騎士学院のイノベーション

黒蓮

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第三章 神樹の真実

神樹 12

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「なるほど・・・あの人が危惧された通り、一筋縄ではいかないようだな」

「へ~、副学院長にでも依頼されたのか?それとも挨拶していた大臣か?」

 槍の間合いの僅かに外側、俺と対峙しているこの学院の生徒風の男は、俺を見下すような視線を向けながら口を開いた。その言葉に、俺は探りを入れるように問いかけた。

「平民ごときが知る必要の無いことだ。大人しく・・・我が槍の餌食となれ!!」

「むっ!」

そう簡単には情報はくれないようで、彼は苛立たしげな表情で、構えている槍を連続で突き込んできた。その速さは槍の穂先が幾つにも分裂して見えるほどで、その技術は人体の急所を正確に捉える完璧さだ。さすがに下級の風魔術では、完全に攻撃を逸らせない威力だ。

(この実力・・・現役の騎士か?顔立ちからまだ若そうだが、新入りか?技術はまぁまぁだが、少々感情的だな)

学院の生徒の中に騎士を紛れ込ませ、俺を排除する。平民を差別している副学院長の考えそうなことだ。ご丁寧に木製なのは槍の穂先だけで、柄は鉄製だ。俺に再起不能な怪我を負わせようって魂胆だろう。しかも、他の多くの生徒達で俺を一斉に攻撃してくれば、本命の一撃を紛れ込ませられるというわけだ。

ただ、相手側に計算外が合ったとすれば、俺の反撃で結託していた生徒達が攻撃を躊躇して近寄って来ないということ。その為、仕方なく紛れていた彼が単独で突撃してきたのだろう。

「チィ!平民の癖に、避けるのだけは得意らしいな!だが、避けているだけではいずれ我が槍の餌食となろう!実力の違いというものを見せてやる!1年坊主!」

彼は一度俺から距離を取ると、忌々しげにこちらを睨みつけながら蔑む発言をしてくる。数分間に渡る彼の攻撃を全て完璧に躱しているというのに、未だにこちらの実力を把握できていないのか、それとも認められないのか・・・

(技術はまだ発展途上・・・惜しいな。もっと自らの実力を省みる視野と、それを受け入れる心があれば伸びるというのに・・・)

相手は年下ということもあり、少し思考を矯正してやれば騎士団の為にもなるだろうと考えた俺は、年長者として鍛えてやろうと思い至った。決して俺よりも年下なのに背が高く、体格が恵まれているからといってやっかみを覚えたわけではない。

「その程度の実力でキャンキャン吠えるな。聞いていて恥ずかしくなる」

「なっ!?き、貴様・・・後悔するぞ!」

俺の挑発に、彼はまんまと乗ったようで、歯を噛み締めながら恨みの籠った表情で口を開く。そして、身体強化を更に一段強化したのだろう、身体に流している魔力量が目に見えて増えたのだが・・・

「後悔するって・・・大言吐いたわりには、身体強化も全然だな」

「はぁ?魔術師ごときが何を言ってーーー」

「そのくらいの身体強化なら俺でも出来る。こんな風に・・なっ!」

彼の言葉を遮り、俺は瞬時に纏っていた風魔術を解除すると、次の瞬間には身体強化を発動して、彼の槍の間合いの更に内側へ踏み込み、手刀を喉元寸前で止めて見せた。

「は?え?な?」

彼の反応速度を越えた動きだった為か、何が起きたか理解できないようで、呆けた声を溢している。

「良かったな。これが実戦の場だったら、今頃お前は喉元を斬り裂かれて死んでいた」

「ば、ばかな・・・何故魔術師が身体強化など・・・」

「魔術師だから身体強化出来ないわけじゃない。それは知ってるだろう?ただ学ぶ効率が悪いだけだ。しかし、どんな世界にも例外は存在する。俺のように」

「ざ、戯れ言を!少し身体強化が出来るからといえど、この間合いならこちらに分がある!」

そう言うと、彼は構えていた槍の石突きを下から上へ掬い上げるようにして反撃してきた。接近された時の反撃としては及第点の攻撃方法だ。

(まぁ、ここまで近づかれた時点で落第だけどな)

俺は彼の攻撃に合わせて槍の穂先に足を乗せ、掬い上げる勢いを利用して上空へ飛ぶ。

「魔方陣展開・魔力供給・照・・っ?!」

上空で身体強化を解除し、魔術を発動しようとした瞬間だった。唐突に全身に悪寒が走り、空気に違和感を感じて空を見上げた。

「・・・なんだ?何かが・・・おかしい?」

周囲を見渡すも、違和感の正体は掴めない。目に見える景色はいつもの光景で、何かが明確に変化したわけでもない。

視線を下へ向け、俺の他に違和感を感じているものが居ないか注視するも、客席の貴族達は上空にいる俺を見ているだけで、何かを感じ取っている者はいないようだ。出場している選手達も同様で、マーガレット嬢も普通に剣士と戦っている。

確かに違和感は僅かなものだが、それでも俺の直感は最大限の警戒を促している。

(これは・・・王女と連絡を取った方が良さそうだな)

そんなことを考えながら自由落下していた俺に向かって、1メートル程の尖った岩が飛んできたので、回し蹴りを振り抜いて砕いた。

(この魔術は・・レンドール少年か)

眼下の舞台へ目を向けると、俺に向かってレンドール少年が手を向けていた。俺が彼の土魔術を蹴り壊したのを見て驚きの表情を浮かべているようだが、それでも諦めずに魔術を発動しようとしている。

「お前ら!何をボケッとしている!!空中では身動きがとれない!今のうちに奴に魔術を撃ち込め!!」

レンドール少年の怒号に、呆気にとられていた生徒達が一斉に動き出す。魔術師達は俺に向かって様々な魔術を発動し始め、剣士達は着地点で待ち構えている。

「魔方陣展開・魔力継続供給・発動」

俺は中級の風魔術を纏うと、地上から撃ち込まれる様々な魔術を風の力で逸らしていく。そしてそのまま地上に降り立つと、今度は剣士達が一斉に取り囲んで攻撃してきた。

その全ての攻撃を逸らすと、時にはバランスを崩した生徒同士がぶつかって自爆していたが、俺の意識は別のところにあった。

(この焦燥感・・・一体なんだって言うんだ?)

先程から感じている違和感に対し、俺は注意深く周囲へ視線を向けて原因を探っていた。




~~~ レンドール・フログレンス 視点 ~~~

(何なんだコイツは!一体何なんだってんだよ!!魔術を身体に纏う?何でそんな繊細な制御が平民ごときに出来るんだよ!!魔術師が身体強化!?ふざけてんのか!!)

 僕は訳のわからない目の前の光景に、動揺が隠せなかった。声を大にして叫びたい衝動を、心の中だけに留める事ができたのは幸いだ。僕の動揺が奴に知られ、もしそれを笑われたとしたら、怒りで卒倒してしまうだろう。

武術大会前、剣武コースの3年生だという人から声を掛けられ、今回の大会で他の生徒と共闘して、目障りな平民を学院から排除する手助けをして欲しいと話をされた。

剣士に協力するのは癪だったが、平民でありながら生意気にも学年1位の座に居座っているアル・ストラウスを追い出せるのであればと、僕は首を縦に振った。

その際、逆に追い詰められるようなことがあれば、魔力量を増大させるという特性の薬を手渡されている。正直、あの平民相手にこんな薬まで使わなければ勝てないとは思いたくないが、奴に実力があるのは確かで、協力しなければ倒せない相手だというのは、これまでの付き合いで理解している。

バトルロワイアルという、本来であれば周りは全員敵だらけのはずだが、その状況はアル・ストラウスだけに適用される。

にもかかわらず・・・

(これだけの人数で一斉に攻撃を仕掛け、あれだけの魔術を放っているというのに、何故アイツは怪我一つしない!?それどころか、一体どこを見ているんだ!?)

上空から降りてきてからの奴は、大会に集中しているとは言いがたく、どこか上の空でここではないどこかを見ていた。

それなのに、僕たちの仕掛ける攻撃は一切直撃しないどころか、攻撃自体を見てもいない。協力者達もその様子に苛ついてか、剣士は攻撃が大振りになり、魔術師の上級生は上級魔術まで放っているのだが、余波で同士討ちをしてしまい、どんどん数が減ってしまう有り様だ。

(ふざけるなよ!下賤な平民ごときが、僕達高貴な貴族に対してこんな屈辱・・・絶対に許さん!)

「セルシュ!アレをやるぞ!」

「あぁ。けど、本当に大丈夫なのか?」

「怖気づくなよ!平民に馬鹿にされてたままで良いのか!?」

「・・・分かった」

僕の少し前で剣を構えているセルシュにアレを使うように告げると、渋々ながらも承諾した。学院には話を通していると聞いているので、反則になることはないはずだ。

僕は言い様のない激しい怒りに突き動かされるように、懐から水色の小瓶を取り出すと、それを一気に煽った。
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