4 / 61
第4話 鑑定スキルの力
しおりを挟む
アルベルトは一際背の高い娘がノアの前に片膝をついて、臣従の誓いをしていることに気付いた。
(オフィーリア、君はノアについていくのか)
アルベルトはオフィーリアがノアの列に加わるのを見て、複雑な思いだった。
というのも彼女は自分の領地に付いてきてくれると思っていたのだ。
戦場で彼女に命を救ってもらったこともある。
ノアに跪く彼女を見て、どこか寂しい思いを募らせるのであった。
ノアは跪き、自分の手の甲にキスをするオフィーリアを見ながら、彼女が初めて自分に忠誠を誓った日のことを思い出す。
あれはノアの母が死んだ頃。
元から側室の子であったノアは、他の兄弟達と比べて家中で一段低く見られていた。
だが、母が死んだことでいよいよ後ろ盾が無くなり、使用人達はノアに距離を置くようになった。
母が父から溺愛されていた頃には、殊更ノアに媚を売り美味しい思いをしていた者達も、父がノアに対して冷たくなってからは、突き放すような態度を取るようになる。
日々の給仕さえ手抜きする始末だった。
そんな中、変わらぬ忠誠心を見せてくれるメイドが1人だけいた。
「ご安心ください、坊っちゃま。私は何があっても決してあなたのことを見捨てません」
家中のメイド達の中でも、いや男を合わせた召使い達の中でも一際背の高いその少女オフィーリアは、そう言った。
他のメイド達が他の兄弟や家中での実力者への媚売りに必死になっている中、彼女は甲斐甲斐しくノアの身の回りの世話をしてくれた。
メイドがいなければ今日着る衣類の手配もされないこの屋敷で彼女だけがノアにとって唯一頼りになる存在となった。
(うっ。まただ)
ノアはこの頃、正体不明の頭痛に悩まされていた。
その頭痛はしばしば文字を読んでいる時に起こった。
この世界の文字を読むと、自動で別の体系の文字に変換されてしまうのだ。
それが前世の記憶だと分かるまで少し時間がかかった。
どうもノアの前世は、日本という場所で生まれ育ち、そして死んでいった人生だったようだ。
(これは日本語?)
この世界の言語体系と前世の記憶から浮かび上がる言語の齟齬は、ノアの頭に酷い混乱とストレスを巻き起こした。
ノアが前世の言語を思い出すのは、文字などの書いてある書物を読む時だけではなかった。
たとえば父の隣に、あるいは兄弟達の隣に、さらには召使いや使用人の隣にも正体不明の文字が浮かんでいるのが見えることがあった。
そういう時、ノアは読めない文字に苦しめられて、廊下の真ん中にもかかわらず頭を抱えてうずくまるのであった。
「どうされました坊っちゃま」
ほとんどの使用人達が無視して通り過ぎようとする中、オフィーリアは自分の仕事を放り出してノアを介抱しようとする。
「頭が、頭が痛いんだ」
「大丈夫ですよ。坊ちゃま」
オフィーリアはそっとおでこに手を当てながら包み込んでくれる。
「私がついています。決して見捨てることはありません」
彼女はノアが母の死と父の冷遇から来る不安に苦しんでいると思っているようだった。
(違う。そうじゃないんだ。オフィーリア。でも……)
彼女の察するノアの心情は見当はずれだったが、それでも痛みが和らぐのは確かだった。
ノアは母親のように優しく包み込んでくれる彼女に身を任せた。
この世界の言語と前世の言語を突き合わせ続けた結果、ノアはようやくストレスなく漢字、数字、アルファベットなどの意味が読解できるようになってきた。
同時に人物の隣に浮かぶ文字についても理解できるようになる。
とある騎士
統率:E
武略:D
内政:C
外交:D
攻城:D
築城:B
近接:C
開発:D
忠誠:D
信頼:C
~
まるで前世でやっていた戦略シミュレーションゲームのステータス欄のようだった。
文字を出したり、消したりする方法についても分かるようになってきた。
人物をじっと見る、瞬きをするといった動作をすることで操作・切り替えすることができる。
前世でやってたゲームでは、これらのステータスは以下のように分類される。
・戦略系ステータス
統率、武略、内政、外交、謀略など。
・環境系ステータス
野戦、攻城、築城、海戦、空戦など。
・技能系ステータス
近接、射撃、騎戦、砲撃、開発など。
・意欲系ステータス
信頼、信仰、野望、忠誠など。
・特殊系ステータス
火魔法、水魔法、雷魔法、土魔法など。
戦略系ステータスは、文字通り戦略を組むことに関する能力。
統率は兵を意のままに動かし率いる能力。
武略は戦において敵との駆け引きで上回る能力。
内政は自国の制度を整え、国民を1つに纏める能力。
外交は外国を味方に引き入れ、同盟条約を結ぶ能力。
謀略は敵対する人物を操って罠に嵌める能力。
環境系ステータスは、能力を発揮する際、得意とする環境。
野戦なら陸で、海戦なら海で、空戦なら空で、攻城なら城攻めで、築城なら防御戦で。
それぞれ有利な環境を進んで選べば他能力に正の補正がかかる。
逆に苦手な環境を選べばデバフがかかる。
技能系ステータスは、個人的な戦闘能力や技能を表している。近接なら接近戦を、射撃なら射撃戦を得意とする。
意欲系ステータスは、その人物がどのようにすればモチベーションが上昇するかを表している。信頼が高ければ他人に信頼されて、責任ある仕事を任された場合に意欲が上がる。信仰が高ければ、宗教的なミッションを担う際、モチベーションが高くなる。忠誠なら仕えるべき主人を見つけた時に。野望なら野心的なプロジェクトに取り組んだ時に。
特殊系ステータスは、魔法を絡めたスキルに関するステータスである。
このようにどうやらその人物の適性が分かるようだった。
上記に挙げたのは武将・兵士・官吏としての基幹となる適性で、他にも人の長所を表すステータスは星の数ほど種類がある。
他にも道具・武器の性能や宝飾類の価値、事物に宿る魔法効果などについても見抜くことができるらしい。
この世界では総じて鑑定スキルと呼ぶようだ。
ただ、どの書籍、伝聞を紐解いても鑑定スキルで人物のステータスを見通せるという話はいまだかつて聞いたことがない。
ノアのみに宿った能力なのかもしれなかった。
前世でやっていたゲーム世界とギフティア世界では、名前から地形、文化文明の様相まで明らかに違う。
しかし、このステータス表記。
ゲーム上においてユニット編成の参考にされるこれらのステータス情報が、この世界にも適用されるのだとしたら?
そしてこの鑑定スキルの威力を試す日は程なくしてやってくる。
ある日、ノアが屋敷の外に馬車に乗って郊外まで出かけていた時、丘の下の方から怒声と戦闘音が聞こえてきた。
見ると、警備隊が野盗の集団に襲われていた。
警備隊は劣勢だった。
ノアは警備隊の隊長と思しき人物を鑑定してみる。
警備隊隊長
統率:E
武略:F
野戦:E
近接:E
騎戦:E
(うわっ。この状況に必要なステータス全部低い)
特に統率Eなのが一番痛かった。
隊長が何事か喚きながら指揮するものの、周りの兵士はオタオタするばかりで混乱を助長するばかりだった。
(このままじゃマズイな)
ノアは傍の護衛兵を鑑定する。
護衛兵
統率:C
騎戦:C
(統率Cに騎戦C。これなら……)
「君、警備隊の人達がピンチだ。助けに行ってあげて」
「いや、しかし……。私には坊っちゃまの護衛が……」
「ここはいいから。さぁ、早く!」
ノアは短剣を抜くと、馬車に繋がれた馬の輓具を斬る。
護衛兵は慌てて馬のひき手綱を握る。
「この旗を持って。さぁ、行って」
「は、はい」
護衛兵は馬を駆って、警備隊の下に駆け付ける。
「みんなこの旗の下に集まれ」
彼はよく通る声、堂々とした身振りで辺りにいる者達を勇気付ける。
すると、それまでてんでバラバラに戦っていた兵士達は雷に打たれたようにまとまって、旗の下に集まった。
集団として固まり、連携して敵を撃ち倒していく。
互いに互いを守り、一丸となって突撃する。
ノアはその指揮の上手さに感心した。
(あいつ……小隊長としてはかなり優秀だな。これが統率Cクラスの威力か)
野盗達は1つにまとまった警備隊の前にあえなく引き返していく。
「素晴らしい判断です。お坊ちゃま。さすがは大公様のご子息」
オフィーリアは手放しにノアの手並みを褒め称えた。
その後、この護衛兵は身分の低さにもかかわらず騎兵として指揮を取ったため、降格処分を受けてしまう。
ノアがいよいよ父親に疎んじられるのはこの事件がきっかけだった。
大公に言わせれば「身分の区別もつかないうつけ」だそうだ。
「お気に病むことはありませんよ」
オフィーリアはそう言いながら、お茶を注ぐ。
「あの時のノア様の判断がなければ、警備隊は敗退しているところでした。ノア様は彼らを救ったのです。そのことは皆、分かっているはずです。大公様もいずれわかってくださるでしょう」
ノアとしても、先の戦闘にはかなりの手応えを感じていた。
鑑定スキルの使い方に自信がついた気がする。
それだけではない。
彼の鑑定スキルは進化していた。
護衛兵
統率:C→C
騎戦:C→B
この新たに加えられた表記「→C」「→B」はおそらく将来値、成長余地を表すものだと思われる。
つまり、件の護衛兵は統率はCまでが限界値だが、騎戦は将来的にBまで上がる可能性があったということである。
(あいつの統率力凄かったな。あのまま育てていれば、優秀な騎兵隊長になれただろうに。惜しいことをした)
騎兵は偵察、強襲、追撃、機動などに幅広く使える。
しかも、あの護衛兵の統率力なら100人くらいはゆうに率いることができそうだった。
100人以上の規模を擁する野盗なんてそうそういない。
あの護衛兵に100人の騎兵隊を付けて、領内の野盗を討伐させるだけで、この領内の懸案事項の1つである野盗問題は楽々解決できそうだったのに。
(いや、それよりも問題はこの鑑定スキルだ)
ギフティア・ランドの貴族階級で幅広く行われている成人の儀。
そこで告げられるギフトはここまでステータスや成長余地を細かく表示してはくれなかった。
神官が神聖文字を下に告げるのは大雑把な天職や称号、加護のみ。
何度か親戚の貴族がギフトを告げられる場面に立ち会ったことがあるが、戦略分野、得意環境、技能、取得魔法のランクおよび成長余地について、ここまで細かく告げられたのは見たことがない。
(神聖文字では捉えられないスキルがある? というか俺の鑑定スキルが神聖文字を上回っている?)
もし、このステータス表記および伸び代が鑑定スキルでなければ把握できないとしたら?
ノアは神聖教会ですら踏み込めないスキル・ステータスの秘密にアクセスしているということになる。
さらにいえば、人材登用および育成において他国に対し優位を持つことができる。
将来性のある人物に集中的に投資を行い、有能な人材を適材適所に配置することで、戦略的に国づくりができるのではないだろうか。
オフィーリアがノアの前にティーカップを置いてくれる。
芳しい香りと共に湯気が立ち上る。
ノアは何の気なしにオフィーリアを鑑定してみた。
オフィーリア
統率:C
武略:C
近接:C
野戦:C
忠誠:C
(おっ、統率、武略、近接、野戦、忠誠どれもCクラスじゃん)
ちなみに統率はCクラスというだけでけっこう珍しい。
ノアはユーベル大公領の兵士や家臣を鑑定したが、統率Cクラス以上の者は、だいたい100人に1人くらいだった。
(伸び代は?)
オフィーリア
統率:C→S
武略:C→A
近接:C→A
野戦:C→A
忠誠:C→S
(…………ファッ!?)
(オフィーリア、君はノアについていくのか)
アルベルトはオフィーリアがノアの列に加わるのを見て、複雑な思いだった。
というのも彼女は自分の領地に付いてきてくれると思っていたのだ。
戦場で彼女に命を救ってもらったこともある。
ノアに跪く彼女を見て、どこか寂しい思いを募らせるのであった。
ノアは跪き、自分の手の甲にキスをするオフィーリアを見ながら、彼女が初めて自分に忠誠を誓った日のことを思い出す。
あれはノアの母が死んだ頃。
元から側室の子であったノアは、他の兄弟達と比べて家中で一段低く見られていた。
だが、母が死んだことでいよいよ後ろ盾が無くなり、使用人達はノアに距離を置くようになった。
母が父から溺愛されていた頃には、殊更ノアに媚を売り美味しい思いをしていた者達も、父がノアに対して冷たくなってからは、突き放すような態度を取るようになる。
日々の給仕さえ手抜きする始末だった。
そんな中、変わらぬ忠誠心を見せてくれるメイドが1人だけいた。
「ご安心ください、坊っちゃま。私は何があっても決してあなたのことを見捨てません」
家中のメイド達の中でも、いや男を合わせた召使い達の中でも一際背の高いその少女オフィーリアは、そう言った。
他のメイド達が他の兄弟や家中での実力者への媚売りに必死になっている中、彼女は甲斐甲斐しくノアの身の回りの世話をしてくれた。
メイドがいなければ今日着る衣類の手配もされないこの屋敷で彼女だけがノアにとって唯一頼りになる存在となった。
(うっ。まただ)
ノアはこの頃、正体不明の頭痛に悩まされていた。
その頭痛はしばしば文字を読んでいる時に起こった。
この世界の文字を読むと、自動で別の体系の文字に変換されてしまうのだ。
それが前世の記憶だと分かるまで少し時間がかかった。
どうもノアの前世は、日本という場所で生まれ育ち、そして死んでいった人生だったようだ。
(これは日本語?)
この世界の言語体系と前世の記憶から浮かび上がる言語の齟齬は、ノアの頭に酷い混乱とストレスを巻き起こした。
ノアが前世の言語を思い出すのは、文字などの書いてある書物を読む時だけではなかった。
たとえば父の隣に、あるいは兄弟達の隣に、さらには召使いや使用人の隣にも正体不明の文字が浮かんでいるのが見えることがあった。
そういう時、ノアは読めない文字に苦しめられて、廊下の真ん中にもかかわらず頭を抱えてうずくまるのであった。
「どうされました坊っちゃま」
ほとんどの使用人達が無視して通り過ぎようとする中、オフィーリアは自分の仕事を放り出してノアを介抱しようとする。
「頭が、頭が痛いんだ」
「大丈夫ですよ。坊ちゃま」
オフィーリアはそっとおでこに手を当てながら包み込んでくれる。
「私がついています。決して見捨てることはありません」
彼女はノアが母の死と父の冷遇から来る不安に苦しんでいると思っているようだった。
(違う。そうじゃないんだ。オフィーリア。でも……)
彼女の察するノアの心情は見当はずれだったが、それでも痛みが和らぐのは確かだった。
ノアは母親のように優しく包み込んでくれる彼女に身を任せた。
この世界の言語と前世の言語を突き合わせ続けた結果、ノアはようやくストレスなく漢字、数字、アルファベットなどの意味が読解できるようになってきた。
同時に人物の隣に浮かぶ文字についても理解できるようになる。
とある騎士
統率:E
武略:D
内政:C
外交:D
攻城:D
築城:B
近接:C
開発:D
忠誠:D
信頼:C
~
まるで前世でやっていた戦略シミュレーションゲームのステータス欄のようだった。
文字を出したり、消したりする方法についても分かるようになってきた。
人物をじっと見る、瞬きをするといった動作をすることで操作・切り替えすることができる。
前世でやってたゲームでは、これらのステータスは以下のように分類される。
・戦略系ステータス
統率、武略、内政、外交、謀略など。
・環境系ステータス
野戦、攻城、築城、海戦、空戦など。
・技能系ステータス
近接、射撃、騎戦、砲撃、開発など。
・意欲系ステータス
信頼、信仰、野望、忠誠など。
・特殊系ステータス
火魔法、水魔法、雷魔法、土魔法など。
戦略系ステータスは、文字通り戦略を組むことに関する能力。
統率は兵を意のままに動かし率いる能力。
武略は戦において敵との駆け引きで上回る能力。
内政は自国の制度を整え、国民を1つに纏める能力。
外交は外国を味方に引き入れ、同盟条約を結ぶ能力。
謀略は敵対する人物を操って罠に嵌める能力。
環境系ステータスは、能力を発揮する際、得意とする環境。
野戦なら陸で、海戦なら海で、空戦なら空で、攻城なら城攻めで、築城なら防御戦で。
それぞれ有利な環境を進んで選べば他能力に正の補正がかかる。
逆に苦手な環境を選べばデバフがかかる。
技能系ステータスは、個人的な戦闘能力や技能を表している。近接なら接近戦を、射撃なら射撃戦を得意とする。
意欲系ステータスは、その人物がどのようにすればモチベーションが上昇するかを表している。信頼が高ければ他人に信頼されて、責任ある仕事を任された場合に意欲が上がる。信仰が高ければ、宗教的なミッションを担う際、モチベーションが高くなる。忠誠なら仕えるべき主人を見つけた時に。野望なら野心的なプロジェクトに取り組んだ時に。
特殊系ステータスは、魔法を絡めたスキルに関するステータスである。
このようにどうやらその人物の適性が分かるようだった。
上記に挙げたのは武将・兵士・官吏としての基幹となる適性で、他にも人の長所を表すステータスは星の数ほど種類がある。
他にも道具・武器の性能や宝飾類の価値、事物に宿る魔法効果などについても見抜くことができるらしい。
この世界では総じて鑑定スキルと呼ぶようだ。
ただ、どの書籍、伝聞を紐解いても鑑定スキルで人物のステータスを見通せるという話はいまだかつて聞いたことがない。
ノアのみに宿った能力なのかもしれなかった。
前世でやっていたゲーム世界とギフティア世界では、名前から地形、文化文明の様相まで明らかに違う。
しかし、このステータス表記。
ゲーム上においてユニット編成の参考にされるこれらのステータス情報が、この世界にも適用されるのだとしたら?
そしてこの鑑定スキルの威力を試す日は程なくしてやってくる。
ある日、ノアが屋敷の外に馬車に乗って郊外まで出かけていた時、丘の下の方から怒声と戦闘音が聞こえてきた。
見ると、警備隊が野盗の集団に襲われていた。
警備隊は劣勢だった。
ノアは警備隊の隊長と思しき人物を鑑定してみる。
警備隊隊長
統率:E
武略:F
野戦:E
近接:E
騎戦:E
(うわっ。この状況に必要なステータス全部低い)
特に統率Eなのが一番痛かった。
隊長が何事か喚きながら指揮するものの、周りの兵士はオタオタするばかりで混乱を助長するばかりだった。
(このままじゃマズイな)
ノアは傍の護衛兵を鑑定する。
護衛兵
統率:C
騎戦:C
(統率Cに騎戦C。これなら……)
「君、警備隊の人達がピンチだ。助けに行ってあげて」
「いや、しかし……。私には坊っちゃまの護衛が……」
「ここはいいから。さぁ、早く!」
ノアは短剣を抜くと、馬車に繋がれた馬の輓具を斬る。
護衛兵は慌てて馬のひき手綱を握る。
「この旗を持って。さぁ、行って」
「は、はい」
護衛兵は馬を駆って、警備隊の下に駆け付ける。
「みんなこの旗の下に集まれ」
彼はよく通る声、堂々とした身振りで辺りにいる者達を勇気付ける。
すると、それまでてんでバラバラに戦っていた兵士達は雷に打たれたようにまとまって、旗の下に集まった。
集団として固まり、連携して敵を撃ち倒していく。
互いに互いを守り、一丸となって突撃する。
ノアはその指揮の上手さに感心した。
(あいつ……小隊長としてはかなり優秀だな。これが統率Cクラスの威力か)
野盗達は1つにまとまった警備隊の前にあえなく引き返していく。
「素晴らしい判断です。お坊ちゃま。さすがは大公様のご子息」
オフィーリアは手放しにノアの手並みを褒め称えた。
その後、この護衛兵は身分の低さにもかかわらず騎兵として指揮を取ったため、降格処分を受けてしまう。
ノアがいよいよ父親に疎んじられるのはこの事件がきっかけだった。
大公に言わせれば「身分の区別もつかないうつけ」だそうだ。
「お気に病むことはありませんよ」
オフィーリアはそう言いながら、お茶を注ぐ。
「あの時のノア様の判断がなければ、警備隊は敗退しているところでした。ノア様は彼らを救ったのです。そのことは皆、分かっているはずです。大公様もいずれわかってくださるでしょう」
ノアとしても、先の戦闘にはかなりの手応えを感じていた。
鑑定スキルの使い方に自信がついた気がする。
それだけではない。
彼の鑑定スキルは進化していた。
護衛兵
統率:C→C
騎戦:C→B
この新たに加えられた表記「→C」「→B」はおそらく将来値、成長余地を表すものだと思われる。
つまり、件の護衛兵は統率はCまでが限界値だが、騎戦は将来的にBまで上がる可能性があったということである。
(あいつの統率力凄かったな。あのまま育てていれば、優秀な騎兵隊長になれただろうに。惜しいことをした)
騎兵は偵察、強襲、追撃、機動などに幅広く使える。
しかも、あの護衛兵の統率力なら100人くらいはゆうに率いることができそうだった。
100人以上の規模を擁する野盗なんてそうそういない。
あの護衛兵に100人の騎兵隊を付けて、領内の野盗を討伐させるだけで、この領内の懸案事項の1つである野盗問題は楽々解決できそうだったのに。
(いや、それよりも問題はこの鑑定スキルだ)
ギフティア・ランドの貴族階級で幅広く行われている成人の儀。
そこで告げられるギフトはここまでステータスや成長余地を細かく表示してはくれなかった。
神官が神聖文字を下に告げるのは大雑把な天職や称号、加護のみ。
何度か親戚の貴族がギフトを告げられる場面に立ち会ったことがあるが、戦略分野、得意環境、技能、取得魔法のランクおよび成長余地について、ここまで細かく告げられたのは見たことがない。
(神聖文字では捉えられないスキルがある? というか俺の鑑定スキルが神聖文字を上回っている?)
もし、このステータス表記および伸び代が鑑定スキルでなければ把握できないとしたら?
ノアは神聖教会ですら踏み込めないスキル・ステータスの秘密にアクセスしているということになる。
さらにいえば、人材登用および育成において他国に対し優位を持つことができる。
将来性のある人物に集中的に投資を行い、有能な人材を適材適所に配置することで、戦略的に国づくりができるのではないだろうか。
オフィーリアがノアの前にティーカップを置いてくれる。
芳しい香りと共に湯気が立ち上る。
ノアは何の気なしにオフィーリアを鑑定してみた。
オフィーリア
統率:C
武略:C
近接:C
野戦:C
忠誠:C
(おっ、統率、武略、近接、野戦、忠誠どれもCクラスじゃん)
ちなみに統率はCクラスというだけでけっこう珍しい。
ノアはユーベル大公領の兵士や家臣を鑑定したが、統率Cクラス以上の者は、だいたい100人に1人くらいだった。
(伸び代は?)
オフィーリア
統率:C→S
武略:C→A
近接:C→A
野戦:C→A
忠誠:C→S
(…………ファッ!?)
174
お気に入りに追加
492
あなたにおすすめの小説
結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」
「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」
「ま、まってくださ……!」
「誰が待つかよバーーーーーカ!」
「そっちは危な……っあ」
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる