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黒蓮

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第三章 国立魔道武術学園生活 編

学園生活 1

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 国立魔道武術学園、創立から800年以上の歴史を誇り王国中の15歳になる子供達を集め、3年間の教育・鍛練の後に卒業と同時に成人する僕らの就職先まで決めてくれる国家機関ということだ。

と言ってもほとんどは親の後を継ぐか、余程の才能を持っていなければ新たな道に進むのは困難となる。また、親の後を継げない第2子以降については、より上位の貴族に仕官することや親と同種の職を新たに構えるか、騎士団や衛兵に所属したりするのが目標とされている。そして、そのどれも叶わなかった場合は冒険者になるのがほとんどだ。それも全て必要な才能を持っているかどうかになる。

「デカイな~!」

 学園を目の前にその大きさに思わず声が出てしまった。フリージア様に聞いた話だと毎年約500人くらいが新たに入学するということなので、この学園には1500人位が在籍している事になる。そしてその内の1割ほどが貴族らしい。ただ、王国中の15歳を集めたにしてはかなり少ないように感じるのだが、機会があればフリージア様に聞いてみようと思った。

学園は敷地の端から端が見えない広さで、校舎も3階建ての立派な建物がいくつか立ち並んでいる。その正門ではこの学園の生徒なのか、同じ服を着た人達が受付をしているようだった。

「皆さんご自分の個人認証板パーソナルプレートを準備してください!荷物はこちらでお預かりします!選択されるコースによってはテストがありますので、案内に従ってください!貴族の方はあちらの受付をお願いします!」

平民用の受付は長蛇の列になっているが、貴族はそもそも数が少ないのでスムーズに案内がなされている。しばらく待っていると自分の順番が来たのでプレートを見せ適当に荷物を詰めたリュックを渡し、魔法コースを選択すると受付に伝えた。

「えっ、あなた何言ってるの?才能が1つの癖に魔法コースって・・・無理に決まってるでしょ!」

「えっ?自由に選択出来るんじゃないんですか?」

「それは建前でしょ!大体魔法コースに行ったところで才能の無い人間なんて100%ついていけるわけないでしょ!」

一般的に考えれば受付の人が言うように、才能の無い人間が魔法を極めることはあり得ない。が、既に全属性を第五位階まで使える僕にとってはその言葉は当てはまらない。とはいえ、受付の人も親切心で言ってくれていると思うので、どう説得するか悩んでいると、受付待ちをしている新入生が騒ぎだした。

「おいおい、あれがフロストル公国からの留学生か?」

「間違いないって、エルフだ!」

「私初めて見る!」

 周りからひそひそ話が聞こえるのでそちらを見てみると、長い緑色の髪で金色の瞳が特徴的な子だった。整った顔立ちで美少女であることは間違いないが、皆が言うように尖った耳はエルフの種族特徴を表していた。さらに彼女の取り巻きのようなエルフの男女が4人、貴族用の受付に来ていた。

(もしかしてあのエルフは・・・サバイバルしていた時にオーガ・ジェネラルを討伐しようとしていたあの魔法師かな?)

そう思い彼女達に注目していると、貴族用の受付の人の中から一人、彼女達の側に近寄った。その人は白の腕章に生徒会長と書かれた金髪で、あの王子に似た端正な顔をした長身の男性だった。彼は右手を胸に当て深く腰を折って彼女に挨拶をした。

「初めまして。私はこの学園にて生徒会長をしております、アルバート・サンドロスと申します。フロストル公国からの留学生のマーガレット・フロストル様でいらっしゃいますね?」

「初めまして。フロストル公国から参りましたマーガレット・フロストルです。ご案内をお願いしてもよろしいですか?」

「もちろんです!こちらへどうぞ」

生徒会長を先頭にフロストル公国からの留学生と言われた集団は学園へと消えて行った。一瞬エルフの彼女と眼があった気もしたが、僕の目の前に居る受付の人に早くするようにと急かせられそれ以上は視線を送れなかった。

「で、どうするの!?生産系統コースでいい?」

「う~ん、どうしてもダメなんですか?」

「だって、才能ないでしょ?テストで基準に満たなかったら結局生産系統コースになるのよ?だったら最初からそっちで良くない?」

やっぱり受付の人は親切心で言ってくれているようで、才能がこれではどうせ受からないから選択しても無駄だという事だった。

「じゃあテストだけでも受けることは出来るんですね?」

「それは出来るけど・・・もう、良く居るのよね、才能がなくても何とかならないかなって夢見がちな子が・・・分かったわ。どうぞ看板に従って行って」

「ありがとうございます!」



 立て看板に従って学園の敷地内にある広大な演習場へ着くと、既に大勢の新入生であろう人混みが見えた。それは大きく2つのグループに別れていて、片方は剣や防具を装備しているグループと、もう片方はローブを着込み、大小様々な杖を持っているグループだ。

その一角では先程のエルフ一行が注目を集めている。それは王子とフリージア様が彼女に挨拶をしているからだろう、ざわめきは収まりを見せない。

一応面識はあるからと、その中に突っ込んでいったら確実に面倒になりそうだったので、その一角から出来るだけはなれて周りを見渡した。するとやはり貴族と平民は住む世界が違うのか、豪華な服を着ている一部の集団を簡素な服を着た大多数が遠巻きに見ているという構図だった。

(やはり貴族と平民の壁は厚いらしいな。フリージア様はあまりに気さくだったから実感無いけど、本来はあのエリーさんを襲った男爵が貴族の普通なのかもしれない)

そう考えるとあまり貴族とはお近づきにはなりたくないと思ってしまう。そんなことを考えて、学園での貴族のやり過ごし方を考えていると、教師らしい6人の男女が来て声を張り上げた。

「新入生は集合!私の方では剣術・武術コースのテストをする!魔法コースを希望の者はあちらのローブを着ている教師の方へ集まるように!」

掛け声と共に新入生達がぞろぞろと動き始めた。人数は剣術・武術コースが200人ほど、魔法コースが100人ほど各教師の元に集まっている。僕もいそいそとローブ姿の教師の方へ集まった。

周りには貴族の子供と思われる人の割合が多く、魔法の才能を持つものは貴族に片寄っているようだ。何事もなくテストが始まると思っていたのに、フリージア様がエスコートしているエルフの美少女留学生が目を見開きながら足早に詰め寄ってきた。

「あ、あなたやっぱりダリア!!何故あなたが魔法コースに!?あなた程の武術の才があるなら向こうではないの!?」

「えっ、いや、まぁ、どちらでも良かったんですけど・・・」

「どちらでもって・・・ダリアは魔法の才能も持っているの!?」

僕の返答に余計彼女は興奮してしまったようで、段々顔が近づいてくるが、僕より若干背の高い彼女は僕を見下ろしている感じになってしまった。この状況をどうしたものかと思案していると、エスコートしていたフリージア様が間に入ってくれた。

「まぁ!マーガレット様は彼をご存じなのですか?」

「え、えぇ。以前に助けて頂いた事がありまして」

「そうなのですか!彼はわたくしと同じ金ランク冒険者ですから、どこかで活躍して殿下をお救いしていたのですね!」

フリージア様の言葉に落ち着きを取り戻した彼女だったが、只でさえ平民の僕に声を掛けた他国の留学生ということで騒がしかったのに、フリージア様の余計な話で更に騒がしくなってしまった。

「嘘だろ!あんな小さくて女みたいなやつが金ランク?」

「平民がなんで聖女様から親しげにされてんだよ!」

「ってか、エルフの王女を助けたって本当かよ?」

「えっ、あの子男の子なの?」

騒がしさの8割方は僕に対する否定的な言葉だったが、中には性別に疑問を持つ言葉も紛れていた。

「静かにしなさい!テストを始めますよ!!」

その状況を見かねたのか、教師が怒声を上げたことで辺りは静かになっていった。

「説明します!テストは攻撃系、回復・召喚系で分けて行います!攻撃系は得意属性で5m先にある的に向けて放ち、その威力や魔力制御でクラスを割り振ります!同様に回復・召喚系も威力、魔力制御を見ます!では3人ずつ貴族位の方から始めます!」

 掛け声と共に移動したが、回復・召喚系はわずか30人程で、残りは攻撃系に集まっている。回復系は当然聖女と名高いフリージア様がいる。残りの攻撃系に集まった人には、通行門で見かけた怒声を上げていた貴族と、高圧的な金髪貴族娘もいた。

(う~ん、さっきの一悶着のせいで僕に視線が集まってる・・・面倒にならないと良いけど)

教師の目もあり表だって僕に絡んでくるような人はおらず、テストは順調に進んでいく。前半の貴族達はやはり才能があるのだろう第二位階の魔法を放っているが、魔力制御はいまいちというところだ。平民となると半数以上第一位階で魔力制御もさっぱりな者が多く、そういった者は教師から生産系統に行くようにと告げられていた。

 しばらくテストの様子を見ていると、なぜか僕の名前を呼ばれたのは一番最後となった。その時には回復・召喚系もテストを終えており、皆の注目の的になってしまっていた。そんな中教師から小声で『学園長から話は聞いている。余計な騒動が起きないように程々にしろ』と言われた。

(程々か・・・大体第二位階までだったから、火魔法の〈火球ファイア・ボール〉でいいか)

定位置について的に向かい手をかざして〈火球ファイア・ボール〉を放った。すると、今まで新入生たちの魔法を受けても壊れることのなかった的をぶち抜いて後方の壁にまで着弾してしまった。

(???なんで僕の魔法でだけ壊れるんだよ!?)

程々と忠告されたのに的を壊してしまったことに失敗したなと思っていると、後ろからエルフのマーガレットにがしっと肩を掴まれたので振り返ると、口を半開きにして目を見開いていた。その顔はせっかくの美少女が台無しになる表情だった。

「ダ、ダリア、あなたどうやってそこまでの魔力制御を身に付けたの?どんな魔道媒体を使っているの?」

そう言われて気付いたのは他の新入生の火や水はユラユラと不定形に揺れていたが、僕の火は完全な球形をしていた。それはつまり魔力制御の練度の高さを表している。魔道媒体は皆が持っている杖や、貴族となるとアクセサリーのように指輪やネックレスなどの高額な物になっている。それがあると制御がしやすくなるのだが持っていない僕には答え難い質問だ。

(魔力制御を甘くすることまで考えてなかったな・・・)

「え~と、・・・師匠に叩き込まれたんです」

「いつか森であなたが言っていた師匠ね・・・会ってみたいものだわ」

困った時の師匠頼りはなんとか有効だったようだ。ただ、僕に忠告した教師を見ると、顔を引きらせたような苦々しい表情になってしまっていたので、どうやら僕のやり方は間違ったらしい。周りもざわざわと騒がしくなってしまった。

「嘘だろ!何で火があんなに丸くなってるんだよ!」

「金ランクって本当だったのかよ」

「どうせ金に物を言わせた媒体なんだろ!金ランクらしいしよ!」

収拾がつかなくなってきてしまったが、教師が一喝して次第に収まって行った。

「で、では、クラス発表は入学式の後に貼り出されます!このまま講堂へと静かに移動してください!」

面倒にならなければいいなという思いを胸に、皆の後を歩きながら講堂へと向かった。
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