初恋

桜 詩

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聞きたい本音

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翌早朝、アルバートがアークウェイン邸を訪ねてきた。
憔悴した様子のアルバートはあまり眠れていないのかもしれない。
「レオノーラ…ルシアンナはどうしている?大丈夫か心配している。どうか会わせてほしい」
アルバートは冷淡にも見えるその整った顔に、焦りを滲ませている。
「今は会わせられないよ、アルバート」
レオノーラは厳しい目を向けた。
「ルシアンナは昨日の事でまだ立ち直れないだろう。そんな状態で家族でも正式な婚約者でもないアルバートに妹を会わせる事は出来ない」
「レオノーラ、そんな言い方は酷いぞ」
キースがレオノーラに眉をしかめていった。
「…ルシアンナは私の恋人だ…」
「では…なぜ昨日守れなかった?アルバート…」
レオノーラは一歩アルバートに歩みよった。
「レオノーラ!」
キースがアルバートを庇うように注意する。しかし、レオノーラの緑の瞳は爛々と怒りに燃えてアルバートを見据えていた。

「お前のせいだ、アルバート」
日頃、感情を露にしないアルバート。その冷たくも見える青い瞳に怒りと苛立ちが宿る。

そうだ………アルバート。もっと怒れ、そして本音をぶつけてこい!
レオノーラは心でそう叫び、睨み付けた。

「…昨夜の事は何度謝っても謝りきれない…」
アルバートはしかし、なおも冷静に話し出した。

「謝って済むことでもない。女一人守れなくてどうする?それでもこの国の紳士と言えるのか?」
レオノーラはアルバートの感情を燃え上がらせたい。ブロンテ家の好戦的な血がレオノーラの闘いの焔を燃え上がらせている、それに応えてこい!…と。

「これからは絶対にそんな目に遇わせたりしない」
あくまで静かなアルバート。しかし瞳はレオノーラに対峙して一歩も退いていない。
「一体どうやって?中途半端なままルシアンナの側にこれからもいるつもりなら、今日はこのまま帰れ。そして二度と近寄るな。妹はもう十分傷ついている…これ以上傷つけたくない」
レオノーラはアルバートにもう一歩近づいた。

「俺は…中途半端な気持ちで彼女と過ごしてきた訳ではない」 
アルバートは、レオノーラを真っ向から見る。
「ふぅん?それで?」
「前から…ルシアンナに俺は求婚しようと考えていた…だから、彼女と話をさせて欲しい」
「ルシアンナが傷物になったから、そうすると?」
「レオノーラ、いい加減やめろ…!」
キースがレオノーラの、腕を掴む。しかし、レオノーラはそれを振り払った。
「ルシアンナは傷物なんかじゃない」
「昨夜、そうなっていた可能性なら大いにあった」
アルバートの顔に明らかな怒りが浮かぶ。
「レオノーラ、いくら姉である君でもルシアンナを侮辱するような事を言うな…!」
アルバートがルシアンナを守ろうとしている、そんな発言にレオノーラは内心、喜んだ…!
「彼女は他人に傷つけられる、そんな物みたいな事にはならない、させない」
アルバートは真摯にレオノーラに言う。
「もしも、彼女の心が傷ついたのならどうか私にそれを癒す役目をさせて欲しい」
「本気、か?アルバート」
「嘘は…言わない。俺はこれまで次男だから、財産も爵位もない自分が、ルシアンナと釣り合うのかと躊躇ってきた。昨夜…ただの恋人だという立場がいかに頼りなく無力なのか思い知った…」
アルバートは苦しげに眉を寄せた。
「ルシアンナを守る地位を得たい…心から。だから、会って話をさせて欲しい」

レオノーラはゆっくりと微笑みを浮かべた。
聞きたい言葉が聞けた…。

応接間の扉がそっと開かれ、室内用のドレスを身に付けたルシアンナがそっと入ってきた。
どうやら話を聞いていたようだ。

「レオノーラお姉様…」
「ルシアンナ…大丈夫?」
こくんとうなずいて、レオノーラの元へ歩んできた。
「ありがとう…レオノーラお姉様。私、怖がらずにちゃんと話をする」
レオノーラは微笑んだ
「うん、ルシアンナ…」
「お姉様に守ってもらうばかりじゃダメ…。私ももう大人なんだから自分できちんとしなくちゃね」
レオノーラはルシアンナを、抱き締めた。
「良い子だルシアンナ…。私の愛する妹…強くなったね…」
良く似た面差しの美しい姉妹。
レオノーラはエールを送るように頬にキスをした。
「アルバート…試すような真似をして悪かった。二人でしっかり話して」
レオノーラはキースを促して、部屋からでた。


「…レオノーラ……昨日から本当に心臓に悪い…」
キースが少しぐったりしたという仕草をして、レオノーラに訴えた。
「お陰で、アルバートからは満足のいく言葉が聞けた。あのアルバートにならルシアンナを任せられる」
姉妹の中で、意地っ張りでなかなか本音を言えない…そんな本当は強がりばかりで、か弱いルシアンナ…。
我が儘そうなルシアンナのそういう所をアルバートはわかっているのか?
アルバートもまたなかなか本音を見せない…似た者同士か…とレオノーラは少し笑った。
「多分…上手くいくよね?キース」
「あれで上手くいかない方がどうかしてる…」
くすっとキースも笑った。
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