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紙上の恋
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翌日の新聞の一面には、エリアルドとフェリシアが微笑み合いながら踊る絵が大きく載っていた。そして、小さめでフェリシアを抱き止めた時の絵がドラマチックに描かれている。
そこにはフェリシアの紹介文と、いかに二人が恋に一瞬で落ちたかと煽るような文言で書かれていた。
「フェリシア、殿下はどうだった?」
朝食の席でラファエルに、昨日のジェールと似たような事を言われ
「緊張していたから、何も。でも、素敵な方だとそう思うわ」
そう告げると、僅かに安心したような笑みを向けてくる。
そう、父は本当に恋に落ちればそれに越したことはないと、罪悪感を薄めたいのだと感じられた
「そうか… 殿下は怜悧でおられる。この国は次代も英邁な君主を得られるだろう。決してフェリシアを傷つけることはなさらないはずだ」
だから、なんだというのかそう思いつつ
「お父様、これから私はどうなるの?」
この先も筋書きがあるのなら、知っておきたいのだ。
「全ては殿下のお心に沿い、後はフェリシアらしく過ごせばいい」
その答えに眉を寄せた。不満だった。
知らずにそうと踊らされるような事は、とても。
「フェリシア、そう緊張を続けていては心が持たないわ。少し緩めなさい」
「お母様」
「そうね…この後、メイドにマッサージでもしてもらってリラックスしてみたらどう?」
促されて、バスルーム横のベッドに寝そべるとローズのアロマオイルで全身をマッサージされる。
オイルの香りとその程よい力加減は心地よくてすうっと体の力がほどける。
少しうとうとして、昼のドレスを身に付けたフェリシアはエリアルドからの贈り物を受け取った。
ローズカラーのリボンと焦げ茶色の大きな箱に入っていたのは、赤い薔薇と、イヤリングとネックレスの入った箱。
若い女性を向けのデザインらしく、繊細な細工に小さなダイヤモンドがたくさん配置してあり、光をうけてキラキラと輝く。
「まあ、とても素敵ですね、フェリシア様」
メイドがそうフェリシアに目を輝かせて言った。
主がこの国の王太子の心を射止めたと誇らしげである。
「いま、お礼を書くから使いの方を待たせておいて」
「かしこまりました」
執事にそう告げると、自室に戻り上質の紙を用意して羽ペンを手にした。そして、流麗な女性らしい文字を書き連ねてお決まりの言葉を連ねて封をする。
これは全て計画通り
ふと、エリアルドはこの先に待ち受ける結婚をどのように思っているのかとそう思った。
二人がいつか、心から愛し合うそんな日はやって来るのだろうか?
彼は一目惚れをしたとなっているし、フェリシアもそうだという話になっている。
恋をしているふりなんてどうしたらいいのだろう?
新聞の出たその数日後の夜は、ウェルズ侯爵家での舞踏会である。
デビュタントらしく淡い水色のドレスと、そしてメイドはエリアルドからの贈り物のアクセサリーをつけて飾る。
白いレースで飾られたドレスは繊細で若い娘のデザインだ。
この日エスコート役を務めるのはアボット家の次男のカイルであった。
カイルは父であるエドワードに似ず明るく朗らかな雰囲気で、高貴さよりも親しみやすさを感じさせる。母に似たのだろうか?
「こんばんは、レディ フェリシア。今夜は私が君のエスコート役だよ」
にっこりと微笑む彼は溌剌と腕を出した。
「よろしくお願いします。 カイル卿」
「ふぅーん?君って背が高いんだ?」
カイルに言われ
「やはり気になりますか?」
男性としては平均少し上くらいの彼は、僅かに背が高いくらいで殆ど変わらない。並ぶときには気にするだろうか?
「私は気にならないな…」
すっと足をよせて隣に立つと
「例えば、キスをするときにはいいくらいじゃない?」
微妙な顔をしていたのか
「あ、こういうこと言うから、怒られるんだよな」
ごめんね、と言って彼はウェルズ家の大広間にエスコートしていく。
変わった人だとそう思う。何となく、どう接すれば良いのか困る。
大広間に入ると、フェリシアに気づいたのか近くにいる人達から、自然と視線が集まってくる。
― ほらあのレディは新聞の…
― 殿下の
―ブロンテ伯爵家の令嬢よ
フェリシアは、カイルの肘に右手を預け、左手で扇を広げて視線があった夫人たちにに微笑んで見せた。
どんな時でも堂々と微笑んでいれば良いと、言ったのは伯母のステファニーだったか…。もう一人の伯母のレオノーラは、周りなんか気にするんじゃないと言っていた。
「こんばんは、ようこそ。レディ フェリシア」
声をかけてきたのは客人に挨拶をしていたマリアンナ・ウェルズ侯爵夫人である。
「こんばんは、レディ マリアンナ。いい夜ですね」
「ええ、ありがとう」
マリアンナはフェリシアが小さな頃から、家族ぐるみで親交のある人で伯母と姪のような関係だった。
「一夜にしてすっかり有名人ね」
ひそ、と言われて
「お父様やお母様に相談出来ない事がもし、出来たら私の所にいらっしゃい」
「マリアンナ様?」
そう首を傾げて聞くと
「私はね、シュヴァルド王の婚約者候補の一人だったのよ」
こそこそと扇ごしに耳打ちされて思わず目を見開いた。
それは何というかとても心強い事を聞いたと思った。
今でも美しく愛嬌のある人であるが、さぞ美しかったのだと思われた。
「今度、来させてもらってもいいでしょうか?」
「もちろんよ、いつでもいらっしゃい」
マリアンナと挨拶を終えて、入り口から広間内へと歩いていく。
遠巻きに観察されている、その事に居心地が悪いと感じながらも、カイルの軽い口調の話を聞いていると、自然と可笑しくなってくる。
フェリシアがエリアルドの想い人だという認識からか、男性よりも女性に囲まれる。
「貴女!見たわっ!」
母娘らしい二人に声をかけられたのをきっかけに次々にフェリシアと縁を繋ごうとするのか、話しかけられることきりがない。
「あれね、あれよ!もぉ~なんてドラマチックな出会いなのかしら、わたくしね、しっかりと目に焼き付けたわ!貴女を抱き止めるあのシーンを!」
夫人の興奮した声は大きくて、思わず乾いた笑みを見せてしまう。
「わたくしはラストダンスをしっかりと見てましたわ!」
別の母娘の令嬢が小さく拳をつくって声をあげた。
「そうでしたか…」
「とってもお似合いで、わたくし…踊るのも忘れてもう、じっくりと眺めておりましたの!」
「ありがとうございます…」
令嬢の勢いに圧倒されて、無駄に笑みを向ける。
結局、舞踏会が始まるまで女性に囲まれていたフェリシアのダンスカードは、真っ白なままだったのである。
そこにはフェリシアの紹介文と、いかに二人が恋に一瞬で落ちたかと煽るような文言で書かれていた。
「フェリシア、殿下はどうだった?」
朝食の席でラファエルに、昨日のジェールと似たような事を言われ
「緊張していたから、何も。でも、素敵な方だとそう思うわ」
そう告げると、僅かに安心したような笑みを向けてくる。
そう、父は本当に恋に落ちればそれに越したことはないと、罪悪感を薄めたいのだと感じられた
「そうか… 殿下は怜悧でおられる。この国は次代も英邁な君主を得られるだろう。決してフェリシアを傷つけることはなさらないはずだ」
だから、なんだというのかそう思いつつ
「お父様、これから私はどうなるの?」
この先も筋書きがあるのなら、知っておきたいのだ。
「全ては殿下のお心に沿い、後はフェリシアらしく過ごせばいい」
その答えに眉を寄せた。不満だった。
知らずにそうと踊らされるような事は、とても。
「フェリシア、そう緊張を続けていては心が持たないわ。少し緩めなさい」
「お母様」
「そうね…この後、メイドにマッサージでもしてもらってリラックスしてみたらどう?」
促されて、バスルーム横のベッドに寝そべるとローズのアロマオイルで全身をマッサージされる。
オイルの香りとその程よい力加減は心地よくてすうっと体の力がほどける。
少しうとうとして、昼のドレスを身に付けたフェリシアはエリアルドからの贈り物を受け取った。
ローズカラーのリボンと焦げ茶色の大きな箱に入っていたのは、赤い薔薇と、イヤリングとネックレスの入った箱。
若い女性を向けのデザインらしく、繊細な細工に小さなダイヤモンドがたくさん配置してあり、光をうけてキラキラと輝く。
「まあ、とても素敵ですね、フェリシア様」
メイドがそうフェリシアに目を輝かせて言った。
主がこの国の王太子の心を射止めたと誇らしげである。
「いま、お礼を書くから使いの方を待たせておいて」
「かしこまりました」
執事にそう告げると、自室に戻り上質の紙を用意して羽ペンを手にした。そして、流麗な女性らしい文字を書き連ねてお決まりの言葉を連ねて封をする。
これは全て計画通り
ふと、エリアルドはこの先に待ち受ける結婚をどのように思っているのかとそう思った。
二人がいつか、心から愛し合うそんな日はやって来るのだろうか?
彼は一目惚れをしたとなっているし、フェリシアもそうだという話になっている。
恋をしているふりなんてどうしたらいいのだろう?
新聞の出たその数日後の夜は、ウェルズ侯爵家での舞踏会である。
デビュタントらしく淡い水色のドレスと、そしてメイドはエリアルドからの贈り物のアクセサリーをつけて飾る。
白いレースで飾られたドレスは繊細で若い娘のデザインだ。
この日エスコート役を務めるのはアボット家の次男のカイルであった。
カイルは父であるエドワードに似ず明るく朗らかな雰囲気で、高貴さよりも親しみやすさを感じさせる。母に似たのだろうか?
「こんばんは、レディ フェリシア。今夜は私が君のエスコート役だよ」
にっこりと微笑む彼は溌剌と腕を出した。
「よろしくお願いします。 カイル卿」
「ふぅーん?君って背が高いんだ?」
カイルに言われ
「やはり気になりますか?」
男性としては平均少し上くらいの彼は、僅かに背が高いくらいで殆ど変わらない。並ぶときには気にするだろうか?
「私は気にならないな…」
すっと足をよせて隣に立つと
「例えば、キスをするときにはいいくらいじゃない?」
微妙な顔をしていたのか
「あ、こういうこと言うから、怒られるんだよな」
ごめんね、と言って彼はウェルズ家の大広間にエスコートしていく。
変わった人だとそう思う。何となく、どう接すれば良いのか困る。
大広間に入ると、フェリシアに気づいたのか近くにいる人達から、自然と視線が集まってくる。
― ほらあのレディは新聞の…
― 殿下の
―ブロンテ伯爵家の令嬢よ
フェリシアは、カイルの肘に右手を預け、左手で扇を広げて視線があった夫人たちにに微笑んで見せた。
どんな時でも堂々と微笑んでいれば良いと、言ったのは伯母のステファニーだったか…。もう一人の伯母のレオノーラは、周りなんか気にするんじゃないと言っていた。
「こんばんは、ようこそ。レディ フェリシア」
声をかけてきたのは客人に挨拶をしていたマリアンナ・ウェルズ侯爵夫人である。
「こんばんは、レディ マリアンナ。いい夜ですね」
「ええ、ありがとう」
マリアンナはフェリシアが小さな頃から、家族ぐるみで親交のある人で伯母と姪のような関係だった。
「一夜にしてすっかり有名人ね」
ひそ、と言われて
「お父様やお母様に相談出来ない事がもし、出来たら私の所にいらっしゃい」
「マリアンナ様?」
そう首を傾げて聞くと
「私はね、シュヴァルド王の婚約者候補の一人だったのよ」
こそこそと扇ごしに耳打ちされて思わず目を見開いた。
それは何というかとても心強い事を聞いたと思った。
今でも美しく愛嬌のある人であるが、さぞ美しかったのだと思われた。
「今度、来させてもらってもいいでしょうか?」
「もちろんよ、いつでもいらっしゃい」
マリアンナと挨拶を終えて、入り口から広間内へと歩いていく。
遠巻きに観察されている、その事に居心地が悪いと感じながらも、カイルの軽い口調の話を聞いていると、自然と可笑しくなってくる。
フェリシアがエリアルドの想い人だという認識からか、男性よりも女性に囲まれる。
「貴女!見たわっ!」
母娘らしい二人に声をかけられたのをきっかけに次々にフェリシアと縁を繋ごうとするのか、話しかけられることきりがない。
「あれね、あれよ!もぉ~なんてドラマチックな出会いなのかしら、わたくしね、しっかりと目に焼き付けたわ!貴女を抱き止めるあのシーンを!」
夫人の興奮した声は大きくて、思わず乾いた笑みを見せてしまう。
「わたくしはラストダンスをしっかりと見てましたわ!」
別の母娘の令嬢が小さく拳をつくって声をあげた。
「そうでしたか…」
「とってもお似合いで、わたくし…踊るのも忘れてもう、じっくりと眺めておりましたの!」
「ありがとうございます…」
令嬢の勢いに圧倒されて、無駄に笑みを向ける。
結局、舞踏会が始まるまで女性に囲まれていたフェリシアのダンスカードは、真っ白なままだったのである。
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