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第一章 革新の始まり
入学試験 3
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「ようこそヴェストニア騎士学院へ。私は当学院で学院長の職に就くロッカス・バートレンといいます。初めまして、パラディン序列第一位アルバート・フィグラム殿。いえ、この学院に在籍中は、アル殿とお呼びした方が適切ですかな?」
警備の騎士に先導された俺は学院長室へと案内され、この学院の学院長と挨拶を交わしている。彼は元軍務大臣で、既に齢《よわい》60歳を過ぎており、白い口髭に白髪のオールバックが特徴的な人物だ。
ちなみにロベリアとは途中で別れており、この部屋にいるのは俺と学院長だけだ。
「呼び方は何でも構わないが、他の目がある場所では呼び捨ての方が良いんじゃないか?で、わざわざ俺をここに案内したのは、今後の方針の確認のためか?」
確認する俺の言葉に、学院長は重々しく頷いた。
「そうだ。先ず、今回のアル殿の潜入に当たって、その事実を知っている当学院の関係者は、学院長である私と、連絡係となっている保険医の2人だけだ」
「・・・随分少ないな?教師連中にも秘密にする必要があるのか?」
先程の面倒事もあり、何か問題が生じた際には迅速に対応できる協力者が必要なのだが、それがたったの2人では少な過ぎる。別に自分で解決できないこともないが、平民として入学する事もあり、あまり実力を晒け出したくないという思いもある。
そんなこちらの考えを察したのか、訝しげに問う俺の言葉に、学院長は困った表情を浮かべながら口を開いた。
「実は、恥ずかしながら意識改革が必要なのは生徒だけではなくてね・・・」
「つまり、学院の教師達も魔術師と剣士とで、互いに見下し合っていると?」
「・・・それだけでなく、才能ある平民の生徒の入学を認めないというような風潮すらある。勿論、表面的にはそんなことは分からないよう、壊れた計測器を使って魔力量が規定に満たないとして失格にしたり、子供には破壊不可能な的を実技試験で使用したりと、何かしらの細工をして入学させないようにしているのだ」
学院長は重いため息を吐きながら、この学院の教師達の現状を語った。その話に、俺は少し声を大きくしながらいくつかの疑問を投げかける。
「待ってくれ。騎士団に所属していた教師の中には、俺の顔を知っている奴もいるんじゃないか?それに、平民がこの学院を受験する場合、ほとんどが国からの強制だったはず。それはつまり、稀少な特異二属性の才能か、とてつもない魔力量の保有者のはずだが?」
「まずアル殿の顔を教師陣が知っている可能性ですが、ほとんどあり得ません。彼らは騎士としての職務を遂行するより、この学院の教師になろうと過ごしていたはずです。騎士団長の顔を覚えるより、コネ作りに邁進していたでしょう。また平民についてですが、今までの生活の中では鍛練出来なかった事も踏まえ、本来国が十分な教育と訓練を施して成長を促すのですが、現状この学院はほとんど貴族位の者達で構成されていることから、平民を異分子のように感じてしまうようでな・・・」
「なるほどな。教師の方は分かったが、平民の方については問題だな。それで貴重な才能を逃しているようでは、この国に未来は無いぞ?」
「全くもって、その通りなんだがね・・・」
俺の言葉に、学院長はハンカチで額の汗を拭きながら受け答えをしていた。現場を取り仕切る立場としては、家柄など関係なく才能と実力がある者が騎士に配属されるべきだと考えている。家柄だけのコネで騎士に叙任されようものなら、最初の任務でそのまま天国に直行してもおかしくない。
「でも、何で教師がそんな考え方を?この学院の教師は、騎士として勤務した実績がないと勤められないはずだろ?実戦を経験し、現場を知っているはずの者が、何でそんな考えに陥るんだ?」
「教師になるには騎士として1年以上の経験がある者となっているが、今学院に在籍している教師は、長くても2年の騎士経験者だ。正直たったの1、2年では、それほど危険な戦場には派遣されんよ。任務中も新入りには実力者のベテラン騎士が守ってくれることもあり、大した経験もなく、学生気分のまま教職に就いてしまったといった具合だな」
「なるほどねぇ・・・ただ、それで平民を排除しようとはならないだろう?」
「色々と理由は考えられるが、一つには権力欲と金銭欲に負けてしまったと考えられる・・・」
「権力と金銭だと?」
学院長の言葉の意味が分からなかった俺は、首を傾げながら聞き返した。そんな俺の言葉に、学院長は大きく頷いてから口を開いた。
「貴族位は世襲だが、継ぐことの出来る条件として、騎士の叙任を受けたものに限る。その為貴族位を持つ家の子供達は、必死になってこの学院に入学しようとする」
「それはまぁ、そうだろうな」
「そして、この学院の定員は一学年100人。そこに今まで騎士になるために努力をしてきたわけでもない、ぽっと出の平民が紛れ、自分が不合格になったとすれば・・・」
「あぁ・・・まぁ、プライドだけは高そうな貴族の坊っちゃんからすれば、発狂しそうな現実だろうな」
「そうだ。騎士となれれば権力も金銭もある程度思いのままだったからな。まぁ、下位貴族は別として、高位貴族の出の者は数年騎士として勤務し、あとは安全な文官や大臣になるのがほとんどだがね」
自分もそうなのだろうか、学院長は苦笑いを浮かべながら貴族の有り様を語っている。そして、学院長は真面目な表情をすると、更に言葉を続けた。
「そして、これが一番の理由だと考えられるのだが、貴族となれる家の数が決まっているからだろうな」
「え?あぁ、そうなんだ」
今まであまり意識したこともなかったので、貴族の数に制限があるなんてことは忘れていた。
「公爵家は王族の血族なので別として、侯爵が10家、伯爵が30家、子爵が50家、男爵が100家、準男爵が200家だ。あとは騎士を退任すると解任されるが、名誉騎士爵が7000人となっている」
「確か実績を挙げると、爵位も昇爵されるんだったっけ?」
俺の反応を見て、貴族家の制限のことを知らないと察したのだろう、学院長は貴族家の構成を説明してくれた。それに対して俺もうろ覚えの知識だが、確認するように問いかけた。
「その通り。ただ、余程の功績でなければそうそう昇爵など無いのが現実だ。また昇爵は武功だけでなく、内政関係でもありえる。そして本来、優秀な者は上に行き、そうでないものは降爵され、悪くすれば爵位を剥奪されるのだ」
そう言われて思い返すと、俺は騎士に叙任された時に名誉騎士爵になり、魔物の巣を単独撃破して準男爵に、単独で魔物の年間撃破数が一騎士団以上になって男爵に、そして最高難易度の魔物であるドラゴンを複数討伐して一気に伯爵になった。
昇爵がそうそう無いと言われても今一ピンとこないが、学院長が言うのだから普通はそうなのだろう。
「なるほど。つまり自分の貴族としての席を守るために、余計な邪魔物はあらかじめ排除したいと・・・」
「おそらく。恥ずかしながらアル殿が懸念されるように、優秀な人材を自ら排除しているようではこの国の、いや、この世界の未来は非常に暗いものとなるだろうな」
どうやら学院長としては、今の教師陣の考え方も生徒と同時に変えていきたいと思っているようだが、そこで一つ疑問に思ったことを確認する。
「学院長・・・あんたは良いのか?」
「実を言うと、私も学院の改革のために数年前から学院長としてこの席に座っているが、中々上手く行かんのだよ。それに私は、自分の孫が魔物の恐怖に怯えない世界になってくれればと願っている。その為には平民だろうと貴族だろうと関係なく、国の守り手に成ってくれればと考えているよ。特に最近は、より強くそう考えているな・・・」
学院長はここではないどこかを見つめながら、何か達観したような表情を浮かべてそう語っていた。
「へぇ~、学院長は今の半径100キロが絶対の安全とは考えていないクチか?」
「過去を省みるのなら、それを絶対の安全と思い込むことほど危険な事はないだろうな」
この国には、『神樹神話』というものがある。要は神樹の加護は絶対で、未来永劫切れることはないという考え方だ。その逆として、ここ数十年で『神樹衰退説』が囁かれている。これは神樹といえども植物であることから寿命は存在し、将来的には枯れてしまうのではないかというものだ。
そこそこに有名な神樹研究者が発表した論文で、当時は大騒ぎになったと聞いたことがある。為政者達は混乱を避けるため、その論文を封印したほどだ。とはいえ、過去に国土が半径500キロから100キロになっていることを考えれば、その可能性も無きにしもあらずということで、今でも秘密裏に神樹の研究はされているらしい。
「なるほどね。それは俺も同感だな。・・・確か今日の入学試験は、この学院の全教師が見ていたよな?」
「そうだ。各教師が採点して最終的な合格者を決めている」
「そうか・・・じゃあ、さっそくこの学院に衝撃を与えるとするか!」
「な、何を?」
俺の言葉に不安げな表情を浮かべる学院長に対し、不敵な笑みをしながら口を開いた。
「決まってるだろう?入学試験を受けるんだよ!」
警備の騎士に先導された俺は学院長室へと案内され、この学院の学院長と挨拶を交わしている。彼は元軍務大臣で、既に齢《よわい》60歳を過ぎており、白い口髭に白髪のオールバックが特徴的な人物だ。
ちなみにロベリアとは途中で別れており、この部屋にいるのは俺と学院長だけだ。
「呼び方は何でも構わないが、他の目がある場所では呼び捨ての方が良いんじゃないか?で、わざわざ俺をここに案内したのは、今後の方針の確認のためか?」
確認する俺の言葉に、学院長は重々しく頷いた。
「そうだ。先ず、今回のアル殿の潜入に当たって、その事実を知っている当学院の関係者は、学院長である私と、連絡係となっている保険医の2人だけだ」
「・・・随分少ないな?教師連中にも秘密にする必要があるのか?」
先程の面倒事もあり、何か問題が生じた際には迅速に対応できる協力者が必要なのだが、それがたったの2人では少な過ぎる。別に自分で解決できないこともないが、平民として入学する事もあり、あまり実力を晒け出したくないという思いもある。
そんなこちらの考えを察したのか、訝しげに問う俺の言葉に、学院長は困った表情を浮かべながら口を開いた。
「実は、恥ずかしながら意識改革が必要なのは生徒だけではなくてね・・・」
「つまり、学院の教師達も魔術師と剣士とで、互いに見下し合っていると?」
「・・・それだけでなく、才能ある平民の生徒の入学を認めないというような風潮すらある。勿論、表面的にはそんなことは分からないよう、壊れた計測器を使って魔力量が規定に満たないとして失格にしたり、子供には破壊不可能な的を実技試験で使用したりと、何かしらの細工をして入学させないようにしているのだ」
学院長は重いため息を吐きながら、この学院の教師達の現状を語った。その話に、俺は少し声を大きくしながらいくつかの疑問を投げかける。
「待ってくれ。騎士団に所属していた教師の中には、俺の顔を知っている奴もいるんじゃないか?それに、平民がこの学院を受験する場合、ほとんどが国からの強制だったはず。それはつまり、稀少な特異二属性の才能か、とてつもない魔力量の保有者のはずだが?」
「まずアル殿の顔を教師陣が知っている可能性ですが、ほとんどあり得ません。彼らは騎士としての職務を遂行するより、この学院の教師になろうと過ごしていたはずです。騎士団長の顔を覚えるより、コネ作りに邁進していたでしょう。また平民についてですが、今までの生活の中では鍛練出来なかった事も踏まえ、本来国が十分な教育と訓練を施して成長を促すのですが、現状この学院はほとんど貴族位の者達で構成されていることから、平民を異分子のように感じてしまうようでな・・・」
「なるほどな。教師の方は分かったが、平民の方については問題だな。それで貴重な才能を逃しているようでは、この国に未来は無いぞ?」
「全くもって、その通りなんだがね・・・」
俺の言葉に、学院長はハンカチで額の汗を拭きながら受け答えをしていた。現場を取り仕切る立場としては、家柄など関係なく才能と実力がある者が騎士に配属されるべきだと考えている。家柄だけのコネで騎士に叙任されようものなら、最初の任務でそのまま天国に直行してもおかしくない。
「でも、何で教師がそんな考え方を?この学院の教師は、騎士として勤務した実績がないと勤められないはずだろ?実戦を経験し、現場を知っているはずの者が、何でそんな考えに陥るんだ?」
「教師になるには騎士として1年以上の経験がある者となっているが、今学院に在籍している教師は、長くても2年の騎士経験者だ。正直たったの1、2年では、それほど危険な戦場には派遣されんよ。任務中も新入りには実力者のベテラン騎士が守ってくれることもあり、大した経験もなく、学生気分のまま教職に就いてしまったといった具合だな」
「なるほどねぇ・・・ただ、それで平民を排除しようとはならないだろう?」
「色々と理由は考えられるが、一つには権力欲と金銭欲に負けてしまったと考えられる・・・」
「権力と金銭だと?」
学院長の言葉の意味が分からなかった俺は、首を傾げながら聞き返した。そんな俺の言葉に、学院長は大きく頷いてから口を開いた。
「貴族位は世襲だが、継ぐことの出来る条件として、騎士の叙任を受けたものに限る。その為貴族位を持つ家の子供達は、必死になってこの学院に入学しようとする」
「それはまぁ、そうだろうな」
「そして、この学院の定員は一学年100人。そこに今まで騎士になるために努力をしてきたわけでもない、ぽっと出の平民が紛れ、自分が不合格になったとすれば・・・」
「あぁ・・・まぁ、プライドだけは高そうな貴族の坊っちゃんからすれば、発狂しそうな現実だろうな」
「そうだ。騎士となれれば権力も金銭もある程度思いのままだったからな。まぁ、下位貴族は別として、高位貴族の出の者は数年騎士として勤務し、あとは安全な文官や大臣になるのがほとんどだがね」
自分もそうなのだろうか、学院長は苦笑いを浮かべながら貴族の有り様を語っている。そして、学院長は真面目な表情をすると、更に言葉を続けた。
「そして、これが一番の理由だと考えられるのだが、貴族となれる家の数が決まっているからだろうな」
「え?あぁ、そうなんだ」
今まであまり意識したこともなかったので、貴族の数に制限があるなんてことは忘れていた。
「公爵家は王族の血族なので別として、侯爵が10家、伯爵が30家、子爵が50家、男爵が100家、準男爵が200家だ。あとは騎士を退任すると解任されるが、名誉騎士爵が7000人となっている」
「確か実績を挙げると、爵位も昇爵されるんだったっけ?」
俺の反応を見て、貴族家の制限のことを知らないと察したのだろう、学院長は貴族家の構成を説明してくれた。それに対して俺もうろ覚えの知識だが、確認するように問いかけた。
「その通り。ただ、余程の功績でなければそうそう昇爵など無いのが現実だ。また昇爵は武功だけでなく、内政関係でもありえる。そして本来、優秀な者は上に行き、そうでないものは降爵され、悪くすれば爵位を剥奪されるのだ」
そう言われて思い返すと、俺は騎士に叙任された時に名誉騎士爵になり、魔物の巣を単独撃破して準男爵に、単独で魔物の年間撃破数が一騎士団以上になって男爵に、そして最高難易度の魔物であるドラゴンを複数討伐して一気に伯爵になった。
昇爵がそうそう無いと言われても今一ピンとこないが、学院長が言うのだから普通はそうなのだろう。
「なるほど。つまり自分の貴族としての席を守るために、余計な邪魔物はあらかじめ排除したいと・・・」
「おそらく。恥ずかしながらアル殿が懸念されるように、優秀な人材を自ら排除しているようではこの国の、いや、この世界の未来は非常に暗いものとなるだろうな」
どうやら学院長としては、今の教師陣の考え方も生徒と同時に変えていきたいと思っているようだが、そこで一つ疑問に思ったことを確認する。
「学院長・・・あんたは良いのか?」
「実を言うと、私も学院の改革のために数年前から学院長としてこの席に座っているが、中々上手く行かんのだよ。それに私は、自分の孫が魔物の恐怖に怯えない世界になってくれればと願っている。その為には平民だろうと貴族だろうと関係なく、国の守り手に成ってくれればと考えているよ。特に最近は、より強くそう考えているな・・・」
学院長はここではないどこかを見つめながら、何か達観したような表情を浮かべてそう語っていた。
「へぇ~、学院長は今の半径100キロが絶対の安全とは考えていないクチか?」
「過去を省みるのなら、それを絶対の安全と思い込むことほど危険な事はないだろうな」
この国には、『神樹神話』というものがある。要は神樹の加護は絶対で、未来永劫切れることはないという考え方だ。その逆として、ここ数十年で『神樹衰退説』が囁かれている。これは神樹といえども植物であることから寿命は存在し、将来的には枯れてしまうのではないかというものだ。
そこそこに有名な神樹研究者が発表した論文で、当時は大騒ぎになったと聞いたことがある。為政者達は混乱を避けるため、その論文を封印したほどだ。とはいえ、過去に国土が半径500キロから100キロになっていることを考えれば、その可能性も無きにしもあらずということで、今でも秘密裏に神樹の研究はされているらしい。
「なるほどね。それは俺も同感だな。・・・確か今日の入学試験は、この学院の全教師が見ていたよな?」
「そうだ。各教師が採点して最終的な合格者を決めている」
「そうか・・・じゃあ、さっそくこの学院に衝撃を与えるとするか!」
「な、何を?」
俺の言葉に不安げな表情を浮かべる学院長に対し、不敵な笑みをしながら口を開いた。
「決まってるだろう?入学試験を受けるんだよ!」
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