幸福な蟻地獄

みつまめ つぼみ

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第3章:幸福の象徴

53.困惑

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 女子たちは談話室に集まり、暗い顔でうつむいていた。

 デュカリオンから『異能測定と勉強は休んでいいよ』と言われ、全員でここに来てはみたのだが、気持ちの整理も頭の整理もつかなかった。

 由香里ゆかりが途方に暮れながら告げる。

「私たち、結局どうしたらいいんでしょうか」

 瑠那るなが眉をひそめて応える。

「副作用で正気を失うことはないって言われたし、気にしなくてもいいんじゃないかな」

 優衣ゆいがうつむいたまま告げる。

「でも、依存症は際限なく悪化していく一方よ。
 それをどうして『心配しなくていい』なんて言い切れるのかしら」

 美雪みゆきが平然としているセレネに告げる。

「あなたは気にならないの? 私たち、依存症で破滅していくだけなのよ?」

 セレネが真顔で応える。

「秘匿事項で説明はできませんが、心配する必要を感じませんから」

 ティアが明るい声で告げる。

「みんな、どうして悩んでるの?
 悠人ゆうとと一緒に幸せになるだけでしょ?
 大丈夫、デュカリオンがちゃんとサポートしてくれるし!
 心配なんて要らないよ!」

 瑠那るながジト目でティアを見据えた。

「そのデュカリオンが信用できないんだってば」

 美雪みゆきが不安をあらわにして告げる。

「ねぇ、もうこうなったら悠人ゆうとさんに相談しようよ。
 私たちの手に負えないよ」

 由香里ゆかりが美雪に同意するように頷いた。

「私たちを見捨てないように、お願いしてからなら、ずっとそばに居てくれるんじゃないですか?」

 優衣ゆいが憂鬱そうにうつむいた。

「そうね……私たちだけじゃ、デュカリオンが何を言っていたのかも理解できてないし」

 瑠那るなが顔を上げて告げる。

「じゃあ多数決を取りましょう。
 悠人ゆうとに相談した方が良いと思う人は?」

 優衣ゆい美雪みゆき由香里ゆかりだけが手を挙げた。六人中三人だ。

「……そう、票が割れたわね」

 由香里ゆかりが不安そうな顔で瑠那るなに告げる。

瑠那るなさんは、相談しない方が良いって言うんですか?」

「……言えばあいつは絶対に苦しむ。
 それだけはしちゃだめだって、一か月前に決めたでしょ。
 デュカリオンが言っていたことはさっぱりわからなかったけど、あいつに相談したからって、副作用が何とかなるわけじゃないし。
 あいつが私たちから距離を取ることだけは避けなきゃ。
 絶対にこの事は知られちゃいけないの」

 ふぅ、と瑠那るなが小さく息をついた。

「少し、外の空気を吸ってきましょう。
 こんな地下に居ても、気分が暗くなるだけよ。
 明るい外で、気分を入れ替えるの」

 優衣ゆい美雪みゆき由香里ゆかりが頷いた。

 花鳥風月の四人が談話室を出ると、ガラティアとセレネも後を追っていく。
 女子六人は、エレベーターに乗って地上に向かっていった。




****

 女子六人で、夏の陽射しを浴びながら遊歩道をゆっくり歩いていた。

 明るい陽射しの中に居ると、不安が少しだけまぎれた。

 じっとりと湧き出る汗を感じながら、彼女たちは必死に不安を押し殺していた。

「おい、嬢ちゃんら。ちょっといいか!」

 瑠那るなたちが声に振り向くと、フェンスの向こうに見覚えのある人影――デイビッドが居た。

 デイビッドが明るい笑顔で手を挙げる。

「よぉ! どうした、こんないい天気に暗い顔をして」

 瑠那るなはデイビッドを睨み付けて応える。

「関係ないでしょ。ほっといて」

 デイビッドの視線がセレネに向けられた。

「……なんで嬢ちゃんが二人いるのか、教えてもらえないか。
 いつから分身の術が使えるようになった? 嬢ちゃんはニンジャだったのか?」

 瑠那るながフッと笑った。ジョークにしても、外国人らしい発想だ。

「彼女はセレネ、私のクローンよ」

 デイビッドの顔が険しくなった。

 しばらくセレネを睨み付けたあと、デイビッドが口を開く。

「なんで月女神の名前を持ってるのか、聞いてもいいか」

「私が知るわけないでしょ。セレネに聞いてよ」

 セレネが真顔で告げる。

「私自身に関することは秘匿事項です。口外することはできません」

 デイビッドがセレネを睨みながら考えを巡らせた。

煌光回廊レーザー・サーキット冴月さえづき瑠那るなだったか。
 なるほど、ローマ神話の月女神の名前だから、同一視されているギリシャ神話の月女神なのか?
 ここの連中は、よっぽどギリシャ神話が好きらしいな。
 ――何か他に、ギリシャ神話の名前を見聞きしたことは?」

 瑠那るなは記憶を漁りながら応える。

「セレネの異能はアフロディーテが調整したとか言ってたわ。
 元々の異能を、私と同じようなものに変えたって」

 セレネを睨み付けていたデイビッドが小さく息をついた。

「まーたギリシャ神話の神の名前か。
 しかも異能を調整? そんなこと、可能なのか?」

「知らないわよ。セレネの異能も見たことないし」

「じゃあ、妙見計画についてわかったことは?
 奴らの狙いは何だ?」

 瑠那るなは一瞬ためらったが、秘密を誰かに打ち明けてしまいたい気持ちが勝った。

 悠人ゆうとを頼れない今、関係のない第三者になら相談してもいいんじゃないかと思えた。

 全てを伝えることはできないが、何か知恵を借りられるかもしれない。

 瑠那るなはゆっくりとフェンスに近づいて行き、デイビッドに小声で告げる。

「彼らは『オーバーランク』を目指していると言ってたわ。
 ランキングできない、Sランクを超えた異能の持ち主。
 そんなものを育成するのが妙見計画の目的だって」

「Sランクを超える? 超常的な力を持つSランクを超えるって、どうなるんだよ?
 奴らは神でも作ろうってのか?」

 瑠那るながフッと笑った。

「ああ、それっぽいことは言ってたかな。
 『星因子ステラシード悠人ゆうとが神になりつつある』とか、『私たちが悠人ゆうとの従属神になる』とか。
 悠人ゆうとは今、ブラックホールなんだって。
 それに取り込まれた私たちは、悠人ゆうとの従属神になるって。
 ――意味が分からないわよね」

 デイビッドが唖然として応える。

「……さっぱり言ってることがわからん。
 語学には自信があったが、日本語が難しすぎるのか?
 だが星因子ステラシードは、特効薬アンチ・ネメシスの主成分だったな。
 もしかして嬢ちゃんたちが受けてるのは、その薬の治験か」

「目的は違うはずだけど、星因子ステラシードの入った薬を投与されてるのは間違いないわ。
 でもデュカリオンが本当は何を考えてるのか、わからなくなっちゃった」

 デイビッドが腕を組み、顎に手を当てて考えこんでいた。

「……なぁ嬢ちゃん、その薬、一つくらい持ち出せないか」

 ――避妊薬を持って来いって言うの?!

 でも、それで何かがわかるなら、この不安も少しはまぎれるかもしれない。

 今の手持ちは一回分。これを打つのは、七月末ごろだ。

 本来なら四週間おきに投与する物だが、効能は六週間続く。

 避妊薬が切れるのは二週間だけ。そのくらいならきっと大丈夫――

 瑠那るながデイビッドを見つめて告げる。

「何とか一個だけなら渡せるけど、条件があるわ。
 あなたじゃなく、女性の方に来てもらってもいい?」

 いくらなんでも、男性相手に避妊薬を渡すなんてできなかった。

 デイビッドが瑠那るなを見つめ返して応える。

「……オーケー、事情があるんだな。
 わかった、じゃあ夜にまたここにこれるか?」

「それなら午後十時にここで会いましょう。
 その時に女性だけが来てれば、薬を渡してあげる」

 デイビッドが頷いた。

「わかった、その時はパラスだけここに来させる。
 じゃあ、よろしく頼む」

 デイビッドは身を翻して、フェンスから離れていった。


 仲間たちのもとに戻った瑠那るなが、セレネに告げる。

「悪いけど、今夜の順番をあなたと入れ替えてもらっていいかな。
 私が最後で、あなたが三番目。どう?」

 セレネは戸惑いながら応える。

「それは構いませんが……彼と何を話していたのですか?」

「少しは何かがわかるかと思って。
 頭の整理がてら、ちょっと相談してただけよ。
 ――もう気分転換は充分でしょ。暑いから戻りましょう」

 瑠那るなたちは六人で研究所の中へ戻っていった。
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