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第1章:囚われる少女たち
22.金曜日:ティア
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朝、女子寮の食堂では、瑠那以外の四人が朝食をとっていた。
眠そうな美雪があくびをかみ殺していた。
あきれた様子の由香里が、ため息をついてから告げる。
「美雪さん、もしかして徹夜ですか?」
恥ずかしそうに頬を染め、美雪が明るく笑った。
「あはは……まぁね」
優衣が目を丸くして美雪を見つめていた。
「あなた、何時間悠人さんと一緒に居たの?」
美雪が指を折って数え始める。
「えーと、みんなと別れて割とすぐに……だから、十三時間くらい?」
優衣は言葉が見つからずに絶句していた。
由香里がクスリと大人びた笑みを浮かべる。
「最長記録じゃないんですか?
ずっと、というわけではないでしょうけど、よく美雪さんの体力が持ちましたね。
私には真似ができそうにないです」
美雪が明るい笑顔で応える。
「まぁ、休み休みだし。でもおかげで私も、『本当の愛』って奴を理解できたよ。
凄いよねあれ。生まれ変わった気分ていうか、世界が全く変わっちゃった」
優衣がふぅ、とため息をついた。
「これで私たち全員が、悠人さんの愛を身体に刻み込んだ訳ね。
――ああ、瑠那とティアがまだだったかしら」
ガラティアはマウントなど気にせず、無邪気な笑顔で応える。
「え? 私はいつでも悠人の愛を受け止めてるよ!
刻みつけるとか、なんのこと?」
由香里が微笑ましそうにガラティアに告げる。
「まぁ、ティアはお子様だから、それでいいんじゃないですか。
――もう一人のお子様は、なんで朝食を食べに来ないんでしょうね」
美雪が肩をすくめた。
「チャイムを押しても反応ないし、メッセージも既読が付かないんだよね。
あの子が風邪を引くとは思えないし」
優衣が余裕の笑みを取り戻して微笑む。
「きっと美雪にまで負けたのがショックだったのよ。
それで顔を合わせづらいんじゃない?
瑠那はスポーツマンとして悠人さんと接していたし。
いいんじゃない? 中学生らしくて」
由香里が笑みをこぼした。
「ふふ、瑠那さんが一番お子様でしたね。
でもこれで、今日はティアが当番になって一周です。
来週はまた私からですよ」
美雪がジト目で由香里を見つめた。
「あんまり悠人さんに無理させちゃだめだよ?」
優衣があきれた顔で美雪に告げる。
「あなたがそれを言うの? 徹夜なんて、どれだけ無理をさせたのかしら」
女子三人が笑いをこぼす中、ガラティアはきょとんとして無邪気に食事を食べ進めていった。
****
瑠那はカーテンも閉め切って灯りもつけず、部屋の隅で膝を抱えていた。
朝のグループメッセージは、名指しでのマウント行為。
――大切な友達だと思っていたのに。
美雪にとって今、マウントをとれる唯一の相手が瑠那なのだ。
四人の幼なじみの中で『あなたがカースト最下位よ』と突きつけられた。
裏切られた思いと、置いて行かれてしまった寂しさで、瑠那は涙を流し続けていた。
今朝はロードワークも中止になって、大好きな悠人に会えていない。
それによってもまた、胸の切なさが増していた。
会えない切なさと、どんな顔をしてあって良いかわからない困惑で、頭が真っ白だった。
食欲もわかず、友人たちを避けるような形になってしまった。
ストレスで腹痛を覚え、瑠那は鎮痛剤を飲んでから、ベッドの上に横たわった。
****
放課後、ファミレスで女子たちを待ちながら飯を食う俺の顔を、霧上が真顔で見つめていた。
「ん? どうした霧上、俺の顔に何か付いてるか?」
「……やはり、一言くらいは言っておこう。
お前、彼女たちにむごい真似をするな」
「どういう意味だよ? 俺はそんなことしてないぞ」
霧上がため息を漏らした。
「自覚がないか。お前は女子の運命を惑わす存在だ、という話だ。
だが何を言っても、もう手遅れだろう。
せめて、彼女たちがなるだけ苦しまないように、早めに解放してやれ」
俺はきょとんと霧上の顔を見つめた。
「言ってる意味がわかんねーぞ?
俺は彼女たちが笑顔になるよう努めてるし、みんな幸せそうだぞ?」
「……お前はそういう星の下に生まれたのだろうな。
善意が常に良い結果を生むとは限らない。
最善を尽くしているはずが、最悪の結果になることもあるんだ」
「そりゃ、そういうこともあるだろうけど……やっぱり抽象的すぎてわかんねーよ」
「気にするな。無駄だとわかって言っている。
意味がわかったとしても、もうお前も逃げられないのだから」
俺は首をかしげながら、あぶり肉にかじりついた。
****
女子たちがファミレスに現れ、俺たちに合流した。
だけど、瑠那の姿が見えなかった。
「あれ? 瑠那はどうしたんだ?」
俺の隣に座ったティアが応える。
「今日は学校を病欠したみたいだよ。
ねぇ、ご飯を食べたらみんなでお見舞いに行かない?」
俺はきょとんとティアの顔を見た。
「いいのか? 今日はお前の日だろう?
お見舞いで時間を使うことになるぞ?」
ティアは無邪気な笑顔で頷いた。
「それでいいんだよ!
私は元々、みんなで一緒に過ごすつもりだったし!」
こいつは本当に無邪気だなぁ。
マウント合戦とは無縁な子だ。
思わず心が和んで、ティアの頭を手が撫でていた。
ティアはくすぐったそうに微笑んでいた。
由香里が大人びた笑みで告げる。
「ほんと、ティアはお子様で助かりますね」
美雪がクスリと笑みをこぼした。
「やめときなよ、言っても意味なんてわからないんだから」
俺は二人にジト目で告げる。
「お前らな、そういう変なやりとり、やめとけよ?
大切な友達だろう?」
美雪と由香里がしょんぼりと肩を落とし、「はい、わかりました」と応えた。
どうやら、注意をすればマウントの取り合いはやめてくれるみたいだ。
俺がなんとかストッパーになるしかないな。
「わかったならよし! 俺もそれ以上は責めないよ。
だから約束通り、みんなで仲良くしようぜ」
ティアを見ると、マウントなんて気にせずに食事を食べ進めていた。
……ほんと、こいつを見てると癒やされるなぁ。悪意と縁がないって奴だ。
食事が終わると、俺は女子たちを連れてファミレスを出た。
****
瑠那がベッドで横になっていると、玄関チャイムが鳴った。
それを無視していると、携帯端末からメッセージの着信音がする――悠人からのメッセージ?!
急いで起き上がり、携帯端末を手に取ってメッセージを確認した。
『今、部屋の前に居る。体調は大丈夫か?』
瑠那は玄関を開けるか迷ったが結局、悠人に会いたい気持ちが勝って、彼シャツ姿のままドアを開けた。
悠人が驚いた顔で瑠那を見ていた。
「お前、顔色ひどいぞ。無理せずに寝てろよ」
瑠那は友人たちの顔をなるだけ見ないように応える。
「……起き上がるくらいは、もう大丈夫だから。
それより、何の用?」
悠人がコンビニ袋を掲げて微笑んだ。
「お見舞いだよ。
それと、お前の体調が良ければ、これからの話し合いでもと思ってたんだけど……無理ができる顔じゃないな」
――こいつなら、今の状態をなんとかしてくれるかもしれない。
瑠那は弱々しく首を横に振って応える。
「ベッドで横になってれば大丈夫。
話し合いは早いほうが良いし、今日済ませよう。
――中に入って」
瑠那が奥に引っ込むと、悠人を先頭に女子たちが中に続いていった。
****
俺がローテーブル周りに座ると、俺の周囲に女子たちが座っていった。
「おいお前ら、俺じゃなくテーブルの周りに座れよ……」
由香里が微笑んで応える。
「どこに座ったって良いじゃないですか。私たちの仲でしょう?」
言ってる意味がわかんねーな。
ティアは素直にローテーブル周りに座っていた。
瑠那は見舞い品のゼリー飲料を一つ口にして、一息ついていたみたいだ。
俺は全員の顔を見回して告げる。
「じゃあ早速、今日の本題からいくぞ。
お前ら、マウントの取り合いとか、変な競争とか、そういうのやめろよ。
それでお前らが不安定になってたら、俺たちが一緒に居る意味がないだろ?
協力して俺と愛をかわし合うんじゃなかったのか?」
優衣、由香里、美雪がしょんぼりと肩を落としていた。
俺は彼女たちに続ける。
「俺はお前たちを平等に愛してる。平等に接してるつもりだ。
競い合う必要なんかないんだよ。
だからみんなで一緒になって、約束通り明るい未来を目指そうぜ。
お前たちの笑顔が俺の幸せなんだ。
頼むから、俺から幸せを奪わないでくれ。
――今日からそれを、約束できるか?」
優衣が頷いて「わかったわ」と応えた。
由香里も頷いて「悠人さんの言うことなら従います」と続く。
美雪も頷いて「もうしないよ」と応えた。
俺は三人に頷いて微笑んだ。
「分かってくれたら良いんだ。
だけど一つだけ覚えておいてくれ。
俺がお前たちを嫌うことはない。
俺は変わらず、平等にお前たちを愛し続ける。死ぬまでな」
うつむいていた三人が顔を上げ、嬉しそうに頬を染めていた。
「はい! わかりました!」
「ええ、わかったわ」
「悠人さんの期待通り、やってみせるよ!」
俺は三人の笑顔で満足して、瑠那に振り向いた。
「瑠那、これでいいと思うか?」
瑠那は少しおびえるように女子たちの顔を盗み見てから、壁際を見つめて頷いた。
「たぶん、これでなんとかなると思う」
「そうか! それならよかった!
――ティア、これからどうする?
今日はお前の日だ。お前が予定を決めろ」
ティアはきょとんと俺の顔を見て、無邪気な笑顔で応える。
「このまま、この部屋でおしゃべりすればいいんじゃない?
瑠那は出かけられそうにないけど、私はみんな一緒が良いし!」
俺は瑠那の顔を見て尋ねる。
「瑠那、体調が悪かったら正直に言ってくれ。
ティアの提案、受け入れられそうか?」
「……夜までなら、たぶん大丈夫」
俺は安心して息をついた。
「そうか、少しは体調が良くなったのかな。
さっきより顔色が良いぞ。
――じゃあ、何を話そうか!」
俺たちはその日あったくだらないことを口にしながら、明るい笑顔を交換していた。
瑠那も、だんだんと顔色が良くなっていき、笑顔を取り戻していった。
日が暮れて、外が暗くなり始めた。
「――と、もういい時間だな。俺は帰るよ」
瑠那が俺の顔を、眉をひそめて切なそうに見つめてきた。
「もう、帰っちゃうの?」
俺は瑠那の頭を撫でながら告げる。
「お前の体調が良くなったら、明日外泊届けを出して、うちに来い。
またみんなで、映画上映会でもしようぜ」
おとなしく頷いた瑠那の頭をもう一度撫でてから、俺は瑠那の部屋から出て行った。
****
悠人が居なくなった部屋で、由香里が大人びた笑みを浮かべた。
「瑠那さん、やっぱりお子様なんですね。
あんなにさみしがっちゃって。焦らなくても、朝のロードワークで会えるのでしょう?」
瑠那が顔色を青くして応える。
「由香里、そういうことは言わないって、あいつと約束したじゃない!」
「ええ、言いませんよ? 『悠人さんの前では』ね。
言いつけたければ言いつけても良いですけど、悠人さんは私たちを叱るだけで終わります。
あの人は嘘を言わない人。『私たちを嫌わずに、平等に愛し続ける』と言った以上、私たちが嫌われることはないんですから」
優衣がクスクスと笑みを漏らした。
「由香里、お子様をいじめちゃ可哀想よ。
『本当の愛』を身体に刻み込んでもらってない瑠那には、私たちの気持ちなんて理解できないんだもの」
美雪が明るい笑顔で告げる。
「瑠那も強情張らずに、早く悠人さんから『本当の愛』を受け取っちゃいなよ!
大丈夫、怖くなんかないよ? ずっと優しかったんだから!」
瑠那は青い顔で三人に告げる。
「私はみんなとは違う! あいつとはお互いを高め合う存在になるの!
みんなみたいに、変わってしまったりはしないわ!」
由香里がクスリと笑った。
「あらあら、瑠那さんこわーい。
――でもいいんです。あなたが無理をして悠人さんを拒絶している間、私たちは何度も愛を刻んでもらいますから。
周回遅れで参加してきても、その頃には私たち、悠人さんの愛を心の奥まで刻み込まれてます。
私たちという存在が悠人さんで塗りつぶされていくのを、そうやって指をくわえて見ていれば良いんです」
優衣、由香里、美雪は楽しそうに笑いながら、瑠那の部屋から去って行った。
ガラティアは一人、きょとんとして彼女たちを見送った。
「みんな、どうしたんだろうね? 仲良くするって言ったのに」
瑠那は泣きそうな気分でガラティアに告げる。
「あなたは、変わらないで居てくれるのね」
「それはそうだよ! 悠人の愛は神様の愛! みんなに平等に降り注ぐんだから!
焦ったり競ったりする必要、ないんだもん!」
――なら、私にだって彼女たちと同じ愛が注がれてるはずだ。
瑠那はその言葉に慰められつつ、ガラティアも家に帰した。
重たい身体でベッドに横たわり、今日の出来事を振り返る。
――もうあの三人と、悠人が居ないところで会いたくない。
冷たい涙が一筋流れていき、瑠那はそれを袖で拭った。
眠そうな美雪があくびをかみ殺していた。
あきれた様子の由香里が、ため息をついてから告げる。
「美雪さん、もしかして徹夜ですか?」
恥ずかしそうに頬を染め、美雪が明るく笑った。
「あはは……まぁね」
優衣が目を丸くして美雪を見つめていた。
「あなた、何時間悠人さんと一緒に居たの?」
美雪が指を折って数え始める。
「えーと、みんなと別れて割とすぐに……だから、十三時間くらい?」
優衣は言葉が見つからずに絶句していた。
由香里がクスリと大人びた笑みを浮かべる。
「最長記録じゃないんですか?
ずっと、というわけではないでしょうけど、よく美雪さんの体力が持ちましたね。
私には真似ができそうにないです」
美雪が明るい笑顔で応える。
「まぁ、休み休みだし。でもおかげで私も、『本当の愛』って奴を理解できたよ。
凄いよねあれ。生まれ変わった気分ていうか、世界が全く変わっちゃった」
優衣がふぅ、とため息をついた。
「これで私たち全員が、悠人さんの愛を身体に刻み込んだ訳ね。
――ああ、瑠那とティアがまだだったかしら」
ガラティアはマウントなど気にせず、無邪気な笑顔で応える。
「え? 私はいつでも悠人の愛を受け止めてるよ!
刻みつけるとか、なんのこと?」
由香里が微笑ましそうにガラティアに告げる。
「まぁ、ティアはお子様だから、それでいいんじゃないですか。
――もう一人のお子様は、なんで朝食を食べに来ないんでしょうね」
美雪が肩をすくめた。
「チャイムを押しても反応ないし、メッセージも既読が付かないんだよね。
あの子が風邪を引くとは思えないし」
優衣が余裕の笑みを取り戻して微笑む。
「きっと美雪にまで負けたのがショックだったのよ。
それで顔を合わせづらいんじゃない?
瑠那はスポーツマンとして悠人さんと接していたし。
いいんじゃない? 中学生らしくて」
由香里が笑みをこぼした。
「ふふ、瑠那さんが一番お子様でしたね。
でもこれで、今日はティアが当番になって一周です。
来週はまた私からですよ」
美雪がジト目で由香里を見つめた。
「あんまり悠人さんに無理させちゃだめだよ?」
優衣があきれた顔で美雪に告げる。
「あなたがそれを言うの? 徹夜なんて、どれだけ無理をさせたのかしら」
女子三人が笑いをこぼす中、ガラティアはきょとんとして無邪気に食事を食べ進めていった。
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瑠那はカーテンも閉め切って灯りもつけず、部屋の隅で膝を抱えていた。
朝のグループメッセージは、名指しでのマウント行為。
――大切な友達だと思っていたのに。
美雪にとって今、マウントをとれる唯一の相手が瑠那なのだ。
四人の幼なじみの中で『あなたがカースト最下位よ』と突きつけられた。
裏切られた思いと、置いて行かれてしまった寂しさで、瑠那は涙を流し続けていた。
今朝はロードワークも中止になって、大好きな悠人に会えていない。
それによってもまた、胸の切なさが増していた。
会えない切なさと、どんな顔をしてあって良いかわからない困惑で、頭が真っ白だった。
食欲もわかず、友人たちを避けるような形になってしまった。
ストレスで腹痛を覚え、瑠那は鎮痛剤を飲んでから、ベッドの上に横たわった。
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放課後、ファミレスで女子たちを待ちながら飯を食う俺の顔を、霧上が真顔で見つめていた。
「ん? どうした霧上、俺の顔に何か付いてるか?」
「……やはり、一言くらいは言っておこう。
お前、彼女たちにむごい真似をするな」
「どういう意味だよ? 俺はそんなことしてないぞ」
霧上がため息を漏らした。
「自覚がないか。お前は女子の運命を惑わす存在だ、という話だ。
だが何を言っても、もう手遅れだろう。
せめて、彼女たちがなるだけ苦しまないように、早めに解放してやれ」
俺はきょとんと霧上の顔を見つめた。
「言ってる意味がわかんねーぞ?
俺は彼女たちが笑顔になるよう努めてるし、みんな幸せそうだぞ?」
「……お前はそういう星の下に生まれたのだろうな。
善意が常に良い結果を生むとは限らない。
最善を尽くしているはずが、最悪の結果になることもあるんだ」
「そりゃ、そういうこともあるだろうけど……やっぱり抽象的すぎてわかんねーよ」
「気にするな。無駄だとわかって言っている。
意味がわかったとしても、もうお前も逃げられないのだから」
俺は首をかしげながら、あぶり肉にかじりついた。
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女子たちがファミレスに現れ、俺たちに合流した。
だけど、瑠那の姿が見えなかった。
「あれ? 瑠那はどうしたんだ?」
俺の隣に座ったティアが応える。
「今日は学校を病欠したみたいだよ。
ねぇ、ご飯を食べたらみんなでお見舞いに行かない?」
俺はきょとんとティアの顔を見た。
「いいのか? 今日はお前の日だろう?
お見舞いで時間を使うことになるぞ?」
ティアは無邪気な笑顔で頷いた。
「それでいいんだよ!
私は元々、みんなで一緒に過ごすつもりだったし!」
こいつは本当に無邪気だなぁ。
マウント合戦とは無縁な子だ。
思わず心が和んで、ティアの頭を手が撫でていた。
ティアはくすぐったそうに微笑んでいた。
由香里が大人びた笑みで告げる。
「ほんと、ティアはお子様で助かりますね」
美雪がクスリと笑みをこぼした。
「やめときなよ、言っても意味なんてわからないんだから」
俺は二人にジト目で告げる。
「お前らな、そういう変なやりとり、やめとけよ?
大切な友達だろう?」
美雪と由香里がしょんぼりと肩を落とし、「はい、わかりました」と応えた。
どうやら、注意をすればマウントの取り合いはやめてくれるみたいだ。
俺がなんとかストッパーになるしかないな。
「わかったならよし! 俺もそれ以上は責めないよ。
だから約束通り、みんなで仲良くしようぜ」
ティアを見ると、マウントなんて気にせずに食事を食べ進めていた。
……ほんと、こいつを見てると癒やされるなぁ。悪意と縁がないって奴だ。
食事が終わると、俺は女子たちを連れてファミレスを出た。
****
瑠那がベッドで横になっていると、玄関チャイムが鳴った。
それを無視していると、携帯端末からメッセージの着信音がする――悠人からのメッセージ?!
急いで起き上がり、携帯端末を手に取ってメッセージを確認した。
『今、部屋の前に居る。体調は大丈夫か?』
瑠那は玄関を開けるか迷ったが結局、悠人に会いたい気持ちが勝って、彼シャツ姿のままドアを開けた。
悠人が驚いた顔で瑠那を見ていた。
「お前、顔色ひどいぞ。無理せずに寝てろよ」
瑠那は友人たちの顔をなるだけ見ないように応える。
「……起き上がるくらいは、もう大丈夫だから。
それより、何の用?」
悠人がコンビニ袋を掲げて微笑んだ。
「お見舞いだよ。
それと、お前の体調が良ければ、これからの話し合いでもと思ってたんだけど……無理ができる顔じゃないな」
――こいつなら、今の状態をなんとかしてくれるかもしれない。
瑠那は弱々しく首を横に振って応える。
「ベッドで横になってれば大丈夫。
話し合いは早いほうが良いし、今日済ませよう。
――中に入って」
瑠那が奥に引っ込むと、悠人を先頭に女子たちが中に続いていった。
****
俺がローテーブル周りに座ると、俺の周囲に女子たちが座っていった。
「おいお前ら、俺じゃなくテーブルの周りに座れよ……」
由香里が微笑んで応える。
「どこに座ったって良いじゃないですか。私たちの仲でしょう?」
言ってる意味がわかんねーな。
ティアは素直にローテーブル周りに座っていた。
瑠那は見舞い品のゼリー飲料を一つ口にして、一息ついていたみたいだ。
俺は全員の顔を見回して告げる。
「じゃあ早速、今日の本題からいくぞ。
お前ら、マウントの取り合いとか、変な競争とか、そういうのやめろよ。
それでお前らが不安定になってたら、俺たちが一緒に居る意味がないだろ?
協力して俺と愛をかわし合うんじゃなかったのか?」
優衣、由香里、美雪がしょんぼりと肩を落としていた。
俺は彼女たちに続ける。
「俺はお前たちを平等に愛してる。平等に接してるつもりだ。
競い合う必要なんかないんだよ。
だからみんなで一緒になって、約束通り明るい未来を目指そうぜ。
お前たちの笑顔が俺の幸せなんだ。
頼むから、俺から幸せを奪わないでくれ。
――今日からそれを、約束できるか?」
優衣が頷いて「わかったわ」と応えた。
由香里も頷いて「悠人さんの言うことなら従います」と続く。
美雪も頷いて「もうしないよ」と応えた。
俺は三人に頷いて微笑んだ。
「分かってくれたら良いんだ。
だけど一つだけ覚えておいてくれ。
俺がお前たちを嫌うことはない。
俺は変わらず、平等にお前たちを愛し続ける。死ぬまでな」
うつむいていた三人が顔を上げ、嬉しそうに頬を染めていた。
「はい! わかりました!」
「ええ、わかったわ」
「悠人さんの期待通り、やってみせるよ!」
俺は三人の笑顔で満足して、瑠那に振り向いた。
「瑠那、これでいいと思うか?」
瑠那は少しおびえるように女子たちの顔を盗み見てから、壁際を見つめて頷いた。
「たぶん、これでなんとかなると思う」
「そうか! それならよかった!
――ティア、これからどうする?
今日はお前の日だ。お前が予定を決めろ」
ティアはきょとんと俺の顔を見て、無邪気な笑顔で応える。
「このまま、この部屋でおしゃべりすればいいんじゃない?
瑠那は出かけられそうにないけど、私はみんな一緒が良いし!」
俺は瑠那の顔を見て尋ねる。
「瑠那、体調が悪かったら正直に言ってくれ。
ティアの提案、受け入れられそうか?」
「……夜までなら、たぶん大丈夫」
俺は安心して息をついた。
「そうか、少しは体調が良くなったのかな。
さっきより顔色が良いぞ。
――じゃあ、何を話そうか!」
俺たちはその日あったくだらないことを口にしながら、明るい笑顔を交換していた。
瑠那も、だんだんと顔色が良くなっていき、笑顔を取り戻していった。
日が暮れて、外が暗くなり始めた。
「――と、もういい時間だな。俺は帰るよ」
瑠那が俺の顔を、眉をひそめて切なそうに見つめてきた。
「もう、帰っちゃうの?」
俺は瑠那の頭を撫でながら告げる。
「お前の体調が良くなったら、明日外泊届けを出して、うちに来い。
またみんなで、映画上映会でもしようぜ」
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悠人が居なくなった部屋で、由香里が大人びた笑みを浮かべた。
「瑠那さん、やっぱりお子様なんですね。
あんなにさみしがっちゃって。焦らなくても、朝のロードワークで会えるのでしょう?」
瑠那が顔色を青くして応える。
「由香里、そういうことは言わないって、あいつと約束したじゃない!」
「ええ、言いませんよ? 『悠人さんの前では』ね。
言いつけたければ言いつけても良いですけど、悠人さんは私たちを叱るだけで終わります。
あの人は嘘を言わない人。『私たちを嫌わずに、平等に愛し続ける』と言った以上、私たちが嫌われることはないんですから」
優衣がクスクスと笑みを漏らした。
「由香里、お子様をいじめちゃ可哀想よ。
『本当の愛』を身体に刻み込んでもらってない瑠那には、私たちの気持ちなんて理解できないんだもの」
美雪が明るい笑顔で告げる。
「瑠那も強情張らずに、早く悠人さんから『本当の愛』を受け取っちゃいなよ!
大丈夫、怖くなんかないよ? ずっと優しかったんだから!」
瑠那は青い顔で三人に告げる。
「私はみんなとは違う! あいつとはお互いを高め合う存在になるの!
みんなみたいに、変わってしまったりはしないわ!」
由香里がクスリと笑った。
「あらあら、瑠那さんこわーい。
――でもいいんです。あなたが無理をして悠人さんを拒絶している間、私たちは何度も愛を刻んでもらいますから。
周回遅れで参加してきても、その頃には私たち、悠人さんの愛を心の奥まで刻み込まれてます。
私たちという存在が悠人さんで塗りつぶされていくのを、そうやって指をくわえて見ていれば良いんです」
優衣、由香里、美雪は楽しそうに笑いながら、瑠那の部屋から去って行った。
ガラティアは一人、きょとんとして彼女たちを見送った。
「みんな、どうしたんだろうね? 仲良くするって言ったのに」
瑠那は泣きそうな気分でガラティアに告げる。
「あなたは、変わらないで居てくれるのね」
「それはそうだよ! 悠人の愛は神様の愛! みんなに平等に降り注ぐんだから!
焦ったり競ったりする必要、ないんだもん!」
――なら、私にだって彼女たちと同じ愛が注がれてるはずだ。
瑠那はその言葉に慰められつつ、ガラティアも家に帰した。
重たい身体でベッドに横たわり、今日の出来事を振り返る。
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