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第3章:嫉妬って怖いんですね

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 休日の王宮、武錬場にリオたちは居た。

 武台の中央で、ヤンクとミルス、そしてリオが対峙していた。

 困惑するミルスがヤンクに尋ねる。

「特別講師って、ヤンク兄上なのか?!
 俺たちが拳を交えたら、成竜の儀が成立しちまうだろう?」

 傍らで見守っているエルミナが解説する。

「要は、決着がつかなければいいんですよ。
 大怪我を負わせないように戦えばいいだけです。
 ちょっとした腕試しですね」

 ヤンクが不敵な笑みでミルスたちに語りかける。

「少しは絆が深まったのだろう?
 胸を貸してやるから、思いっきりかかってこい」

 ミルスとリオが顔を見合わせ、うなずきあった。

 二人が身構え、リオの身体が白く輝き始める。

 同時に足が床を蹴り、ヤンクに向かって駆け出していった。




****

 息を切らしたミルスとリオは、武台の上で仲良く大の字になっていた。

 二人の怪我は倒れ込む前に、リオが治癒を済ませている。

 一方ヤンクの方は、息も切らさず立っていた。

 傍でアレミアが治癒を行っている最中だ。

 三人の動きを観察していたエルミナが、所感を述べる。

「やはり、ミルスが竜将の証の力を引き出せていませんね。
 ミルスは二人分の証の力を持ちます。
 本来なら、もっと善戦できているはずです。
 ――ヤンク兄上、あなたはどう思いましたか?」

 ヤンクが腕組みをし、顎に手を添えながら口を開く。

「そうだな、連携攻撃は見事なものだ」

 リオの動きも良く、ヤンクも軽々と相手をしていたわけではない。

 だが本来なら補佐に徹するつがいであるリオが、ミルスと同じように攻撃に加わっていた。

 創竜神の加護も、自分の能力の底上げにしか使っていない。

 これでは、つがいの脅威を感じることはできない。

 ヤンクがアレミアの補佐を受けていれば、あっという間に決着がつくだろう。

「――とはいえ、まだまだ伸びしろを感じる。
 今の戦闘様式でも、伸び次第では面白い勝負はできるかもしれん」

 息を整えたミルスが上体を起こし、ヤンクに尋ねる。

「つまり、つがい本来の様式に直すか、このまま二人で攻める様式で力を伸ばすか選べ、ということか?」

 ヤンクがうなずいた。

「まぁそういうことだな。
 どちらが自分たちに合っているか、よく考えてみるといい」

 ミルスがエルミナに振り向いて尋ねる。

「エルミナ兄上は、どちらが良いと思うんだ?」

 エルミナは両腕を組んで天を仰ぎ唸った。

「うーん、リオさんに『補佐をしろ』というのは、性格的に難しいでしょう。
 殴られたら、自分の拳で殴り返さねば気が済まない人です。
 ですが、竜将の証の力を使いこなしたミルスに、リオさんの加護の強さを加えたなら、その力はヤンク兄上とアレミアのつがいと充分渡り合って行けるはず。
 つがい本来の様式の方がやはり、勝ち目は多いでしょうね」

 リオは強い自制心を持つ女だが、それは自制心というより『己が己で在る事』を最優先にするの強さが現れたものだ。

 自分らしくない部分は強く抑え込む事ができる。

 だがを抑えてミルスの補佐に徹する――そのような事には発揮されないだろう。

 リオにも充分その自覚はある。

 寝転がりながら大きくため息をついた。

「――はぁ。難しい課題ね。
 ファラさんのように動くなんて、とてもできる気がしないわ」

 エルミナが微笑みながらそれに応える。

「試しに、しばらくは私とファラが動きの指南をしましょう。
 気持ちが付いてこなくても、身体に動きを覚えさせることは決して無駄にはならないはずです」

 ミルスも天井を見上げながら思案しつつ口を開く。

「俺なんて、竜将の証の力を使いこなせと言われても、どうやったらいいのかサッパリだ。
 けど実際、エルミナ兄上を倒す前と比べて、自分の力が上がった実感がないからな」

 エルミナが眉をひそめて困ったように応える。

「今使いこなせているのは、元々持っていたミルス自身の竜将の証だけでしょう。
 その力も、ミルスは感覚だけで使いこなしている。
 あなたもリオさんも考えて動くタイプではありません。
 なにか命の危険に晒されるような『切っ掛け』でもないと、目覚めるのは難しいかもしれませんね」

「命の危険って……ヤンク兄上にそこまで本気で来られたら、成竜の儀で負けちまう。
 昔のように『負けて上等!』と挑めればいいんだがな。
 それじゃあヤンク兄上も、エルミナ兄上も納得しないんだろう?」

 ヤンクが大笑いしながらそれに応える。

「ハハハ! どうせやるなら、本当に全力を出し切れるようになったお前と、本気の勝負をしたいからな!
 それでこそ胸を張って、『竜将』を名乗れるというものだ!
 ミルス、お前だってそうだろう?
 全力を出し切らないまま、まぐれで私に勝利しても、お前は竜将である事に納得できまい」

「そりゃ確かにそうなんだが……命の危険、ねぇ……」

 ファラが楽しそうに提案する。

「本気のリオさんと戦ってみる、というのは命の危険を感じられるかもしれませんよ?
 まだ二人は、手合わせをしたことがないのでしょう?」

 リオがきょとんとした顔でファラに尋ねる。

「私とミルスが手合わせ?
 それで何か掴める事があるんですか?
 ファラさんは、エルミナさんと手合わせしたことがあるんですか?」

「私はエルミナ様とも、よく手合わせしていますよ?
 男女の格差と組打術の技量差を合わせると、丁度互角程度の実力です。
 伴侶の実力を把握するのにも、手合わせは無駄にはなりません。
 試しに今から二人で、手合わせしてみたらどうですか?」

 ミルスとリオが視線を交わした。

「やってみるか? 確かにお前と手合わせしたことはない」

「女だからって遠慮する事がないなら、意味があると思うけど……。
 ミルスは私の顔を殴れるの?」

「そうか、顔か……。
 いくらすぐに王宮魔導士に治癒して貰えると言っても、ためらわずに殴るのは難しいな。
 だがそこは男女の体格差を埋めるハンデとして考えれば、それほど大きな問題でもなさそうだが」

「じゃあやってみようか!
 せっかくの助言だし!」

 リオが身軽に起き上がる。

 ミルスも「やれやれ」と言いながらのそりと立ち上がった。
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