幸福な蟻地獄

みつまめ つぼみ

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第1章:囚われる少女たち

14.彼シャツ

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 家に帰ると、俺は服を脱いで上半身裸になり、新しく買ってきたYシャツを羽織った。

「これでいいのか?」

 由香里ゆかりが俺に告げる。

「それだけだと香りが弱いですから、少し汗をかいてください」

 また無茶振りを……。

 仕方なく、俺はその場で逆立ち腕立てを汗をかくまで繰り返した。

 汗をかいたら、Yシャツを脱いで女子に渡す。それを五回繰り返した。

 優衣ゆいはYシャツを大事そうに抱えながら、俺に告げる。

「それじゃあ、シャワーで汗を流してきてください」

「はいはい」

 俺は言われるがままに、部屋着をとって脱衣所に向かった。




****

 悠人ゆうとがシャワーを浴びる音が聞こえ始めると、ガラティアが服を脱ぎだした。

 由香里ゆかりが驚いてガラティアに告げる。

「ティア、本気でやるの?!」

 ガラティアはきょとんとして応える。

「そうだよ? せっかく彼シャツをもらったんだから、ちゃんと着ないとね」

 鼻歌を歌いながら、無邪気に彼シャツに着替えていくガラティアを見て、優衣ゆいがつばを飲み込んだ。

「……私もやるわ。ティアに負けてられないもの」

 服を脱ぎ出す優衣ゆいに続いて、美雪みゆきも服に手をかけた。負けじと由香里ゆかりも服に手をかけていく。

 瑠那るなは狼狽して声を上げる。

「みんな、本気なの?!」

 彼シャツに着替え終わったガラティアが、きょとんとした顔で瑠那るなを見つめた。

「だって、恋人同士なんだよ? 何もおかしなことなんかないよ?」

 優衣ゆいも着替え終わり、頬を染めて瑠那るなに告げる。

「大丈夫、悠人ゆうとさんを信じましょう。
 彼が私たちを傷つけるわけ、ないもの」

 それを聞いて、瑠那るなは深いため息をついて、上着に手をかけた。




****

 俺がシャワーから戻ると、部屋の中は信じられない光景が広がっていた。

「……お前たち、なんて格好をしてるんだよ」

 俺は呆然としながら、下着の上にYシャツだけを着込んだ女子たちを見つめていた。

 ティアが無邪気に両手を挙げて俺に告げる。

「せっかくもらった彼シャツなんだし、香りが新鮮なうちに味わわないともったいないよ!」

「だからって、スカートまで脱ぐことないだろう……」

 ティアはきょとんと小首をかしげた。

「なんで? これが彼シャツの正式なスタイルだって、本に書いてあったよ?」

「そんな危ない本、読んじゃいけません!」

 優衣ゆいが顔を赤く染めながら俺に告げる。

「でも、一度は憧れた服装なの。
 こうして肌で直に悠人ゆうとさんの存在を感じていると、とっても心地よいのよ。
 自分の身体から漂ってくる悠人ゆうとさんの香りが、一つになれたかのように思わせてくれるの」

 美雪みゆきも赤い顔ではにかみながら、俺に告げる。

「映画でもよく見た服装なんだよね。
 だから実際に体験できて、感激してるんだ!」

 由香里ゆかりは真っ赤な顔でうつむいてつぶやく。

悠人ゆうとさんの身体、本当に大きいんですね……」

 瑠那るなは頭から湯気が出そうなほど顔を赤くして、黙り込んでいた。

 俺はため息をついて女子に告げる。

「お前らが喜んでるなら俺も嬉しい。けどその格好は俺には刺激が強すぎる。
 できたら下に何か穿いてくれないか」

 優衣ゆいが寂しそうに眉をひそめて俺に告げる。

「私たちに恋人らしい楽しみを許しては……くれないのかしら。
 これから映画を見るだけなのだし、モニターを見ていれば気にならないはずよ。それでも、だめ?」

 女子たちは今の格好がよっぽど嬉しかったのか、しょんぼりと落ち込んでるみたいだった。

 俺はため息をついて応える。

「お前たちの喜びは俺の喜び、お前たちの笑顔が俺の幸福だ。
 その格好をしていたいなら、好きにすると良い。
 ――じゃあ早く映画を見よう」

 俺は頭をタオルで拭きながら、モニターの前に陣取った。

 昨晩のように、女子たちが周囲に座って俺に身体を預けてくる。
 ティアは俺の足の上に座り込んで、モニターに向かっていた。

「おいおい、お前一人が特等席だな」

 ティアは無邪気に告げる。

「他の子が座れるなら譲るけど、みんなそこまではまだ恥ずかしいんだって!」

 そりゃあそうだろう。今の格好をする時点で、清水の舞台から飛び降りるくらいの大冒険のはずだ。

 こうして体重を預けてくるのも驚くぐらいなんだから。


 美雪みゆきがチョイスしたロマンス映画が、再び再生された。

 俺たちは恋人らしい距離感で、大人の恋愛を勉強していった。




****

 午後八時を回る頃、四本目の映画を見終わった。

「ふぅ。大人の恋愛ってのは、難しいんだな」

 愛憎入り交じった複雑な感情は、まだ俺たちには理解できないことが多そうだ。

 いつの間にか、前に居た由香里ゆかり美雪みゆきも、自分で座ってられないかのように、俺の肩に寄りかかっていた。

「大丈夫か? どこか具合が悪いのか?」

 由香里ゆかりが顔を上げて、俺を見つめる――その目はとろんと潤んでいて、何かを訴えてるようだった。

「違うんです。身体が熱くてたまらなくて……力が入らないんです」

 どうやら美雪みゆきも同じ様子だ。後ろに居る優衣ゆい瑠那るなも、やたら体温が高く感じる。背中越しに伝わってくる鼓動もずいぶん速い。

 ……これは、彼シャツを着ながらロマンス映画を見ていて、雰囲気に酔ったのかな。

 変わらないのは、無邪気なティアぐらいだ。

 俺は女子たちに告げる。

「じゃあ落ち着くまで待ってやるから、ゆっくりと深呼吸をするんだ。
 ロマンチックな気分は充分味わえただろう?
 そろそろ飯でも食って、寝る支度をしよう」

 女子たちは俺に身体を預けたまま頷いた。

 それからしばらくして、ようやく彼女たちは俺から身体を離していき、俺は遅い晩飯の準備を始めた。




****

 飯を食った後に女子たちが風呂に入っていく。

「やっぱり、寝間着は彼シャツなのか」

 風呂上がりの優衣ゆいが得意そうに俺に微笑んだ。

「それはそうよ。これからずっと愛用していくんですもの」

 あの大人びていた優衣ゆいが少女らしい笑顔で笑っていた。そんなに嬉しかったのかな。

 俺は頭をかきながら告げる。

「昨晩は映画を見ながら寝てたけど、今夜はどう寝る?
 ベッドでは、せいぜい二人までしか寝れないぞ」

 優衣ゆいも考え込んでいた。

「……悠人ゆうとさんはどこで寝るつもり?」

「俺か? 床で寝るしかないだろうな」

 優衣ゆいがポンと両手を打った。

「それなら、私たちも床で寝るわ。
 ベッドは使いたい人が使う。それでいいんじゃない?」

「まぁ、それしかないか。枕になるクッションが足りないけど、これは取り合いかな」

 優衣ゆいがいたずらっ子のように微笑んだ。

「あら、枕なら『居る』じゃない」

 俺はその意味がわからず、きょとんとして優衣ゆいを見つめていた。




****

 女子全員が風呂から上がり、髪を乾かし終わると、俺たちは床に寝転んで映画上映会の続きをした。

 俺がクッションを枕にして横たわり、優衣ゆいたち四人が俺を枕にして、足下をタオルケットで隠していた。

 ティアは俺の頭の横で、同じようにクッションを枕に映画を見ている。

「そこまでしてくっつきたいのか?」

「あら、いけないかしら。恋人同士なのでしょう?」

 優衣ゆいの言葉に、俺は苦笑するしかなかった。

 彼女たちの恋人に対する憧れは、かなり重症みたいだ。

 それとも、それだけ人恋しいのかな。

 明るいアクション映画なら、女子たちも雰囲気に酔うことはないらしい。

 みんなで穏やかに映画を見ながら、俺たちはゆっくりと眠りに落ちていった。
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