。見比べるとマーガレット様の方が魔力制御が上手いようだ。

「ではその状態からさっき僕がやったように小さくしてみて下さい」

2人の魔法は小さくなったのだが、それは単に内包する魔力量を減らして威力まで小さくなってしまっている。しかし、マーガレット様は若干だが圧縮出来ていた。

「むぅ・・・違う」

「ダリアと比べたら、これは圧縮とは言えないですね・・・」

「そうですね、それでは威力を小さくしているだけで圧縮ではないですね」

「そもそも、第一位階の魔法であんな規模の魔力を集めて制御するなんて真似できませんね」

「ん、ダリアは規格外」

「いや、死ぬほど鍛錬すれば出来ますよ。とはいえ、僕がやった鍛錬はお勧めできないですので・・・」

 そこで、僕が今見た限りの2人の問題点を指摘した。ティアはまだイメージが掴めていないようで圧縮とは何かから教えた方が良さそうだ。マーガレット様は拙いながらも出来ていたが、まだ制御が穴だらけで無理やり圧縮しようとしたために手の平で水をすくうように内包魔力が逃げてしまっていた。そこで、魔力制御につにいてはコップを例にした説明でイメージを持って貰い、それと同時に現に発動している魔法を圧縮するイメージを持って貰う為に、もう一度2人に見せるようにした。

「2人はもう少し詳細なイメージを持って欲しいので、僕の圧縮をもう一度見てください」

「ん、しっかり観察する!」

「分かりました。お願いします」

2人の視線を僕の手に集中させて、そこに第一位階水魔法〈ウォーター〉を発動する。直径50cm程の大きさにして、同時に反対の手に第一位階土魔法〈ソイル〉を同じ規模で発動する。すると2人は目を丸くしながら凝視してくれた。

「良く見てくださいね。イメージは全方向から均等に力を入れて、小さくしていくように・・・」

言葉で説明しながら、実際に水魔法に土魔法を上から被せ、中に水魔法の入った土の球体を形はそのままに徐々に小さくしていく。

「こんなふうに水を魔力に見立てると分かり易いと思いますが、小さくしていっても水は漏れ出ていません。一分の隙間なく制御して魔力を押し留めながら小さくしていくのが圧縮です。どうです?イメージできましたか?」

「・・・別属性の同時発動は超高等!」

「魔力制御はまだまだと言っていたが、完璧ではないか!別種の魔法属性の同時発動は完璧な制御が出来ねば使えんはずだぞ!」

マーガレット様は驚きのあまりなのか、言葉使いが普段と変わっている。もしかしたらこちらの方が素の彼女なのかもしれない。

「いや、これは第一位階ですから、そこまで高度ではないですよ。それに、そこではなくてですね・・・」

彼女達は僕の教えたかったこととは別の事に興味がいってしまっているようで、ちゃんと見てイメージが養えたのだろうか・・・。

「あ、あぁ、すみません。こんな高等技術は中々見たことがありませんでしたので。大丈夫です、イメージは分かりました」

「ん、驚愕したけどイメージは出来たと思う」

「で、では、今のイメージでもう一度やってみて下さい」

 それからしばらく繰り返し練習する2人だが、中々上達は出来ていない。元々一朝一夕で出来るような技術でもないので、根気強く鍛練することが重要なのだ。

「ふぅ、少し休憩する。やっぱり難しい」

「そうですね、やはりそう簡単にはいきませんね」

魔力が少なくなってきたのか、2人は腰を下ろして休息をとった。

「ダリア、質問」

「はい、どうしました?」

「圧縮・・・どのくらいで習得した?」

「えっと・・・一年位ですかね?」

「えっ、たった一年で!?」

隣で話を聞いていたマーガレット様が驚きを見せた。

(マーガレット様は驚いてばっかりだな。常識が分からないから伝え方が難しいな・・・)

「マーガレット・・・普通はどのくらい?」

「私が圧縮を練習しだして5年でこの程度ですから・・・本来は才能があっても10年程かかりますが、それでも、魔法先進国である我が公国でもダリアのように完璧な制御はそうそう見たことがありません」

「ん、困難だと理解した。やっぱりダリアは異次元」

「あははは・・・」

僕の事を人外の存在として扱うようなティアの発言に乾いた笑いを返すしか出来なかった。

(それにしても、ティアは感情の起伏が読み取りずらいな・・・)

彼女は表情の変化が乏しかったために、僕から見ると基本的に無表情の様で、楽しいのか怒っているのかといったことが分かり難い子のようだ。

「ダリア・・・卒業後の目標はある?」

「目標ですか?・・・実は今のところ何も考えていないんです」

さすがに実の親に復讐する事なんて言えないので、差しさわりの無さそうな返答をしておく。

「ん、ならうちに来るべき!」

うちって、ティアの家に仕官するってことですか?」

「ん、ダリアは有能!歓迎する!それにうちは侯爵家、将来安泰!」

なるほど、彼女は侯爵家の令嬢のようだ。たしかに侯爵家に仕官すれば安泰なのだろうが、現状僕にはそんな希望はなかった。どう断ろうかと悩んでいると、フリージア様がみえられた。

「あらあら、ティアさん、家臣への勧誘は来年からのはずですよ」

「ん、失念していた。でも彼は有望」

「それはわたくしも同意見ですね。私としては教会の聖騎士になっていただきたいですね」

「お待ちください、それならば彼は我が公国へ招きたいと思っています」

なんだがあまりの状況になってしまい、3人のやり取りを他人事のように見ていると、周りからの刺すような視線が感じられる。特に先程勝負した彼からは異常なまでに怒気を含んだ視線だ。

(時間が経つ毎に面倒な状況がより複雑化している気がする・・・)

「あ、あの!僕の能力を買ってくれるのは感謝しますが、すみません!本当にまだ何も考えられないので・・・学園に居る内にゆっくり決めるつもりなんです」

「・・・ん、分かった。無理強いは良くない」

「ふふふ、そうですね。それに学園の慣習として、勧誘は来年からですし」

「まだ決めていないのであれば、私も諦めずにいます」

「ふふふ、何だかマーガレット殿下の言葉は交際の申し込みにも聞こえますね」

「ん、確かに。一度断られてもめげない女の子」

「ちっ、違います!あくまでも、彼の能力を買っているんです!」

マーガレット様が2人にからかわれて顔を赤くしているが、種族の違うエルフの、しかも王女から言い寄られることなどありえないので、周りに変な誤解を与えそうな発言は慎んで欲しい。

「2人ともマーガレット様をからかうのはその辺で。僕が護衛の方達から睨まれてしまいます」

「そうですね、失礼しました殿下」

「ん、悪ノリだった。反省」

「いえ、私も変に取り乱しました」

「皆さんは仲が良いのですね」

「ん、友人!」

3人のやり取りはとても親しげだったので、そんな質問をしてみた。

「そうですね、わたくし達は似た境遇にいますから。マーガレット様は王女、ティアさんは三大侯爵家の嫡子、私も聖女などと呼ばれて注目を集めていますから」

ティアの三大侯爵家というのは知らなかったが、言葉のニュアンスから力のある家の子供なのだろう。確かにその肩書きは人々の注目を集めてしまうし、そんな境遇なら同じ想いや悩みを抱えていて仲良くなっても不思議では無さそうだ。

「友人がたくさん居ることはとても良い事だと思います。学園生活が楽しくなりますしね」

「ん、既にダリアは友達」

「ええ、そうですね」

「ダリアは私の恩人でもありますから、友人になってくれれば嬉しいです」

 どうやら僕はこの学年でも屈指の存在といつの間にか友達になれたようだ。それが良いことなのか、騒動を引き起こす種になってしまうのかは、この時の僕には分からなかった。

「えぇ、皆さんよろしくお願いします!」
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