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第4話
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(まさか、あの時の猫がレギオナ帝国の皇子だったなんて)
アーシャはテーブルに同席したワイアット皇子を繁々と眺めた。
言われてみれば、確かにあの時の猫の面影がないでもない。
艶やかな茶色の髪。
満月のような黄色の瞳。
だが、どうしてもあの時の猫と同じとは思えない。
そのくらい立派に成長されていた。
スラッと高い背丈、宮廷風の洗練された物腰。
その立ち居振る舞いはどこに出しても恥ずかしくない立派な貴公子である。
一方で、歴戦の勇者、練達の政治家であることも見て取れる。
アーシャは彼の瞳に映る拭い去れない悲しみと苦悩の影を見逃さなかった。
おそらくその手に殺めてきた人間は、両手の指では数えきれまい。
政略でも実戦でも、直接間接でも、沢山の敵を退けて、葬り去ってきたに違いない。
まさしく彼はレギオナ帝国の政変を鎮め、数々の改革を成し遂げ、数多の戦場を指揮してきた、レギオナ帝国が建国されて以来最大の英雄、ワイアット皇子に違いなかった。
「ご無沙汰しております。アーシャ様」
豊かな白眉毛を生やした老紳士が進み出て、恭しく一礼する。
「あなたは……もしかしてあの時、皇子と一緒にいた爺や?」
「ジャスパーと申します。あの納屋を離れてから、一夏の恩義を返せずにいたこと、ずっと心苦しく思っておりました」
「ジャスパー……。あなたを見て、ようやく信じる気になりました。確かにあなた達2人は、あの時、私と納屋で一夏を過ごした2匹の猫のようです」
「酷いな。私よりもジャスパーの方が信用があるじゃないか」
「ジャスパー様の雰囲気はあまりお変わりありませんから。皇子は本当に見違えるほどご立派になられて。とてもあの時の頼りなかったお方と同一人物とは思えませんわ」
「ほっほっほ。皇子はあれから目に見えて逞しくなられましたからな」
ジャスパーはフクロウのように穏やかな笑みを見せる。
「しかし、そのきっかけを与えてくださったのは、他でもないあなたですよ、アーシャ様。あの夏の日々、皇子があの納屋の中で学んだことは得難いものでした。あれ以来、皇子は本当にたくましくなられた。かつては内気だった皇子も真の気高さの何たるかを知り、我々家臣が何もせずともメキメキと実力を身に付けられていきました」
「あなたと過ごしたあの納屋の中には、どんな壮麗な王宮よりもたくさんの叡智が詰まっていた。そしてあの時のあなたは私がこれまで落としたどんな城の女王よりも高貴だった」
皇子が遠い過去を述懐するように言った。
「こうしてあなたがリーン公国の代表として来てくれたということは、あなたは変わらず高貴で聡明な魂の持ち主だということですね。いえ、あれから会えずにいた間、ますますその高貴さと知性に磨きをかけてこられたのでしょう」
アーシャは苦笑した。
生贄として差し出されたとはとても言えない。
どうもリーン公国の外交筋は、皇子の要求を間違ってリーン公国政府に伝えたらしい。
皇子はリーン公国の令嬢を味見したいという好色な欲求からではなく、本当にただアーシャに会いたくて、この度のパーティー開催を要求したのだ。
しかし、こうして彼が自分をリーン公国の代表とみなしてくれるのなら、わざわざ娼婦紛いのことをしてベッドに潜りこまなくても、聞きたかったことを聞ける。
アーシャが今回の仕事を引き受けたのは、レギオナの皇子が一体どういうつもりでリーン公国に進駐してきたのか、そこを聞きたかったというのもあった。
「皇子こそ、まだ未熟さの残るあの頃から、こうして実力者になられた成長ぶり、見違えましたわ。まさか、レギオナ帝国を改革した英雄が、あの時私が客人として遇した猫の皇子だったとは。きっと、生来の資質を発揮し、血の滲むような努力をされて、当時混迷していたレギオナに安定した治世をもたらしたのでしょう。それはそうとして皇子。この度のリミオネへの進駐、いったいどのような意図があってのことでしょうか。まさか、女漁りをするためにわざわざこのような大所帯でここまで来られたわけではないでしょうね」
「もちろん。私がここに来たのは、あなた一人のためだけではない。係争の絶えない地の精霊魔法圏と水の精霊魔法圏の間に秩序を取り戻すべく、このリーンとの友好同盟を礎とし……」
「皇子、回りくどい言い回しはおやめ下さい。あなたが欲しいのは、リーン公国の港と海軍、それに付随する海運ネットワーク。あなたはそれを求めて我が国と友好同盟を結ぼうとしているのではないのですか?」
アーシャがそう言うと、ワイアット皇子はフッと諦めたような笑みを浮かべて、降参するような素振りを見せた。
「まったく、君には何も隠し立てすることはできないな」
(やはりレギオナの狙いはそこか)
リーン公国は相次ぐ失政のために今は落ちぶれているものの、かつては水の精霊魔法圏でも1、2を争う海洋大国だった。
現在でも、首都リミオネには古びた運河が張り巡らされており、各都市と連結して船が行き来できるようになっている。
細々とではあるが他国の海洋都市とのネットワークも生きている。
地の精霊魔法圏の国々に領土を切り取られ、議会が軍船の廃止を決定し、商用船を優遇するよう港を造り変えたため海洋覇権闘争には破れてしまったが、港を整備し、艦隊を編成すれば、まだ海洋大国に舞い戻るだけのポテンシャルはあるはずだった。
今の落ちぶれたリーン公国にそれだけの改造に耐えうる国力はないが、日の出の勢いで台頭してきたレギオナ帝国がそれを援助するとしたら?
再び海洋大国として、水の精霊魔法圏に君臨することができるかもしれない。
また、レギオナとしてもリーン公国の強力な艦隊支援を受けることができれば、精強なレギオナ軍は地の果てまで侵攻することができるし、皇帝の威光は海の果てまで届き、照らすことができるだろう。
レギオナ帝国は地の精霊魔法圏での地位を確固たるものにし、海上貿易の利潤にも一枚噛めるのだ。
「殿下。水の精霊魔法圏の民は地の精霊魔法圏の民に根深い恐怖心を抱いています。このままいたずらに軍が駐留していては、暴動を起こす者が現れかねません。殿下の目的を達成するためにも、リーン公国の水夫、商人、海運業者の不安を一刻も早く払拭し、他の海運国にも敵対するつもりはないことを示すのが肝要ではないかと存じます」
「ふむ。それは私も気になっていたところだ」
ワイアット皇子はアーシャの問題提起に身を乗り出して食い付いてきた。
「リミオネ商人の心を掴むためにはどうすればいい?」
「彼らの現在の関心事は老朽化した水路の整備です。殿下としては……」
そこから2人はレギオナとリーンの友好同盟に関する諸問題について論じ始めた。
隣で聞いていたリーン公国の外交官は、冷や冷やしながらアーシャと皇子の会話を聞いていた。
アーシャがあまりにも堂々と皇子の腹のうちを探る質問をするのと、自分達が皇子の要求について見当違いの解釈をしたことがバレるのではないかと思ったのだ。
しかし、アーシャと皇子の会話が進んでいくうちに、だんだんそれが杞憂であることに気付いた。
アーシャは皇子の機嫌を損ねることなく、多方面に配慮しながら、両国の橋渡しという自身の役割を立派にこなしていた。
そればかりか外交官に両国の外交に関する懸案事項についてさりげなく気付かせようとしていた。
そのため、レギオナ帝国から見てリーン公国がどのような位置付けになっているのか、皇子がどのような意図でこの国に進駐してきたのか、外交官にもようやく分かってきた。
(それにしても……)
外交官はアーシャの才覚に感じ入らずにはいられなかった。
その見識の広さたるや2つの魔法圏を跨り、その想像力たるやレギオナの宮廷にまで翼を広げ、その洞察力たるや複雑な国際情勢の行く末を深く見通している。
そればかりか、レギオナの獅子を前にして一歩も怯むことがない。
なぜ、リーン公国はこのような娘の存在も知らず、埋もれさせていたのか。
皇子とアーシャが旧知の仲であることにも驚いたが、何よりもこのように賢く器量も悪くない娘が、嫁にもいかず、社交界でも噂にならず、埋もれていたことにも驚きを隠せなかった。
だが、ここにきてようやく外交官もアーシャの価値に気付いた。
(この娘、使える!)
そうして皇子との会談をつつがなく終えただけでなく、外交における有効な役回りまで演じたアーシャは、外交官から次回も皇子との会談に同席してもらえないかと打診されるのであった。
アーシャは「両親が許せば」と断っておいた。
その後、皇子の方からも今後の会談でアーシャを同席させてもらえないかと打診がきたため、外交官はますますアーシャに皇子との仲裁を依頼しなければと考えるのであった。
やがて、会談の内容はすぐに街の人々の知れ渡るところとなった。
皇子との会談を立派にこなし、両国の架け橋となったアーシャは、公国を救った英雄として讃えられた。
特に水夫や海運業者達の間では、自分達の利益を守ってくれた女神のように扱う有様だった。
また、アーシャとワイアットの一夏の縁についても街の人々の知るところとなった。
リーン公国の令嬢が、かつて政変から国を追われ困窮していたレギオナの皇子を匿い保護していた。
猫の皇子は令嬢に恩返しをするべくリミオネに再び訪れた。
このような美味しいネタに街の吟遊詩人どもが食い付かないはずがなく、令嬢と猫の皇子の物語は彼らの霊感と想像力を刺激し、その数奇な運命、おかしみは、リュートの音色とロマンスを求める大衆心理に乗って、街中に伝え聞かされた。
ワイアット皇子はその日のうちに古びた水路整備のための寄付を約束し、水夫達は皇子を讃える歌でそれに応えた。
水夫達が皇子をレギオナの獅子を讃えると、レギオナ軍はアーシャをリミオネの真珠とその美しさを讃える歌で返す。
リミオネの街は皇子とアーシャの再会を祝し、まるでハネムーンのような雰囲気に包まれた。
アーシャはリーン公国随一の才媛と持て囃され、彼女の名声はリーン公国領内を超えて、はるか遠く他国まで伝わるのであった。
面白くないのは、アーシャの母と妹である。
アーシャはテーブルに同席したワイアット皇子を繁々と眺めた。
言われてみれば、確かにあの時の猫の面影がないでもない。
艶やかな茶色の髪。
満月のような黄色の瞳。
だが、どうしてもあの時の猫と同じとは思えない。
そのくらい立派に成長されていた。
スラッと高い背丈、宮廷風の洗練された物腰。
その立ち居振る舞いはどこに出しても恥ずかしくない立派な貴公子である。
一方で、歴戦の勇者、練達の政治家であることも見て取れる。
アーシャは彼の瞳に映る拭い去れない悲しみと苦悩の影を見逃さなかった。
おそらくその手に殺めてきた人間は、両手の指では数えきれまい。
政略でも実戦でも、直接間接でも、沢山の敵を退けて、葬り去ってきたに違いない。
まさしく彼はレギオナ帝国の政変を鎮め、数々の改革を成し遂げ、数多の戦場を指揮してきた、レギオナ帝国が建国されて以来最大の英雄、ワイアット皇子に違いなかった。
「ご無沙汰しております。アーシャ様」
豊かな白眉毛を生やした老紳士が進み出て、恭しく一礼する。
「あなたは……もしかしてあの時、皇子と一緒にいた爺や?」
「ジャスパーと申します。あの納屋を離れてから、一夏の恩義を返せずにいたこと、ずっと心苦しく思っておりました」
「ジャスパー……。あなたを見て、ようやく信じる気になりました。確かにあなた達2人は、あの時、私と納屋で一夏を過ごした2匹の猫のようです」
「酷いな。私よりもジャスパーの方が信用があるじゃないか」
「ジャスパー様の雰囲気はあまりお変わりありませんから。皇子は本当に見違えるほどご立派になられて。とてもあの時の頼りなかったお方と同一人物とは思えませんわ」
「ほっほっほ。皇子はあれから目に見えて逞しくなられましたからな」
ジャスパーはフクロウのように穏やかな笑みを見せる。
「しかし、そのきっかけを与えてくださったのは、他でもないあなたですよ、アーシャ様。あの夏の日々、皇子があの納屋の中で学んだことは得難いものでした。あれ以来、皇子は本当にたくましくなられた。かつては内気だった皇子も真の気高さの何たるかを知り、我々家臣が何もせずともメキメキと実力を身に付けられていきました」
「あなたと過ごしたあの納屋の中には、どんな壮麗な王宮よりもたくさんの叡智が詰まっていた。そしてあの時のあなたは私がこれまで落としたどんな城の女王よりも高貴だった」
皇子が遠い過去を述懐するように言った。
「こうしてあなたがリーン公国の代表として来てくれたということは、あなたは変わらず高貴で聡明な魂の持ち主だということですね。いえ、あれから会えずにいた間、ますますその高貴さと知性に磨きをかけてこられたのでしょう」
アーシャは苦笑した。
生贄として差し出されたとはとても言えない。
どうもリーン公国の外交筋は、皇子の要求を間違ってリーン公国政府に伝えたらしい。
皇子はリーン公国の令嬢を味見したいという好色な欲求からではなく、本当にただアーシャに会いたくて、この度のパーティー開催を要求したのだ。
しかし、こうして彼が自分をリーン公国の代表とみなしてくれるのなら、わざわざ娼婦紛いのことをしてベッドに潜りこまなくても、聞きたかったことを聞ける。
アーシャが今回の仕事を引き受けたのは、レギオナの皇子が一体どういうつもりでリーン公国に進駐してきたのか、そこを聞きたかったというのもあった。
「皇子こそ、まだ未熟さの残るあの頃から、こうして実力者になられた成長ぶり、見違えましたわ。まさか、レギオナ帝国を改革した英雄が、あの時私が客人として遇した猫の皇子だったとは。きっと、生来の資質を発揮し、血の滲むような努力をされて、当時混迷していたレギオナに安定した治世をもたらしたのでしょう。それはそうとして皇子。この度のリミオネへの進駐、いったいどのような意図があってのことでしょうか。まさか、女漁りをするためにわざわざこのような大所帯でここまで来られたわけではないでしょうね」
「もちろん。私がここに来たのは、あなた一人のためだけではない。係争の絶えない地の精霊魔法圏と水の精霊魔法圏の間に秩序を取り戻すべく、このリーンとの友好同盟を礎とし……」
「皇子、回りくどい言い回しはおやめ下さい。あなたが欲しいのは、リーン公国の港と海軍、それに付随する海運ネットワーク。あなたはそれを求めて我が国と友好同盟を結ぼうとしているのではないのですか?」
アーシャがそう言うと、ワイアット皇子はフッと諦めたような笑みを浮かべて、降参するような素振りを見せた。
「まったく、君には何も隠し立てすることはできないな」
(やはりレギオナの狙いはそこか)
リーン公国は相次ぐ失政のために今は落ちぶれているものの、かつては水の精霊魔法圏でも1、2を争う海洋大国だった。
現在でも、首都リミオネには古びた運河が張り巡らされており、各都市と連結して船が行き来できるようになっている。
細々とではあるが他国の海洋都市とのネットワークも生きている。
地の精霊魔法圏の国々に領土を切り取られ、議会が軍船の廃止を決定し、商用船を優遇するよう港を造り変えたため海洋覇権闘争には破れてしまったが、港を整備し、艦隊を編成すれば、まだ海洋大国に舞い戻るだけのポテンシャルはあるはずだった。
今の落ちぶれたリーン公国にそれだけの改造に耐えうる国力はないが、日の出の勢いで台頭してきたレギオナ帝国がそれを援助するとしたら?
再び海洋大国として、水の精霊魔法圏に君臨することができるかもしれない。
また、レギオナとしてもリーン公国の強力な艦隊支援を受けることができれば、精強なレギオナ軍は地の果てまで侵攻することができるし、皇帝の威光は海の果てまで届き、照らすことができるだろう。
レギオナ帝国は地の精霊魔法圏での地位を確固たるものにし、海上貿易の利潤にも一枚噛めるのだ。
「殿下。水の精霊魔法圏の民は地の精霊魔法圏の民に根深い恐怖心を抱いています。このままいたずらに軍が駐留していては、暴動を起こす者が現れかねません。殿下の目的を達成するためにも、リーン公国の水夫、商人、海運業者の不安を一刻も早く払拭し、他の海運国にも敵対するつもりはないことを示すのが肝要ではないかと存じます」
「ふむ。それは私も気になっていたところだ」
ワイアット皇子はアーシャの問題提起に身を乗り出して食い付いてきた。
「リミオネ商人の心を掴むためにはどうすればいい?」
「彼らの現在の関心事は老朽化した水路の整備です。殿下としては……」
そこから2人はレギオナとリーンの友好同盟に関する諸問題について論じ始めた。
隣で聞いていたリーン公国の外交官は、冷や冷やしながらアーシャと皇子の会話を聞いていた。
アーシャがあまりにも堂々と皇子の腹のうちを探る質問をするのと、自分達が皇子の要求について見当違いの解釈をしたことがバレるのではないかと思ったのだ。
しかし、アーシャと皇子の会話が進んでいくうちに、だんだんそれが杞憂であることに気付いた。
アーシャは皇子の機嫌を損ねることなく、多方面に配慮しながら、両国の橋渡しという自身の役割を立派にこなしていた。
そればかりか外交官に両国の外交に関する懸案事項についてさりげなく気付かせようとしていた。
そのため、レギオナ帝国から見てリーン公国がどのような位置付けになっているのか、皇子がどのような意図でこの国に進駐してきたのか、外交官にもようやく分かってきた。
(それにしても……)
外交官はアーシャの才覚に感じ入らずにはいられなかった。
その見識の広さたるや2つの魔法圏を跨り、その想像力たるやレギオナの宮廷にまで翼を広げ、その洞察力たるや複雑な国際情勢の行く末を深く見通している。
そればかりか、レギオナの獅子を前にして一歩も怯むことがない。
なぜ、リーン公国はこのような娘の存在も知らず、埋もれさせていたのか。
皇子とアーシャが旧知の仲であることにも驚いたが、何よりもこのように賢く器量も悪くない娘が、嫁にもいかず、社交界でも噂にならず、埋もれていたことにも驚きを隠せなかった。
だが、ここにきてようやく外交官もアーシャの価値に気付いた。
(この娘、使える!)
そうして皇子との会談をつつがなく終えただけでなく、外交における有効な役回りまで演じたアーシャは、外交官から次回も皇子との会談に同席してもらえないかと打診されるのであった。
アーシャは「両親が許せば」と断っておいた。
その後、皇子の方からも今後の会談でアーシャを同席させてもらえないかと打診がきたため、外交官はますますアーシャに皇子との仲裁を依頼しなければと考えるのであった。
やがて、会談の内容はすぐに街の人々の知れ渡るところとなった。
皇子との会談を立派にこなし、両国の架け橋となったアーシャは、公国を救った英雄として讃えられた。
特に水夫や海運業者達の間では、自分達の利益を守ってくれた女神のように扱う有様だった。
また、アーシャとワイアットの一夏の縁についても街の人々の知るところとなった。
リーン公国の令嬢が、かつて政変から国を追われ困窮していたレギオナの皇子を匿い保護していた。
猫の皇子は令嬢に恩返しをするべくリミオネに再び訪れた。
このような美味しいネタに街の吟遊詩人どもが食い付かないはずがなく、令嬢と猫の皇子の物語は彼らの霊感と想像力を刺激し、その数奇な運命、おかしみは、リュートの音色とロマンスを求める大衆心理に乗って、街中に伝え聞かされた。
ワイアット皇子はその日のうちに古びた水路整備のための寄付を約束し、水夫達は皇子を讃える歌でそれに応えた。
水夫達が皇子をレギオナの獅子を讃えると、レギオナ軍はアーシャをリミオネの真珠とその美しさを讃える歌で返す。
リミオネの街は皇子とアーシャの再会を祝し、まるでハネムーンのような雰囲気に包まれた。
アーシャはリーン公国随一の才媛と持て囃され、彼女の名声はリーン公国領内を超えて、はるか遠く他国まで伝わるのであった。
面白くないのは、アーシャの母と妹である。
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