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第3章:幸福の象徴
50.名物講師(1)
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俺は部屋に戻ると、まだ寝ているセレネの髪を手で梳いてやる。
そうやってしばらく髪の毛を整えていると、うっとりとした目付きのセレネが目を開いた。
「……おはようございます」
「おう、おはよう。少しは落ち着いたか?」
セレネは髪の毛を梳いている俺の手を掴むと、愛おしそうに頬にあてた。
「これが、人間の愛なのですね。
私にも人間の愛を通わせあうことが出来た。
ようやく人間として認めてもらえた実感を得ました。
私はセレネ、ただ一人の人間です」
「そうだ、お前は人間だ。
満足できたなら、シャワーを浴びて着替えてこい。
飯を食ったら、治験までそんなに時間がないぞ」
セレネが顔を赤くして布団で顔を隠した。
「あの……恥ずかしいので、後ろを向いていてもらえますか」
「おっと、そうだな」
俺が顔をそらしていると、セレネがベッドから起き出し、シャワーを浴びに向かう音が聞こえた。
タオルを用意して脱衣所に置いてやり、俺は声をかける。
「俺は談話室にいるから、何かあったら言いに来いよ」
「わかりました」
セレネの言葉を受けて、俺は談話室に向かった。
****
(談話室に居る。何かあったら来てくれ)
談話室で女子たちにグループメッセージを送った後、俺は椅子に座って背もたれに体重を預け、これからを考えた。
セレネを加えて、俺たち七人が隔離された寮住まいになる。
海燕の女子たちはそこから学校に通うとして、セレネが一人残されちまうな。
海燕に通わせようとすると、瑠那そっくりの外見でトラブルになりそうだ。
となると、他の学校に……いや、瑠那は有名人らしいし、噂になるか。
俺の携帯端末がメッセージ着信を知らせる――デュカリオンか。
『九時にレクリレーションルームに集合してくれないかな』
(わかった。ところでセレナは学校に通わせられないのか)
『通う必要がないし、そもそも戸籍もないよ』
(なんとかならないのか? 新居で一人残されるぞ)
『そこは追々考えるよ。戸籍はプロメテウスの許可が必要だけど、彼は頷かないだろうし』
ふぅ。しばらくは一人で留守番してもらうしかないらしい。
瑠那の組手相手をしてると、かなり遅くなるしなぁ。
そのあとも女子の相手をするとなると、一緒に居られる時間はほとんどないだろう。
不安定にならないと良いんだけど。どうなることやら。
時計を見ると九時前、そろそろ移動しておくか。
俺は談話室を後にして、レクリレーションルームへ向かった。
****
九時になると、レクリレーションルームには全員が揃った。
白衣を着たデュカリオンが告げる。
「じゃあ悠人、君は職員に従って治験薬を投与後、異能測定だ」
――おや、今回はデュカリオンが俺を見るんじゃないのか。
悠人は職員に案内されるまま、別室に消えて行った。
悠人が室外に消えるのを確認し、デュカリオンが女子たちに告げる。
「ではまず、現状を確認しておきたい。
――セレネ、君は悠人が居ないと生きていけないと思うかい?」
セレネは頬を染めながら頷いた。
「私には、彼の愛が必要です。
あの人に愛されてる間だけ、私は自分が自分であると実感できます。
この愛を失うくらいなら、死んだ方がマシです」
優衣がぽつりとつぶやく。
「やっぱり『本当の愛』を実感してきたわね。
なんでティアと結果が違うのかしら」
デュカリオンが困ったように微笑んだ。
「そこはやはり、クローンである影響が大きいんだと思う。
セレネは人工有機生命体だけど、人としての起源を持つ子だからね。
悠人は人の起源を持つ存在を魅了してしまう力を持ってるんだろう。
その力がどこからやってくるのか、それは今日からの治験でいくらか切り分けをするつもりだよ」
瑠那が手を挙げて告げる。
「それで私たちはどうするの?
治験っていっても、避妊薬が効いてる最中よ?」
「君たちにはモニタリング用の星因子を投与するよ。
それ自体に効能はないけど、外的刺激に敏感に反応して変化を起こすものだ。
君たち、今夜は悠人に愛されてくるんだろう?
それで明日、投与した星因子の状態を見て、何が起こっているのかを調べようと思う」
美雪が手を挙げて告げる。
「じゃあ、異能測定はしないの?」
「もちろんするとも。
前回の異能検査から、君たちの異能がどれだけ変化しているか、知っておきたいからね。
それが終わったら、またここに集合だ」
セレネを含む女子たちは、アンプルを投与されてから各部屋に散っていった。
****
十時になり、再びレクリレーションルームに全員が揃った。
デュカリオンが笑顔で俺に告げる。
「なんだかフラストレーションがたまってそうな顔だね」
「そりゃそうだろ。今回の薬、効果が弱いんじゃないか?
一時間、まったく異能が発動しなかったぞ」
デュカリオンが楽しそうに笑った。
「ハハハ! 段階的に濃度を上げると言っただろう?
最初に限界値から挑みたかったのかい?」
そうは言ってねぇけど……にしても、あのロボットを壊せなかったのはムカつく。
いくら殴っても壊れやしない。自分の未熟を思い知らされる。
デュカリオンが笑い終わり、楽しそうに告げる。
「今週はこのままいくよ。
それより、このあとは君たちの勉強時間だ。
湖八音学習塾から来てもらった講師を紹介しよう」
デュカリオンが手で合図をすると、扉が開いて三人の背の低い女性が現れ――全員同じ顔?!
俺たちの前に来た女性たちが口を開く
「湖八音一葉です」
「湖八音二葉です」
「湖八音三葉です」
「簡単にいえば、三つ子です」
何もハモって言わなくてもいいだろう……。
確かにこれは、名物講師になるかもしれない。
全員が肩までの黒髪、同じ顔、同じ声。
……見分けつかねぇよ。髪型か、せめて色を変えろよ。
デュカリオンが楽しそうに笑った。
「ハハハ! 困惑しているかな?
彼女たちは髪留めがそれぞれ違う。それで区別するといい」
ああ、言われてみると赤青緑で違う色の小さな髪留めを前髪に付けてるな――ちっちぇよ! 後ろから見えねぇよ!
もうこれは区別するのを諦めよう。
デュカリオンが笑顔で告げる。
「彼女たちが君たち全員の面倒を見る。
筆記具やテキストは用意してあるから、これから会議室に移動してくれ」
俺たちは移動する三つ子の講師の後を追って、会議室に向かった。
****
昼になり、食堂で俺は疲れ切りながらカレーそばをすすっていた。
「こんなとこでまで勉強するってのは、やっぱ疲れるな」
初日の今日は『学力を測る』と言ってテストを受けさせられていた。
由香里が楽しそうに告げる。
「でも、教科書は見放題でしたから、学校のテストより簡単でしたよ?」
美雪はうんざりとした顔で告げる。
「だけど範囲が一学期全部だよ?」
優衣がにこやかに告げる。
「しかも一教科につき二十分ですものね。忙しかったわ」
瑠那は俺と同じでぐったりしていた。
「国語に数学、理科に社会科、英語と魔導学だもん。頭が忙しかったよ」
ティアはきょとんとした顔で告げる。
「でもほとんど、習ったところだよ?」
セレネは俺をうっとりと見つめながら告げる。
「私もインストール済みの知識でしたし、目新しい所はありませんでしたね」
なぜかセレネも一緒に参加してたけど、勉強が楽しいというわけでもないみたいだ。
俺はセレネに尋ねる。
「お前はどこまでの知識が頭に入ってるんだ?」
「高校のカリキュラムまで全部インストール済みです。
悠人さんがお望みなら、私がいつでも手取り足取り教えて差し上げます」
いや、今日の科目でそんな教え方が必要なものはなかっただろうよ……。
「じゃあなんで勉強に参加してたんだ?」
「悠人さんと同じ部屋で同じ時間を過ごしたかったので」
必要もないのに、そのために意味のない授業を受けたってのか。こいつも重症だな。
午後は体を動かす授業をするとか言ってたっけ。
何をするつもりなんだか。
そうやってしばらく髪の毛を整えていると、うっとりとした目付きのセレネが目を開いた。
「……おはようございます」
「おう、おはよう。少しは落ち着いたか?」
セレネは髪の毛を梳いている俺の手を掴むと、愛おしそうに頬にあてた。
「これが、人間の愛なのですね。
私にも人間の愛を通わせあうことが出来た。
ようやく人間として認めてもらえた実感を得ました。
私はセレネ、ただ一人の人間です」
「そうだ、お前は人間だ。
満足できたなら、シャワーを浴びて着替えてこい。
飯を食ったら、治験までそんなに時間がないぞ」
セレネが顔を赤くして布団で顔を隠した。
「あの……恥ずかしいので、後ろを向いていてもらえますか」
「おっと、そうだな」
俺が顔をそらしていると、セレネがベッドから起き出し、シャワーを浴びに向かう音が聞こえた。
タオルを用意して脱衣所に置いてやり、俺は声をかける。
「俺は談話室にいるから、何かあったら言いに来いよ」
「わかりました」
セレネの言葉を受けて、俺は談話室に向かった。
****
(談話室に居る。何かあったら来てくれ)
談話室で女子たちにグループメッセージを送った後、俺は椅子に座って背もたれに体重を預け、これからを考えた。
セレネを加えて、俺たち七人が隔離された寮住まいになる。
海燕の女子たちはそこから学校に通うとして、セレネが一人残されちまうな。
海燕に通わせようとすると、瑠那そっくりの外見でトラブルになりそうだ。
となると、他の学校に……いや、瑠那は有名人らしいし、噂になるか。
俺の携帯端末がメッセージ着信を知らせる――デュカリオンか。
『九時にレクリレーションルームに集合してくれないかな』
(わかった。ところでセレナは学校に通わせられないのか)
『通う必要がないし、そもそも戸籍もないよ』
(なんとかならないのか? 新居で一人残されるぞ)
『そこは追々考えるよ。戸籍はプロメテウスの許可が必要だけど、彼は頷かないだろうし』
ふぅ。しばらくは一人で留守番してもらうしかないらしい。
瑠那の組手相手をしてると、かなり遅くなるしなぁ。
そのあとも女子の相手をするとなると、一緒に居られる時間はほとんどないだろう。
不安定にならないと良いんだけど。どうなることやら。
時計を見ると九時前、そろそろ移動しておくか。
俺は談話室を後にして、レクリレーションルームへ向かった。
****
九時になると、レクリレーションルームには全員が揃った。
白衣を着たデュカリオンが告げる。
「じゃあ悠人、君は職員に従って治験薬を投与後、異能測定だ」
――おや、今回はデュカリオンが俺を見るんじゃないのか。
悠人は職員に案内されるまま、別室に消えて行った。
悠人が室外に消えるのを確認し、デュカリオンが女子たちに告げる。
「ではまず、現状を確認しておきたい。
――セレネ、君は悠人が居ないと生きていけないと思うかい?」
セレネは頬を染めながら頷いた。
「私には、彼の愛が必要です。
あの人に愛されてる間だけ、私は自分が自分であると実感できます。
この愛を失うくらいなら、死んだ方がマシです」
優衣がぽつりとつぶやく。
「やっぱり『本当の愛』を実感してきたわね。
なんでティアと結果が違うのかしら」
デュカリオンが困ったように微笑んだ。
「そこはやはり、クローンである影響が大きいんだと思う。
セレネは人工有機生命体だけど、人としての起源を持つ子だからね。
悠人は人の起源を持つ存在を魅了してしまう力を持ってるんだろう。
その力がどこからやってくるのか、それは今日からの治験でいくらか切り分けをするつもりだよ」
瑠那が手を挙げて告げる。
「それで私たちはどうするの?
治験っていっても、避妊薬が効いてる最中よ?」
「君たちにはモニタリング用の星因子を投与するよ。
それ自体に効能はないけど、外的刺激に敏感に反応して変化を起こすものだ。
君たち、今夜は悠人に愛されてくるんだろう?
それで明日、投与した星因子の状態を見て、何が起こっているのかを調べようと思う」
美雪が手を挙げて告げる。
「じゃあ、異能測定はしないの?」
「もちろんするとも。
前回の異能検査から、君たちの異能がどれだけ変化しているか、知っておきたいからね。
それが終わったら、またここに集合だ」
セレネを含む女子たちは、アンプルを投与されてから各部屋に散っていった。
****
十時になり、再びレクリレーションルームに全員が揃った。
デュカリオンが笑顔で俺に告げる。
「なんだかフラストレーションがたまってそうな顔だね」
「そりゃそうだろ。今回の薬、効果が弱いんじゃないか?
一時間、まったく異能が発動しなかったぞ」
デュカリオンが楽しそうに笑った。
「ハハハ! 段階的に濃度を上げると言っただろう?
最初に限界値から挑みたかったのかい?」
そうは言ってねぇけど……にしても、あのロボットを壊せなかったのはムカつく。
いくら殴っても壊れやしない。自分の未熟を思い知らされる。
デュカリオンが笑い終わり、楽しそうに告げる。
「今週はこのままいくよ。
それより、このあとは君たちの勉強時間だ。
湖八音学習塾から来てもらった講師を紹介しよう」
デュカリオンが手で合図をすると、扉が開いて三人の背の低い女性が現れ――全員同じ顔?!
俺たちの前に来た女性たちが口を開く
「湖八音一葉です」
「湖八音二葉です」
「湖八音三葉です」
「簡単にいえば、三つ子です」
何もハモって言わなくてもいいだろう……。
確かにこれは、名物講師になるかもしれない。
全員が肩までの黒髪、同じ顔、同じ声。
……見分けつかねぇよ。髪型か、せめて色を変えろよ。
デュカリオンが楽しそうに笑った。
「ハハハ! 困惑しているかな?
彼女たちは髪留めがそれぞれ違う。それで区別するといい」
ああ、言われてみると赤青緑で違う色の小さな髪留めを前髪に付けてるな――ちっちぇよ! 後ろから見えねぇよ!
もうこれは区別するのを諦めよう。
デュカリオンが笑顔で告げる。
「彼女たちが君たち全員の面倒を見る。
筆記具やテキストは用意してあるから、これから会議室に移動してくれ」
俺たちは移動する三つ子の講師の後を追って、会議室に向かった。
****
昼になり、食堂で俺は疲れ切りながらカレーそばをすすっていた。
「こんなとこでまで勉強するってのは、やっぱ疲れるな」
初日の今日は『学力を測る』と言ってテストを受けさせられていた。
由香里が楽しそうに告げる。
「でも、教科書は見放題でしたから、学校のテストより簡単でしたよ?」
美雪はうんざりとした顔で告げる。
「だけど範囲が一学期全部だよ?」
優衣がにこやかに告げる。
「しかも一教科につき二十分ですものね。忙しかったわ」
瑠那は俺と同じでぐったりしていた。
「国語に数学、理科に社会科、英語と魔導学だもん。頭が忙しかったよ」
ティアはきょとんとした顔で告げる。
「でもほとんど、習ったところだよ?」
セレネは俺をうっとりと見つめながら告げる。
「私もインストール済みの知識でしたし、目新しい所はありませんでしたね」
なぜかセレネも一緒に参加してたけど、勉強が楽しいというわけでもないみたいだ。
俺はセレネに尋ねる。
「お前はどこまでの知識が頭に入ってるんだ?」
「高校のカリキュラムまで全部インストール済みです。
悠人さんがお望みなら、私がいつでも手取り足取り教えて差し上げます」
いや、今日の科目でそんな教え方が必要なものはなかっただろうよ……。
「じゃあなんで勉強に参加してたんだ?」
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