番の巫女・改訂版~神様?!突然伴侶になれと言われても困るんですが?!~

みつまめ つぼみ

文字の大きさ
上 下
24 / 28
第3章:嫉妬って怖いんですね

24.

しおりを挟む
 休日の王宮、武錬場にリオたちは居た。

 武台の中央で、ヤンクとミルス、そしてリオが対峙していた。

 困惑するミルスがヤンクに尋ねる。

「特別講師って、ヤンク兄上なのか?!
 俺たちが拳を交えたら、成竜の儀が成立しちまうだろう?」

 傍らで見守っているエルミナが解説する。

「要は、決着がつかなければいいんですよ。
 大怪我を負わせないように戦えばいいだけです。
 ちょっとした腕試しですね」

 ヤンクが不敵な笑みでミルスたちに語りかける。

「少しは絆が深まったのだろう?
 胸を貸してやるから、思いっきりかかってこい」

 ミルスとリオが顔を見合わせ、うなずきあった。

 二人が身構え、リオの身体が白く輝き始める。

 同時に足が床を蹴り、ヤンクに向かって駆け出していった。




****

 息を切らしたミルスとリオは、武台の上で仲良く大の字になっていた。

 二人の怪我は倒れ込む前に、リオが治癒を済ませている。

 一方ヤンクの方は、息も切らさず立っていた。

 傍でアレミアが治癒を行っている最中だ。

 三人の動きを観察していたエルミナが、所感を述べる。

「やはり、ミルスが竜将の証の力を引き出せていませんね。
 ミルスは二人分の証の力を持ちます。
 本来なら、もっと善戦できているはずです。
 ――ヤンク兄上、あなたはどう思いましたか?」

 ヤンクが腕組みをし、顎に手を添えながら口を開く。

「そうだな、連携攻撃は見事なものだ」

 リオの動きも良く、ヤンクも軽々と相手をしていたわけではない。

 だが本来なら補佐に徹するつがいであるリオが、ミルスと同じように攻撃に加わっていた。

 創竜神の加護も、自分の能力の底上げにしか使っていない。

 これでは、つがいの脅威を感じることはできない。

 ヤンクがアレミアの補佐を受けていれば、あっという間に決着がつくだろう。

「――とはいえ、まだまだ伸びしろを感じる。
 今の戦闘様式でも、伸び次第では面白い勝負はできるかもしれん」

 息を整えたミルスが上体を起こし、ヤンクに尋ねる。

「つまり、つがい本来の様式に直すか、このまま二人で攻める様式で力を伸ばすか選べ、ということか?」

 ヤンクがうなずいた。

「まぁそういうことだな。
 どちらが自分たちに合っているか、よく考えてみるといい」

 ミルスがエルミナに振り向いて尋ねる。

「エルミナ兄上は、どちらが良いと思うんだ?」

 エルミナは両腕を組んで天を仰ぎ唸った。

「うーん、リオさんに『補佐をしろ』というのは、性格的に難しいでしょう。
 殴られたら、自分の拳で殴り返さねば気が済まない人です。
 ですが、竜将の証の力を使いこなしたミルスに、リオさんの加護の強さを加えたなら、その力はヤンク兄上とアレミアのつがいと充分渡り合って行けるはず。
 つがい本来の様式の方がやはり、勝ち目は多いでしょうね」

 リオは強い自制心を持つ女だが、それは自制心というより『己が己で在る事』を最優先にするの強さが現れたものだ。

 自分らしくない部分は強く抑え込む事ができる。

 だがを抑えてミルスの補佐に徹する――そのような事には発揮されないだろう。

 リオにも充分その自覚はある。

 寝転がりながら大きくため息をついた。

「――はぁ。難しい課題ね。
 ファラさんのように動くなんて、とてもできる気がしないわ」

 エルミナが微笑みながらそれに応える。

「試しに、しばらくは私とファラが動きの指南をしましょう。
 気持ちが付いてこなくても、身体に動きを覚えさせることは決して無駄にはならないはずです」

 ミルスも天井を見上げながら思案しつつ口を開く。

「俺なんて、竜将の証の力を使いこなせと言われても、どうやったらいいのかサッパリだ。
 けど実際、エルミナ兄上を倒す前と比べて、自分の力が上がった実感がないからな」

 エルミナが眉をひそめて困ったように応える。

「今使いこなせているのは、元々持っていたミルス自身の竜将の証だけでしょう。
 その力も、ミルスは感覚だけで使いこなしている。
 あなたもリオさんも考えて動くタイプではありません。
 なにか命の危険に晒されるような『切っ掛け』でもないと、目覚めるのは難しいかもしれませんね」

「命の危険って……ヤンク兄上にそこまで本気で来られたら、成竜の儀で負けちまう。
 昔のように『負けて上等!』と挑めればいいんだがな。
 それじゃあヤンク兄上も、エルミナ兄上も納得しないんだろう?」

 ヤンクが大笑いしながらそれに応える。

「ハハハ! どうせやるなら、本当に全力を出し切れるようになったお前と、本気の勝負をしたいからな!
 それでこそ胸を張って、『竜将』を名乗れるというものだ!
 ミルス、お前だってそうだろう?
 全力を出し切らないまま、まぐれで私に勝利しても、お前は竜将である事に納得できまい」

「そりゃ確かにそうなんだが……命の危険、ねぇ……」

 ファラが楽しそうに提案する。

「本気のリオさんと戦ってみる、というのは命の危険を感じられるかもしれませんよ?
 まだ二人は、手合わせをしたことがないのでしょう?」

 リオがきょとんとした顔でファラに尋ねる。

「私とミルスが手合わせ?
 それで何か掴める事があるんですか?
 ファラさんは、エルミナさんと手合わせしたことがあるんですか?」

「私はエルミナ様とも、よく手合わせしていますよ?
 男女の格差と組打術の技量差を合わせると、丁度互角程度の実力です。
 伴侶の実力を把握するのにも、手合わせは無駄にはなりません。
 試しに今から二人で、手合わせしてみたらどうですか?」

 ミルスとリオが視線を交わした。

「やってみるか? 確かにお前と手合わせしたことはない」

「女だからって遠慮する事がないなら、意味があると思うけど……。
 ミルスは私の顔を殴れるの?」

「そうか、顔か……。
 いくらすぐに王宮魔導士に治癒して貰えると言っても、ためらわずに殴るのは難しいな。
 だがそこは男女の体格差を埋めるハンデとして考えれば、それほど大きな問題でもなさそうだが」

「じゃあやってみようか!
 せっかくの助言だし!」

 リオが身軽に起き上がる。

 ミルスも「やれやれ」と言いながらのそりと立ち上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】巻き戻したのだから何がなんでも幸せになる! 姉弟、母のために頑張ります!

金峯蓮華
恋愛
 愛する人と引き離され、政略結婚で好きでもない人と結婚した。  夫になった男に人としての尊厳を踏みじにられても愛する子供達の為に頑張った。  なのに私は夫に殺された。  神様、こんど生まれ変わったら愛するあの人と結婚させて下さい。  子供達もあの人との子供として生まれてきてほしい。  あの人と結婚できず、幸せになれないのならもう生まれ変わらなくていいわ。  またこんな人生なら生きる意味がないものね。  時間が巻き戻ったブランシュのやり直しの物語。 ブランシュが幸せになるように導くのは娘と息子。  この物語は息子の視点とブランシュの視点が交差します。  おかしなところがあるかもしれませんが、独自の世界の物語なのでおおらかに見守っていただけるとうれしいです。  ご都合主義の緩いお話です。  よろしくお願いします。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

処理中です...