騎士学院のイノベーション

黒蓮

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第三章 神樹の真実

帝国への誘い 3

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~~~ エリーゼ・ステラー 視点 ~~~

 亡命先のヴェストニア王国の首脳部は、我々がもたらした情報の真偽を検証するため、先ず帝国が本当に魔物に飲み込まれてしまったかの確認をするという判断を下した。

そこで、帝国までの案内役として私が選ばれた。理由は至極簡単で、帝国の騎士の中での最大戦力を皇帝陛下と切り離しつつ、皇帝を人質として私の行動を制限するためだ。そして、万が一にも王国側を謀ったと判断されれば、皇帝陛下以下、騎士達を粛清しやすいようにするためだろう。

この検証の話は、皇帝陛下も私も王国側の思惑は全て承知の上で案内役となることを了承した。正確には、受け入れるしかないのだ。我々としては真実しか伝えていないので無駄に感じるが、王国側の不安も十分理解できる。それに、この検証如何によっては、我々への信頼度が上がる可能性もある。

何より、今回の検証にはヴェストニア王国最高戦力である、第一騎士団団長が赴くことになると聞いている。もしこの国の最高戦力と友好関係を結ぶことが出来れば、帝国復興への道程《みちのり》も近づくかもしれない。

最優先はアル君との信頼関係の醸成だが、実力者とのパイプが出来ることに越したことはない。そう考え、私は決意も固く意気込んでいたのだったが・・・

(アル君が王国最高戦力の団長で、23歳!?)

任務当日、待ち合わせ場所に現れたのは、我が愛しのアル君だった。何故彼が今回の危険な任務に同行するのか疑問に思っていた私は、彼から正体を明かされて愕然としたが、同時に合点もいった。あれほどの実力ならば、王国最高戦力であるということも頷けると。

そして最も重要なことは・・・

(アル君、いえ、アルバート殿は23歳。と言うことは、私と4つしか離れていない。にもかかわらず、見た目は10代前半に見紛う容姿・・・正に、合法的にショタ君とあんなことやこんなことをしても問題ない!年齢的に私の色に染められないかもしれないが、それを踏まえても魅力的ね。ああ!でも、23歳で騎士団団長という申し分ない地位・・・さすがに結婚している?婚約者は?恋人は?先ずは情報収集が先決。いえ、仮に相手が居たところで、私のこれまで読み漁ってきた本の知識を総動員し、必ず彼を落としてみせる!)

決意も新たに私は、これから約1ヶ月に渡る彼との旅路に心を踊らせた。これで2人きりだったなら、色仕掛けでも何でもしようと思うところだが、生憎と今回の任務は他に3人の王国騎士が同行することになるので、滅多な行動には出られない。

そんな3人の中で最も厄介だったのが、ミッシェルという女性だ。彼女は休憩中に私がアルバート殿と話そうとすると、必ず割り込んでくるのだ。何をするでもないのだが、こちらを監視するような冷ややかな視線を送ってくる為、当たり障りのない会話しか出来ない。

更に、一緒に同行しているレックという青年なのだが、事ある毎に私にアプローチを掛けてくる。こっちに全くその気がなくても、一応自分の立場を考え下手に出て対応しているのだが、正直ストレスでしかない。

そこに助け船を出すようにしてダニエル殿が彼を諌めてくれるため、必然的にダニエル殿と会話する機会が増えるのだ。とはいえ、その会話の中身も7割は彼の家族の話なので、こっちは退屈を顔に出さないようにするのに気を使っている始末。

色々と前途多難な状況だが、それでも旅路自体は順調だった。その最大の要因は、やはりアルバート殿だ。

彼は身体強化を展開し、全力疾走に近い速度で走っているにも関わらず、周囲から無数とも思える数の魔物が現れても、全て拳一つで吹き飛ばしている。以前彼と模擬戦闘した時には剣を使用していたが、今回の任務に彼は剣を装備してきていない。

ダニエル殿に聞いた話では、「うちの団長にそんなものは必要ない。見てれば分かる」と、最初は苦笑混じりの言葉の意味が分からなかったが、目の前の光景を見ればなるほど、己の肉体こそが最高の武具であると言わんとする勇姿だった。

(素晴らしいな。鍛え上げ、研ぎ澄まされている。ショタは線の細い柔肌こそ至高と思っていたが、あの容姿で実は脱いだら鍛え上げられた筋肉が晒されると考えると・・・そのギャップが良いかもしれん。これは是非とも水浴びする姿を拝みたいものなのだが・・・)

道中、川があると衣服の洗濯や身体を洗ったりしているが、残念ながらアルバート殿の様子を見ることは叶わなかった。それというのも、ミッシェルが完璧に私をマークしているのだ。少しでも動こうとすれば、「どちらに?」と声を掛けてきて、覗きに行くことも出来なかった。

(くぅ。何とかアルバート殿と親密な関係になり、あんな事やこんな事をしたい!ついでに我が帝国への協力を願い出たいというのに・・・これでは色仕掛けで迫る隙すらない。いや、まだだ。まだ時間はある!)


 そんな事を考えながら移動すること5日目。いよいよ難度9を超える強大な魔物の生息域付近までやって来た。

皇帝陛下と共に移動していた際は、陛下の『可能性知覚』により、強大な魔物を避けて進んだことで安全且つ最小限の消耗でこの強大な魔物の領域を潜り抜けてきた。その分時間もかかってしまったが、無事に王国まで辿り着けている。

しかし、今回はそうはいかない。陛下の能力がなければ強大な魔物との遭遇は必至。ともすれば、最高難度10の魔物との遭遇もありうる。

(最悪はドラゴンね。あの鱗の前には、生半可な攻撃では傷一つ付かない。何より空を飛ばれると完全に制空権をとられ、ドラゴンブレスで一網打尽にされる最悪な未来しか想像できない。帝国では500人以上の騎士を動員して何とか討伐していたけど、王国ではどうなのかしら?)

ここから先は最難関の危険地帯。それは事前にアルバート殿達にも伝えているが、彼らからはそれほど緊迫した雰囲気が伝わってこない。こちらの戦力は僅か5人ということを考えれば、もっと悲壮な空気が漂っていてもいいと思うのだが、これまでと変わらない足取りだ。

そんな彼らの雰囲気に乗せられるように、私も肩の力を抜こうとした時だった、それは唐突に現れた。

「っ!!アルバート殿!!」

「あぁ。この気配・・・難度9ぐらいか。しかも複数とは・・・さっそくお出ましだな」

強大な魔物の気配を感じ取った私は、隊列の後方からアルバート殿へ呼び掛けると、彼はこちらに一瞬視線を向け、私同様に感じ取った気配について口にしたが、その様子はいたって冷静だった。

「どうします団長?いつものように対処を?」

「そうだな。ここで無駄な体力は使いたくないし、ここから先もまだ長い。先頭の一体は俺が速攻で片付ける。残りはダニエルが動きを抑えつつ、レックは矢の雨で注意を逸らせろ。その隙にミッシェルは相手の弱体化だ。エリーゼさんはミッシェルの魔術行使中の護衛を頼む」

ミッシェルが対応方針についてアルバート殿に確認すると、彼は矢継ぎ早に指示を伝えてきた。その言葉に、私を除く3人は頷いていたが、さすがに理解できなかった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。この人員で討伐に臨むつもりか?」

「大丈夫さエリーゼ嬢。この程度の魔物なら大した問題じゃない」

既に魔物が起こしているだろう地響きを感じる距離まで接近しているという焦燥が顔に出ていたようで、レックが笑みを浮かべながら余裕の言葉で落ち着かせようとしてくる。

しかしーーー

「いやいや。この気配、難度9が少なくとも3、4体は接近してきているぞ?単体ならともかく、このレベルの魔物が複数となれば、ここは離脱してやり過ごすべきだろ?」

私の当然の提言のはずなのだが、何故かアルバート殿を除く3人は苦笑いを浮かべるだけだった。意味が分からない私は、こういった時に話をし易いダニエル殿へ視線を向ける。

「ダ、ダニエル殿?さすがにたった5人で挑もうなんて、正気の沙汰とは思えないのだが?」

「本来はそうだろうな。ただ、ワシらにはアルバート団長がいる。あの人の別名は『戦場の赤い死神』と言ってな。まぁ、見ていれば分かるさ。死神と言われるその由縁がな」

「は、はぁ?」

達観したような表情を浮かべるダニエル殿に私は困惑するが、残念ながら事態は待ってくれない。そうこうしているうちに、魔物が視認できる距離まで来たのだ。

「ベヒモス!数は4!作戦通りに頼むぞ!」

「「「はっ!!!」」」

アルバート殿の声に皆は了承の返事を返すが、私は一人だけ動けなかった。何故なら、眼前には小山ほどの大きさの巨体を揺らしながら、眼光鋭くこちらを見下ろしてくる難度9の怪物、ベヒモスが4体も攻撃姿勢をとってきていたからだ。

(・・・死ぬ前にアルバート殿の頭をナデナデしておけば良かった)

現実逃避気味な事を考えながらも、私は最低限指示された護衛という任務を果たすため、双剣を抜いて身体強化を行うのだった。
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