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「レディ フロレインと話をしよう」
とエドワードが言ったのは、翌日のことだった。
エドワードの執務室にフロレインと共に席についたシャーロットは今日は口を挟まないと固く誓った。
自分が今は感情が揺れ動きやすく、冷静でないと自覚があるからだ。
エドワードは穏やかにフロレインを迎えた。
ソファセットの向かい合わせに座ったフロレインとエドワードを横から見つめる感じでシャーロットは座った。
「シャーロットから話を聞いた。君がレディ フローラ・バルフォアであると。間違いはないのか?」
「はい、閣下…」
フロレインことフローラはしっかりとうなずいた。
「君は、結婚式当日に逃亡したというのも?」
「はい、閣下」
フローラは固い顔でうなずいた。
「私が思うに、ベネディクト・マクラーレン侯爵は話が分からない方ではない。その上でいくつか提案がある」
「はい」
「まずひとつ目は、マクラーレン侯爵と直接会い、話し合う事だ。話し合いには私も立ち会うことにしよう。
二つ目は、このままここで働く。この場合、私たちにも危険はあるが…。
三つ目は、フローラ・バルフォアは亡くなったものとして、新たにどこかで別の人生を送る。
いずれの場合も君に協力をしよう」
シャーロットは、緊張しながらフローラの答えを待った。
「閣下はひとつ目が望ましいとお思いでしょうね?」
「私の意見が必要か?」
「…はい、お伺いしたいと思います」
フローラは、うなずいた。
「ひとつ目を勧める理由は、マクラーレン侯爵が君と婚姻関係にあると再婚が出来ないということだ。彼はマクラーレン家の当主であり、世嗣ぎが必要だ。そして、彼は立派な貴族男性で、話し合いが出来ると思うからだ」
フローラの顔はこわばり、両手はぎゅうっと拳を握っていた。
「なによりバルフォア家の直系として責務を果たすべきだ…」
「エドワード…!」
シャーロットは思わず声をあげた。
「聞きたいと彼女が言ったからだ、シャーロット」
フローラは、目を閉じて少し考えたようだ。
「わかりました。閣下のおっしゃる通り、マクラーレン侯爵と話し合いをさせていただきたいと思います…」
「決断に感謝する」
エドワードはにこりと微笑んだ。
「いえ、わたくしも冷静に考えて、それが一番良いのだと思いましたから…」
そして、ベネディクト・マクラーレン侯爵はアボット邸にやって来たのだ。
ベネディクト・マクラーレンはがっしりとした体つきで、貴族的ではいが、醜くもない男らしい容貌の男性だった。立派な体躯と厳めしい顔で威圧感があり、若い貴族女性には怖い印象を与えてしまうかもしれない。
シャーロットはエドワードと共にベネディクトを迎えた。
「お招きを頂きありがとう」
少しだけ微笑むと、やや雰囲気が和らぐ。
「初めまして、マクラーレン侯爵。シャーロット・アボットと申します」
「ベネディクト・マクラーレンだ。よろしく伯爵夫人」
応接室にエドワードが案内して二人は談笑しながら座った。
シャーロットはフローラを迎えに行った。
フローラを伴って、入室するとエドワードとベネディクトは会話を止めてフローラを見た。
「…よく無事であった。お礼を申し上げる、エドワード卿」
「いえ、屋敷にいれたのは妻です」
「レディ シャーロット、どうもありがとう」
いいえ、とシャーロットはお辞儀をした。
今のところフローラがどうして逃げ出したのか、シャーロットには分からない。ベネディクトは理知的で、侯爵らしくて逃げ出すほどひどい人物に見えなかった。
全員でソファに座る。
「さて、フローラ。君は私の、ところに戻るのか?それとも離婚をしたいのか?」
ベネディクトはそう言ったが、離婚は簡単なことではなくベネディクトにとってもフローラにとっても大変な不名誉で、当分後ろ指を差されるだろう。
「フローラ、君はこの結婚を望まなかったかも知れないが、私は進んで結婚を決めた。そしてこの一年近く、行方を探していた出来ることなら戻ってきてほしい…」
ベネディクトの言葉は真摯でシャーロットはフローラの表情を見つめ続けた。
「君が望むなら他の邸で過ごそう」
なおも躊躇っているフローラをみて、
「席を外すそう」
エドワードがたち、シャーロットはうなずいて立ち上がった。
シャーロットは立ち上がり、エドワードと共に室外にでた。
「どういうことなの?」
「見ての通りだと…?」
「レディ フローラはどうして逃げたのかしら?」
「おそらく、身内を亡くして混乱してたのと、彼の母親じゃないか?」
「お母様?」
「…かなり強烈なご婦人だ」
エドワードの眉間は寄せられている。
「まぁ、レディ フローラも噂に踊らされベネディクト卿の事をよく知らなかったということだと思うけどね」
「…うまくいくかしら?」
「さぁ?それはベネディクト卿とレディ フローラの問題だ。あとは彼らに任せるべきだろう」
気にはなるが、シャーロットに出来ることは何もない。
ベネディクトとフローラは、共にアボット邸を後にして母親のいないマクラーレン侯爵のもつ主領地以外のカントリーハウス向かうことにしたらしい。
フローラは緊張はしていたが、
「レディ シャーロット。ありがとう、わたくしも貴女のようにレディらしく、そして妻になれるよう頑張ってみるわ…」
と微笑んだ。
「正直、もう貴族の義務とか役割にうんざりしていたの…。だけど、わたくしより若い貴女が頑張ってるのにね」
ふふっと笑うと手を握ってきた。
「レディ フローラ、手紙を書いてちょうだい。それからこれを返すわ」
シャーロットは預かっていたロケットと書類を渡した。
「せっかく知り合えたのだもの、これからは友達として付き合えるわ」
にっこりとシャーロットは微笑んだ。
ぎこちなく、共に馬車に乗り込んだ二人を見つめながら、エドワードの手をそっと握った。
とエドワードが言ったのは、翌日のことだった。
エドワードの執務室にフロレインと共に席についたシャーロットは今日は口を挟まないと固く誓った。
自分が今は感情が揺れ動きやすく、冷静でないと自覚があるからだ。
エドワードは穏やかにフロレインを迎えた。
ソファセットの向かい合わせに座ったフロレインとエドワードを横から見つめる感じでシャーロットは座った。
「シャーロットから話を聞いた。君がレディ フローラ・バルフォアであると。間違いはないのか?」
「はい、閣下…」
フロレインことフローラはしっかりとうなずいた。
「君は、結婚式当日に逃亡したというのも?」
「はい、閣下」
フローラは固い顔でうなずいた。
「私が思うに、ベネディクト・マクラーレン侯爵は話が分からない方ではない。その上でいくつか提案がある」
「はい」
「まずひとつ目は、マクラーレン侯爵と直接会い、話し合う事だ。話し合いには私も立ち会うことにしよう。
二つ目は、このままここで働く。この場合、私たちにも危険はあるが…。
三つ目は、フローラ・バルフォアは亡くなったものとして、新たにどこかで別の人生を送る。
いずれの場合も君に協力をしよう」
シャーロットは、緊張しながらフローラの答えを待った。
「閣下はひとつ目が望ましいとお思いでしょうね?」
「私の意見が必要か?」
「…はい、お伺いしたいと思います」
フローラは、うなずいた。
「ひとつ目を勧める理由は、マクラーレン侯爵が君と婚姻関係にあると再婚が出来ないということだ。彼はマクラーレン家の当主であり、世嗣ぎが必要だ。そして、彼は立派な貴族男性で、話し合いが出来ると思うからだ」
フローラの顔はこわばり、両手はぎゅうっと拳を握っていた。
「なによりバルフォア家の直系として責務を果たすべきだ…」
「エドワード…!」
シャーロットは思わず声をあげた。
「聞きたいと彼女が言ったからだ、シャーロット」
フローラは、目を閉じて少し考えたようだ。
「わかりました。閣下のおっしゃる通り、マクラーレン侯爵と話し合いをさせていただきたいと思います…」
「決断に感謝する」
エドワードはにこりと微笑んだ。
「いえ、わたくしも冷静に考えて、それが一番良いのだと思いましたから…」
そして、ベネディクト・マクラーレン侯爵はアボット邸にやって来たのだ。
ベネディクト・マクラーレンはがっしりとした体つきで、貴族的ではいが、醜くもない男らしい容貌の男性だった。立派な体躯と厳めしい顔で威圧感があり、若い貴族女性には怖い印象を与えてしまうかもしれない。
シャーロットはエドワードと共にベネディクトを迎えた。
「お招きを頂きありがとう」
少しだけ微笑むと、やや雰囲気が和らぐ。
「初めまして、マクラーレン侯爵。シャーロット・アボットと申します」
「ベネディクト・マクラーレンだ。よろしく伯爵夫人」
応接室にエドワードが案内して二人は談笑しながら座った。
シャーロットはフローラを迎えに行った。
フローラを伴って、入室するとエドワードとベネディクトは会話を止めてフローラを見た。
「…よく無事であった。お礼を申し上げる、エドワード卿」
「いえ、屋敷にいれたのは妻です」
「レディ シャーロット、どうもありがとう」
いいえ、とシャーロットはお辞儀をした。
今のところフローラがどうして逃げ出したのか、シャーロットには分からない。ベネディクトは理知的で、侯爵らしくて逃げ出すほどひどい人物に見えなかった。
全員でソファに座る。
「さて、フローラ。君は私の、ところに戻るのか?それとも離婚をしたいのか?」
ベネディクトはそう言ったが、離婚は簡単なことではなくベネディクトにとってもフローラにとっても大変な不名誉で、当分後ろ指を差されるだろう。
「フローラ、君はこの結婚を望まなかったかも知れないが、私は進んで結婚を決めた。そしてこの一年近く、行方を探していた出来ることなら戻ってきてほしい…」
ベネディクトの言葉は真摯でシャーロットはフローラの表情を見つめ続けた。
「君が望むなら他の邸で過ごそう」
なおも躊躇っているフローラをみて、
「席を外すそう」
エドワードがたち、シャーロットはうなずいて立ち上がった。
シャーロットは立ち上がり、エドワードと共に室外にでた。
「どういうことなの?」
「見ての通りだと…?」
「レディ フローラはどうして逃げたのかしら?」
「おそらく、身内を亡くして混乱してたのと、彼の母親じゃないか?」
「お母様?」
「…かなり強烈なご婦人だ」
エドワードの眉間は寄せられている。
「まぁ、レディ フローラも噂に踊らされベネディクト卿の事をよく知らなかったということだと思うけどね」
「…うまくいくかしら?」
「さぁ?それはベネディクト卿とレディ フローラの問題だ。あとは彼らに任せるべきだろう」
気にはなるが、シャーロットに出来ることは何もない。
ベネディクトとフローラは、共にアボット邸を後にして母親のいないマクラーレン侯爵のもつ主領地以外のカントリーハウス向かうことにしたらしい。
フローラは緊張はしていたが、
「レディ シャーロット。ありがとう、わたくしも貴女のようにレディらしく、そして妻になれるよう頑張ってみるわ…」
と微笑んだ。
「正直、もう貴族の義務とか役割にうんざりしていたの…。だけど、わたくしより若い貴女が頑張ってるのにね」
ふふっと笑うと手を握ってきた。
「レディ フローラ、手紙を書いてちょうだい。それからこれを返すわ」
シャーロットは預かっていたロケットと書類を渡した。
「せっかく知り合えたのだもの、これからは友達として付き合えるわ」
にっこりとシャーロットは微笑んだ。
ぎこちなく、共に馬車に乗り込んだ二人を見つめながら、エドワードの手をそっと握った。
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