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第2章:幸福な蟻地獄
38.浜辺の保養所(6)
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部屋に戻った由香里は、服を脱いでシャワーを浴び始めた。
シャワーを浴びて考える――もし本当に妊娠していたら、自分はどうしていただろう。
仲間たちに告げた言葉に偽りはなかった。
悠人の子供なら、由香里は歓迎する。
悠人なら、子供を喜んで一緒に歓迎してくれるだろう。
この幼い身体が出産を経験する――まさに、成熟した女の証と言えた。
だが現実問題、それで何が起こるだろうか。
海燕は間違いなく退学になる。義務教育として、どこか別の学校に通うことになるだろう。
家族は離れて暮らしているが、呼び戻されるかもしれない。
そうなれば、悠人とは離れて暮らすことを余儀なくされる――ここまで考えて、由香里は考えることを放棄した。
デュカリオンが避妊薬を用意してくれるなら、気にする必要はないのだから。
由香里は静かに、三日後に控えている自分の曜日当番に思いをはせた。
****
優衣はソファに座り、炭酸飲料の缶を開けながら考え込んでいた。
妊娠と出産――当然、これから起こり得るリスクだ。
だが現実を見れば出産はあり得ない。適切な処置を適切な時期に施すことになるだけだ。
それに女子全員が同意するか。
……難しいように思えた。
それでも同意させ、デュカリオンあたりに頼むことになるのだろう。
彼がこれから作ると言う避妊薬、その効果も確かとは言えない。なにせこれから自分たちがモルモットとして効果を実証するのだから。
それがわかっていても、自分たちは悠人が与えてくれる『本当の愛』を捨てることはできないだろう。
優衣がフッと自嘲の笑みを浮かべた。
「ホント、私たちって終わってる」
デュカリオンは女子を『手遅れの君たち』と呼んだ。なんでもできる科学者が、手の施しようがないと、さじを投げたのだ。
それでも今、自分たちは幸福を享受していた。
避妊薬が届けば、この幸福を享受し続けられる。
深いため息をついて、優衣は缶の中身を飲み干した。
シャワーを浴びるために着替えを用意し、バスルームに消えて行った。
****
美雪はシャワーを浴びながら、今日の恐怖を思い出していた。
心細くて足元が崩れそうな感覚。
だけど今は、妊娠の心配がないという。
そしてこれからも避妊薬を届けてくれて、心配がなくなるのだ。
「なにがお灸よ、驚かせて!」
美雪はシャワーから上がり、彼シャツに身を包む。
そして悠人の気配が残るベッドに身を沈め、今日も心地良い夢の扉を開いた。
****
瑠那はシャワーの後、今夜も演武で悠人との一体感を思い出していた。
早朝に刻み込んでもらったばかりの愛を思い出し、愛しさで胸が張り裂けそうだった。
全身の細胞が悠人の愛で生まれ変わり、歓喜で震えている。
今まで目をつぶってきた恐ろしい現実も、もう怖くはない。
突然の出来事で驚いた心は、演武を続けていくうちに平静を取り戻していた。
学校にも保護者にも、周囲にも知られずに避妊薬を得られるのだ。
あとは悠人にただ身を任せ、愛を刻んでもらう日々が待っている。
バラ色の未来にひたりながら、瑠那は演武を繰り返し続けた。
****
デュカリオンが現れてから一週間が経過した。
二週間に及ぶ保養所生活も終わりが近い。
俺は瑠那の相手をしたあと一眠りして、土曜日ののんびりした朝を満喫していた。
週末は気が楽なんだよなぁ。誰の相手もしなくていいし。
一週間毎日、朝から晩まで女子の相手をするとか、いくら俺が高校生と言ったって限度がある。
先週から早朝に一時間程度、瑠那の相手をするようになったけど、あのくらいは誤差の内だ。
気が緩んでいた俺は、ついポロリと口を滑らす。
「お前らの水着も、明日で見納めか」
女子たちががぜん、色めき立った。
由香里が頬を紅潮させて告げる。
「楽しんでいただけてたんですか!」
「楽しんでたよ。ちゃんとな」
美雪が明るい笑顔で告げる。
「やだなー、そんな素振り少しも見せなかったのに!」
「あからさまに見つめる訳にはいかないだろう?」
優衣は余裕の笑みで告げる。
「いつももっと恥ずかしい姿、見てるじゃない」
俺は眉をひそめて応える。
「水着は見ても楽しいものだろ。
裸と水着じゃ、全然違うよ」
瑠那は顔を赤くして告げる。
「そ、そんなに気に入ってたの?」
「おう、良く似合ってるって言ったろ?
いつも言ってる通り、お前らは俺にとって世界で一番魅力的な女子だ。
そんな女子の水着が、魅力的じゃないわけが無いだろ?」
女子たちの喜ぶ声に、俺は丁寧に応えていく。
……うかつだった。こいつらを興奮させて、いいことになる気がしない。
優衣が嬉しそうに笑顔で告げる。
「外に出かけると日焼け止めを塗るのが大変だし、今日は悠人さんの部屋に水着で集まって過ごしましょう」
ほら、言わんこっちゃない。
俺は微笑みを浮かべながら『なんで部屋の中で水着を着るんだよ』と、口に出してはいけない突っ込みを入れていた。
****
俺の部屋に女子たちが集まり、映画鑑賞会が始まった。
異様だよなぁ。女子だけが水着の映画観賞会って。
俺は水着の女子たちに囲まれながら、ぼんやりとB級アクション映画を眺めていた。
うーん、落ち着かない。
相手をしなくていい日なのに、大胆な水着を着ている女子が目に入るとつい、目が追ってしまう。
彼女たちは俺の視線を捕らえると、嬉しそうに頬を染めて俺に抱き着いてくる――気が休まらない。
俺は彼女たちに嘘は言わない。
魅力的な女子の水着なんて、目を引いて当然なんだよ。
俺の中の『男』が刺激されてしまいそうなので、なるだけ目をそらしたいのに、彼女たちはわざと俺の視界に入ろうとしてくる。
なんだこの地獄。神様、俺何か悪いこと……してたな、現在進行形で。
少なくとも四人の女子中学生を、俺が居ないと生きていけないようにしてしまってる。
決してそれを望んだわけじゃないのに、いったいいつからこうなったんだろう。
俺はただ、こいつらの幸福な笑顔がみたいだけだったのに。
俺がため息をつくのと、俺の携帯端末がメッセージ着信音を鳴らすのが同時だった。
「すまん、ティア。それ取ってくれ」
俺はティアから携帯端末を受け取ってメッセージを確認する。
送信者は……デュカリオンか。
『これからそっちに行くよ。君の部屋で良いかな?』
これからか。この地獄から救ってくれる救世主かな。
(おう、わかった)
俺はメッセージを返信してから、女子たちに告げる。
「これからデュカリオンが来るらしいから、みんな着替えて来いよ」
由香里が俺に大人びた笑みで告げる。
「デュカリオンが帰ったらまた集まるのでしょうし、別に着替えなくてもいいんじゃないですか。
水着くらい見られても、別に減るものでもないですし」
女子たちが頷き、彼女たちは再び映画を見るふりをしながら俺の視界を横切る遊びを続行し始めた。
……まだ、続くのか。この地獄。
俺は平常心を心がけながら、『早く来てくれ』と願いつつ、映画に集中することにした。
****
「やあ! 部屋の中で水着なんて、珍しい光景だね!」
相変わらず明るい笑顔のデュカリオンが、俺に挨拶を告げる。
手にはトランクを持っているけど、これが今日の用件か?
俺は疲れた気分でデュカリオンに応える。
「それで、今日はなんの用なんだ?」
「ちょっとした新薬の治験を頼もうと思ってね。
ここまでのデータを反映した新薬だ。
まずはそれを説明させてほしい」
俺は頷くと、女子と一緒にソファに座った。
全員は座れない。俺の横には瑠那と優衣が座り、他の女子は俺の背後に立っている。
デュカリオンは俺たちの正面に座って、トランクをテーブルの上に置いた。
トランクの中から六本のアンプルを取り出したデュカリオンが告げる。
「男子と女子で、別々の薬になる。
まずは悠人のこちらの薬を説明しておこう」
デュカリオンは黒いアンプルを手に取って俺に見せた。
俺は眉をひそめて尋ねる。
「なんで男女別なんだ?」
「君の身体は賦活剤を変質させる体質をもってるみたいだからね。
その謎を解くために、新しいタイプの星因子を作ってきたんだよ。
副作用で、君の精力が極端に増強してしまうけど、それは構わないだろう?」
「おいおい、結構深刻な副作用だろうが」
体力があり余ってる男子高校生の精力が増強して、良いことなんて何もないぞ?
デュカリオンは明るく笑って告げる。
「ハハハ! 君の周りには精力をいくらでも吸い取ってしまう子がそろってるじゃないか!
こちらとしても君の体質を早めに解析したいし、副作用はあえて殺さないで持ってきている。
副作用を抑えると、主作用の効能を落とさざるを得ないからね。
納得できないなら後日、副作用を半減くらいに抑えた物を用意できるけど……どうする?」
左右の瑠那と優衣、背後の由香里と美雪が俺の身体に触れてきた――そうか、お前らはこれを俺に選んで欲しいのか。
……まぁ、毎日相手をするのが楽になるなら、それくらいは飲んでも構わない条件か。
精力ってことはつまり、体力増強だ。週の終わりに疲れ切ることもなくなる。
夜のロードワークで浪費すれば、持て余して困ることもないだろう。
俺はため息をついて頷いた。
「わかった。その薬の治験はいつまで続ければいい?」
「しばらくの間は続けて欲しい。
なにせ、目的は君の体質の解析だ。
それが終わるまで投与を続けて欲しいんだ。
構わないかい?」
「それはいいけど……どの程度の頻度で投与する薬なんだ?」
「毎朝、目が覚めた時にでも投与しておけばいいよ。
十時間の間隔を空けてあれば、過剰投与になることはないはずだ。
毎日投与するものだから、一回分の効能も大きなものじゃない。
君の体の負担も小さいはずだよ」
俺は頷いた。
「わかった。それで女子の薬は?」
デュカリオンがニコリと微笑んだ。
「それは女子たちだけに知らせたい。
君は部屋の外で待っていてくれ」
なんで女子だけ? 何かデリケートな……ああ、女子の日に影響が出るような薬なのか?
「わかった、じゃあ廊下で待ってる」
俺は立ち上がると、素直に部屋の外に出ていった。
****
デュカリオンが微笑みをたたえて女子たちに告げる。
「君たちがお待ちかねの薬が出来た。当然、今日の本題はこちらだ」
デュカリオンは銀色のアンプルを手に取って女子たちに見せた。
「これは避妊薬、なるだけ副作用を抑えつつ、今の君たちの身体の状態に近づける薬だ。
悠人の体内で変質した星因子をベースに調合した薬さ。
身体が火照ることはなくなるはずだけど、他の副作用に気が付いたら早めに教えて欲しい」
優衣が薬を見つめながら告げる。
「その避妊薬、どのくらいの効果がある薬なの?」
「理論上は百パーセントに近い、と言いたいけれど、実際のところは未知数だね。
だからこれを投与していれば、完全に妊娠を予防できるとは言い切れない。
それでも高い効能があるのは間違いないよ。
本当なら子宮に浸透させるのが一番効果があるんだけど、君らはそんな薬を常用するのに抵抗があるだろう?
あのタイプは、慣れるまで時間もかかるしね。
だから普通のアンプルタイプを持ってきた。これでも十分な排卵停止効果は見込めるはずだ」
由香里が目を見開いて声を上げる。
「百パーセントじゃないんですか?!」
「新薬だよ? これから治験する薬の効果なんて、誰も保証できないよ。
そしてこれは異能者にしか効果を発揮しない。
異能者である十代の子供から避妊薬の被験者を探すなんて、いつになるかわからないよ。
十年くらいすればデータを取れると思うから、それまで待つかい?
信用できないと思うなら投与しなくて構わないよ。
従来の避妊具でほぼ百パーセント防げるし、そちらを選ぶのは君たちの自由だ。
だけどそれを用意するのは、自分たちでやってほしい。
こちらも慈善事業じゃないし、研究に貢献しない出費は予算が降りないからね」
美雪がおずおずと告げる。
「じゃあ、お金は出しますから、代わりに注文して届けてもらうのはお願いできますか?」
デュカリオンは微笑んで応える。
「それなら応じることはできるけど、君らの口から彼に『避妊をして欲しい』と言い出せるのかい?
衝動に突き動かされた君たちが、毎回必ず避妊できると思えるかい?
君らの家や彼の家に、大量の避妊具が置かれる日々に耐えられる?
――低用量ピルという選択肢もあるけど、こちらは君たちの年齢では副作用の影響も大きい。
特効薬で投与した星因子が低用量ピルに影響を及ぼしているという報告もある。
昔ほど信頼できる方法ではないと思って欲しい」
優衣が静かに告げる。
「結局、物理的接触を断たない限り、百パーセントの方法はないんですね。
それなら新薬でも大して違いはないと、そういうことですか」
デュカリオンがニコリと微笑んだ。
「そういうことだね。
経済的負担もなく、異能の治験薬という形で受け取れるから周囲の目もごまかせる。
部屋に薬が置いてあっても、悠人を含めて疑える人間は居ないよ。
トータルで見て、一番君たちにメリットがある選択肢だと思う。
ここから先は、君たちが決めて欲しい」
瑠那が優衣に振り向いて告げる。
「どうする? 先週聞いてたのと話が違うんだけど……」
「どうもこうもないわ。
私たちが悠人さんに毎回避妊を頼むなんて、どれだけ非現実的かは自分たちでわかるでしょ?
彼に避妊を言い出す勇気だって私たちには出せないし、ピルも信用できないんじゃお金を出すだけ馬鹿みたいよ。
実際、女子寮の中でもピルの効きが弱くなったって困ってる子は居たもの」
美雪が青白い顔で告げる。
「この新薬で妊娠する可能性を抑えられるなら、ないよりはずっとマシになる。私はこの薬、受けるよ」
由香里が小さく息をついて告げる。
「そうですね。ないよりマシなら、一番メリットがあると言う話は頷けます。
――瑠那さんはどうするんです?」
瑠那は眉をひそめて考えていた。
悠人を前にした時、自分がどれほど理性がなくなるかなんて、嫌というほど知っていた。
彼に言い出す勇気も含めて考えれば、女子の体内で避妊をするしか道がない。
その中では最善の選択肢だろう。
――だけど、やっぱり妊娠の恐怖からは逃げられないのか。
瑠那がゆっくりと頷いた。
「私も、受ける」
優衣が瑠那に頷き、デュカリオンに告げる。
「じゃあ全員、新薬の治験を受けるわ。
これはどの程度の頻度で投与するものなの?
やっぱり毎日?」
デュカリオンが明るい声で笑った。
「ハハハ! そんな頻度じゃないよ。
薬の効能は六週間くらいだけど、後半の二週間は効果が落ちるはずなんだ。
だから四週間に一本投与すればいい。
そこだけ気を付けておいて」
「他に気を付けることはある?」
「特にないね。何かあったら直接、僕にメッセージを送ってくれればいい。
ホルモンバランスが崩れると思うから、体調不良があれば気兼ねなく相談してくれ。
症状に応じた対策を考えるよ」
デュカリオンは女子の顔を見まわしてから頷き、席を立った。
テーブルにトランクを置いたまま、デュカリオンは部屋を出ていった。。
シャワーを浴びて考える――もし本当に妊娠していたら、自分はどうしていただろう。
仲間たちに告げた言葉に偽りはなかった。
悠人の子供なら、由香里は歓迎する。
悠人なら、子供を喜んで一緒に歓迎してくれるだろう。
この幼い身体が出産を経験する――まさに、成熟した女の証と言えた。
だが現実問題、それで何が起こるだろうか。
海燕は間違いなく退学になる。義務教育として、どこか別の学校に通うことになるだろう。
家族は離れて暮らしているが、呼び戻されるかもしれない。
そうなれば、悠人とは離れて暮らすことを余儀なくされる――ここまで考えて、由香里は考えることを放棄した。
デュカリオンが避妊薬を用意してくれるなら、気にする必要はないのだから。
由香里は静かに、三日後に控えている自分の曜日当番に思いをはせた。
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優衣はソファに座り、炭酸飲料の缶を開けながら考え込んでいた。
妊娠と出産――当然、これから起こり得るリスクだ。
だが現実を見れば出産はあり得ない。適切な処置を適切な時期に施すことになるだけだ。
それに女子全員が同意するか。
……難しいように思えた。
それでも同意させ、デュカリオンあたりに頼むことになるのだろう。
彼がこれから作ると言う避妊薬、その効果も確かとは言えない。なにせこれから自分たちがモルモットとして効果を実証するのだから。
それがわかっていても、自分たちは悠人が与えてくれる『本当の愛』を捨てることはできないだろう。
優衣がフッと自嘲の笑みを浮かべた。
「ホント、私たちって終わってる」
デュカリオンは女子を『手遅れの君たち』と呼んだ。なんでもできる科学者が、手の施しようがないと、さじを投げたのだ。
それでも今、自分たちは幸福を享受していた。
避妊薬が届けば、この幸福を享受し続けられる。
深いため息をついて、優衣は缶の中身を飲み干した。
シャワーを浴びるために着替えを用意し、バスルームに消えて行った。
****
美雪はシャワーを浴びながら、今日の恐怖を思い出していた。
心細くて足元が崩れそうな感覚。
だけど今は、妊娠の心配がないという。
そしてこれからも避妊薬を届けてくれて、心配がなくなるのだ。
「なにがお灸よ、驚かせて!」
美雪はシャワーから上がり、彼シャツに身を包む。
そして悠人の気配が残るベッドに身を沈め、今日も心地良い夢の扉を開いた。
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瑠那はシャワーの後、今夜も演武で悠人との一体感を思い出していた。
早朝に刻み込んでもらったばかりの愛を思い出し、愛しさで胸が張り裂けそうだった。
全身の細胞が悠人の愛で生まれ変わり、歓喜で震えている。
今まで目をつぶってきた恐ろしい現実も、もう怖くはない。
突然の出来事で驚いた心は、演武を続けていくうちに平静を取り戻していた。
学校にも保護者にも、周囲にも知られずに避妊薬を得られるのだ。
あとは悠人にただ身を任せ、愛を刻んでもらう日々が待っている。
バラ色の未来にひたりながら、瑠那は演武を繰り返し続けた。
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デュカリオンが現れてから一週間が経過した。
二週間に及ぶ保養所生活も終わりが近い。
俺は瑠那の相手をしたあと一眠りして、土曜日ののんびりした朝を満喫していた。
週末は気が楽なんだよなぁ。誰の相手もしなくていいし。
一週間毎日、朝から晩まで女子の相手をするとか、いくら俺が高校生と言ったって限度がある。
先週から早朝に一時間程度、瑠那の相手をするようになったけど、あのくらいは誤差の内だ。
気が緩んでいた俺は、ついポロリと口を滑らす。
「お前らの水着も、明日で見納めか」
女子たちががぜん、色めき立った。
由香里が頬を紅潮させて告げる。
「楽しんでいただけてたんですか!」
「楽しんでたよ。ちゃんとな」
美雪が明るい笑顔で告げる。
「やだなー、そんな素振り少しも見せなかったのに!」
「あからさまに見つめる訳にはいかないだろう?」
優衣は余裕の笑みで告げる。
「いつももっと恥ずかしい姿、見てるじゃない」
俺は眉をひそめて応える。
「水着は見ても楽しいものだろ。
裸と水着じゃ、全然違うよ」
瑠那は顔を赤くして告げる。
「そ、そんなに気に入ってたの?」
「おう、良く似合ってるって言ったろ?
いつも言ってる通り、お前らは俺にとって世界で一番魅力的な女子だ。
そんな女子の水着が、魅力的じゃないわけが無いだろ?」
女子たちの喜ぶ声に、俺は丁寧に応えていく。
……うかつだった。こいつらを興奮させて、いいことになる気がしない。
優衣が嬉しそうに笑顔で告げる。
「外に出かけると日焼け止めを塗るのが大変だし、今日は悠人さんの部屋に水着で集まって過ごしましょう」
ほら、言わんこっちゃない。
俺は微笑みを浮かべながら『なんで部屋の中で水着を着るんだよ』と、口に出してはいけない突っ込みを入れていた。
****
俺の部屋に女子たちが集まり、映画鑑賞会が始まった。
異様だよなぁ。女子だけが水着の映画観賞会って。
俺は水着の女子たちに囲まれながら、ぼんやりとB級アクション映画を眺めていた。
うーん、落ち着かない。
相手をしなくていい日なのに、大胆な水着を着ている女子が目に入るとつい、目が追ってしまう。
彼女たちは俺の視線を捕らえると、嬉しそうに頬を染めて俺に抱き着いてくる――気が休まらない。
俺は彼女たちに嘘は言わない。
魅力的な女子の水着なんて、目を引いて当然なんだよ。
俺の中の『男』が刺激されてしまいそうなので、なるだけ目をそらしたいのに、彼女たちはわざと俺の視界に入ろうとしてくる。
なんだこの地獄。神様、俺何か悪いこと……してたな、現在進行形で。
少なくとも四人の女子中学生を、俺が居ないと生きていけないようにしてしまってる。
決してそれを望んだわけじゃないのに、いったいいつからこうなったんだろう。
俺はただ、こいつらの幸福な笑顔がみたいだけだったのに。
俺がため息をつくのと、俺の携帯端末がメッセージ着信音を鳴らすのが同時だった。
「すまん、ティア。それ取ってくれ」
俺はティアから携帯端末を受け取ってメッセージを確認する。
送信者は……デュカリオンか。
『これからそっちに行くよ。君の部屋で良いかな?』
これからか。この地獄から救ってくれる救世主かな。
(おう、わかった)
俺はメッセージを返信してから、女子たちに告げる。
「これからデュカリオンが来るらしいから、みんな着替えて来いよ」
由香里が俺に大人びた笑みで告げる。
「デュカリオンが帰ったらまた集まるのでしょうし、別に着替えなくてもいいんじゃないですか。
水着くらい見られても、別に減るものでもないですし」
女子たちが頷き、彼女たちは再び映画を見るふりをしながら俺の視界を横切る遊びを続行し始めた。
……まだ、続くのか。この地獄。
俺は平常心を心がけながら、『早く来てくれ』と願いつつ、映画に集中することにした。
****
「やあ! 部屋の中で水着なんて、珍しい光景だね!」
相変わらず明るい笑顔のデュカリオンが、俺に挨拶を告げる。
手にはトランクを持っているけど、これが今日の用件か?
俺は疲れた気分でデュカリオンに応える。
「それで、今日はなんの用なんだ?」
「ちょっとした新薬の治験を頼もうと思ってね。
ここまでのデータを反映した新薬だ。
まずはそれを説明させてほしい」
俺は頷くと、女子と一緒にソファに座った。
全員は座れない。俺の横には瑠那と優衣が座り、他の女子は俺の背後に立っている。
デュカリオンは俺たちの正面に座って、トランクをテーブルの上に置いた。
トランクの中から六本のアンプルを取り出したデュカリオンが告げる。
「男子と女子で、別々の薬になる。
まずは悠人のこちらの薬を説明しておこう」
デュカリオンは黒いアンプルを手に取って俺に見せた。
俺は眉をひそめて尋ねる。
「なんで男女別なんだ?」
「君の身体は賦活剤を変質させる体質をもってるみたいだからね。
その謎を解くために、新しいタイプの星因子を作ってきたんだよ。
副作用で、君の精力が極端に増強してしまうけど、それは構わないだろう?」
「おいおい、結構深刻な副作用だろうが」
体力があり余ってる男子高校生の精力が増強して、良いことなんて何もないぞ?
デュカリオンは明るく笑って告げる。
「ハハハ! 君の周りには精力をいくらでも吸い取ってしまう子がそろってるじゃないか!
こちらとしても君の体質を早めに解析したいし、副作用はあえて殺さないで持ってきている。
副作用を抑えると、主作用の効能を落とさざるを得ないからね。
納得できないなら後日、副作用を半減くらいに抑えた物を用意できるけど……どうする?」
左右の瑠那と優衣、背後の由香里と美雪が俺の身体に触れてきた――そうか、お前らはこれを俺に選んで欲しいのか。
……まぁ、毎日相手をするのが楽になるなら、それくらいは飲んでも構わない条件か。
精力ってことはつまり、体力増強だ。週の終わりに疲れ切ることもなくなる。
夜のロードワークで浪費すれば、持て余して困ることもないだろう。
俺はため息をついて頷いた。
「わかった。その薬の治験はいつまで続ければいい?」
「しばらくの間は続けて欲しい。
なにせ、目的は君の体質の解析だ。
それが終わるまで投与を続けて欲しいんだ。
構わないかい?」
「それはいいけど……どの程度の頻度で投与する薬なんだ?」
「毎朝、目が覚めた時にでも投与しておけばいいよ。
十時間の間隔を空けてあれば、過剰投与になることはないはずだ。
毎日投与するものだから、一回分の効能も大きなものじゃない。
君の体の負担も小さいはずだよ」
俺は頷いた。
「わかった。それで女子の薬は?」
デュカリオンがニコリと微笑んだ。
「それは女子たちだけに知らせたい。
君は部屋の外で待っていてくれ」
なんで女子だけ? 何かデリケートな……ああ、女子の日に影響が出るような薬なのか?
「わかった、じゃあ廊下で待ってる」
俺は立ち上がると、素直に部屋の外に出ていった。
****
デュカリオンが微笑みをたたえて女子たちに告げる。
「君たちがお待ちかねの薬が出来た。当然、今日の本題はこちらだ」
デュカリオンは銀色のアンプルを手に取って女子たちに見せた。
「これは避妊薬、なるだけ副作用を抑えつつ、今の君たちの身体の状態に近づける薬だ。
悠人の体内で変質した星因子をベースに調合した薬さ。
身体が火照ることはなくなるはずだけど、他の副作用に気が付いたら早めに教えて欲しい」
優衣が薬を見つめながら告げる。
「その避妊薬、どのくらいの効果がある薬なの?」
「理論上は百パーセントに近い、と言いたいけれど、実際のところは未知数だね。
だからこれを投与していれば、完全に妊娠を予防できるとは言い切れない。
それでも高い効能があるのは間違いないよ。
本当なら子宮に浸透させるのが一番効果があるんだけど、君らはそんな薬を常用するのに抵抗があるだろう?
あのタイプは、慣れるまで時間もかかるしね。
だから普通のアンプルタイプを持ってきた。これでも十分な排卵停止効果は見込めるはずだ」
由香里が目を見開いて声を上げる。
「百パーセントじゃないんですか?!」
「新薬だよ? これから治験する薬の効果なんて、誰も保証できないよ。
そしてこれは異能者にしか効果を発揮しない。
異能者である十代の子供から避妊薬の被験者を探すなんて、いつになるかわからないよ。
十年くらいすればデータを取れると思うから、それまで待つかい?
信用できないと思うなら投与しなくて構わないよ。
従来の避妊具でほぼ百パーセント防げるし、そちらを選ぶのは君たちの自由だ。
だけどそれを用意するのは、自分たちでやってほしい。
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美雪がおずおずと告げる。
「じゃあ、お金は出しますから、代わりに注文して届けてもらうのはお願いできますか?」
デュカリオンは微笑んで応える。
「それなら応じることはできるけど、君らの口から彼に『避妊をして欲しい』と言い出せるのかい?
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――低用量ピルという選択肢もあるけど、こちらは君たちの年齢では副作用の影響も大きい。
特効薬で投与した星因子が低用量ピルに影響を及ぼしているという報告もある。
昔ほど信頼できる方法ではないと思って欲しい」
優衣が静かに告げる。
「結局、物理的接触を断たない限り、百パーセントの方法はないんですね。
それなら新薬でも大して違いはないと、そういうことですか」
デュカリオンがニコリと微笑んだ。
「そういうことだね。
経済的負担もなく、異能の治験薬という形で受け取れるから周囲の目もごまかせる。
部屋に薬が置いてあっても、悠人を含めて疑える人間は居ないよ。
トータルで見て、一番君たちにメリットがある選択肢だと思う。
ここから先は、君たちが決めて欲しい」
瑠那が優衣に振り向いて告げる。
「どうする? 先週聞いてたのと話が違うんだけど……」
「どうもこうもないわ。
私たちが悠人さんに毎回避妊を頼むなんて、どれだけ非現実的かは自分たちでわかるでしょ?
彼に避妊を言い出す勇気だって私たちには出せないし、ピルも信用できないんじゃお金を出すだけ馬鹿みたいよ。
実際、女子寮の中でもピルの効きが弱くなったって困ってる子は居たもの」
美雪が青白い顔で告げる。
「この新薬で妊娠する可能性を抑えられるなら、ないよりはずっとマシになる。私はこの薬、受けるよ」
由香里が小さく息をついて告げる。
「そうですね。ないよりマシなら、一番メリットがあると言う話は頷けます。
――瑠那さんはどうするんです?」
瑠那は眉をひそめて考えていた。
悠人を前にした時、自分がどれほど理性がなくなるかなんて、嫌というほど知っていた。
彼に言い出す勇気も含めて考えれば、女子の体内で避妊をするしか道がない。
その中では最善の選択肢だろう。
――だけど、やっぱり妊娠の恐怖からは逃げられないのか。
瑠那がゆっくりと頷いた。
「私も、受ける」
優衣が瑠那に頷き、デュカリオンに告げる。
「じゃあ全員、新薬の治験を受けるわ。
これはどの程度の頻度で投与するものなの?
やっぱり毎日?」
デュカリオンが明るい声で笑った。
「ハハハ! そんな頻度じゃないよ。
薬の効能は六週間くらいだけど、後半の二週間は効果が落ちるはずなんだ。
だから四週間に一本投与すればいい。
そこだけ気を付けておいて」
「他に気を付けることはある?」
「特にないね。何かあったら直接、僕にメッセージを送ってくれればいい。
ホルモンバランスが崩れると思うから、体調不良があれば気兼ねなく相談してくれ。
症状に応じた対策を考えるよ」
デュカリオンは女子の顔を見まわしてから頷き、席を立った。
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「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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