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第三章 謀略と初陣
救助
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襲撃者達を見逃すような形で戦闘を終えた僕は、ファルメリアさんの元へ急ごうと森の中を走った。その道中、少しでも左腕の応急処置をするため、懐から自分で作ったポーションを取り出し、走りながら一気に飲み干した。
そこそこ深い傷なので、さすがに下級ポーションではすぐさま完治しないが、それでも止血するには十分だった。あとはあまり動かさないように安静にしていれば、2・3日で治るだろう。
馬車に積まれている物資の中には大きめの布もあったはずなので、それを使って首から吊るすように固定しようと思うが、一先ず左腕は意識して動かさないようにして走っていると、前方の上空に数匹のワイバーンが旋回している姿が目に入ってきた。
(あの巣から飛んできた個体かな?結構離れているのに、何だってこんなところで旋回しているんだ?)
あの巣で起こった出来事で出て来たワイバーンが、一匹残らず僕へ襲いかかってきたという訳ではないようで、数匹は僕以外に標的を見つけたのだろう。それがファルメリアさんの待つ馬車の近くだったら大変なことだが、まだ馬車を停めている場所までは距離がある中途半端な所だ。
おそらくは餌となる魔物か動物かだろうと思い、ワイバーンが旋回している付近を避けて行こうと、走る向きを変えようとした時だった。
「キャーーー!!!」
「っ!?」
絹を裂くような女性の悲鳴が辺りにこだましたのだ。こんな人里離れた森の奥深くに人がいるなんてありえないと考えると同時に、もしかしてと嫌な予感が脳裏を過ぎる。
(まさか・・・ファルメリアさんか?)
ありえないとは思いつつも、僕は走る速度を早めて悲鳴の聞こえた場所に急行する。
木々などの障害物を避けるため、雷魔法を併用しながら動体視力を高め、今出せる自分の最大速度で森を駆け抜けると、数十秒の内に到着した。
そこで見たのはーーー
「くっ、くそっ!来るな!」
木々が生い茂る森の中で、少しだけ開けたその場所には、地面に横たわり、上空を見上げながら声を荒げつつ、ジリジリと後退してるファルメリアさんの後ろ姿があった。ワイバーンの鉤爪の攻撃を受けたのだろう、彼女の左のふくらはぎが痛々しく抉れて鮮血が流れていた。
忙しなく上空のワイバーンの動向に顔を動かしているようで、ちらりと見えるその表情は恐怖に塗り固められており、口から泡を吹きながら声を荒らげていて、恐慌状態に陥っているようだった。
その直後、上空から一匹のワイバーンが大口を開けながら滑空してくる。どうやら彼女の事を捕食しようとしているようだが、そうはさせない。
「ーーーシッ!」
『グギャーーー』
「・・・へっ?」
鞘に収まっている剣の柄頭に雷魔法を流し、斬れ味を高めると、ファルメリアさんを後ろから飛び越すようにして抜剣し、滑空してくるワイバーンを一刀両断した。
大口を開けたまま身体が左右に分かれたワイバーンは、短い断末魔を残し、僕とファルメリアさんを避けるようにして、急降下の勢いそのままに地面に落ちた。
その様子に、背後に居るファルメリアさんから間の抜けた様な声が聞こえたが、それを気にする間も無く、未だ上空で旋回している3匹のワイバーンが、怒気も露わに襲いかかってきた。
『『『ギャーーー!!!』』』
(・・・ここで下手に加減してファルメリアさんを襲わせるわけにはいかない。申し訳ないけど全て討伐させてもらうよ)
目の前の魔物の命を刈り取ることを心の中で詫び、右手に持つ剣を握り直した。そして地面を思いっ切り蹴ると、急降下してくるワイバーンへと飛び込んでいった。
「はぁぁぁぁ!!」
『グーーー』
『ギャーーー』
『ゴーーー』
上空でワイバーンと交錯する瞬間、身体を捻ってその首を切断し、そのままワイバーンの胴体を蹴って、空中で向きを変えながら次の標的を狙うことを繰り返す。
そうしてあっという間に3匹のワイバーンは物言わぬ骸へと姿を変え、ファルメリアさんが居る場所付近へと墜落した。
「・・・あ、あ、あ・・・」
僕がワイバーンを全て討伐し終え、ファルメリアさんの様子を伺うように視線を投げかけると、彼女は未だ放心状態のまま、僕では無い何処かを見ているようだった。
それも仕方なく、ファルメリアさんはワイバーンが落下した近くだったため、真っ赤な返り血を浴びてしまっていて、顔から服から鮮血に染められてしまっていたのだ。
「ファルメリアさん?大丈夫ですか?僕が分かりますか?」
「・・・・・・」
彼女を気遣うように、優しい口調を意識しながら問いかけたのだが、僕の声に反応する様子は見られなかった。
「ファルメリアさん!もう大丈夫ですよ!」
「・・・えっ?い、生きてる?本物?・・っ!!い、痛っ!!ぐぅぅぅ・・・」
今度は彼女の肩を揺すりながら強めに問いかけると、ようやく視線が合ったのだが、よく分からないことを呟いた。しかし次の瞬間、今まで痛みを忘れていたように、猛烈なうめき声を上げながら傷ついた足を抱えるようにして蹲ってしまった。
「ファルメリアさん!!」
顔も真っ青になり、血の気が引いてきた彼女の様子に焦りを浮かべた。おそらくは足の太い血管が切れているために、出血多量の状態になりかかっているのだろう。彼女は痛みに苦しみながらも足を押さえているが、当然それだけで血は止まらない。
「くっ!急いでポーションを・・・」
片手しか使えないため、懐からポーションを取り出して口に咥え、少々乱暴だが、蹲る彼女の顔を強引に上に向けさせて口を開かせた。
「っ!?あ、ぐ?」
何をされるのか分からないといった困惑した表情を浮かべる彼女に構うこと無く、僕は咥えていたポーションの小瓶の栓を開け、彼女の口に強引に流し込んだ。
「下級のポーションですから完治は無理ですが、それでも止血くらいは出来るはずです。ゆっくりと飲み込んでください」
「・・・(ごくっ)・・・甘い・・・」
僕の説明を理解してくれたようで、ファルメリアさんはゆっくりとポーションを飲み込んでいった。すると、鮮血を流していたふくらはぎの深い傷の血が止まり、彼女の表情も和らいだものになった。ただ、思ったよりも傷が塞がらない事に違和感を覚える。
「ふぅ・・・とりあえず応急処置はこれで良いでしょう。といっても、血が止まっただけで、傷口は開いたままですからね。すぐに馬車まで戻って傷を洗い流して縫わないと、足が壊死してしまいます。辛いかもしれませんが、僕に掴まれますか?」
下級のポーションでは血は止まっても、その傷の痛みはまだあるはずだ。それに一刻も早く本格的な治療が必要だが、生憎と今回支給された物資にはポーションが無く、自分で作ったものしかない。それも残りは馬車に置いてきてしまっている為、急いで移動する必要があるのだが、片手が使えない今の僕では、彼女を安定した体勢で運ぶことができない。そのため、彼女にも協力してもらう必要があった。
倒れ込む彼女の側に背中を向けながらしゃがみこむと、顔だけを後ろに向けて身体に掴まるように促す。ある程度前傾姿勢になれば、おんぶでも安静に運べるはずだと考えたのだが、僕の行動に彼女は呆気にとられたような表情を見せていた。
「さぁ、早く」
「えっ、あ、その、でも・・・汚いから」
急かす僕の言葉に、何故か彼女は頬を赤らめながら躊躇いを見せた。
「返り血が付いたところで大丈夫です。馬車に着替えもありますから」
「い、いや、そうじゃなくて・・・それもそうなんだけど、汚れは血だけじゃなくて・・・」
「???」
ますます意味が分からないが、のんびりと押し問答していることも出来ず、多少強引ではあるが、彼女の腕を掴んで強引に背中に乗せると、傷口を刺激しないように気を付けながら立ち上がった。
その瞬間、背中からほんのりとおしっこの匂いがしてきた事から、彼女が忌避していたのはこのことだったのだろうと察しつつも、それを一切顔に出すことなく馬車へと急いだのだった。
そこそこ深い傷なので、さすがに下級ポーションではすぐさま完治しないが、それでも止血するには十分だった。あとはあまり動かさないように安静にしていれば、2・3日で治るだろう。
馬車に積まれている物資の中には大きめの布もあったはずなので、それを使って首から吊るすように固定しようと思うが、一先ず左腕は意識して動かさないようにして走っていると、前方の上空に数匹のワイバーンが旋回している姿が目に入ってきた。
(あの巣から飛んできた個体かな?結構離れているのに、何だってこんなところで旋回しているんだ?)
あの巣で起こった出来事で出て来たワイバーンが、一匹残らず僕へ襲いかかってきたという訳ではないようで、数匹は僕以外に標的を見つけたのだろう。それがファルメリアさんの待つ馬車の近くだったら大変なことだが、まだ馬車を停めている場所までは距離がある中途半端な所だ。
おそらくは餌となる魔物か動物かだろうと思い、ワイバーンが旋回している付近を避けて行こうと、走る向きを変えようとした時だった。
「キャーーー!!!」
「っ!?」
絹を裂くような女性の悲鳴が辺りにこだましたのだ。こんな人里離れた森の奥深くに人がいるなんてありえないと考えると同時に、もしかしてと嫌な予感が脳裏を過ぎる。
(まさか・・・ファルメリアさんか?)
ありえないとは思いつつも、僕は走る速度を早めて悲鳴の聞こえた場所に急行する。
木々などの障害物を避けるため、雷魔法を併用しながら動体視力を高め、今出せる自分の最大速度で森を駆け抜けると、数十秒の内に到着した。
そこで見たのはーーー
「くっ、くそっ!来るな!」
木々が生い茂る森の中で、少しだけ開けたその場所には、地面に横たわり、上空を見上げながら声を荒げつつ、ジリジリと後退してるファルメリアさんの後ろ姿があった。ワイバーンの鉤爪の攻撃を受けたのだろう、彼女の左のふくらはぎが痛々しく抉れて鮮血が流れていた。
忙しなく上空のワイバーンの動向に顔を動かしているようで、ちらりと見えるその表情は恐怖に塗り固められており、口から泡を吹きながら声を荒らげていて、恐慌状態に陥っているようだった。
その直後、上空から一匹のワイバーンが大口を開けながら滑空してくる。どうやら彼女の事を捕食しようとしているようだが、そうはさせない。
「ーーーシッ!」
『グギャーーー』
「・・・へっ?」
鞘に収まっている剣の柄頭に雷魔法を流し、斬れ味を高めると、ファルメリアさんを後ろから飛び越すようにして抜剣し、滑空してくるワイバーンを一刀両断した。
大口を開けたまま身体が左右に分かれたワイバーンは、短い断末魔を残し、僕とファルメリアさんを避けるようにして、急降下の勢いそのままに地面に落ちた。
その様子に、背後に居るファルメリアさんから間の抜けた様な声が聞こえたが、それを気にする間も無く、未だ上空で旋回している3匹のワイバーンが、怒気も露わに襲いかかってきた。
『『『ギャーーー!!!』』』
(・・・ここで下手に加減してファルメリアさんを襲わせるわけにはいかない。申し訳ないけど全て討伐させてもらうよ)
目の前の魔物の命を刈り取ることを心の中で詫び、右手に持つ剣を握り直した。そして地面を思いっ切り蹴ると、急降下してくるワイバーンへと飛び込んでいった。
「はぁぁぁぁ!!」
『グーーー』
『ギャーーー』
『ゴーーー』
上空でワイバーンと交錯する瞬間、身体を捻ってその首を切断し、そのままワイバーンの胴体を蹴って、空中で向きを変えながら次の標的を狙うことを繰り返す。
そうしてあっという間に3匹のワイバーンは物言わぬ骸へと姿を変え、ファルメリアさんが居る場所付近へと墜落した。
「・・・あ、あ、あ・・・」
僕がワイバーンを全て討伐し終え、ファルメリアさんの様子を伺うように視線を投げかけると、彼女は未だ放心状態のまま、僕では無い何処かを見ているようだった。
それも仕方なく、ファルメリアさんはワイバーンが落下した近くだったため、真っ赤な返り血を浴びてしまっていて、顔から服から鮮血に染められてしまっていたのだ。
「ファルメリアさん?大丈夫ですか?僕が分かりますか?」
「・・・・・・」
彼女を気遣うように、優しい口調を意識しながら問いかけたのだが、僕の声に反応する様子は見られなかった。
「ファルメリアさん!もう大丈夫ですよ!」
「・・・えっ?い、生きてる?本物?・・っ!!い、痛っ!!ぐぅぅぅ・・・」
今度は彼女の肩を揺すりながら強めに問いかけると、ようやく視線が合ったのだが、よく分からないことを呟いた。しかし次の瞬間、今まで痛みを忘れていたように、猛烈なうめき声を上げながら傷ついた足を抱えるようにして蹲ってしまった。
「ファルメリアさん!!」
顔も真っ青になり、血の気が引いてきた彼女の様子に焦りを浮かべた。おそらくは足の太い血管が切れているために、出血多量の状態になりかかっているのだろう。彼女は痛みに苦しみながらも足を押さえているが、当然それだけで血は止まらない。
「くっ!急いでポーションを・・・」
片手しか使えないため、懐からポーションを取り出して口に咥え、少々乱暴だが、蹲る彼女の顔を強引に上に向けさせて口を開かせた。
「っ!?あ、ぐ?」
何をされるのか分からないといった困惑した表情を浮かべる彼女に構うこと無く、僕は咥えていたポーションの小瓶の栓を開け、彼女の口に強引に流し込んだ。
「下級のポーションですから完治は無理ですが、それでも止血くらいは出来るはずです。ゆっくりと飲み込んでください」
「・・・(ごくっ)・・・甘い・・・」
僕の説明を理解してくれたようで、ファルメリアさんはゆっくりとポーションを飲み込んでいった。すると、鮮血を流していたふくらはぎの深い傷の血が止まり、彼女の表情も和らいだものになった。ただ、思ったよりも傷が塞がらない事に違和感を覚える。
「ふぅ・・・とりあえず応急処置はこれで良いでしょう。といっても、血が止まっただけで、傷口は開いたままですからね。すぐに馬車まで戻って傷を洗い流して縫わないと、足が壊死してしまいます。辛いかもしれませんが、僕に掴まれますか?」
下級のポーションでは血は止まっても、その傷の痛みはまだあるはずだ。それに一刻も早く本格的な治療が必要だが、生憎と今回支給された物資にはポーションが無く、自分で作ったものしかない。それも残りは馬車に置いてきてしまっている為、急いで移動する必要があるのだが、片手が使えない今の僕では、彼女を安定した体勢で運ぶことができない。そのため、彼女にも協力してもらう必要があった。
倒れ込む彼女の側に背中を向けながらしゃがみこむと、顔だけを後ろに向けて身体に掴まるように促す。ある程度前傾姿勢になれば、おんぶでも安静に運べるはずだと考えたのだが、僕の行動に彼女は呆気にとられたような表情を見せていた。
「さぁ、早く」
「えっ、あ、その、でも・・・汚いから」
急かす僕の言葉に、何故か彼女は頬を赤らめながら躊躇いを見せた。
「返り血が付いたところで大丈夫です。馬車に着替えもありますから」
「い、いや、そうじゃなくて・・・それもそうなんだけど、汚れは血だけじゃなくて・・・」
「???」
ますます意味が分からないが、のんびりと押し問答していることも出来ず、多少強引ではあるが、彼女の腕を掴んで強引に背中に乗せると、傷口を刺激しないように気を付けながら立ち上がった。
その瞬間、背中からほんのりとおしっこの匂いがしてきた事から、彼女が忌避していたのはこのことだったのだろうと察しつつも、それを一切顔に出すことなく馬車へと急いだのだった。
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