34 / 59
34,意思
しおりを挟む
セシルたちの住まう国、イングレス王国の世継ぎのエリアルド王子の婚約が発表されてその王宮のある王都は、お祝いのムードに溢れて活気がみなぎっていた。
お相手の令嬢はかねてから新聞を賑わせていたフェリシア・ブロンテ伯爵令嬢で絵姿を見るにとても美しい女性である。
街行く人たちは、それにかこつけてお酒を嗜んだり買い物をしてみたり、あやかって結婚を急いだりとそれぞれに影響を及ぼしていた。
そして……単なる、雑貨店の店員であるセシルにも。
その夜は、antique roseが例年より売り上げが良くニコルとアデルと食事に行くことにした。お店はÉtoileというフルーレイス風のお店へと行き、二人の娘であるローズはマダム エメに預けられていた。
ニコルとアデルはセシルからすると、あまり馴染みのない料理を楽しみ和やかにその場は終わりそうだった。
『兄さま、アデルさん』
セシルは覚悟を決めて、呼びかけた。アデルもいるので、フルーレイス語で話しかける。
『私……フルーレイスには行かない』
「セシル?なぜ」
「答えは一つなの。ここにいたいから」
「俺は、反対だ。年頃になった娘が一人でなんて」
ニコルは渋い顔を隠そうとはしない。
「この2年、そうだった」
「それは……。分かってるが」
「私だって……19になって、兄さまの言いたいことも分かる。でも、私の暮らしはここにあるの。兄さまたちとは一緒に暮らせない。お店を兄さまが売るなら……ミリアが、お店で雇ってくれるって」
そこまでセシルが言った所で、ニコルは酷く険しい顔になった。
ニコルの言うように確かにセシルは今、未婚の娘としてしてはならない事をしてしまってる。それは親がいないからこそ……。
「だめだ!」
それははじめて聞くニコルの叱責の声音だった。
「いくら親しいと言ってもミリアはお前の母でも姉でもない。マダム エメもケイおじさんも、お前の保護者にはなり得ない。21歳になるまでは他の誰でもない。俺がお前の保護者なんだ。夫がいない以上は!」
『ニコル、そんなに怒らないで。悪いのはニコルとそれから私よ、セシルは私たちに振り回されてる。嫌だと言ってるのに、無理矢理は良くないわ』
アデルがニコルの肩に触れて、落ち着かせようとしているように見えた。
『せめて……フルーレイスへ行くのを延ばすのはどうかしら?』
『延ばす?』
ニコルはアデルの方を向く。
『突然の話だもの。心の準備だって必要よ。生まれた所を簡単に離れがたいのはみんなそうだと思うわ。私だってそう。だからまずは、……シーズンが終わって、私たちはフルーレイスへ帰りましょう。セシルは、それでミリアの所で、働くなりそうして過ごして。例えば来年また同じくらいに……。私たちはもう一度迎えにくるから1度一緒にフルーレイスへ行ってみない?旅行気分で気軽に、もちろんその時に、一緒に暮らすと言ってくれたら嬉しいのだけど』
アデルの提案にセシルは頷いた。
これで、慌ててギルに話をしなくてすむかと思うと、ほっとさせられたし何よりもアデルはその時にも無理矢理連れていくとは言っていない。
『分かった。でも、延ばすだけだ。くれぐれもそれまで気をつけるんだ。兄の俺が言うのもなんだが………セシルは可愛いからな』
放ったらかしにしていたニコルがこんな事を今ごろ言うなんて、とまじまじと見てしまう。
『ね、セシル。ニコルはあなたが可愛いから心配してるの。悪い男に引っ掛からないか』
くすくすと笑いながら言うアデルは、ニコルを宥めて
『だめよ、セシルはローズとは違ってもう赤ちゃんじゃないのだもの。閉じ込めてなんておけないわ』
思わぬ所に味方がいた、とセシルは感謝の目を向けた。
それにしても、アデルはニコルの説得が上手だ。
『セシル』
『何?』
『俺はセシルを邪魔になんて思ってないからな』
その言葉にセシルは笑った。
『兄さま、私はむしろもう、大人だと言いたいの。保護者なんて……もういいの。気を使わないで』
ニコルが大切な人を得たように、今セシルも兄と暮らすよりも大切に想う人がいる。
だからこそ、ここから離れたくない。先の事は不透明でどうなるかはわからない。けれど、約束を信じてる。
だからこそ、焦らずに待ちたいのだ。
『セシル、たとえ血が繋がってなくても私はあなたを大切な妹だと思ってるわ。だから心から、私たちと来てほしい。そう思ってるの。それはそれだけは本当なの』
『ありがとう、アデルさん』
ニコルとアデルはお互いを大切に想い合ってる、それを感じ取れてセシルも幸せな気持ちになった。
お相手の令嬢はかねてから新聞を賑わせていたフェリシア・ブロンテ伯爵令嬢で絵姿を見るにとても美しい女性である。
街行く人たちは、それにかこつけてお酒を嗜んだり買い物をしてみたり、あやかって結婚を急いだりとそれぞれに影響を及ぼしていた。
そして……単なる、雑貨店の店員であるセシルにも。
その夜は、antique roseが例年より売り上げが良くニコルとアデルと食事に行くことにした。お店はÉtoileというフルーレイス風のお店へと行き、二人の娘であるローズはマダム エメに預けられていた。
ニコルとアデルはセシルからすると、あまり馴染みのない料理を楽しみ和やかにその場は終わりそうだった。
『兄さま、アデルさん』
セシルは覚悟を決めて、呼びかけた。アデルもいるので、フルーレイス語で話しかける。
『私……フルーレイスには行かない』
「セシル?なぜ」
「答えは一つなの。ここにいたいから」
「俺は、反対だ。年頃になった娘が一人でなんて」
ニコルは渋い顔を隠そうとはしない。
「この2年、そうだった」
「それは……。分かってるが」
「私だって……19になって、兄さまの言いたいことも分かる。でも、私の暮らしはここにあるの。兄さまたちとは一緒に暮らせない。お店を兄さまが売るなら……ミリアが、お店で雇ってくれるって」
そこまでセシルが言った所で、ニコルは酷く険しい顔になった。
ニコルの言うように確かにセシルは今、未婚の娘としてしてはならない事をしてしまってる。それは親がいないからこそ……。
「だめだ!」
それははじめて聞くニコルの叱責の声音だった。
「いくら親しいと言ってもミリアはお前の母でも姉でもない。マダム エメもケイおじさんも、お前の保護者にはなり得ない。21歳になるまでは他の誰でもない。俺がお前の保護者なんだ。夫がいない以上は!」
『ニコル、そんなに怒らないで。悪いのはニコルとそれから私よ、セシルは私たちに振り回されてる。嫌だと言ってるのに、無理矢理は良くないわ』
アデルがニコルの肩に触れて、落ち着かせようとしているように見えた。
『せめて……フルーレイスへ行くのを延ばすのはどうかしら?』
『延ばす?』
ニコルはアデルの方を向く。
『突然の話だもの。心の準備だって必要よ。生まれた所を簡単に離れがたいのはみんなそうだと思うわ。私だってそう。だからまずは、……シーズンが終わって、私たちはフルーレイスへ帰りましょう。セシルは、それでミリアの所で、働くなりそうして過ごして。例えば来年また同じくらいに……。私たちはもう一度迎えにくるから1度一緒にフルーレイスへ行ってみない?旅行気分で気軽に、もちろんその時に、一緒に暮らすと言ってくれたら嬉しいのだけど』
アデルの提案にセシルは頷いた。
これで、慌ててギルに話をしなくてすむかと思うと、ほっとさせられたし何よりもアデルはその時にも無理矢理連れていくとは言っていない。
『分かった。でも、延ばすだけだ。くれぐれもそれまで気をつけるんだ。兄の俺が言うのもなんだが………セシルは可愛いからな』
放ったらかしにしていたニコルがこんな事を今ごろ言うなんて、とまじまじと見てしまう。
『ね、セシル。ニコルはあなたが可愛いから心配してるの。悪い男に引っ掛からないか』
くすくすと笑いながら言うアデルは、ニコルを宥めて
『だめよ、セシルはローズとは違ってもう赤ちゃんじゃないのだもの。閉じ込めてなんておけないわ』
思わぬ所に味方がいた、とセシルは感謝の目を向けた。
それにしても、アデルはニコルの説得が上手だ。
『セシル』
『何?』
『俺はセシルを邪魔になんて思ってないからな』
その言葉にセシルは笑った。
『兄さま、私はむしろもう、大人だと言いたいの。保護者なんて……もういいの。気を使わないで』
ニコルが大切な人を得たように、今セシルも兄と暮らすよりも大切に想う人がいる。
だからこそ、ここから離れたくない。先の事は不透明でどうなるかはわからない。けれど、約束を信じてる。
だからこそ、焦らずに待ちたいのだ。
『セシル、たとえ血が繋がってなくても私はあなたを大切な妹だと思ってるわ。だから心から、私たちと来てほしい。そう思ってるの。それはそれだけは本当なの』
『ありがとう、アデルさん』
ニコルとアデルはお互いを大切に想い合ってる、それを感じ取れてセシルも幸せな気持ちになった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる