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舞踏会
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公爵家の嫡男 フェリクス・ウィンスレット。そのウィンスレット邸での舞踏会で、求婚され華々しく婚約した妹のルナ。
可愛い妹の幸せな瞬間に立ち会ったレオノーラの喜びもひとしおだった。
そのフェリクスの父、ウィンスレット公爵にスキャンダラスな噂が飛び込んで来たのは、レオノーラが結婚してすぐの夏も終わりに近づいた頃だった。
【ライアン卿 すでに離婚していた!早くも再婚。お相手はエレナ・ヘプバーン】
新聞の見出しにデカデカと書き立てられていた。
「…ライアン卿が離婚とは…しかも早くも再婚ね…」
レオノーラはアークウェイン邸にきても、これまでの習慣通り、朝にはゆったりとお茶を飲んでいた。
「すでに、噂は回っていたんだよ。レディ エリザベスが邸を出ていったらしいし、ライアン卿も別邸に住まわれているそうだ、その新しい奥さんと」
「ルナに影響はあるかな?」
心配なのは、ルナの事だけ。
「ルナには影響はないよ…ただ、未来の義母が変わるっていう事くらいかな…」
そうか…とうなずいた。
ライアンとエリザベスの不仲は有名だった。
イングレス王国での離婚は珍しい事で、不仲でも婚姻関係を続けている夫婦は多くて、それぞれに恋人がいることは珍しくない。
離婚という醜聞をさらす形をとったライアンはある意味勇気ある行動をとったといえる。
【レディ エレナ・ヘプバーンとは?誰か!?
先代のノースブルック伯爵令嬢(27歳)は、社交界デビューの年以来社交界に出ていないその素顔は!? 】
【美貌で男をたぶらかす悪女、レディ エレナとライアン卿の馴れ初めは?】
等憶測と偏見に満ちた新聞にレオノーラはそれを読まずに飛ばした。
社交界の噂はとにかく尾ひれがつく。
ゴシップ記事もそうだ。
その日のブラッドフィールド邸の舞踏会では、ライアン卿とレディ エレナの噂で持ちきりだった。
会場に着いたレオノーラは、祝福を告げる夫人たちに囲まれた。
そして、ライアンとエレナの噂話に自然となる。
「新婚のレオノーラ様にはさぞご不快でしょうね、あんなスキャンダラスな方が妹様の将来のご両親におなりだなんて」
「そうでしょうか?私は別に気になりませんよレディ」
レオノーラは微笑んで話しかけてきた夫人を見つめた。
「あ、あらレオノーラ様がそうおっしゃるなら…」
夫人はぽぅっとレオノーラを見た。レオノーラはドレスを着ていてもやはり、レオノーラなのだ。
「それはそうとレオノーラ様は新婚生活はいかがですの?」
「キースはとても優しい。上手くやっていると思いますよ」
「まあ、本当に素敵だわ」
夫人たちは笑いさざめき、レオノーラを囲んでいた。
「レオノーラ、少しいいかな?」
後ろからキースがやってきた。
今日は黒のテールコートで、立ち居振舞いは、きちんと洗練された貴公子のそれだ。
「公爵の元へ挨拶に行こう」
と、囁くと
「失礼します。ご婦人方」
と一礼すると、レオノーラをエスコートして輪から連れ出した。
「…正直、助かったよキース」
と微笑んで言った。
「いや…大したことじゃない」
キースは綺麗な笑みを向けた。
ブラッドフィールド公爵と夫人のカレンにキースは紹介した。
「閣下、妻のレオノーラです」
「やぁレオノーラ、おめでとう」
近衛騎士であったレオノーラを知る男性たちは多い。しかし、言葉を交わすのははじめてのことだ。
「ありがとうございます閣下」
とレディらしい一礼をする。
…とても、頑張ってレディらしい振る舞いをするように気をつけているのだ。
「レオノーラ様が奥さまになるなんて、キースは幸運ね…。ねぇ?またご招待するので、うちにも来てくださいねレオノーラ様」
レオノーラは、レディ レオノーラというよりは皆これまで通りレオノーラ様と呼ばれる方が多い…。
レディをつけられるのはこそばゆいので丁度よいとレオノーラ自身は思っていた。
挨拶が一通り終わると、公爵夫妻のダンスを皮切りに舞踏会が始まる。
レオノーラもキースと次の曲からダンスを始めた。
「やっと足を踏まなくて済むようになった…」
レオノーラは微笑んでいった。
騎士の間、男性パートばかり踊っていたレオノーラは、練習してようやく女性パートに慣れてきた。
「俺の足なら問題ないさ」
キースも優しく微笑み返した。
レオノーラは、それなりにダンスの誘いを受けつつ場をこなし、ほどほどに時間が過ぎたと思い、役目は果たしたとばかりに、レオノーラはキースを探した。
自分と背の変わらない男性や、自分より下手な男性パートを踊る男性とのダンスに飽き飽きしてきた。
それに…想像していたのに、キースを狙っていた令嬢たちからの嫌がらせがないのだ…。
キースの親衛隊は過激だと聞いていたのに、婚約から今まで、どういう手で来るのかと待ち構えていたのに拍子抜けだ…。
会場の端の方で、男性たちとキースは話していたので、ゆっくり近づいた。
「で、新婚生活はどうなんだ?キース」
そう聞いた声は多分アルバート・ブルーメンタールだ
声をかける前に聞こえてしまい、レオノーラは足を止めた。
「この上なく幸せを噛みしめてるぞ?」
キースが笑いながら返した。
「しかしレオノーラとキースが結婚するなんて…驚きだな…」
そう言ったのはランスロット・アンヴィル。
かつてスクールに共に通った仲間だ。
「私だって驚いてる」
背後から声をかけた。
「レオノーラ、そこにいたのか」
先に目を向けたアルバートが言った。
「こんなに目立つ私が目に入らなかったのか?アルバート」
「ああ、どうかしてるね」
クスクスとアルバートが笑った。
アルバートは、妹のルシアンナの恋人だ。あの求婚された時も家にいた…。
「レオ…本当に女だったんだな…」
ランスロットが頭から爪先まで眺めた。
「間違いなくね…なんなら脱いで見せようか?」
レオノーラがいうと、ランスロットは慌てて拒否した。
「ランスをからかうのはよせよ、レオノーラ」
キースは苦笑した。
「からかってない。別に私は気にしない」
「君がしなくても、男の方は気にする。裸を簡単に見せるとか言うな」
キースは、真剣に止めた。
「冗談だ。いくら私でもそれくらいはわかってる」
騎士は訓練中はほとんど半裸だし、レオノーラたち女性騎士たちも、動きやすい格好で男たちとは別に訓練するが、時々は一緒に訓練もあった。
その事でレオノーラの羞恥心は低かった…。
「キース、私はそろそろ帰りたいんたが、先に帰ってもいいか?」
「なぜ?一緒に帰るよ」
「まだ話の途中だろう?私なら構わない。先に帰って待っている」
レオノーラは暗にベッドでと匂わせて、微笑んだ。
「…いや、一緒に帰るよ…」
レオノーラはキースに微笑みつつ、
「キース、それにランスロットたちもよく見ろ」
とレオノーラは会場を指差した。
「ダンスに誘われていないレディたちがいるだろう?男同士喋ってないで、とっととダンスをお誘いしてくるんだ」
レオノーラはかつて、王妃に命じられるまま、そうやって壁の花の女性を誘い、ダンスをした。
中にはそれを狙っている女性もいたらしいが…。
「あ、ああ…本当だ…」
ランスロットは慌てて言い、一番近くの淡いグリーンのドレスの令嬢を誘いに行き、アルバートももう一人の令嬢を誘いに行った。
「キースは…」
「俺は、愛する人と過ごしたいから遠慮してこのまま帰るよ」
とレオノーラをエスコートして会場を出たのだった。
可愛い妹の幸せな瞬間に立ち会ったレオノーラの喜びもひとしおだった。
そのフェリクスの父、ウィンスレット公爵にスキャンダラスな噂が飛び込んで来たのは、レオノーラが結婚してすぐの夏も終わりに近づいた頃だった。
【ライアン卿 すでに離婚していた!早くも再婚。お相手はエレナ・ヘプバーン】
新聞の見出しにデカデカと書き立てられていた。
「…ライアン卿が離婚とは…しかも早くも再婚ね…」
レオノーラはアークウェイン邸にきても、これまでの習慣通り、朝にはゆったりとお茶を飲んでいた。
「すでに、噂は回っていたんだよ。レディ エリザベスが邸を出ていったらしいし、ライアン卿も別邸に住まわれているそうだ、その新しい奥さんと」
「ルナに影響はあるかな?」
心配なのは、ルナの事だけ。
「ルナには影響はないよ…ただ、未来の義母が変わるっていう事くらいかな…」
そうか…とうなずいた。
ライアンとエリザベスの不仲は有名だった。
イングレス王国での離婚は珍しい事で、不仲でも婚姻関係を続けている夫婦は多くて、それぞれに恋人がいることは珍しくない。
離婚という醜聞をさらす形をとったライアンはある意味勇気ある行動をとったといえる。
【レディ エレナ・ヘプバーンとは?誰か!?
先代のノースブルック伯爵令嬢(27歳)は、社交界デビューの年以来社交界に出ていないその素顔は!? 】
【美貌で男をたぶらかす悪女、レディ エレナとライアン卿の馴れ初めは?】
等憶測と偏見に満ちた新聞にレオノーラはそれを読まずに飛ばした。
社交界の噂はとにかく尾ひれがつく。
ゴシップ記事もそうだ。
その日のブラッドフィールド邸の舞踏会では、ライアン卿とレディ エレナの噂で持ちきりだった。
会場に着いたレオノーラは、祝福を告げる夫人たちに囲まれた。
そして、ライアンとエレナの噂話に自然となる。
「新婚のレオノーラ様にはさぞご不快でしょうね、あんなスキャンダラスな方が妹様の将来のご両親におなりだなんて」
「そうでしょうか?私は別に気になりませんよレディ」
レオノーラは微笑んで話しかけてきた夫人を見つめた。
「あ、あらレオノーラ様がそうおっしゃるなら…」
夫人はぽぅっとレオノーラを見た。レオノーラはドレスを着ていてもやはり、レオノーラなのだ。
「それはそうとレオノーラ様は新婚生活はいかがですの?」
「キースはとても優しい。上手くやっていると思いますよ」
「まあ、本当に素敵だわ」
夫人たちは笑いさざめき、レオノーラを囲んでいた。
「レオノーラ、少しいいかな?」
後ろからキースがやってきた。
今日は黒のテールコートで、立ち居振舞いは、きちんと洗練された貴公子のそれだ。
「公爵の元へ挨拶に行こう」
と、囁くと
「失礼します。ご婦人方」
と一礼すると、レオノーラをエスコートして輪から連れ出した。
「…正直、助かったよキース」
と微笑んで言った。
「いや…大したことじゃない」
キースは綺麗な笑みを向けた。
ブラッドフィールド公爵と夫人のカレンにキースは紹介した。
「閣下、妻のレオノーラです」
「やぁレオノーラ、おめでとう」
近衛騎士であったレオノーラを知る男性たちは多い。しかし、言葉を交わすのははじめてのことだ。
「ありがとうございます閣下」
とレディらしい一礼をする。
…とても、頑張ってレディらしい振る舞いをするように気をつけているのだ。
「レオノーラ様が奥さまになるなんて、キースは幸運ね…。ねぇ?またご招待するので、うちにも来てくださいねレオノーラ様」
レオノーラは、レディ レオノーラというよりは皆これまで通りレオノーラ様と呼ばれる方が多い…。
レディをつけられるのはこそばゆいので丁度よいとレオノーラ自身は思っていた。
挨拶が一通り終わると、公爵夫妻のダンスを皮切りに舞踏会が始まる。
レオノーラもキースと次の曲からダンスを始めた。
「やっと足を踏まなくて済むようになった…」
レオノーラは微笑んでいった。
騎士の間、男性パートばかり踊っていたレオノーラは、練習してようやく女性パートに慣れてきた。
「俺の足なら問題ないさ」
キースも優しく微笑み返した。
レオノーラは、それなりにダンスの誘いを受けつつ場をこなし、ほどほどに時間が過ぎたと思い、役目は果たしたとばかりに、レオノーラはキースを探した。
自分と背の変わらない男性や、自分より下手な男性パートを踊る男性とのダンスに飽き飽きしてきた。
それに…想像していたのに、キースを狙っていた令嬢たちからの嫌がらせがないのだ…。
キースの親衛隊は過激だと聞いていたのに、婚約から今まで、どういう手で来るのかと待ち構えていたのに拍子抜けだ…。
会場の端の方で、男性たちとキースは話していたので、ゆっくり近づいた。
「で、新婚生活はどうなんだ?キース」
そう聞いた声は多分アルバート・ブルーメンタールだ
声をかける前に聞こえてしまい、レオノーラは足を止めた。
「この上なく幸せを噛みしめてるぞ?」
キースが笑いながら返した。
「しかしレオノーラとキースが結婚するなんて…驚きだな…」
そう言ったのはランスロット・アンヴィル。
かつてスクールに共に通った仲間だ。
「私だって驚いてる」
背後から声をかけた。
「レオノーラ、そこにいたのか」
先に目を向けたアルバートが言った。
「こんなに目立つ私が目に入らなかったのか?アルバート」
「ああ、どうかしてるね」
クスクスとアルバートが笑った。
アルバートは、妹のルシアンナの恋人だ。あの求婚された時も家にいた…。
「レオ…本当に女だったんだな…」
ランスロットが頭から爪先まで眺めた。
「間違いなくね…なんなら脱いで見せようか?」
レオノーラがいうと、ランスロットは慌てて拒否した。
「ランスをからかうのはよせよ、レオノーラ」
キースは苦笑した。
「からかってない。別に私は気にしない」
「君がしなくても、男の方は気にする。裸を簡単に見せるとか言うな」
キースは、真剣に止めた。
「冗談だ。いくら私でもそれくらいはわかってる」
騎士は訓練中はほとんど半裸だし、レオノーラたち女性騎士たちも、動きやすい格好で男たちとは別に訓練するが、時々は一緒に訓練もあった。
その事でレオノーラの羞恥心は低かった…。
「キース、私はそろそろ帰りたいんたが、先に帰ってもいいか?」
「なぜ?一緒に帰るよ」
「まだ話の途中だろう?私なら構わない。先に帰って待っている」
レオノーラは暗にベッドでと匂わせて、微笑んだ。
「…いや、一緒に帰るよ…」
レオノーラはキースに微笑みつつ、
「キース、それにランスロットたちもよく見ろ」
とレオノーラは会場を指差した。
「ダンスに誘われていないレディたちがいるだろう?男同士喋ってないで、とっととダンスをお誘いしてくるんだ」
レオノーラはかつて、王妃に命じられるまま、そうやって壁の花の女性を誘い、ダンスをした。
中にはそれを狙っている女性もいたらしいが…。
「あ、ああ…本当だ…」
ランスロットは慌てて言い、一番近くの淡いグリーンのドレスの令嬢を誘いに行き、アルバートももう一人の令嬢を誘いに行った。
「キースは…」
「俺は、愛する人と過ごしたいから遠慮してこのまま帰るよ」
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